注意欠如・多動性障害(ADHD)とは
注意欠如・多動性障害(ADHD)とは
1. 概要
不注意と多動性・衝動性の2つの症状に代表される神経発達症(発達障害)の一つであり、性格やしつけの問題ではありません。その主症状とは別に、人懐っこい、決断力がある、行動的であるなどの長所もあります。自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)とともに、主な発達障害の1つであり、12歳以前から症状があることが特徴的です。子供で5%、成人では2.5%存在するといわれますが、一般人口の5%程度存在するという報告もあり、身近な障害とも言えます。男2:女1 (成人では男:女=1.6:1)と有病率には性差があり、女性は男性ほど多動性や衝動性が目立たず、不注意が目立つとされています。不注意や衝動性は幼少期に目立たなくても、3-5割が成人に移行し、成人してから問題になることもあります。ADHDとASDが併存することもあり、その場合は実行機能や社会機能がより劣り、治療効果も劣る事が知られています。また、衝動性や多動性などと別に、ADHD児はその特性から、児童虐待やいじめ体験など逆境的体験によって人格形成に強い影響をうけやすく、結果的に不安や抑うつを受けやすい状態にあります。
2. 原因
近年、遺伝学的研究や神経機能画像研究、認知機能検査などの発展から、ADHDの生物学的基盤を示唆する研究が報告されています。ADHDの実行機能、報酬系、時間処理障害の原因として、発症リスクとなる複数の遺伝子が見つかっています。実際、ADHDの平均遺伝率は76%程度と推定され、これは統合失調症や双極性障害に匹敵する高い遺伝率です。また、胎内で母親の喫煙・飲酒暴露で発症リスクが高まるという報告や、1500g未満の低出生体重児ではリスクが2ー3倍とされており、ADHDは遺伝的要因と環境要因によって規定される多因子疾患であると想定されています。また、双極性障害患者の23.3%に成人ADHDが認められるという報告もあり、双極性障害と類似した病理の存在も示唆されています。
3. 診断
不注意または多動性・衝動性が、12歳以前から存在し、複数の場面で観察され、他の精神疾患では説明されず、社会的/職業的機能を損なう証拠ある場合に診断されることになっています。つまり自宅だけ、あるいは学校だけ、職場だけで症状が出現する場合は、診断に達しません。診断の重要所見のうち、「不注意」は、ケアレスミス/集中力持続不可 聞いていないそぶり/指示に従わない 順序立てた活動ができない/努力を避ける/よくものを無くす/外的刺激ですぐ気が散る/忘れっぽいなどの臨床的裏付けから判断されます。また「多動性・衝動性」においては、そわそわ・もじもじ/着座維持困難/ 走り回り・高所登り/静かに遊べない/じっとしていない/多弁/質問を遮り話す/順番待ち不可/他者の活動に干渉する/などの臨床的裏付けから判断されます。これらを判断するには、客観的な証拠が重要であり、他の発達障害と同様、両親や教師など過去をよく知る人物からの意見や通知表などが重要になります。成人例の場合は、両親が既に他界していたりする場合もあり、必ずしも客観的な意見が得られない場合もあるため、自記式の心理検査の所見も参考とします。また、能力のバラつきや、他の病態と鑑別するためにWAISという知能検査を行う事が推奨されます。WAISの所見上、処理速度やワーキング・メモリ(作業記憶)が相対的に低い得点になる事が多いとされています。
4. 治療