認知行動療法ー損益分析とはー
みなさんお加減どうですか?
どうも。いつも診る院長の、清水です。
皆さんは、
うつ状態で判断力や集中力が鈍る、
そんな経験ありませんか?
今日は、そんな方が意思決定をする際に、
役立つスキルを伝授しましょう。
それは、【損益分析】です。
損益分析は、メリットとデメリットを点数化する方法
前回は、【比較癖といいね!リスト】についてのお話をしました。
うつ状態の患者さんは、悲観的なものの見方をしがちだという
お話でしたね。
うつはそれだけでなく、判断力が鈍り、意思決定が苦手になるという特徴があり、
今回のスキルはそうした方にも役立ちます。
説明しやすくするために、
当院に通院中しているうつ病患者さん、Eさんをご紹介しましょう。
Eさんは、薬を飲むのかどうするのか、くよくよ悩んでおられます。
主治医の私が副作用を説明した上で薬の内服を勧めますが、
なかなか薬を飲んでくれません。
私は損益分析のよい適応だと判断、Eさんといっしょに
この技法に取り組むことになりました。
(もし、これを読んでいただいている方が
何かで迷っていたら、是非ともトライしてみてください!)
損益分析表の作り方
ごっちゃになっていました。
続いて、一番上の行に、「メリット」と「デメリット」と書いて下さい。
メリット | デメリット | ||
薬を飲む | |||
薬を飲まない |
まず、薬をのむことのメリットとデメリットを書き出してもらえますか?
メリット | デメリット | 合計 | |
薬を飲む | ・うつ病がよくなる可能性が上がる ・眠れるようになる ・不安感がおちつく ・集中力が上がって、仕事がまともにできるかもしれない ・日中の眠気が減り、休日を自由に使える時間が増える | ・副作用(吐き気・眠気・ふらつき・便秘・下痢・めまい)の可能性がある ・日中活動できないと、周囲の評価が下がる ・薬をはじめたら、二度と薬をやめられない心配がある ・何も介入していないと、どんどん悪化していく | |
薬を飲まない |
Eさん「書いていくことで、思いつくこともありますね。その場合、追記してもいいのですか?」
メリット | デメリット | 合計 | |
薬を飲む | ・うつ病がよくなる可能性が上がる ・眠れるようになる ・不安感がおちつく ・集中力が上がって、仕事がまともにできるかもしれない ・日中の眠気が減り、休日を自由に使える時間が増える | ・副作用(吐き気・眠気・ふらつき・便秘・下痢・めまい)の可能性がある ・日中活動できないと、周囲の評価が下がる ・薬をはじめたら、二度と薬をやめられない心配がある ・何も介入していないと、どんどん悪化していく | |
薬を飲まない | ・副作用があるのであれば、薬を飲まないほうが逆によいかもしれない ・薬を飲むことの「敗北感」に悩まされずに済む ・周囲から過剰に心配される事がない ・肝臓や腎臓を悪化させる可能性がない | ・いまのところ薬しか改善策がない ・次第に状態が悪化しているので、今後も状態が悪化し、仕事ができなくなる懸念がある |
メリット(0~10点) | デメリット(0~-10点) | 合計 | |
薬を飲む | ・うつ病がよくなる可能性が上がる 10 ・眠れるようになる 8 ・不安感がおちつく 3 ・集中力が上がって、仕事がまともにできるかもしれない 6 ・日中の眠気が減り、休日を自由に使える時間が増える 4 <31点> | ・副作用(吐き気・眠気・ふらつき・便秘・下痢・めまい)の可能性がある-10 ・日中活動できないと、周囲の評価が下がる-7 ・薬をはじめたら、二度と薬をやめられない心配がある-10 ・何も介入していないと、どんどん悪化していく -8 <-35点> | -4点 |
薬を飲まない | ・副作用があるのであれば、薬を飲まないほうが逆によいかもしれない 5 ・薬を飲むことの「敗北感」に悩まされずに済む 9 ・周囲から過剰に心配される事がない 8 ・肝臓や腎臓を悪化させる可能性がない5 <27点> | ・いまのところ薬しか改善策がない -10 ・次第に状態が悪化しているので、今後も状態が悪化し、仕事ができなくなる懸念がある -8 <-18点> | 9点 |
もし、それでもどうしてもダメだったら、またこのスキルを思い出して、
やってみませんか?
・・・こうして、Eさんは、薬を飲まない選択をしました。
主治医の私としては、「薬。飲んだ方が良いのになあ・・・」と正直思いましたが、
患者さんの選択を尊重するのも、信頼関係の維持に必要なことだと考えています。
損益分析という技法は、主治医の治療を押し付けるために行うのではなく、
患者さんの心の中を見える化して、
納得のできる選択をしてもらう事が目的であることに注意が必要です。
結果的にEさんは、症状が軽快しないまま、現在も通院を続けていますが、
いつかまた損益分析を行って、
薬物療法の必要性を再検討できるといいなあと思っています。
いかがでしたか?
いよいよ、「認知行動療法をセルフで」シリーズも
後半に差し掛かってまいりました。
最初からこのコラムを読んでこられた方は、
少しは気分を軽く出来ているでしょうか?
恐怖や不安を克服するための方法について、お話しますよ。
それではそのときまで、お大事に。
【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社
・福井至 図解やさしくわかる認知行動療法 ナツメ社
更新:2024.1.23
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医