風呂キャンセル界隈とは?精神科医が解説するその現象と心理的背景

はじめに

風呂キャンセル界隈

 

「風呂キャンセル界隈」という言葉をご存じでしょうか?「風呂キャン」など、略されはじめておりもはやSNSやインターネット上で目にすることも増えましたよね。

「お風呂に入る予定だったけれど、結局入らなかった」という行動やその背景を共有するコミュニティを指します。一見、些細な日常の一場面に思えますが、これが一種の心理的負担やメンタルヘルスの指標となっている場合もあります。
この記事では、精神科医の視点から「風呂キャンセル界隈」の現象を解説し、その心理的背景や対処法について詳しくお伝えします。

風呂キャンセル界隈とは?

「風呂キャンセル」とは、入浴を予定していたものの、何らかの理由で「今日はやっぱり入らない」と決断する行動を指します。

「界隈」という表現は、これに共感する人々がSNSで形成するコミュニティを意味します。

「今日もお風呂キャンセル」「お風呂に入らない罪悪感」という投稿に共感が集まり、

似た経験を持つ人々が自分の状況を発信する場となっています。

一見、日常的な出来事をユーモアを交えて共有したり、共感を得たりして安心したりするにコミュニティに思えます。

しかし、そこには我々がよく遭遇する、精神疾患が隠されている可能性があります。

風呂キャンセル界隈の背景にある精神疾患

入浴などの行動習慣が崩れると、自己効力感(自分ができるという感覚)が低下しやすくなります。

また、整容を保てないことが外出などの楽しみの減少につながり、これがさらなる無気力感や自己否定感を招く悪循環につながる可能性があります。

このように、入浴をしないことを続けることが精神疾患の発症リスクを高めたり、

あるいはすでに発症している精神疾患により、風呂をキャンセルことにも繋がります。

以下に、関連性の深い精神疾患を記載します。

単なる風呂嫌いならいいんですが・・・あてはまる人は、早めの対策が必要かもしれませんよ・・・?

 

抑うつ状態(うつ病双極性障害

うつ病や双極性障害などの精神疾患によって、抑うつ状態に至り、「何事も億劫になる」ために入浴ができなくなります。

この状態では、入浴だけでなく日常の基本的な行動(食事、掃除、仕事など)が困難に感じられることがよくあります。

活動するためのエネルギーが低下し、お風呂に入ること自体が「大きな負担」に感じ、

罪悪感や自己否定感が強まり、「風呂に入らない自分」を責めやすくなってしまいます。

集中力の低下や食欲の変化、不眠や過眠も併発している場合が多く、それが疾患のサインとなります。

 

不安障害(全般性不安症、限局性恐怖症)

不安障害により、過度な心配や恐怖感が原因となって入浴ができなくなります。

比較的稀ですが、入浴するという一連の動作のうちいずれか(脱衣、洗髪、入浴など)に対して異常な恐怖感を抱いてしまったり、

何事も不安になって入浴どころではなくなってしまうことがあります。うつ病を併発しやすく、

やはり入浴以外の行動でも「準備が億劫」と感じることが多くなったり、不安感が原因で生活習慣全般に支障が出ていることが病気に気が付くサインです。

 

慢性疲労症候群(CFS)

慢性疲労症候群は、少なくとも半年以上の長期間にわたる極度の疲労感が主な症状で、身体的にも心理的にも行動が制限されます。

神経や免疫系、代謝の異常を伴うこともあり、それらに影響を与える可能性のある、ストレスの暴露や感染症後に

続発することも多いです。疲労感が強いため、入浴のようなエネルギーを消費する行動が後回しになりやすく、入浴後に「さらに疲れる」という感覚がある場合もあります。

うつ病などの気分障害と同じく、入浴以外の行動(買い物や外出)も減少しており、筋力の低下や関節痛などを伴うことが特徴的ですが、

気分は必ずしも悪くはありません。

 

注意欠陥・多動性障害(ADHD)

ADHDは先天的な不注意さ、多動性や衝動性の高さを特徴とする発達障害の一つです。

先延ばし癖や飽きっぽさがあり、優先順位をつけて計画的に行動することが苦手なため、

入浴ができない場合があります。

他のタスク(掃除や仕事の準備など)も先延ばしになりやすく、

またネガティブな気持ちで入浴できない、というよりは、「あっ・・・今日も入れなかった!」

とあっけらかんとしていることが多いのも特徴的です。

 

自閉スペクトラム症(ASD)

特徴

ASDは感覚過敏や特定の行動へのこだわり、コミュニケーションの障害を特徴とする発達障害です。

入浴に関する感覚的な要因や手順の複雑さが負担になり、入浴ができないことがあります。

具体的には、水やシャワーの音、温度など、感覚的な刺激が不快に感じられたり、

入浴手順を変更することが苦痛に感じる場合もあります。

いずれにしても、「生まれつき」入浴することを負担に感じていることが特徴的です。

生活全般で「ルーティン」に強く依存している場合があります。

 

 強迫性障害(OCD)

OCDは、強迫観念やそれに基づく強迫行為を特徴とする精神疾患です。

例えば入浴に対して「何かが失われる気がして」できないこともあれば、

「完全に清潔にならないといけない」というこだわりが強すぎて逆に行動が滞ることもあります。

また、他の「しなければいけない行為」を優先するあまり、入浴に割く時間がとれずに風呂キャンセル、となることもあります。

一般的には、入浴に関連するもの以外の強迫観念、強迫行為を伴うことが多いです。

 

 「風呂キャンセル」を乗り越えるための具体的な方法

 

「風呂キャンセル」のリスクを知って動機付けを高める

まずは、入浴をしないことでどんなデメリットがあるかを理解することが重要です。

入浴を長期的にしていないと、身体的、精神的にも問題を引き起こす可能性があります。

身体的なリスクとしては、皮膚疾患や感染症のリスクが高まります。

精神的なリスクとしては、自己効力感(自分ができるという感覚)が低下したり、

清潔感が失われることで他者からの評価が低下したりする事があります。

これがさらなる無気力感や自己否定感を招く悪循環につながる可能性もありますよね。

 

小さなステップで取り組む

「完全にお風呂に入る」ことを目標にするのではなく、小さなステップから始めてみましょう。

例えば・・・

洗顔だけする。足湯を試す。シャワーだけ浴びる。

等があるでしょう。

跳び箱を飛んでいくステップと同じです。

最初から12段飛べる人間はいません。簡単な課題から取り組んでいければ、

その自信が次のステップへの挑戦を助けてくれます。

 

環境を整える

入浴が楽になる工夫をすることでも、行動に移しやすくなります。

例えば、お気に入りの香りがする入浴剤や石鹸を使ったり、

音楽やポッドキャストを聴くことが考えられます。

これらによって入浴の楽しみを増しつつ、負担感を減らすことにもつながります。

 

専門家に相談する

精神疾患が疑われる場合は、精神科や心療内科に相談することをご検討ください。

当院でも「入浴できない」と訴えて相談される方がいらっしゃいます。

先述のとおり、背景に精神疾患が隠れている場合があるので、

適切な治療によって、他のお困りごとも改善する可能性があります。

 

さいごに

「風呂キャンセル界隈」は、一見軽い話題に見えながらも、心の健康に大きく関わる現象です。

その背景には、日々の疲労やメンタルヘルスの問題が潜んでいることがあります。

大切なのは、自分を責めず、小さな一歩を積み重ねることです。

もしも「風呂キャンセル」が日常的になり、気持ちや生活に支障をきたしている場合は、

心療内科や精神科への相談をおすすめします。

あなたが少しでも楽に過ごせる日が増えることを願っていますよ。

それでは、皆さん。お大事に。

更新:2024年12月23日

執筆者紹介

清水聖童
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医

 

 

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