CBT-OB(肥満・体重管理の認知行動療法)|食行動とリバウンドを整える心理療法

目次
- CBT-OBとは
- CBT-OBの基本情報
- 通常の認知行動療法(CBT)との違い
- なぜ「分かっているのに続かない」のでしょうか
- CBT-OBの治療メカニズム
- 行動療法を中心とした体重管理との違い
- CBT-OBの6つの治療モジュール
- CBT-OBの治療の流れ
- 「減量」と「体重維持」を分けて考えます
- セルフモニタリングは「自分を責める記録」ではありません
- 「一度崩れたら全部失敗」という考え方を修正する
- 「どこまで痩せれば成功か」を見直すことも治療です
- 体重を「減らす」から「維持する」へ
- 一度の食べ過ぎを「リバウンド」にしない
- ご家族は「食事の監視役」にならないことが大切です
- 過食性障害を伴う場合
- うつ病などの精神疾患を伴う場合
- 精神科の薬による体重増加にも対応します
- 肥満治療薬とCBT-OB
- どのくらいの減量を目指すのでしょうか
- CBT-OBが検討される方
- よくある質問
- CBT-OBについて相談したい方へ
- まとめ
- 引用・参考文献
CBT-OBとは
肥満や体重管理に対して認知行動療法の考え方を応用した治療です。体重管理では、
「何を食べればよいか」
「運動した方がよい」
と理解していても、
実際にはそれを長く続けることが難しい場合があります。食行動には空腹だけでなく、
ストレス、睡眠不足、生活リズム、
周囲の食環境、過去の減量経験、
「一度食べ過ぎたら全部失敗」といった考え方など、
多くの要因が影響するためです。CBT-OBでは、
食事や運動について一方的に指導するのではなく、
自分の食行動や生活パターンを理解し、
長期的に体重を管理するためのスキルを身につけること
を重視します。
CBT-OBのポイント
「意志の強さ」だけに頼らず、
食行動・環境・感情・考え方を整理し、
続けやすい体重管理の仕組みを一緒に作っていく治療です。
CBT-OBの基本情報
CBT-OB
Cognitive Behavioral Therapy for Obesity
肥満・体重管理に対する認知行動療法
認知行動療法(CBT)+行動療法的な体重管理
肥満、減量後の体重維持、
食行動や生活習慣の調整が難しい状態など
セルフモニタリング、食行動の調整、身体活動、
問題解決、認知への介入、環境調整、再増加予防
減量だけでなく、その後の体重維持まで治療対象とする
治療者と患者さんが協力して進める個別化された治療
通常の認知行動療法(CBT)との違い
CBT-OBは、
認知行動療法(CBT)
の考え方を基盤としています。
一般的なCBTでは、
考え方・感情・身体反応・行動の関係を整理し、
症状を維持している悪循環に働きかけます。
CBT-OBではそこからさらに、
食事、身体活動、食欲を刺激する環境、
減量への期待、体重への過度なこだわり、
リバウンドにつながる考え方
など、体重管理に特有の問題を扱います。
なぜ「分かっているのに続かない」のでしょうか
体重管理が続かない理由を、
単純に「意志が弱いから」と考えることは適切ではありません。
食行動には、
ストレス、気分、睡眠不足、
習慣、周囲にある食べ物、
仕事や家庭環境などが複雑に影響しています。
CBT-OBでは、
このような悪循環を整理し、
どこを変えれば循環全体を弱められるか
を一緒に検討します。
CBT-OBの治療メカニズム

複数の認知行動的アプローチを組み合わせます。
CBT-OBでは、
セルフモニタリング、認知への介入、
問題解決、刺激統制・環境調整
などを組み合わせます。
「食べないように我慢する」ことだけに頼るのではなく、
食べ過ぎが起こりにくい状況を作り、
問題が起こったときにも自分で軌道修正できる状態を目指します。
行動療法を中心とした体重管理との違い
| 比較 | 行動療法を中心とした介入 | CBT-OB |
|---|---|---|
| 主な焦点 | 食事・身体活動などの行動 | 行動+認知+維持を妨げる要因 |
| 治療計画 | 標準化された介入 | 個人の障壁に応じて調整 |
| 考え方への介入 | 補助的 | 重要な治療要素 |
| 減量への期待 | 目標設定を中心に扱う | 目標への期待や満足度も扱う |
| 体重維持 | 生活習慣の継続を促す | 維持に特化した介入を行う |
CBT-OBの6つの治療モジュール
CBT-OBは、
大きく6つのモジュールから構成されています。
患者さんの状態や治療上の障壁に応じて調整しながら進めます。
| モジュール | テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | セルフモニタリング | 食事・身体活動・体重などを記録し、 自分の行動パターンを把握します。 |
| 2 | 食行動を整える | 食事の時間や内容を計画し、 衝動的・無意識的な摂食を減らします。 |
| 3 | 活動的な生活 | 座っている時間を減らし、 日常生活の中で身体活動を増やします。 |
| 4 | 減量を妨げる要因 | 環境、出来事、感情、衝動、 考え方などを整理して個別に対処します。 |
| 5 | 減量への不満 | 非現実的な体重目標や、 体重・体型への過度な評価を検討します。 |
| 6 | 体重維持 | 再増加しやすい状況を把握し、 自分で早期に修正できる方法を身につけます。 |
CBT-OBの治療の流れ

STEP
1
現在のパターンを把握する
食事、身体活動、体重、睡眠、
気分やストレスなどを整理し、
自分の生活パターンを可視化します。

STEP
2
続けられる行動を作る
食事や身体活動を、
日常生活の中で無理なく実行できる形に調整します。

STEP
3
障壁に個別対応する
ストレス、生活環境、衝動、
全か無か思考などを整理し、
自分に合った対処法を試します。

STEP
4
体重維持へ移行する
小さな変化に早く気づき、
治療者がいなくても自分で軌道修正できる状態を目指します。
「減量」と「体重維持」を分けて考えます
CBT-OBの重要な特徴の一つが、
減量期と体重維持期を明確に区別すること
です。
| フェーズ | 主な目的 | 標準的な研究モデル |
|---|---|---|
| 減量期 | 健康的な減量を行い、 食事・活動・認知行動スキルを身につける |
約24週間 |
| 維持期 | 減量後の状態を維持し、 体重再増加に自分で対応する |
約48週間 |
これはCBT-OBの標準的な研究・治療モデルです。
実際の治療期間や頻度は、
患者さんの状態や治療目標によって異なります。
セルフモニタリングは「自分を責める記録」ではありません
CBT-OBでは、
食事や身体活動などをできるだけその時点で記録し、
実際に何が起きているのかを把握します。
目的は、
食事を採点したり、
「良い・悪い」と評価したりすることではありません。
例えば、次のようなパターンを探します。
- 残業した日に夜間の摂取が増える
- 睡眠不足の翌日に間食が増える
- 嫌な出来事のあとに食べたくなる
- 食事を長時間抜いたあとに食べ過ぎる
- 菓子類が目に入る場所にあると手が伸びやすい
パターンが分かれば、
「もっと我慢する」以外の対策を考えられるようになります。
「一度崩れたら全部失敗」という考え方を修正する
長期的な体重管理を妨げやすいものの一つが、
全か無か思考です。
- 「ケーキを食べたから今日はもう失敗」
- 「毎日運動できなければ意味がない」
- 「目標体重まで落ちなければ成功ではない」
- 「1kg増えたから完全にリバウンドした」
CBT-OBでは、
これらを単純な「ポジティブ思考」に置き換えるのではありません。
実際の経験や行動を確認しながら、
長期的な体重管理に役立つ、
より柔軟で現実的な考え方
を身につけていきます。
「どこまで痩せれば成功か」を見直すことも治療です
減量について非常に高い目標を持っていると、
医学的には十分な改善が得られていても、
「思ったほど痩せなかった」と感じることがあります。
CBT-OBでは、
減量量だけでなく、
得られた結果への満足度や、
そもそもなぜ体重を減らしたいのか
についても検討します。
非現実的に高い減量期待は、
治療中断と関連することが報告されています。
体重を「減らす」から「維持する」へ
減量期と体重維持期では、
必要になる考え方が少し異なります。
維持期では、
一定の範囲で体重が変動することを受け入れながら、
必要なときに早めに調整すること
が重要になります。
一度の食べ過ぎを「リバウンド」にしない
会食、旅行、仕事の繁忙期、体調不良などによって、
計画通りに生活できない時期は誰にでもあります。
CBT-OBでは、
一時的に予定から外れたことそのものを
治療失敗とは考えません。
大切なのは、その次の行動です。
- 何が起こったのか確認する
- 自分を過度に責めない
- 必要なら記録を再開する
- 次の食事から通常の行動へ戻す
「一度も崩れないこと」ではなく、
「崩れても戻れること」
が長期的には重要です。
ご家族は「食事の監視役」にならないことが大切です
「また食べている」
「本当に痩せる気があるの?」
といった言葉は、
罪悪感を強めたり、
食行動を隠すことにつながったりする場合があります。
本人の同意がある場合には、
ご家族にも協力していただき、
健康的な行動を取りやすい環境を一緒に作る
ことがあります。
過食性障害を伴う場合
肥満と
過食性障害(BED:Binge Eating Disorder)
が併存することがあります。
過食性障害では、
短時間に多量の食物を摂取し、
「自分では止められない」という感覚を伴う
過食エピソードを繰り返します。
この場合は、
単純に食事量を減らすのではなく、
過食を維持している食行動や心理的要因への介入が重要です。
状態によっては、
減量よりも摂食障害に対する治療を優先します。
うつ病などの精神疾患を伴う場合
強い抑うつ、意欲低下、集中力低下などがある場合には、
記録や行動計画そのものが大きな負担になることがあります。
そのため、
精神症状の治療と体重管理のどちらを優先するか、
あるいは並行して行うか
を個別に検討します。
精神科の薬による体重増加にも対応します
精神科で使用する薬剤の中には、
食欲や代謝に影響し、
体重が増えやすくなるものがあります。
例えば、
ジプレキサ(オランザピン)
や
リフレックス(ミルタザピン)
などでは、体重増加に注意が必要です。
この場合、
体重増加をすべて本人の食生活の問題として扱うことは適切ではありません。
薬剤の必要性、精神症状、
食欲の変化、体重、代謝指標などを確認し、
必要に応じて薬物療法の調整と
CBT-OBによる行動変容支援を組み合わせます。
肥満治療薬とCBT-OB
肥満や体重管理では、
状態に応じて、
食事・身体活動への介入、
心理的支援、
薬物療法などを組み合わせます。
例えば、
マンジャロ(チルゼパチド)
などの薬物療法は、
食欲などの生物学的側面に働きかけます。
一方CBT-OBは、
食行動、生活習慣、環境、
ストレスへの対処、治療継続、
体重再増加の予防
に働きかけます。
「薬か心理療法か」という二者択一ではなく、
医学的適応を確認しながら、
それぞれの役割を組み合わせることがあります。
どのくらいの減量を目指すのでしょうか
体重は、
「できるだけ減らせばよい」というものではありません。
日本の肥満症診療では、
肥満症では現在体重の3%以上、
高度肥満症では健康障害の状態に応じて
より大きな減量が検討されます。
CBT-OBでも、
現実的で健康上の利益が得られる減量目標を設定し、
その後に維持できること
を重視します。
専門医の臨床的見解
肥満治療で実際に難しいのは、
一時的に体重を落とすこと以上に、
治療行動を継続し、
体重が増え始めたときに早期に修正すること
だと考えています。
精神科診療では、
うつ、不安、睡眠不足、
ADHDに伴う生活の不規則さ、
過食、
抗精神病薬や抗うつ薬による食欲・体重への影響など、
一般的な減量指導だけでは説明できない要因も少なくありません。
そのため、
「食べる量を減らしてください」という指導だけではなく、
なぜその場面で食べるのか、
なぜ治療行動が続かなくなるのか
を整理することが重要だと考えています。
また、
常に100点の行動を続けようとするよりも、
無理のない行動を長く続け、
一時的に崩れても戻れることの方が重要な場合があります。
CBT-OBが検討される方
- 何度も減量したものの、その後体重が戻ってしまう
- 食事や運動について分かっていても続けられない
- ストレスを感じると食べ過ぎてしまう
- 一度食べ過ぎると「もうどうでもいい」となりやすい
- 体重の増減によって気持ちが大きく左右される
- 極端な減量とリバウンドを繰り返している
- 減量後の体重を長期的に維持したい
- 精神科の薬を開始してから食欲や体重が増えた
CBT-OBを始める前に
体重増加には、
心理的・行動的な要因だけでなく、
身体疾患や薬剤が関係している場合があります。
必要に応じて、
血圧、血糖、HbA1c、脂質、
肝機能、腎機能、甲状腺機能などを確認し、
身体科での診療が必要かどうかも検討します。
また、
摂食障害や急性期の精神疾患などがある場合には、
体重減少よりも他の治療を優先することがあります。
よくある質問
CBT-OBを受ければ必ず痩せますか?
一定量の減量を保証する治療ではありません。
体重だけでなく、
食行動を調整する能力、
問題が起きたときの対処力、
減量後の維持なども重要な治療目標です。
厳しい食事制限を行いますか?
単純に食事を我慢し続ける治療ではありません。
食事のパターンや環境を整理し、
長く続けられる行動を作ることを重視します。
意志が弱くても治療できますか?
CBT-OBでは、
体重管理が続かないことを
単純な意志の弱さとは考えません。
行動を難しくしている環境、感情、
考え方などを分析します。
一度リバウンドした人でも受けられますか?
はい。
過去に体重が戻ったときに何が起きていたのかを整理し、
今後の再増加予防に活かします。
過食性障害にも使えますか?
状態によってCBT-OBを調整して用いることがあります。
過食が中心的な問題である場合には、
摂食障害に特化した認知行動療法などを優先する場合があります。
マンジャロなどの肥満治療薬と併用できますか?
医学的に適切であれば、
薬物療法と心理的・行動的介入を組み合わせることがあります。
両者では働きかける部分が異なります。
精神科の薬で太った場合にも相談できますか?
相談できます。
薬剤の必要性と精神状態を確認しながら、
食欲、体重、食行動、生活習慣などを総合的に評価します。
CBT-OBについて相談したい方へ
「何度も減量を繰り返している」
「ストレスで食べ過ぎる」
「薬を飲み始めてから体重が増えた」
「減量できても維持できない」
など、体重管理でお困りの方はご相談ください。
当院では、
心理的要因だけでなく、
精神症状、服薬状況、睡眠、生活環境なども含めて整理し、
一人ひとりに合わせた支援を検討します。
まとめ
CBT-OBは、
肥満や体重管理に認知行動療法を応用した治療です。
食事や運動について知識を伝えるだけではなく、
食行動がどのような状況で崩れるのか、
どのような考え方が治療継続を妨げるのか
を整理します。
セルフモニタリング、
食行動の調整、
身体活動、
問題解決、
認知への介入、
環境調整などを組み合わせ、
最終的には
自分で体重管理を続けられる状態
を目指します。
大切なのは、
一度も崩れないことではなく、
変化に早く気づき、
必要な行動に戻れるスキルを身につけることです。

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水聖童(Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
1. Dalle Grave R, Sartirana M, Calugi S.
Personalized cognitive-behavioural therapy for obesity (CBT-OB):
theory, strategies and procedures.
BioPsychoSocial Medicine. 2020;14:5.
doi:10.1186/s13030-020-00177-9.
2. Dalle Grave R, Calugi S, Molinari E, et al.
Weight loss expectations in obese patients and treatment attrition:
an observational multicenter study.
Obesity Research. 2005;13(11):1961-1969.
doi:10.1038/oby.2005.241.
3. Cooper Z, Fairburn CG, Hawker DM.
Cognitive-Behavioral Treatment of Obesity:
A Clinician’s Guide.
Guilford Press; 2003.
4. 日本肥満学会.
肥満症診療ガイドライン.
5. Beck JS.
Cognitive Behavior Therapy:
Basics and Beyond.
Guilford Press.
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