そもそも悪夢とは
皆さんお加減どうですか?
どうも、いつも診る院長の清水です。
精神科・心療内科に通院されている患者さんの中には、
悪夢を訴える方が多くいます。
この記事を見ている方にも、お困りの方はいるかもしれません。
今回は、悪夢の対策についてお話ししようと思いますが、
敵を知り、己を知れば、100戦危うからず、という言葉があります。
まずは、悪夢を知ることから始めてみましょう。
悪夢の定義
精神科では、悪夢を繰り返し見てしまい、
それによる不快感が持続して苦しむ方の為に、
「悪夢障害」という診断が用意されています。
悪夢障害の定義によると、悪夢は
「睡眠中の生々しい夢から、その内容と関連した不安と恐怖を伴って、覚醒が生じること」
とあります。
夢の内容は、生存や安全、自己の尊厳に対して脅威を含むものですが、
夢の内容、およびそれに伴う覚醒はかなり苦痛を伴い、
覚醒後の再入眠は困難なことが多いとされています。
悪夢の原因
そもそも睡眠中は、体を休める「レム睡眠」と、
脳を休める「ノンレム睡眠」というフェーズが交代して構成されています。
夢をみるのは、脳が覚醒しているレム睡眠中に生じるわけですね。
ですので、レム睡眠の持続時間が長くなりがちになる明け方の時期に発生しやすくなります。
それから、夢の7から8割は悪夢だそうで、
私たちの夢はほぼ悪夢で成り立っていることになります。
悪夢障害と診断される方の中には、
発症に先立つ何らかの大きな外傷体験を経験した患者が
60%おり、また境界性パーソナリティ障害やうつ病患者の罹患率が高く、
何らかの不快な感情が夢見の悪さに関連している可能性が示唆されています。
また、一部の抗うつ薬、ドパミン受容体作動薬などの向精神薬、
降圧薬やアルコールなどの中断を原因として悪夢が続くことも多いです。
また、オレキシン受容体拮抗薬であるベルソムラやデエビゴは、
レム睡眠を賦活することによって、
悪夢を見るリスクも高まります。
また、ナルコレプシーなど一部の睡眠関連疾患の前駆症状として、
悪夢が出現することもあります。
悪夢の対処法
悪夢は、寝る前の不快な気分が出現に関与すると考えられているため、
悪夢を誘発するような怖いTV番組などの刺激を避けたり、
ストレスを回避するための環境調整を行う事が重要です。
境界性パーソナリティ障害やPTSD、うつ病などが併存する場合は、
それらの治療を並行して行います。
また、「夢日記をつける」こともおすすめです。
まず、できるだけ詳細に、みた夢の内容を
ノートに書き出します。
それから、
ちょっと内容をいじって、展開をハッピーに変えます。
例えば・・・・
あなたは、追いかけられて殺される、夢を毎日見ていたとします。
その内容を夢日記に書き出します。
あなたは、いつもどおり、何者かに追いかけられています。
それが何者かはわかりません。
しかし、殺意を感じます。
あなたが逃げれば逃げる程、速く速く追いかけてきます。
ついにあなたは、追いつかれてしまいます。
そして、ここからはいつもの夢とは違った展開が待っています。
「殺される!!」
と思って振り返ったら、
ピコピコハンマーでした・・・とさ。
めでたし、めでたし・・・じゃねえんだ馬鹿野郎この野郎。
・・・どうです?これだけでも、急にコミカルな展開じゃないですか?
そして、改変した夢日記は、
寝る前に確認してから寝るようにします。
これをやると、悪夢をみる可能性が減るようですよ。
この方法は、イメージリハーサル療法と言って、
米国の睡眠医学会で最も推奨されている方法です。
そのような心理的な治療で改善乏しい場合は、
やむを得ず薬物療法が選択されることもあります。
夢はレム睡眠に生じるため、悪夢の治療薬としては、
レム睡眠を抑制する作用のある薬が使用されます。
具体的には、ベンゾジアゼピン系薬、三環系抗うつ薬、ドパミン受容体遮断薬などの向精神薬の使用が検討されます。
また、柴胡加竜骨牡蛎湯や、桂枝加竜骨牡蠣湯などの漢方薬も
経験的に使用されています。
しかし、近年ではレム睡眠の長さと寿命が関連していたとする報告や、
レム睡眠が短いと認知症になりやすいなどの報告も多くあり、
レム睡眠もヒトにとって大事な役割を担うことがわかってきつつあります。
悪夢の多くは、一時的である事も多いので、
焦らずに対処する事が大切です。
悪夢とも、うまく付き合っていけるといいですね。
それでは皆さん、お大事に。
更新:2024.8.29
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医