地震・災害報道でつらくなってしまう方へ。精神科医が教える災害ストレス・共感疲労への対処法。

災害ストレス・共感疲労とは

災害ストレス・共感疲労

 

皆さん、お加減どうですか?

どうも。いつも診る院長の、清水です。

石川県能登半島地震から、一ヶ月経過しました。

被災された方は勿論ですが、悲しいニュースが耳に入ることで

辛い思いをされている方も数多くいらっしゃいます。

この事象は災害ストレス、もしくは共感疲労と呼ばれています。

辛い気持ちになることは幾分仕方がないことではあるのですが、

その気持ちによって急性ストレス反応や心的外傷後ストレス障害など、

いわゆる精神疾患の診断基準を満たす水準まで状態が悪化し、

日常生活に支障をきたす例もあります。

今日は、このように辛いニュースを知った時の対処法について、

対処法をご紹介したいと思います。

情報を知った後の対処法

自分の気持ちを客観視する

ご自身に浮かんできた気持ちに気づくように努めます。

無意識にでてくる「嫌な感情」を言語化して捉えます。

具体的には、嫌な感情が「不安」なのか「怒り」なのか、

「無力感」なのか「悲しみ」なのか、意識してみます。

できれば、それがどんな内容のものか気づくと良いでしょう。

例えば、「無力感」である場合は、

「被災した人たちがまともに生活できない状況なのに、私は何もできない」

という無力感なのか、

「自分たちだけのうのうと生活していいのだろうか」という無力感なのか。

それを言葉にして意識してみて下さい。

肝心なことは、「自分の感情や考え方(認知)を俯瞰して見ている」ということです。

これを、専門的には「メタ認知」と言います。

メタ認知を身につけるトレーニングとして、

・口に出して(できるだけ軽快に)言ってみる

・「自分たちだけのうのうと生活していいのだろうか」と、私は思っている等、客観視するための修飾語をつける

・その考えが自分にとって役にたつのか考える

 

などを試してみると良いでしょう。

問題解決を試みる

自分の気持ちを客観視した後、その内容によっては、解決可能な問題であることもあります。

例えば、先ほど「被災した人たちがまともに生活できない状況なのに、私は何もできない」

と無力感を感じている例をご紹介しました。

この場合は、果たしてなにもできないか、検討の余地はあります。

例えば被災者への募金に参加などがありますね。

「自分の他人事ではない。被災したらどうしよう」という不安を感じるのであれば、

防災MAPを見直して避難所を確認したり、

防災グッズを取り揃えておくのもお勧めです。

アイデアが浮かばない時は、第三者に相談してみても良いかも知れません。

 

注意を転換する

もし、嫌な考えに支配されていて、しかも先ほどの問題解決も難しい場合は、

いっそ別のことに集中して、少しでも辛い気持ちを紛らわせた方が、

得かもしれません。

こういう時こそ、没頭できる趣味や仕事に注意を向けてみてはいかがでしょうか。

 

辛いことを考え続ける

以外にも思われるかもしれませんが、

辛いことを考え続けようと意識することで、

その辛さがふっと軽くなることがあります。

心理学の領域で、有名な「シロクマ実験」というものがあります。

これは、

「シロクマのことを考えておいて下さい」と言われた被験者の一群と、

「シロクマのことだけは考えないで下さい」と言われた被験者の一群で、

群間比較すると、後者の群の被験者のほうが、シロクマのことを頻繁に考えていた、

という実験です。

この実験でわかるように、

嫌な内容を考え続けるように意識することで、

逆に考えなくなることもある技法があり、

我々精神科の臨床でも応用されています。

簡単な技法なので、是非試して見て下さい。

 

良い情報も取り入れる

震災のニュースは辛いものがありますが、

中には、「震災から立ち上がる被災者」や

「助け合い結束する被災者」、

「支援物資が届けられるニュース」など、

決して悲観的なニュースばかりでなく、

ポジティブなニュースもあります。

そのようなニュースも探してみてみるのも、

やってみる価値があります。

悲観的な気持ちになると、

どうしても嫌なニュースばかりが目につきますが、

いやな気持ちを引き起こすニュースとは逆のニュースにも目を向けることで、

いくらか気持ちが軽くなることが期待できます。

 

リラクゼーション法を試みる

精神科臨床では、気持ちを落ち着けるための呼吸法や、

グラウンディング、ボディスキャン、

落ち着く場所のエクササイズ、マインドフルネス

など、様々なリラクゼーション法と呼ばれる技法が存在しています。

例えばマインドフルネスでは、

嫌な感情や考えから、次第に意識を聴覚、触覚などの

外なる身体感覚に意識を向けることで

セルフコントロール感覚を取り戻すことを目指します。

具体的なやり方は、当院のブログでも紹介されていますよ。

 

情報を知る前の対処法

情報を制限する

これは他の専門家の方も言っていることです。

「嫌な事実から離れる」実にシンプルな対処法ですね。

HSPという言葉が世間に広く知れ渡っていますが、

生まれつき繊細な感性をお持ちの方はいらっしゃると思います。

既にその特性があることがわかっている方は、

流れてくるニュースを制限してみましょう。

スマホからニュースアプリを削除したり、

テレビのニュース番組を見ないようにしたり、

見る時間帯を選んだりします。

 

情報を選択する

しかし、一方で、悲痛なニュースを見て不調になることがわかっていても、

その内容が気になる場合もありますよね

また、制限のしすぎで必要な情報が入ってこないのも困ります。

そう言った方は、例えば被災した方の生の声や感情に触れるドキュメンタリー番組を避けて

事実ベースのニュースのみ観たり、

音量を下げて観たり、

テレビの彩度を下げてモノクロで観たりして下さい。

ショッキングな内容が、少し薄らいで映ることが期待できます。

文字で記載されているニュースだけにしてみるのもお勧めですね。

 

不調になりにくくなるためのトレーニングを受ける

能登半島地震しかり、過去の東日本大震災しかり、

悲痛なニュースであることは確かです。

しかし、同じく被災者の方々の悲痛な叫びに触れても、

まったく動じずに日常生活を送っている人も大勢います。

走るのが遅い人もいれば、速い人もいるように、

繊細さや共感性も、人それぞれなのです。

 

今回、報道を受けて辛くなる方は、

繊細さや共感性が豊かすぎる方が多いのではないでしょうか。

このような方は、何も災害の報道を受けて辛くなるだけでなく、

これまでも対人関係や仕事、家庭においてこれまでも困ったこともあったかもしれません。

 

そうした方は、これを機会に「鈍感さを身につける」ためのトレーニングを受けてみてはいかがでしょうか。

当院ではそうした方向けのトレーニングを実施しております。

ご興味があれば、こちらからアクセスしてみて下さい。

 

如何でしょうか。

これらの紹介したスキルは、

何も震災の報道以外にも、ショッキングなことを

知ってしまった時の対処法として応用できることもあるかと

思います。

それでは皆さん、お大事に。

 

【引用・参考文献】
Bonnie J. Kaplan et al. A randomised trial of nutrient supplements to minimise psychological stress after a natural disaster Psychiatry Res. 2015 Aug 30;228(3):373-9
・Mitchell AM,et al.Critical incident stress debriefing: implications for best practice.Disaster Manag Response. 2003 Apr-Jun;1(2):46-51.
・Yafit Levin et al. A cross-disasters comparison of psychological distress: Symptoms network analysis J Affect Disord 2023 Nov 1:340:405-411.

更新:2024.1.28

執筆者紹介

清水聖童
ライトメンタルクリニック院長
精神科専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医

 

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診療科目 心療内科、精神科、児童精神科、美容皮膚科

ライトメンタルクリニックは、新宿・高田馬場にて夜間診療を行っている精神科・心療内科クリニックです。次に掲げる考え方のもと、「夜間・休日含む常時診療」「非薬物療法の充実」「遠隔診療の実施」「プライバシーの配慮」の4つを特徴とし、精神科・心療内科受診に抵抗のある方にこそ選ばれる医院を目指しております。
1.心身に不調を感じているにもかかわらず、日中忙しいことにより精神科・心療内科の受診を躊躇する方のニーズに応えるため、当院は日中の診療に加え、夜間・休日診療も行います。
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