認知行動療法ーアサーション・トレーニングー
「部長!甘いもん買ってこいよ」
ああ、なんて甘美なセリフでしょうか。
どうも。いつも診る院長、清水です。
「私も、上司に言いたいこと言えたらなあ…。」
こう考えた事がある方は、
1人や2人ではないでしょう。
わかる!という、上司に従順なあなたのために、
今日は相手に対する自己主張を
適正化するスキルをご紹介しますね。
アサーションとは、自己主張の問題点を見直すスキルである
コミュニケーションにおいては、伝えること、そして聞くこと、二つの要素が重要です。
しかし、そのどちらか一方に偏ってしまうと、
我が強すぎる印象を与えてしまったり、
逆に何も自我がない、影が薄い印象を与えてしまう事があります。
アサーション・トレーニングは、別名「自己主張訓練」と言われ、
自分も相手も大事にしつつ、伝えたい事はしっかり伝えるものの、
自分や相手を傷つけない、絶妙なコミュニケーション法を訓練する方法です。
対人行動のパターンは3種類ある
アサーション・トレーニングでは、対人行動のパターンとして、
以下の3種類があるとしています。
①親愛的行動(ノン・アサーティブ):
自己主張が苦手で、相手の顔色を伺うタイプ。物静かで、曖昧な表現を好む。言い訳が口癖になっている事も。行きすぎると、上司に媚びたり、交際相手のために過剰に尽くしてしまうなどの、社会的に不適切な親愛的行動となる。
②対立的行動(アグレッシブ):
思った事をズバッと言ったり、大声を出して相手を威圧するタイプ。自分の主張を通す為であれば、悪意を伴った行動を伴う事がある。勝ち負けに固執し、常にマウントを取ろうとする事も。行きすぎると、暴力や脅迫、いじめなど、社会的に非難されるような攻撃的な行動となることがある。
③主張行動(アサーティブ):
自分の気持ちを率直に伝える一方で、相手の気持ちにも配慮ができるタイプ。場の空気を読み、適切な表現ができます。親愛的行動と対立的行動のいいとこ取りをしたような、バランスが取れた行動パターンとされる。
さあ、あなたはどのタイプが近いでしょうか。
1や2のタイプになっていませんか?
言いたいことがハッキリ言えない人だけでなく、
つい、キツイ言い方をしてしまう人にも
このスキルは有効です。
以下で実践法を紹介するので、
一緒にやっていきましょう!
(実際には、30から90分を1セッションとし、
週に1回程度のペースで行われる事が多いです。
これはアサーションに限ったことではないですが、
CBTのようなトレーニングをする場合、
精神症状が著しく悪い場合は悪化する事があるので、
無理せず休んでくださいね!)
認知行動療法ーアサーション・トレーニングの実践!
分かりやすく説明するために、
以前、問題解決法のときに出演していただいた、
Bさんに再登場願いましょう。
Bさんは、昨今のウイルス騒ぎで夫の収入が減少、
「今後生活できるのか」という現実的な不安に苦しむ主婦です。
夫とのやりとりがこじれる事もあり、
そのことも余計ストレスになっていたので、
アサーション・トレーニングを試すことになりました。
Bさん、主張する行動においては概ね3つのパターンがあるようです。
それは、親愛的行動、対立的行動、主張行動です。
ドラえもんで例えるならば、順番にのび太タイプ、ジャイアンタイプ、しずかちゃんタイプみたいな感じですね。
まず、ご自身がどれに近いのか知るため、以下のワークシートをやってみましょうか?
わかりました。
(Bさんになった気持ちで、やってみましょう!)
親愛的行動 (のび太タイプ) | 1.人前に出たり意見を言ったりすることが苦手(○・×) 2.自分に自信がない(○・×) 3.人に合わせて行動し、自分の意見を押し殺してしまうことがある(○・×) 4.人に認めてもらいたいと強く思う(○・×) 5.人に自分の意見を否定されたとき、強く返せず受け入れてしまう事が多い(○・×) |
対立的行動 (ジャイアンタイプ) | 1.人に弱みを見せることに抵抗がある(○・×) 2.人のミスやよくないところを指摘しがち(○・×) 3.自分の思ったとおりに物事が進まないと腹がたつ(○・×) 4.人への主張が激しくなりやすい(○・×) 5.人に自分の意見が否定されたとき、怒ってしまう(○・×) |
主張行動 (しずかちゃんタイプ) | 1.人に対して率直に話すことに抵抗がない(○・×) 2.いつでも能動的に行動ができる(○・×) 3.大勢の人の前でも動揺しないほうだ(○・×) 4.苦手な人とも自然に話せる(○・×) 5.否定されてもそれほどネガティブにならず、人の意見を受け入れられる(○・×) |
それを頭にとどめておいてください。
さあ今日は、Bさんが頭を悩ませている状況で、
①親和的行動
②対立的行動
③主張的行動
それぞれについて、主張の方法を検討してみましょう。
以下のワークシートを一緒にやっていきましょうか?
状況:あなたは、泣いている子どもをあやしています。
すると、夫が帰宅して、露骨に嫌な顔をされます。夫からは次のように文句が。
「おいおい。俺が帰ってくるときは、ちゃんと子どもを静かにさせておけよ・・・」あなたなら、どう答えますか?
あなたの台詞 | 予想される夫の台詞 |
対立的行動は、自分だけ配慮した言い方、だから・・・
あなたの台詞 | 予想される夫の台詞 |
親和的:「ごめんなさい、私が悪かったわ。 今日はパートの帰りが遅くて、 なかなか構ってやれなかったのよ…」 | 「俺も仕事で疲れてるんだよ。 そんなら、パートの時間を早めろよ」 |
対立的:「私だって疲れているのよ!だいたいあなたは 家事の一つも満足に手伝わないじゃない。」 | 「グダグダウザイんだよ!」と吐き捨て、家を出て行く |
主張的:「疲れているのにごめんね。実は私も、 パートが遅くなって疲れている中で、 なんとか子どもとの時間を作っているの。あなたも、 育児に協力してもらえると、嬉しいんだけど・・・」 | 「考えておくよ」 「何か俺に出来ることはないか?」 |
ところで、現実のあなたは、
3つの主張パターンのうち、どんな言い方に近いのでしょう?
Bさん、その気づきを大切にしてください。
予想される結果についても、いまのところ主張的行動の方がよさそうですね?
ではこれから、主張的行動をすかさずとれるようにトレーニングしてみましょう。私が夫役をやりますので、主張的行動のロールプレイングを試してみませんか。
いかがでしょうか。
一度両極端な行動パターンを考えると、
ご自身の普段の振る舞いの偏りに気がつくことがあります。
うまく主張行動を導くコツ
普段、親和的行動が多い方は、
「~していただけると助かります」
「~なことに困っています」
など、ご自身の感情を伝える表現を追加すると、
主張的な表現になることがあります。
(例:あなたは何故そんなに仕事が遅いの?→私は、あなたの仕事が早いと助かるよ)
(例:~すべきだ、~しなければならない→~して欲しい、~して下さい)
また主張行動を考える上で、
表現を肯定的にできないか、という視点も意識することも大切です。
(例:家事を手伝ってくれないと困る→家事を手伝ってくれると嬉しい)
また、感情や意見を明確に伝える方法として、
Describe:客観的な事実を伝える
Express:感情を表現する
Suggest:どうして欲しいか提案する
Consequence:結果を予想して伝える
の頭文字をとってDESC法というのがあるので、
有効活用してください。
是非、ご自身が困っている状況に関して、
ワークシートを作ってくださいね。
アサーションを身につけると、コミュニケーションがよりスムーズになるとともに、
信頼感が増します。
それでは次回のスキルまで、お大事に。
【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社
・福井至 図解やさしくわかる認知行動療法 ナツメ社
更新:2024.1.25
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医