遺尿症・遺糞症とは

遺尿症・遺糞症とは

1. 概要

排泄に関する問題は、児童・青年期精神医学臨床における最も多い主訴の一つです。適切にトイレで排泄ができず、衣服や布団などで失禁してしまうこともが問題となります。幼児期から小児期にかけて成立するはずの排泄行動がなかなか獲得されない場合と、排泄行動が定着した後に再び排泄の問題が生じる場合とがあります。適齢期を過ぎても排尿が適切になされないものを遺尿症、排便が適切になされないを遺糞症と呼び、共に精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)では排泄症群に分類されています。日中に症状が出現するものと、夜間症状が出現するもので臨床的に分類されます。遺尿症は5歳児でおよそ5〜10%、10歳児で3〜5%、15歳以上で1%の頻度で、遺糞症は5歳児の1〜2%の頻度です。両者ともに男児に多く、予後的にも男児で遅れる傾向があると報告されています。

2. 原因

不適切な排尿・排便の原因は大きく分けると、身体が原因のものと心理的な要因によるものに大別されます。身体が原因のものとして、先天性の腎臓奇形、抗利尿ホルモンの異常や糖尿病が原因で尿が多量に排出されてしまう、尿路の感染症や脊椎の疾患により、膀胱容量が低下してしまう、尿管異所開口によって尿が漏れてしまう、てんかん、睡眠時無呼吸が原因で尿道括約筋が弛緩し尿が漏れる、などがあります。心理的な原因になり得るのは、排泄に関する両親の不適切なしつけ、トイレに対する恐怖感(例:吸い込まれそう、落ちてしまいそう、等)や不快感(排便時の痛みなど)、いじめなどです。また、発達障害や知的障害の特性により排泄に関わる症状が出ている場合もあります。一般的に昼間の排泄症や一度排泄行動が定着した後に発症する場合は、尿路感染症などを除き、心理的な要因の関与が疑わしくなります。心理的な要因から膀胱尿管逆流、水腎症、水中毒など内科的な異常まで至ることもあります。遺尿症や遺糞症というような精神医学的な診断は、原則的には内科的な疾患を除外してから診断となりますが、上記の例のように実際には心理的な要因と身体的な要因が相互に関わり合うこともしばしば認められます。また、利尿薬や緩下剤、向精神薬などお薬が原因となり得ます。

3. 診断

遺尿症が疑われる場合は一般尿検査で糖尿病や尿崩症、水中毒、尿路感染症などを除外することが必要となります。遺糞症が疑わしければ腹部レントゲンなどの画像検査や腹部エコー、必要があれば検便なども検討されます。それらで異常があれば小児科、泌尿器科、消化器内科での内科的な検索を行い、異常がなければ下記の診断基準に照らし合わせて診断します。

【遺尿症】以下、①から④全てを満たす場合に診断
①不随意的であろうと意図的であろうと、ベッドまたは衣服の中への反復性の排尿。
②その行動は臨床的に意味のあるものであり、週に2回以上の頻度で少なくとも連続して3ヶ月以上の間起こり、または、臨床的に意味のある苦痛、社会的、学業的、職業的または他の重要な領域における機能の障害が存在することによって明らかとなる。
③暦年齢は少なくとも5歳(またはそれと同等の発達水準)である。
④その行動は、物質、または他の医学的疾患(例:糖尿病、二分脊椎、てんかん)などの生理学的作用によるものではない。

【遺糞症】以下、①から④全てを満たす場合に診断
①不随意的であろうと意図的であろうと、不適切な場所(例:衣服または床)に反復して大便を出すこと。
②そのようなことが少なくとも3ヶ月間、少なくとも毎月1回以上ある。
③暦年齢は少なくとも4歳(またはそれと同等の発達水準)である。
④その行動は、便秘を起こす機序によるものを除き、物質(例:緩下剤)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

4. 治療

治療としては、まず生活指導や環境調整、心理的な介入の余地がないか検討することから始まります。例えば、遺尿症であれば夕食後以降の必要以上の飲水習慣の是正、塩分の過剰摂取の是正や、就寝前の排尿習慣の確立などを指導します。また、夜尿の水分を検知してアラームがなる装置(夜尿アラーム)は蓄尿量が増大されるため導入が検討されます(ただし、速効性には乏しい)。昼間導尿症の場合は、排尿中断訓練(排尿の途中で数秒から10秒程度排尿を中断し、また排尿する訓練)や排尿抑制訓練(尿意を感じた時に30分ほど我慢して排尿)が有効な事があります。その一方で、時間を決めて排尿するなど、強い尿意を感じる前に排尿することで膀胱の安定をはかる方法もあります。遺糞症でも、就寝前や入浴前など決まった時間にトイレに行くように促す事は有効です。トイレに対する恐怖感がある症例では、トイレのインテリアを工夫したり、トイレができたらカレンダーにシールを貼るなどのごほうびを与えたり、幼児用便座を使うなどの環境調整が推奨されます。また、背景に便秘を伴う症例では、適度な運動、食物繊維や水分摂取の奨励などの生活指導を行い、便秘の改善を試みます。排泄症では、両親が「私たちのせいでは」と考えて自責に駆られる事も多いのですが、それはあくまで一因となり得るだけで、必ずしもそうではないことに注意して下さい。心理的な要因が関与している例では、本人や家族に対する心理療法も重要です。また、学童期では学校と連携し、いつでもトイレにいけるよう配慮したり、教員がトイレに行くように促すことを心がけてもらうよう依頼する事も検討に値します。
これら環境調整や生活指導、心理的な介入を十分検討したのちに、補助的な役割を担うのが薬物療法です。まず導尿症では、抗利尿ホルモンである「デスモプレシン」を、夜尿に対して用いることが検討されます。点鼻薬と経口薬があり、就寝前に投与します。抗コリン薬や三環系抗うつ薬は、膀胱の機能的容量を増大させるため、昼間・夜間問わず、導尿症の補助的手段として用いられることがあります。ただし、頭痛や口の渇き、便秘などの副作用に配慮が必要です。また、抗ADHD薬であるアトモキセチンが夜尿症に有効であるとする報告もあります。一方、遺糞症に対する薬物療法としては、学齢期になると、排便リズムをつける目的で朝食前にテレミンソフト坐薬などの緩下剤を用いて、食後の排便を促すなどの方法が検討されます。

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診療科目 心療内科、精神科、児童精神科、美容皮膚科

ライトメンタルクリニックは、新宿・高田馬場にて夜間診療を行っている精神科・心療内科クリニックです。次に掲げる考え方のもと、「夜間・休日含む常時診療」「非薬物療法の充実」「遠隔診療の実施」「プライバシーの配慮」の4つを特徴とし、精神科・心療内科受診に抵抗のある方にこそ選ばれる医院を目指しております。
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