はじめに|「天気が悪いと心も体もしんどい」のはなぜ?
どうも、ライトメンタルクリニック、いつも診る院長の清水ですけども。
皆さん。今春ってことは・・・そろそろ油断なりませんよ?
だって、もうすぐじめじめした梅雨がきて、その後はジリジリした夏がきて、
あっという間にしばれる冬がやってくるじゃないですか。
季節の移り変わりに体調を崩したり、気分が沈んだりとメンタルが崩れる人々って、
結構多くいるくらいなんですよ。
この地獄をなんていうか知ってますか?皆さん。
四季っていうんですよ・・・・・。
アメ~ジングジャポン。
嘘です。
気象病です。
「雨の日になると頭痛がひどくなる」「台風が近づくと気分が落ち込む」──そのような症状に心当たりのある方は少なくありません。
これらは単なる気のせいではないんですよね。
近年「気象病(天気痛)」として医学的にも注目されている現象です。
特に精神科領域では、気象変化と自律神経や情動、さらには気分障害との関連が研究されており、
その病態は少しずつ明らかになりつつあります。
本記事では、精神科専門医の立場から、気象病の原因・症状・脳神経メカニズム、そして実践的な対策までを詳しく解説してやりますよ。
気象病とは?医学的な定義と分類
気象病の定義
気象病とは、「気温・気圧・湿度・天候などの環境変化により心身に何らかの症状が引き起こされる状態」を指します。
特に気圧の変化がトリガーとなるケースが多く、
頭痛、めまい、関節痛、倦怠感、さらには抑うつや不安など精神症状にまで及ぶことがあります。
関連する疾患・症状例
緊張型頭痛・片頭痛
関節リウマチ・線維筋痛症
自律神経失調症
パニック障害・不安障害
うつ病・双極性障害
気象病の主な原因|なぜ気圧や気温が心身に影響するのか?
① 内耳と前庭系による気圧感知メカニズム
気象病の重要なメカニズムの一つに、内耳が気圧の変化を感知し、中枢神経系に影響を及ぼすというプロセスがあります。
実験動物モデルでは、気圧が低下すると上前庭神経核の神経活動が亢進することが確認されています(Sato et al., 2019)。
この前庭系の興奮は、視床下部や脳幹を介して自律神経系のバランスに影響し、頭痛やめまい、不定愁訴などを引き起こす可能性があります。
まあ、簡単に言えば、耳の中の器官が自律神経系の中枢や感情に関係する部分とつながっていて、作用してしまう、ということですね。
② 自律神経と情動の密接な関係
さきほどの内容をもう少し専門的に言うとですね・・・
自律神経系と情動調整を担う大脳辺縁系(扁桃体、前頭前野など)は、機能的に密接に結びついています。
気象変化による交感神経の過活動は、心拍の上昇や過呼吸などの身体症状を通じて、不安感や抑うつ感を二次的に惹起することがあります。
また、慢性的な自律神経の変調は、気分障害や不安障害の素因と重なることも多く、
特にメンタルヘルス上の脆弱性を抱える人において症状が顕著になる傾向があります。
精神科領域における気象病の臨床的知見
気象病と気分障害
双極性障害患者を対象とした研究では、気象感受性(メテオセンシティビティ)が高い人ほど自殺既遂・未遂歴を有する割合が有意に高いことが報告されています(Di Nicola et al., 2020)。
これは、気象刺激が脳内の情動調節機構を揺るがし、既存の精神疾患を悪化させる可能性を示唆しています。
精神科病棟と気象変動
精神科入院患者の行動観察では、
低気圧やフェーン現象が観測された日において、攻撃的行動や身体的拘束の頻度が有意に増加することが明らかになっています(Lickiewicz et al., 2020)。
このような観察結果は、気象と精神状態の関係を裏付ける臨床的証拠といえます。
気象病になりやすい人の特徴
以下のような特性を持つ人は、気象病の影響を受けやすいとされています:
女性(ホルモンの影響を受けやすい)
偏頭痛や肩こり・腰痛など慢性疼痛の既往
気分変調症や自律神経失調症の既往
不安傾向が強い、自己効力感が低い(自分には対処できないという認知)
気象病の対策と予防|精神科的アプローチ
では、気候の影響を受けやすい人は、どのような対策が考えられるのでしょうか?
よく知られたものをご紹介します!
① ライフスタイルの整備
規則正しい睡眠と食事:自律神経の安定には生活リズムの維持が不可欠です。
日光浴と適度な運動:体内時計を整え、セロトニン分泌を促進します。
深呼吸や瞑想:副交感神経を優位にし、不安感を和らげる効果が期待されます。
② 天気予報と体調管理の連動
「気圧変化予報」アプリなどで気圧の変動パターンを事前に把握し、自身の体調との関連性を記録しておくと、予防や対処がしやすくなります。
③ 医学的アプローチ(必要に応じて)
明らかな精神症状(強い不安・抑うつ・パニックなど)が見られる場合は、抗不安薬・抗うつ薬・漢方薬等の薬物療法や心理療法も検討されます。
特に精神疾患を既往する場合は、気象変化が再発のトリガーとなる可能性があるため、早期介入が重要です。
おわりに|「気象病」を理解し、日々の変化に賢く対応を
気象病は、単なる「気のせい」ではなく、生理的・神経学的・心理的な要因が複雑に絡み合って起こる現象です。
とくに精神的な脆弱性や自律神経系の不安定さを抱える方にとって、気象変化は重要な“環境ストレッサー”となり得ます。
適切な知識と備えがあれば、気象病は十分に対応可能です。
日々の変化に振り回されすぎず、自分の感覚や体調の変化に丁寧に向き合うことが、大事というわけですね。
参考になりましたでしょうか。
それでは皆さん、お大事に。
2025.4.8 更新

ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医
【引用・参考文献】
・Di Nicola, M., Mazza, M., Panaccione, I., Moccia, L., Giuseppin, G., Marano, G., Grandinetti, P., Camardese, G., de Berardis, D., Pompili, M., & Janiri, L. (2020). Sensitivity to climate and weather changes in euthymic bipolar subjects: Association with suicide attempts. Frontiers in Psychiatry, 11, 95. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.00095
・Lickiewicz, J., Piotrowicz, K., Hughes, P. P., & Makara-Studzińska, M. (2020). Weather and aggressive behavior among patients in psychiatric hospitals—An exploratory study. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(23), 9121. https://doi.org/10.3390/ijerph17239121
・Sato, J., Inagaki, H., Kusui, M., Yokosuka, M., & Ushida, T. (2019). Lowering barometric pressure induces neuronal activation in the superior vestibular nucleus in mice. PLoS ONE, 14(1), e0211297. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0211297
・Sato, J., Ueyama, R., Morita, K., Furuya, T., Otsuka, Y., Hatakeyama, S., Toda, M., & Toda, N. (2021). The epidemiological and clinical features of weather–related pain (TENKITSU) and development of prediction information service for the onset of pain. PAIN RESEARCH, 36(1), 75–83. https://doi.org/10.11154/pain.36.75
・Kurauchi, Y., Tanaka, R., Ryu, S., Haruta, M., Sasagawa, K., Seki, T., Ohta, J., & Katsuki, H. (2021). Establishment of meteoropathy model mice. Proceedings for Annual Meeting of The Japanese Pharmacological Society, 94, 1-O-C1-1. https://doi.org/10.1254/JPSSUPPL.94.0_1-O-C1-1
・Bando, H. (2021). Weather-related pain or meteoropathy has been attracting attention. Journal of Health Care and Research, 2(1), Article 6201. https://doi.org/10.36502/2021/hcr.6201