
境界性パーソナリティ障害とは
Summary
overview
境界性パーソナリティ障害は、感情の調整困難、衝動性、自己同一性の障害を特徴とします。自傷や自殺企図が多く見られますが、多くは加齢とともに改善します。
cause
セロトニン異常や脳機能異常と、不安定な養育・虐待などの環境因子が複合して発症するとされていますが、明確には判明していません。
diagnosis
対人関係・自己像・感情・衝動性の不安定さに関する症状が成人早期に始まり、5項目以上で診断されます。
treatment
治療は外来中心で心理療法が主軸となり、薬物療法は補助的位置づけです。弁証法的行動療法などが有効となります。
概要
境界性パーソナリティ障害(BPD:Borderline personality disorder)は、感情のコントロールが難しい(情動調整障害)、衝動的な行動を制御できない(衝動制御不良)、自分自身の自己一貫性の欠如(自己同一性の障害)などを主な特徴とする症候群です。それらのため、物質乱用や性的逸脱行動などの自傷行為に至る事があります。有病率は1.9%程度とされており、精神科の外来診療では10〜12%、入院施設では20〜22%の頻度で見られます。診断される75%が女性ですが、実際には性差はないようです。半数以上がうつ病や不安障害、気分変調症性障害や物質使用障害を合併し、他にもPTSD、ADHD、摂食障害や他のパーソナリティ障害の合併などがあります。自傷行為や自殺企図は高率に認められ、実際に3〜10%が自殺により死亡します(気分障害と物質使用障害が併存する場合が最も危険)が、治療予後は決して悪くはなく、2年で3割以上、6年で7割以上が回復するとされます。したがって40歳以上になれば半数以上が診断基準を満たさなくなり、改善するとその後再増悪は殆どないようです。
原因
生物学的要因と後天的な要因の両方が想定されています。例えば一貫しない養育や劣悪な環境による心因説、発達障害スペクトラム説、気分障害スペクトラム説、ストレス外傷性障害スペクトラム説などが提唱されています。生物学的要因としては、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの代謝異常との関連もありとされていますが、具体的な原因はまだ分かっていません。
診断
対人関係の障害、自己同一性の障害、感情の不安定性、衝動性などが 成人期早期までに始まっており、以下の5つ以上を伴う場合に診断されます。
①現実または想像において 見捨てられる事を避けようとする努力(基準⑤を除く)
②理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動く不安定で激しい対人関係の様式
③同一性が混乱し不安定な自己像が持続
④浪費 性行為 物質乱用 無謀運転 過食などの自傷行為※基準⑤を除く
⑤自傷行為の繰り返し、または自殺行動の素振り、脅し
⑥気分反応性による不安 不快 イライラ ※2-3h程度の持続で2-3日≧の持続は少ない
⑦慢性的な空虚感
⑧不適切で激しい怒り 怒り制御困難
⑨一過性のストレス関連性の妄想性観念 Or 重篤な解離症状
ただし、これらは患者さん本人からの情報だけでなく、他者からの情報や心理検査の結果など客観的な情報も複合的に解釈し、熟練した精神科医がつけるべきであり、安易に初回の診察で確定されるものではありません。
治療
治療の中核は年余に及ぶ外来治療が主軸となります。入院治療は通常、診断目的あるいは自他の生命に対する危機管理目的で短期間に限定して行われることがあります。治療の内訳のうち、主なものは精神・心理療法であり、薬物療法はあくまで補助的に使用するよう推奨されます。ですので2022年現在、保険承認されている薬剤はありません。治療が長期にわたることになるため、治療のモチベーションを高く保つことが必要となります。まず、短期的な治療目標を設定し、それを患者との間で言語的に共有後、改善を実感しながらステップバイステップで治療を進めていきます。非現実的な期待を向けられないよう、治療目標や治療上の約束事は繰り返し言語化し、具体的で現実的な交流を心がけます。初回の目標は、退行した状態があればそれを回復させることが目標となります。同時に、併存する気分障害があれば薬物療法の対象とします。衝動行為のコントロールスキルを養う中で、患者側に内省の準備が整ったら、治療目標は更新され、対人関係上の問題を扱っていきます。具体的な心理療法の中で、有効性が確立されているものとしては、弁証法的行動療法があります。他にも、メンタライゼーション、スキーマ療法などが推奨されます。また、患者の家族には、関係する冊子を読んだり、家族会を紹介したりして、悩みを家族だけで抱えないよう支援します。また、患者の理不尽な要求や罵倒に一喜一憂せず、「今はそういう気持ちなんだろうが、まだ変わるだろう」と冷静に考え、一喜一憂しない態度をとるよう支援していきます。
一方、薬物療法に関しては、抑うつ症状や情動不安定、不眠や不安に対して対症療法的に抗精神病薬や抗うつ薬、気分安定薬などを使用する事があります。