運動障害(MD)とは
運動障害(MD)とは
1. 概要
2. 原因
発達性協調運動症においては、胎生期のアルコール暴露、早産児、低出生体重児が関連するとされています。常同運動症においては、覚醒異常や運動制御障害に関する仮説があるが、まだ明確ではない点も多いです。常同運動症をもつこどもの脳活動を計測した結果、自発的な運動では異なるメカニズムで生じていることが示唆されています。その一方で環境要因も影響すると考えられており、社会的に孤立して刺激が乏しい環境などで、自己刺激行動として生起する、または刺激か過剰な環境で常同運動に没頭することでノイズや不安を軽減する機能として生起するものであると考えられています。また、チック症では、遺伝要因、環境要因の関与が想定されています。病態生理学的には、皮質–線条体–視床-皮質回路の異常、ドパミン系の過活動を含めた神経伝達物質の異常も示唆されていますが、明確な原因は判明していません。
3. 診断
[発達性協調運動症]
・IQ70以下は除外した上で、DCDQやMOQ-T、M–ABC2などの神経心理検査で2SD以下、日常生活などに明らかな支障をきたしていること。
[常同運動]
・反復し、駆り立てられているように見え、かつ外見上無目的な運動行為があり、生活に支障をきたしていること。
・チックや強迫性障害などの他の精神疾患では説明できず、物質関連障害などで説明できない。チックと比べると全身に生じやすく、律動的で無目的であること。
[チック症]
・突発的、急速、反復性、非律動性の運動または発声が、1年以上持続している。18歳以前に発症する場合、持続時間が1年未満であれば、暫定的にチック症となる。持続期間が1年以上であれば、持続性運動または音声チック症となり、多彩な運動チックおよび1つ以上の音声チックを有すると、トゥレット症候群となる(ICD-11では、運動チックも音声チックも1つ以上でかまわないとされる)。
4. 治療
[発達性協調運動症]
非薬物療法として、身体機能指向型(筋トレ、感覚統合療法)、活動指向型・参加指向型アプローチ(NTT、CO-OP)があります。スマホやタブレットによる音声入力、デジカメやOCRソフトの使用、ICカードなどの代替手段の利用も合理的配慮として重要です。薬物療法としては、抗ADHD薬の有効性(メチルフェニデート、アトモキセチン)が示唆されております。メチルフェニデートの効果は比較的明確に協調運動を改善させる効果が示されています。
[常同運動症]
薬物療法や行動的介入が用いられていますが、確立された治療法はありません。環境調整を含めた心理社会的治療が介入の中心となっています。薬物療法では、メタアナリシスレベルで有効性が示された薬剤はありませんが、抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などが使われています。自閉症スペクトラム障害(ASD)合併例ではその有効性が個々の研究で示唆されています。一方行動的介入では、①環境中の刺激を撤去あるいは提示する、②常同運動に替わる望ましい行動を強化する、③常同運動に随伴して倫理的範囲内で負荷をかけることで直接常同運動を減らす、などの介入が推奨されています。
[チック症]
家族ガイダンスや心理教育、環境調整がメインとなり、軽症例や併存疾患がない例ではこれだけで改善が期待できます。より積極的に治療するなら認知行動療法(CBT)を行います。CBTはハビットリバーサルと呼ばれる手法が中心です。ハビットリバーサルは、本人が「やらずにはいられない」という前駆衝動に気づき、チックをしそうになったらチックと同時には行えずより目立たない行動(拮抗行動)を行ってチックをしないように練習するものです。また、チックを維持する方向に作用している要因を分析し、調整する機能分析や、不安を軽減させてチックが起こりにくくするリラクゼション法なども用いられます。
また、段階的に恐怖になれていく手法である暴露反応妨害法(エクスポージャー)もチックに対して行われています。重症例では薬物療法も行われますが、抗精神病薬を中心に、抗ADHD薬、降圧薬、漢方薬などが試される傾向にあります。家族ガイダンスでは、チック症と上手く付き合っていけるにはどうすればよいか検討し、チックも含めて本人であること、チックは親の育て方や本人の性格によって起こるものではないことを知ってもらう事が重要です。また、チックは本人、周囲ともに心配すると増悪する傾向にあるため、変化しやすいチックの症状にとらわれず、本人の特徴の一つとして受容するよう促します。