性別違和

性別違和とは

Summary

overview

性別違和は、生物学的性と性自認などの不一致により苦悩を生じる状態であり、特に成人期に明確化しやすい。周囲の理解不足や自己肯定感の低下により、生きづらさを抱えることが多く、適切な支援が求められます。

cause

性別の不一致は、DSM-5では性別違和、ICD-11では性的不合とされ、従来の「障害」という表現は改められました。国際的には、ジェンダーの不一致を疾患とは捉えない方向へと認識が変化しています。

diagnosis

児童思春期の性別違和は、体験する性と戸籍上の性との不一致が6か月以上続き、特定の行動や願望など8項目中6つ以上が当てはまる場合に診断されます。

treatment

性別違和の医療支援は精神療法・ホルモン療法・手術療法の三本柱からなり、精神科医が初期対応や意思決定支援、心理的安定の確保など重要な役割を果たします。治療は年齢や希望に応じて段階的に進められます。

概要

性を決定する要素は、生物学的な性(染色体、外性器など)のほか、社会的性(性役割、性別表現、性自認)など多要因にわたります。これら性を決定する要素の中で、著しい不一致で苦悩が著しい場合や、身体的治療を求めて医療機関を求める場合に示される概念が「性別違和」です。大概は、自身の反対性の一員に、一時的ないし永続的になろうとします。民間企業による6万人を対象とした調査では、LGBTに該当すると回答した人は8.9%おり、もはやどのコミュニティでも、トランスジェンダーの存在は無視できなくなっています。戸籍上指定された性とは異なる遊び、衣服をえらびたがる、遊び友達が異性ばかりである、などの事で周囲から認知され、その違和感を本人が適切に言語化する事は難しい事が多いです。しかし成人期になると比較的明確に自身の性自認や、好きになる性に対して違和感を自覚し、表現できるようになります。幼児期や学童期早期に診断基準を満たしても、その後症状の軽減が得られる症例が多く、また児童思春期は性自認が揺らぎやすいことが多いです。周囲から理解を得られず、生きづらさを抱えていたり、自己肯定感が低下しやすく、援助が必要になる場合があります。

原因

アメリカ精神医学会による診断基準(DSM–Ⅴ)では性別違和、また国際疾病分類(ICD-11)では性的不合と表現されており、従来のICD-10で規定された性同一性「障害」というネーミングが改められています。つまり、もはや国際社会において、ジェンダーの構成要素の不一致が、疾患という枠組み内で捉えるべきではないという認識に改められています。従って、原因はこの項では記載なしとします。

診断

性別違和の診断基準は、児童思春期と青年期以降で微細に異なります。これは、児童思春期は自身のジェンダーに関わる違和感を言語化しにくい点に拠ります。

ここでは、児童思春期の診断基準を記載します。

 

体験・表出するジェンダーと、戸籍で指定されたジェンダーとの間の著しい不一致が、少なくとも6ヶ月持続し、以下の8項目のうち6つ以上によって示される。ただし、少なくとも一つは(1)でなければならない。

 

(1)反対のジェンダーになりたいという強い欲求または自分は違うジェンダーであるという主張。
(2)指定されたジェンダーと反対のジェンダーの服を身につける、指定されたジェンダーに定型的な衣服を着ることへの強い抵抗を示す。
(3)ごっこ遊びや空想遊びにおいて、反対のジェンダーの役割を強く好む。
(4)反対のジェンダーに定型的な玩具や遊び、活動を強く好む。
(5)反対のジェンダーの遊び友達を強く好む。
(6)指定されたジェンダーに定型的な玩具や遊び、活動を強く拒む。
(7)自分の性器の構造を強く嫌悪する。
(8)自分の体験するジェンダーにあう第一次及び第二次性徴を強く望む。

 

※ただし、統合失調症など精神病圏の疾患による症状から性転換願望を訴えるわけではなく、文化的、社会的理由、職業的利得を得るための訴えではないこと

治療

性別違和に対する医療的支援は、精神療法・ホルモン療法・手術療法の三本柱から成り立っています。これらは段階的に進められることが多く、特に初期段階では精神科医が重要な役割を担います。精神療法の目的は、性自認に関する悩みや違和感に対して、本人が自身の気持ちや価値観を深く理解し、自分らしさを肯定できるよう支援することにあります。精神科医は、性別違和の背景にある心理的・社会的要因を丁寧にアセスメントしながら、治療的関係を築き、今後の生活スタイルの検討やホルモン治療、手術療法といった身体的介入についての意思決定を援助していきます。

また、本人が周囲にカミングアウトする際のタイミングや方法、そしてその後に予測される家族関係や社会的な反応への心理的備えについても、精神科医は重要な助言者となります。性別移行に伴う生活上の変化はしばしばストレスフルであり、併存する精神疾患や発達特性を抱えているケースも少なくないため、精神療法の中での心理的安定の確保とリスクマネジメントが求められます。

ホルモン療法は、身体的特徴を性自認に近づけるために、女性化を希望する場合はエストラジオール製剤、男性化を希望する場合はテストステロン製剤を用います。治療開始は原則として18歳以上とされ、未成年者については保護者の同意が必要です。さらに、身体的性の変更において最も不可逆的な介入となる性別適合手術については、原則20歳以上が対象とされており、術前には十分な精神的準備と長期的な理解が不可欠です。精神科医は手術適応の判断にあたって、本人の意思の成熟度や安定した心理状態を慎重に評価し、必要に応じて多職種と連携しながら、本人の意思決定を支え続けます。

このように精神科医は、性別違和を抱える人々にとって単なる医療者にとどまらず、その人の生き方や人生の選択に寄り添い、医療と社会との橋渡しを担う存在でもあります。