行為障害とは
行為障害とは
1. 概要
行為障害(素行症)は「他者の基本的人権、または年齢相応の社会的規範または規則を侵害することが反復する行動様式であり、かつ社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしているもの」と定義されています。簡単に言い換えるならば、規則違反などの反社会的行為により、本人並びに他者が持続的に不利益を被る状態のことを指します。
一般人口での年間有病率は年齢によりばらつきがあるものの、平均的には4%と推定されており、年齢別には10−13歳では男:女=16%:3.8%、14−16歳では男:女=15.8%:9.2%、17−21歳では男:女=9.5%:7.1%となっており、いずれも男性に多い病態です。18歳以前では、男児の6-16%、女児の2-9%に存在すると言われています。また、地方と都市で10倍以上の発症率の差があります。10歳までに発症する小児期発症型と、それ以降に発症する青年期発症型に分類されており、早期発症型は反社会性パーソナリティ障害、物質関連障害と関連があり、青年期発症型ではその後の社会適応が比較的良いとされます。早期発症、問題行動の量の多さと種類、状況の多さ、多動は予後不良因子となります。治療者の適切な対応と関連機関の連携が上手くいくか否かで、予後が異なります。他の精神医学的疾患との関連が深く、うつ病や双極性障害などの気分障害、不安障害、身体化障害、物質関連障害への移行が危険視されています。
2. 原因
心理学的背景、生物学的背景、社会経済学的背景など複数の病因が考えられています。心理学的背景としては、暴力が身近にある養育環境が、生物学的背景には大脳辺縁系と旧皮質系、前頭葉機能の問題が示唆されており、素行症では正常対照群と比較し、脳の局在的活動に差があったとする報告があります。社会経済学的背景としては、家族関係が不安定で、社会秩序が破壊されていて、乳児死亡率が高いような社会環境が原因になり得ます。
3. 診断
主に行動面の条件を満たしているかどうか、という観点から診断されます。「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範を侵害する事が反復し持続する行動様式」であり、下記のうち3つ以上が過去12ヶ月間に存在し、そのうち1つ以上が過去6ヶ月の間に存在しているか、主観的・客観的に確認します。また、下記の所見により、社会的、学業的、職業的に支障があるかも診断には重要です。また、18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の診断基準を満たさない、という事が診断の条件となります。
※人および動物に対する攻撃性
①他人へのいじめ、威嚇、脅迫をしたことがある
②しばしば取っ組み合いの喧嘩をする
③バット、ナイフ、銃などの重大な身体的危害を加える凶器を使用したことがある
④人に対して身体的に残酷だった
⑤動物に対して身体的に残酷だった
⑥被害者の面前での盗みの経歴
⑦性行為の強要歴
※所有物の破壊
①重大な損害を与えるための故意の放火歴
②他人の所有物を故意に破壊したことがある
※虚偽性や窃盗
①他人の住居、建造物、車への侵入歴
②物または好意を得たり、義務を逃れるために嘘をついたことがある
③被害者の面前ではないが、価値のある物品を盗んだことがある
※重大な規則違反
①親の禁止にも関わらず、13歳未満からしばしば夜間に外出していた
②親または親がわりの人の家に住んでいる間、一晩中家を空けた事が少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らない事が1回あった
③しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる
ADHDが背景に考えられる場合の診断は、「年齢相応の社会的基準を無視しているかどうか」慎重に判断し、衝動性や多動性のみでは説明ができず、その背景に社会的基準を無視している、という場合のみ、併存となることに注意が必要です。
4. 治療
素行障害全般に対する特効薬はありません。医療のみならず、司法、福祉、行政、教育、地域など、その患者さんの周囲を巻き込んだ連携・協力が必要です。攻撃性や爆発性に対して薬物療法を行って被刺激性の改善を試みたり、併存するADHDや気分障害に対する治療として薬物療法を行うことがあります。また、本人の周りの環境に焦点を当てた心理プログラムもあり、社会環境や、仲間・学校、家族への介入がありますが、素行障害の治療は必ずしも容易ではなく、治療が困難になることも多いです。いずれにしても、問題の背景にある事柄の理解を深め、対処することが解決の糸口となります。テレビや携帯電話などの画面を見ている時間をスクリーンタイムと言いますが、スクリーンタイムが1時間増加あたり行為障害の有病率が7%上昇したという報告があり、幼少期はスクリーンタイムを控えることも重要かもしれません。