自律神経失調症とは
自律神経失調症とは
1. 概要
ヒトは、循環、呼吸、消化、排せつ、体温調節など、基本的な生命活動(自律機能)を維持しており、その機能を担うのが自律神経系です。自律神経は、興奮・緊張状態にあるときに優位になる交感神経と、リラックス状態にあるときに優位になる副交感神経に分けられており、両者がバランスを保っています。これらのバランスが破綻した状態を「自律神経失調症」と呼びます。自律神経は瞳孔、涙腺、心臓や肺、胃、肝臓、腸、膀胱や生殖器に渡り広範に分布しているため、自律神経のバランスが破綻すると、瞳孔の異常、まぶたが下がったり立ちくらみ、めまい、動悸、不整脈、睡眠時呼吸障害、便秘・下痢、失禁、頻尿や性欲減退、発汗低下など温度調節の異常など広範な体調不良が起こり得ます。概ね、自力で動かせない臓器は自律神経が支配していると考えてもよいです。
2. 原因
他の疾患により、自律神経が障害される場合と、心理的・身体的ストレスにより自律神経のバランスが崩れる場合があります。前者の場合、多系統萎縮症(特にShy-Drager症候群)、Parkinson病などの神経変性疾患や、脊髄空洞症や多発性硬化症、ギラン・バレー症候群などの神経疾患、甲状腺機能異常症、糖尿病性神経障害などの内分泌・代謝疾患などが原因となり、自律神経が障害されます。後者の場合、心理的ストレスにより、ヒトは副腎皮質から副腎皮質ホルモンやアドレナリンを分泌しますが、これが交感神経の働きを優位にします。ストレスに長期に暴露されていると交感神経が緊張しっぱなしになり、交感神経と副交感神経とのバランスが破綻し、症状が出現するようです。また心理的ストレスの他、身体的ストレスとして不眠、加齢、飲酒、脱水などが原因となります。さらに、内服薬の影響で自律神経系が乱れ、結果として症状が出現する場合もあるため、通院中の方は主治医に確認してもらう事が大切です。
3. 診断
自律神経失調症は、確立した診断基準があるわけではないので、ごみ箱診断的な位置づけになっている例も散見されます。実際、数多くの精神疾患や脳疾患、更年期障害などの婦人科疾患、甲状腺機能異常症などの内分泌・代謝疾患でも自律神経のバランスは崩れるので、その意味では自律神経失調症を併発しているとも言えます。このように様々な自律神経症状が出現していれば自律神経失調症と診断する場合は「広義の自律神経失調症」と言えます。ただし、日本心身医学会は、「様々な自律神経症状が認められるが、検査で身体疾患が認められず、また精神疾患の診断基準も満たさない場合に自律神経失調症と定義する」としていますので、狭義には身体疾患も精神疾患も除外した上で自律神経症状だけ認める場合にこの病名があてがわれることになるのですが、その場合「狭議の自律神経失調症」と言えるでしょう。狭議の自律神経失調症ですと診断できる可能性がかなり下がるため、世間では広義の自律神経失調症として診断される例が多く見受けられます。
4. 治療
原疾患の影響で自律神経症状が出現している場合は、原疾患の治療を優先します。身体的・心理的ストレスの影響で自律神経症状が出現していると思われる場合は、規則正しい食事や睡眠をとったり、心理的ストレスを回避するための環境調整を行います。低血圧で立ちくらみやめまいが頻発したり、便秘や下痢になるなどした場合に血管作動薬や腸管の運動を制御する薬剤を使って症状を和らげたり、効果的とされている漢方薬を使用する事もあります。しかし慢性化した場合は、治療に年単位の期間を要する例も散見されます。