精神科医が解説するセルフネグレクト。原因と予防は?

はじめに

セルフネグレクト

皆さんお加減どうですか?

どうも。いつも診る院長の清水です。

近年、SNS上で「セルフネグレクト」という言葉がバズワードとして取り上げられ、多くの共感や議論を呼んでいますよね。

自分の身の回りを放置してしまうこの現象は、一見単なる怠惰に見えるかもしれませんが、

その背後には深刻な心理的、社会的問題が隠れています。

本記事では、セルフネグレクトの概要、心理的背景、そして具体的な対処法を精神科専門医の視点から解説します。

セルフネグレクトとは?

セルフネグレクトは、自分の健康や生活環境の維持に必要な行動を怠る状態を指します。

この状態では、個人衛生が著しく損なわれ、入浴や歯磨きを怠ったり、汚れた衣服を着続けることが特徴的です。

また、栄養管理が放棄され、不適切な食事や栄養摂取の欠如が見られるほか、必要な治療や薬物療法を受けない医療の回避も一般的です。

さらに、住環境の劣化が進み、ゴミや不要物が溜まった不衛生な環境に暮らすことも多くなります。

これらの状況は、精神的・身体的健康に深刻な影響を与えるだけでなく、社会的孤立や生活基盤の崩壊を招く可能性があります。

特に、高齢者では死亡率の上昇や虐待と誤解される事例も少なくありません(Dong, 2017)。

セルフネグレクトの原因と心理的背景

セルフネグレクトの根底には、精神疾患や複数の心理的要因が絡み合っています。以下に、その主な要因を詳しく解説します。

1. 抑うつと無気力感

抑うつ状態では、エネルギーの低下や興味の喪失が見られ、日常生活の維持が難しくなります。

このため、自分の健康や環境への関心が薄れ、セルフネグレクトに繋がります。

無気力感が慢性化すると、「どうせ何をやっても意味がない」という感覚が自己放棄を強化します。

抑うつ状態に至る精神疾患は、うつ病双極性障害統合失調症など多岐にわたります。

2. 自己評価の低下

自尊感情の低下により、自分を大切にする価値がないと感じるようになります。

この心理は、特に幼少期の虐待やトラウマ経験によって形成されることがあります。

「自分はどうせ誰からも愛されない」という思いが行動に影響します。

また、このような性格・人格特性によるもの以外でも、後天的な精神、身体疾患によって自責的になることもあります(うつ病双極性障害、甲状腺機能障害など)。

3. 認知機能の低下

認知症や軽度認知障害(MCI)は、セルフネグレクトを引き起こす主要なリスク要因です。

これにより、自分の行動や生活環境を管理する能力そのものが損なわれます。

また、判断能力の低下は、リスクの高い行動や無行動を助長します。

この場合、周囲に援助者がいない事が多く、状態が悪化しやすいと言えます。

4. 社会的孤立と孤独感

社会的なつながりが断たれると、セルフケアのモチベーションが低下します。

孤独感が深まることで、外部からの助けを求める意欲も減少し、状況が悪化します。

特に高齢者では、家族や友人との接触頻度が低い場合、セルフネグレクトのリスクが大幅に高まります(Gibbons et al., 2006)。

セルフネグレクトの悪影響

セルフネグレクトは、個人にとっても集団にとっても様々な不利益をもたらす可能性があります。
箇条書きにすると以下となります。

  • 身体的健康:感染症や栄養失調、慢性疾患の悪化。
  • 精神的健康:孤独感、自尊心の低下、精神疾患の進行。
  • 社会的影響:家族や介護者への負担増加、地域社会への負荷。

これらの影響は、負のスパイラルを生み、本人だけでなく周囲の人々にも悪影響を与える可能性があります。

セルフネグレクトの予防

セルフネグレクトの予防には、多面的なアプローチが必要です。早期発見の重要性は言うまでもなく、日常生活の中で兆候を見逃さないことが第一歩となります。

例えば、衣服や身体の衛生が著しく損なわれている場合や、冷蔵庫に腐った食材が多い、もしくは食事を取る頻度が減っている場合は注意が必要です。

また、家庭内が散らかり放題で片付けができていない場合や、医療や社会サービスを拒否している場合も警戒が必要です。

では、具体的な方法はどうしたら良いのでしょうか?

社会支援ネットワークの活用

地域社会は、セルフネグレクト予防の重要な役割を果たします。

デイサービスや訪問介護を活用することで、入浴補助などの介護を受けられるだけでなく、

孤立感を軽減し、本人が社会的つながりを感じる機会を生み出すことができます。

また、ゴミ屋敷になっていて自身で清掃ができない場合は清掃代行サービスが、家事が一人でできない場合は家事代行サービスが利用できます。

まずは、自治体の地域包括支援センターに受けられるサービスがないか相談してみましょう。

専門医療機関への受診

ネガティブな心理的背景が存在したり、認知機能の低下が疑われる場合、神経内科や精神科を受診して対処することも重要です。

抑うつや不安障害、認知症などの基礎疾患が確認された場合、薬物療法と心理療法を組み合わせた治療が推奨されます。

心理療法では、自己評価を改善し、健康的な行動を促進するために認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)を導入します。

また、感情を適切に表現するスキルを身につけることで、ストレスや孤立感を軽減することも重要です。

教育・啓発活動の利用

民間の会社、NPO法人が開いているセルフネグレクトに関する知識を普及させる教育プログラムは、予防において非常に重要です。

家族や介護者向けのセミナーやワークショップを通じて、適切な対応方法や支援の仕方を学ぶことができます。

さらに、栄養バランスの取れた食事、規則正しい睡眠の取り方、適度な運動方法などの生活習慣の改善方法を援助者が知っておくのも、セルフネグレクトの予防に大いに役立ちます。

法的措置

場合によっては、法的措置を講じることも検討されます。

特に、高齢者や認知症患者の場合、成年後見制度を活用して本人の権利と生活の質を保護することが重要です。

これにより、適切な支援が継続的に提供される環境を確保します。

さいごに

セルフネグレクトは、単なる怠惰や意志の弱さではなく、心理的・社会的要因が絡み合った複雑な問題です。

適切な支援と介入があれば、この状況から抜け出すことは可能です。

まずは専門家に相談し、一歩ずつ状況を改善していくことが大切です。

家族や地域社会も、セルフネグレクトの予防と改善において重要な役割を果たします。

共に支え合う環境を築き、誰もが健康で豊かな生活を送れる社会を目指しましょうね。

それでは皆さん、お大事に。

更新:2025.1.5

執筆者紹介

清水聖童
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医

 

【引用・参考文献】
・Dong, X. (2017). Elder Self-Neglect and Abuse in Aging Populations: A Global Issue. The Journals of Gerontology: Series A, 72(6), 877-884. https://doi.org/10.1093/gerona/glw208
・Gibbons, S. W., Lauder, W., & Ludwick, R. (2006). Self-Neglect: A Proposed New NANDA Diagnosis. International Journal of Nursing Terminologies and Classifications, 17(1), 10-18. https://doi.org/10.1111/j.1744-618X.2006.00024.x

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