
強迫性障害とは
Summary
overview
強迫性障害は強迫観念と強迫行為を特徴とし、慢性経過を辿るため早期介入が重要です。
cause
強迫性障害はセロトニンやドパミンなど神経伝達異常が関与し、遺伝的要因も強い疾患です。
diagnosis
強迫症の診断は、強迫観念や行為が持続し、時間浪費や生活障害を生じ、他疾患で説明できない場合に下されます。
treatment
強迫症の治療は環境調整と認知行動療法(CBT)が基本で、必要に応じSSRIを用い、難治例ではニューロモジュレーションも検討されます。
概要
原因
本人の人格や性格とは異なり、神経伝達物質に関連する脳機能の異常が原因とされます。病態生理学的にはセロトニン神経系の異常、特に前頭眼窩面におけるセロトニン受容体の機能変化が病態に関連していると推定されています。一方で難治例ではSSRIよりも抗精神病薬による強化療法が有効であることから、ドパミン神経系の関与があることが示唆されています。最近は、グルタミン酸の関与も示唆されており、その調節作用をもつ薬剤の臨床研究も盛んに行われています。PET、SPECT、fMRIなどの画像研究によると、前頭葉領域の活性化における線条体における視床の制御障害が生じ、前頭眼窩面と視床の間で相互活性が生じ異常に増幅された結果、眼窩前頭皮質、淡蒼球、視床、尾状核、前部帯状回などの脳部位のネットワーク障害で強迫症状が増幅されるとされていました(前頭葉ー皮質下回路に関する神経ネットワーク仮説)。しかしその後の検証により、前頭葉ー皮質下回路に前部帯状回、海馬、扁桃体を加えた情動ループ、前頭前野外側部、後頭葉、頭頂葉、小脳から尾状核、視床下核を経由して黒質、淡蒼球、視床に至る空間認知や注意に関する認知ループなど広範な脳部位の関与も考慮に入れる必要があると推定されています。神経症性疾患のなかでは最も遺伝率が高いとされており、近親者の3-5割程度に強迫性障害の素因があると言われています。
診断
以下の全てを満たす場合に診断となります。
①強迫観念や強迫行為の存在、もしくはその両方がある
②強迫観念や強迫行為による1日1時間以上の時間的浪費や苦痛ないし職業・社会的機能障害
③物質関連/身体疾患や他の精神疾患で説明できない
ただし、ここで言う「強迫観念」とは、本来考える必要のない、考えたくないと認識されている思考や衝動、イメージのことを指していて、それを何らかの手段を使って押さえ込もうとします。また、「強迫行為」とは、強迫観念に対応して駆り立てられるように繰り返される行動であり、不安などの苦痛を緩和する目的で行われますが、現実的な解決につながらない事が多いものです。鑑別疾患としては、精神疾患では統合失調症、発達障害、知的障害との鑑別が問題となり、身体疾患では、脳血管障害、脳炎、認知症、頭部外傷、舞踏病、パーキンソン病、側頭葉てんかん、レンサ球菌感染症関連自己免疫精神障害との鑑別を行うこととなります。自閉症スペクトラム障害に伴う強迫症状は、正確性、こだわりや溜め込みが特徴的です。
治療
ストレス因を除去するための環境調整や心理療法、薬物療法が中心になります。特に知的障害や発達障害が併存する患者には、社会資源の導入、日中の活動の場の提供や就労支援など環境調整を第一に行います。まず、心理療法の中でも良質なエビデンスが蓄積している認知行動療法(CBT)を検討します。認知行動療法は薬物療法と同様の効果があり、副作用が少なく、再発予防効果に優れています。まずCBT週1回、13–20回で反応を評価し、有効なら3から6ヶ月間定期的なブースターセッションを行います。恐怖刺激に段階的に触れていくことで慣れていく暴露法(エクスポージャー)と強迫行為をしたい衝動に耐える反応防止法などの、行動療法的アプローチが王道とされます。チック関連症では、ハビットリバーサル、モデリングやペーシング、プロンプティングなの心理療法を組み合わせて包括的に行うことが推奨されています。CBTで改善しない場合は薬物療法の出番です。主として、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という種類の抗うつ薬が用いられます。治療の反応率は40〜50%です。8〜12週SSRIを服薬し、有効であれば同薬を1から2年継続します。その後数ヶ月かけて漸減を考慮しますが、その際CBTもできるだけ併用して再発予防に取り組むのがベストです。SSRIでうまく行かない場合、抗精神病薬やミルタザピン(NaSSA)やベンラファキシン(SNRI)など他の抗うつ薬を試すこともあります。費用や要する時間の関係で、現実的にはお薬から治療を開始する場合も多いですが、お薬だけでは20から40〜50%は中等度の軽快にとどまり、20〜40%はそのまま持続するか増悪すること、薬物療法が奏功しても中断すれば再発する可能性が高いことから、可能な限り認知行動療法を併用することが大切です。また最近では、難治例に対して反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)や、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)、DBS(脳深部刺激療法)などのニューロモジュレーションが施行され、有効性が報告されつつあります。