
抜毛症とは
Summary
overview
抜毛症は体毛を繰り返し抜いてしまう病態で、女性に多く幼児期や思春期に発症し、不安障害や気分障害を伴うことがあります。
cause
抜毛症の原因はまだ明確には分かっていませんが、遺伝・神経学的要因・心理社会的要因が複雑に関わると考えられています。
diagnosis
抜毛症は衝動に抗えず抜毛を繰り返し脱毛し、緊張と開放感を伴い、他疾患で説明できない場合に診断されます。
treatment
抜毛症の治療は家族療法、遊戯療法、行動療法、薬物療法があり、習慣逆転法や薬剤が用いられます。
概要
抜毛症は、「やめようとしているにも関わらず、自分の体毛を繰り返し引き抜き、社会生活上明らかな障害が生じても、なお抜毛がやめられない」病態です。ペットや人形、絨毯やセーターも抜毛の対象になります。基本的には抜毛を周囲に隠しがちです。抜毛直前の緊張感や抜毛後の満足感、開放感を伴うことがありますが、必ずしも抜毛行為を意識していないこともあります。稀に抜いた毛を食べてしまい、胃毛石を生じることもあります。有病率は0.5–2%(生涯有病率は0.6%)であり、性差は1:4で女性に多い病態です。好発年齢は幼児期と思春期に多いのですが、基本的に早発例の方が予後が良く、思春期、青年期発症になると他の精神医学的疾患の併存も多く、難治になりがちです。精神疾患の合併は10代の患者の40%に認められ、不安障害、気分障害、ADHDが多いことがわかっています。
原因
現在原因は詳細不明ですが、遺伝、環境、心理が複雑に絡む疾患と考えられています。遺伝学的には、双子研究の結果から、遺伝寄与率は76.2%であることが分かっています。また、神経学的基盤としては強迫性障害に似た異常を想定する説が有力です。また、心理学的な要因としては白髪、枝毛などのイレギュラーな毛髪や、退屈、葛藤、寂しさ、攻撃性、不満などのネガティブな感情が抜毛の原因になることがあります。
診断
抜毛症は、下記の①から③の診断基準を満たし、他の身体的疾患ないし精神医学的疾患で説明できない時に診断されます。
①毛髪を抜きたいという衝動に抵抗する事に繰り返し失敗し、毛髪を著名に喪失している
②毛髪を抜きたい衝動に駆られ、その前に緊張とその後の開放感を生じる
③それ以前には皮膚の炎症が存在しない、またその行為は妄想や幻覚に対する反応ではない事。
抜毛症はあくまで症状レベルの診断名であり、背景にある精神病理、脳の機能異常がないか、見定める必要があります。
治療
抜毛症の治療としては、家族療法、遊戯療法、行動療法、薬物療法があります。家族療法とは、両親に支持的面接を行い、問題を同定し、家族関係修復を目指す治療です。また、遊戯療法は発達上の問題が抜毛に関連している時に特に行われ、大人との遊びを通して内的な葛藤を表現する力を育みます。行動療法としては、主として習慣逆転法(習慣を意識化し、抜毛の代わりの別の行動に置き換える方法)と呼ばれる技法を使用した治療が有効とされています。また、抜いた本数を数えるといったセルフモニタリングや、ミトンなどを着用させ抜毛を防ぐ反応妨害法も有効です。薬物療法としては、一部の抗うつ薬、抗精神病薬に、エビデンスレベルが低いながらも有効性が示唆されています。また、まだ研究報告は少ないですが、一部の抗認知症薬に効果が期待されていたり、アミノ酸であるN-アセチルシステインに有効性が示されています。抜毛症には臨床的な分類があり、それらによって推奨される治療の選択は異なります。