知的能力障害(精神発達遅滞)とは
知的能力障害(精神発達遅滞)とは
1. 概要
古くは精神薄弱、精神遅滞の名称で呼ばれていた、知的発達の遅れと適応機能の障害を主体とする状態です。多くは発達期から適応機能の障害が認められます。現在は知的能力障害(intellectual disabilities:ID)と名称変更されました。頻度は1〜2%とされており、女性よりも男性の方が30%ほど知的能力障害と診断される例が多いのですが、知的レベルが低くなるにつれて性差は減少します。軽度であれば、就学前では明らかな差は認められないことも多いです。だたし、成人になるにつれて対人相互反応の未熟さが目立つようになり、家事、子育て、社会的手続き、仕事などに困難さを呈するようになります。中等度から重度になると、学童期から明らかに制限があり、成人以降も食事から排泄、衛生の維持などの基本的な身辺管理にさえ支障をきたすため、仕事から私生活すべてに支援が必要となります。
2. 原因
従来は半数ほどしか原因が明らかになりませんでしたが、現代では70%程度が原因が判明しており、その内訳は代謝疾患などを含む遺伝子の異常が40〜50%、アルコールなど胎生環境への有害物質によるものが10%、脳の外傷、未熟児、低酸素など周産期の問題が10%、鉛中毒などの後天的な医学的問題が5%ほどとされています。重度になればなるほど、染色体異常や奇形症候群など医学的病気を合併する頻度が高まります。
3. 診断
診断は、家庭での身辺自立の程度、保育園や幼稚園、学校などの集団活動の情報が有用となります。発達の遅れと適応機能の障害が疑われれば、知能検査を実施して、IQ値が平均の2標準偏差(IQ70以下)にとどまっていることをもって診断されます。知的能力についてはWISC-ⅣやⅤ、田中ビネーV知能検査、新版K式発達検査などが、適応能力ではVineland−Ⅱ適応行動尺度の日本語版で評価される事が多いです。発達は個人差があり、環境的要因にも影響されるため、診断には慎重さが要されます。基礎障害の有無や併存障害の有無については、身体的な特異的徴候、認知・行動特性の評価、血液生化学検査、脳波検査、MRI、染色体検査などを複合的に行い、評価します。
4. 治療
知的能力障害そのものは疾病ではなく、治療対象にはなりませんが、併存するてんかんや身体疾患、自閉症スペクトラム障害(ASD)、多動性障害(ADHD)に対しては評価、治療を含めて医学的な介入の対象となります。また、教育や障がい者福祉制度利用のための診断書や意見書の作成のために医療機関が利用できます。また医療機関では、知的障害そのものではなく、併存する精神症状を取り除くための環境調整、薬物療法に加え、不適切な行動を分析し、望ましい行動に変えていくサイコセラピー(行動療法)が行われることもあります。知的能力障害者の健全発達と自立を促すにあたっては、早期療育や特別支援教育で適切な課題設定を行い、良好な対人関係を積み重ねる事が望ましく、その達成のために精神科医だけでなく、教育、福祉との連携が重要となります。