広場恐怖症とは
広場恐怖症とは
1. 概要
強い不安が生じた場合に容易に逃げる方法がなく、助けが得られない可能性がある状況や場所に対して恐怖や不安を抱く状態であり、不安障害の1つです。人混み、映画館や教室などの閉所、駐車場や橋などの広い場所、電車やバス、飛行機などの公共交通機関、1人で外出するなどの複数の状況で不安が高まる、不安障害の1つです。典型的には不安が高まる状況でパニック発作が生じますが、不安状況から離れた後で発作が起こる方もいます。かつては「広場恐怖を伴うパニック症」などのように、パニック障害の予後不良因子の一つという概念でしたが、2013年以降独立した概念となりました。パニック障害との関連性は密であり、実際広場恐怖症患者の30〜50%はパニック障害を併発しているとされています。米国ではパニック発作のために広場恐怖が起こる(発作が起こる事を予期し、すぐ助けを求められない状況を避けようとする)とされており、英国ではパニック症の背景に広場恐怖が根底にあり、結果的にパニック発作が生じるとされています。発症平均年齢は17歳で、患者さんの3分の2は初発が35歳前とされます。青年期後期と成人期早期に発症の危険があり、40歳以降に第二の発症の危険期があることが示唆されています。小児期の初発はまれであり、65歳以上の高齢者の12ヵ月有病率は0.4%です。典型的に持続的で慢性的な経過をたどり、治療しない限り、完全な寛解は10%程度にとどまるとされています。状況を避けながら社会生活に適応している方もいますが、重症例では自宅からでられなくなる例もあります。
2. 原因
3. 診断
広場恐怖症は下記の5つの場面のうち、二つ以上の状況で強い恐怖を感じており、日中の活動に支障をきたす場合に診断されます。他の医学的疾患や、統合失調症などの精神病圏、うつ病などの気分障害圏、強迫性障害など他の精神疾患で説明される場合は診断できません。典型的には、症状は6ヶ月以上続くとされます。
①公共交通機関の利用
②広い場所にいること
③囲まれた場所にいること
④行列や群衆の中にいること
⑤家の外に1人でいること
症状の背景に命が脅威に晒されかねない事過剰な恐れがあるとされており、大概、すぐに助けを求められない場面で不安が高まると言われています。それゆえ、同伴者がいると症状が緩和される事が多いです。不安は、状況や場面の回避や、自律神経性の刺激による症状(動悸、発汗、震え、口の乾き、呼吸困難や胸腹部の違和感)や精神状態の変化(死ぬのではないかという恐怖、セルフコントロール喪失、気の遠くなる感じ)、全身症状(寒気や紅潮、しびれや痛み)などで症状が現れることがあります。
4. 治療
主にお薬とカウンセリングが推奨されていますが、両者の効果は同等程度であると報告されています。カウンセリングで主となる認知行動療法(CBT)では暴露療法(エクスポージャー)、安全確保行動をやめさせるための行動実験、リラクゼーション法、認知的介入などがなされますが、メタ解析では特にエクスポージャーとリラクゼーション法の効果が高いとされています。コスト削減のために開発されたインターネット配信CBTでは、対面型CBTと同等の効果が証明されています。VRを利用した暴露療法は、広場恐怖症やパニック障害、社交不安障害、限局性恐怖症やPTSDにも試みられており、暴露療法と同等に有効であるとするメタ解析もあり、その効果は非常に大きいと報告されています。CBTが無効、あるいは実施できない広場恐怖症患者に対しては力動的精神療法や運動療法(週3回、5km程度のジョギング)が有効とされています。認知行動療法(CBT)は再発と慢性化の多い広場恐怖症において重要であり、パニック障害を合併した広場恐怖症の患者に9ヶ月の維持CBTを行なったところ、再発率や仕事および社会機能の障害を有意に減らしたとする報告があります。
一方、お薬の方ではパニック障害と同様、抗うつ薬が強く推奨されています。パキシル、セルトラリン、フルボキサミン、エスシタロプラム、ベンラファキシンが推奨されていますが、効果不十分なら、イミプラミン、クロミプラミン、ミルタザピンなど第二選択薬も用いられます。維持期間に関しては最低半年から2年程度と複数のガイドラインで示されており、それに準ずるのが一般的です。広場恐怖は他の医学的疾患や精神疾患でも出現する場合があり、薬剤が無効である時は常に診断の見直しが必要です。