認知行動療法ーイメージ技法ーとは?
はいはい、お加減はいいんでしょ?
ねえ?どうせ。
大体はお加減はいいですもんねえ?
どうせいつも診る院長ですよ。
もう私のCBT談義にも飽き飽きしてきた頃でしょう。
今回は、そんな飽き性の皆様に、
ちょっとスピリチュアルな方法をご紹介しますよ。
イメージ技法は、脳裏に浮かぶ映像によって再体験させる方法
患者さんの多くは、自動思考を言葉だけでなく、
脳裏に浮かぶ映像として体験していることがあります。
今回も説明を分かりやすくするため、
当院に通院していたGさんに登場していただきましょう。
Gさん(じーさん)、という音感にはそぐわない、
スタイルのよい美人さんですが、
実は家庭環境に問題があり、虐待、いじめのサバイバーです。
なるほど・・・つまりGさんは、「私は人から好かれない」と考えて、悲しくなったわけですね?
そのとき、頭の中になにかイメージが浮かびましたか?
「私は人から好かれない」て考えているとき、具体的にどのような情景が頭に浮かんでくるんでしょう?
あなたには、何が見えますか?
なるほど。そのように脳裏に浮かんでくる映像とか画像、想像や記憶のことを、「イメージ」って言うんですよ。
イメージについての心理教育を行い、必要に応じイメージを膨らませる
イメージが出来るだけ具体的であればあるほど、
介入が容易になりますので、
治療者はイメージを呼び起こすような
質問を投げかけます。
なお、その際には不快なイメージによって
不快な感情を惹起し、
本人を苦しませる事になる可能性があることを
十分に共有し、患者さんの不安を和らげます。
Gさん、人が浮かべるイメージは千差万別です。突拍子もない変わったものもあれば、不快な、悲しい、暴力的な感情を伴うものもあります。しかし、それが普通なのですよ。最近、思い浮かんできたイメージはありますか?
あなたは、先ほどクラスメイトにいじめられていた話をしてくれましたね。その時、私の頭には、クラスの中で孤独なあなたと、それを囲む男子児童の映像が浮かんだのですよ。でも、私があなたのクラスメイトのことを知るわけないですよね?
こういう自分勝手なものでいいから、思い出したイメージがありますか?
何が見えましたか?
お母さんは目の届くところにいますか?
お母さんが、何をしているか想像できますか?
お母さんに話しかけている自分を想像してくださいね。
お母さんは、どんな様子ですか?
・・・・「うるさいわね!お母さんは忙しいの!折り紙なんか、何で一人でできないの!!」って・・・・(声が震える)
認知行動療法ーイメージ技法ーの実践
イメージを追う
イメージがある程度定まってきたら、
次はそのイメージを処理していきます。
まずは、簡単かつ最も強力なスキル「イメージを最後まで追う」にトライしてみましょう。
他に何かありますか?
さて、他には?
わかりました。実はこうしたことはよくあるのですが、あなたは、
最悪の時点でイメージをやめてしまっていましたね。
母から必要とされず、絶望感で泣いている。
今から、その後どうなるかを想像してください。
あなたはその後、一日中泣きっぱなしなのですか?
その後どのようになるか、想像できますか?
それから?
飲み干している自分の姿を想像して下さいね。さて、その後は?
いいですね、それで?
その後は?
さあ、どうでしょう。お母さんから拒否された時の気分と、今の気分では違いがありますか?
いかがでしょうか。
この技法は、最悪のところで止まってしまったイメージを、
次々と追っていき、少しラクになるところまで追いかける、
という技法です。この方法を練習すると、
不快なイメージから少し楽なイメージになり、
感情的にも改善が期待できそうだと思いませんか?
しかしこの技法にも、うまくいかない時があります。
それは、さらに破局的な場面をイメージし、
感情がさらに悪化してしまった場合です。
破局的終末の意味を概念化する
さて、Gさん。あなたはお母さんに拒絶されてしまって、泣いているのですね。
その光景を詳しく頭の中に思い浮かべてください。その後、どうなりますか?
その後は?
その後あなたはどうなりますか?
うーむ、それからお母さんは?
「うるさいのよ!あなたなんて、生まれてこなければよかったのに!」
と叫びながら、私を殴り続けます・・・・(涙ぐむ)
それでどうなるのですか?
Gさん。もう少し先まで、考えてみませんか。あなたが殴り続けられることで、
一番つらいのはどのようなことですか。
前回と異なり、イメージが破局的な結末で終わってしまっている場合でも、
「それがどのような事を意味しているか」
「自分にとって、そのイメージの何がつらいのか」
が、対話によって明らかになる事があります。
このケースでは、お母さんに拒絶されたことで、
私は必要とされていない存在だと考えることがつらかった、
と苦痛の意味を概念化できています。
それが出来ると、さらなるイメージ技法を試すチャンスが広がります。
時間を先取りする、概念化した意味をポジティブに解釈する
なるほどね・・・・・。
お母さんから必要とされていない、という考えが辛いんですね。
そして、その考えは、現在までも続いている。違いますか?
今後もその考えは、変わらないのでしょうか?
さて、それでは、あなたの10年先を想像してください。あなたはどうなっていますか?
子どもが出来ていたり?
では、あなたに娘が出来たとして、
娘から「折り紙の折り方」を教えるように言われることを想像できますか?
さて、娘はなんと言ってくるでしょう?
でもそれを察した私が近づくと、嬉しそうな顔で折り紙の本を開きます・・・
いいですね!それで、あなたはどんな気持ちですか?
ところで、あなたがされてきたのと同じように、怒りのままに娘を殴ってしまう、というイメージはできますか?
それは、「ひどい目にあってきたからこそ、自分の娘には同じ目にあわせたくない」
ということでしょうか。
もしかすると、ご自身が虐待されてきたのには、
たった一つ、ポジティブな意味がありそうなんですよ。
その点に気付くことができますか?
母を反面教師にして子育てをしよう、と思えることです。
素晴らしい。さあ、今の気分は最初と比べてどうですか?
いかがでしたでしょうか。イメージを捉え、状況が楽になるイメージになるまで時間を追い、
破局的な結末になったらそこから苦しい理由を明らかにする一連のやり取りが
ご理解いただけると幸いです。
破局的な結末になった以後も、時間を先取りしてイメージの中で脅威を減らしたり、
破局的な概念をポジティブに解釈しなおすことで、
不快感を減らせることもあります。
次回は、他のイメージ技法についても触れる予定です。
この方法がよかった方は、楽しみにして下さいね。
それでは次回のスキルまで、お大事に。
【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社
・福井至 図解やさしくわかる認知行動療法 ナツメ社
更新:2024.1.25
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医