メンタルヘルスを悪化させる生活習慣
皆さん。
メンタルヘルスを維持するためには、
「これをやっとけばいい」
だけではないのですよ。
「これをやってはダメ」
っという落とし穴も、あるのです。
臨床ではあまり患者さんから聞かれることはありませんが、
無意識にやっている習慣もあるかもしれません。
なかなか難しいかもしれませんが、
病気になる前に、避けるべき行動習慣を知っておき、行動することが、
脳の機能を維持する上でも大切です。
身体活動
姿勢が悪い
皆さんは、「パワーポーズ」をご存知でしょうか。
その昔、自信にみなぎった、力強いヒーローのようなポーズを取ると、
心理的にも、ホルモン的にも高めてくれるーそう言った研究者がいました。
後の研究者の指摘で、再現性がないと否定的な指摘も相次ぎましたが・・・
しかし。
それ以前に、姿勢はメンタルに、メンタルは姿勢に影響を与えることが分かっていました。
メンタルと姿勢の関連について触れた論文は多々ありますが、
例えば、74人を対象としたランダム化試験によると、ストレス下で直立姿勢を維持させた群と
前屈み姿勢(猫背)の群を比較したところ、直立姿勢の群の方が否定的な言葉が少なく、
自尊心を維持しており、発話測度も早かったそうです。
パワーポーズのように、良い姿勢は一瞬で劇的な効果をもたらすわけではないかもしれませんが、
習慣となれば、メンタルヘルスに良い効果をもたらしそうですね。
経験的にも、自己肯定感が高い人は姿勢も綺麗だし、他者からそのように期待されることによって、
認知的にも変化をもたらしそうです。
着座時間が長い
成人から高齢者を対象としたシステマティックレビューによれば、
着座時間の長さはうつ病のリスク因子となり得る可能性があるとされています。
それだけでなく、糖尿病や認知症との関連も指摘されています。
若年女性を対象にした研究でも、1日4時間以上座りっぱなしでいるとうつ病をはじめとした
慢性疾患のリスクが上がってしまうという報告されています。
身体活動はそのリスクを下げてくれるそうですが、10時間以上座りっぱなしでいると、
その効果も乏しかったとのことです。
どうやら、座りっぱなしを避けて、適度に体を動かすことが大事なんですね。
ただし、同じ着座時間が長くても、テレビやスマホをいじる時間なのか、
読書や自己研鑽のための勉強などをする時間なのか、
その内容によってリスクはある程度変化するそうです。
不適切な運動
どうやら、運動はすればするほどメンタルにとって良いわけではなく、
やりすぎもよくないようです。
だいたい、週に21〜31時間程度の運動量が、
うつや不安のレベルを最小にすることがわかっています。
つまりに、毎日3〜4.5時間程度の身体活動が望ましいとされています。
それ以上でも以下でも、メンタルヘルスにとっては悪影響とのことですので、
デスクワークの方は休日に運動を、普段から仕事で動き回っている人は
休日はゆっくりするのが良いのでしょう。
睡眠
寝る前にスマホをみる
スマホやテレビなどを視るスクリーンタイムの長さが、
うつ病やその他精神疾患と関連するとの指摘は、
これまでの研究でも指摘されてきました。
特に女性や児童の場合は注意した方がよいそうで、肥満と関連しているとする指摘や、
うつ病と関連が指摘されています。
不規則な睡眠
睡眠の異常は、メンタルヘルスと強い関連性があります。
睡眠中は、脳を修復する機構が備わっているため、睡眠が満足に取れないと
脳の機能障害につながるためと考えられています。
実際、睡眠時間がばらついていると、双極性障害の再発リスクが高まるという報告や、
睡眠時間が7時間より長くても短くても、
うつ病の罹患リスクと再発リスクが増大するという報告があります。
昼寝
昼寝とうつ病リスクに関する9件の研究、
64万9,111人をメタ解析した報告によると、
昼寝をしていると、うつ病のリスクが上がってしまうそうです。
ADHDの方やナルコレプシーの方など、
昼寝が有益に働く方もいるので、一概には言えませんが。
昼寝を習慣にしていると、夜間の良眠に影響があるので、
精神疾患の増悪リスクが高まるのだと思われます。
明るい場所で寝る
寝る環境もまた、良眠には重要になります。
奈良県民3000人以上を対象とした日本の研究によれば、
寝室の睡眠照度が明るければ明るいほど、
肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害のリスクが高いことが
明らかにされたとのことです。
他の要因(交絡因子)を除外しても寝室の照度が関係していることがわかっています。
寝る時は、暗いところで、
かつ、静かで、ちょうど良い硬さのベッドで寝ることが推奨されます。
食事
孤独
日本は依然として世界から見ると自殺率が高く、
特に社会的なつながりの薄さが自殺と関連しているという研究がこれまで
なされていましたが、65歳以上の年齢を対象とした研究では、
「友人との交流」や「社会的活動への不参加」などを抑えて
「孤食」が自殺と強く関連しており、2.8倍のリスクだったといいます。
研究著者らは、自殺予防の第一歩として、食事を誰かと共にするようにアプローチすることも
介入のポイントになるのではないか、と述べています。
また、「一人暮らし」とうつ病との関連性の研究によれば、
一人暮らしの人はそうでない人よりも、うつ病のリスクが1.4倍高いとのことでした。
加糖・人工甘味料飲料
中国のChen氏らによる、人工甘味飲料、加糖飲料、天然ジュースと
うつ病のリスクを検討した研究によると、
加糖飲料や人工甘味飲料を多く飲む習慣がある人は、
うつ病のリスクが上昇することがわかり、
かつ天然ジュースを適量のむ習慣がある人は、
うつ病リスクが低下することがわかったそうです。
どうせ甘い飲料を飲むなら、100%果汁のポンジュース飲んどけってことですね。
超加工食品
みなさん、「超加工食品」って聞いたことありますか?
素材の加工度が高い食品のことで、素材の原型をとどめておらず、
食品内容表示がかなりびっしりと濃厚に記載があることが多いのが特徴の食品です。
例えば、インスタントラーメン、シリアル、菓子パン、ハンバーガー、ピザ、
サラミ、ハム、ソーセージ、ナゲット、清涼飲料水、シェイク、
ポテチ、ドーナツ、キャンディ、マーガリン・・・
など我々の身近にあるものばかりです。
結論を言うと・・・
それらを摂ればとるほど、精神疾患だけでなく、
肺疾患、心臓疾患、糖尿病のリスクが増え、
結果的に短命に繋がります。
アンブレラレビューという、かなりエビデンスが集積された情報であり、
もう、事実として捉えると良いと思います。
でも、ジャンキーな身体によくないものって、何でこんなに癖になるんでしょうか・・・。
不規則な食事リズム
CAやパイロットなど、交代勤務者を対象とした研究によると、
特に夕食が20時以降になると、うつや不安のリスクが上がるそうです。
面白いことに、食事のタイミングを前倒し、つまり早めに食事を取ることは、
不安を低下させたようです。
研究グループは、不規則な食事が睡眠・覚醒リズムに影響を与え、
最終的に気分に影響を与える代謝シフトを引き起こすのではないか、と推測しています。
確かに臨床経験の中でも、交代勤務で生活が不規則な方に、
自律神経の調節障害や気分障害の方が目立つ印象があります。
不健康な食事行動の数
「朝食抜き」
「夕食後の間食」
「就寝前の夕食」
という、不健康っぽい食習慣が2つ以上あると、
1つ以下の人に比べて抑うつ症状を呈しやすいようです。
もちろん必要な栄養素が不足することに関連もあるのでしょうが、
その不健康な行動を減らすことが抑うつ症状の発症を予防することに繋がるかもしれません。
社会活動
長時間労働
どうも社畜の皆さん。
長時間労働、頑張ってますか?
これは案の定、といった話ですが、
ある研究によれば、
1週間に40時間以上の勤務を長時間労働と定義したところ、
長時間労働とうつ病の関連性が認められたとのことです。
適度に休憩しましょうね、社畜の皆さん。
劣悪な業務環境
仕事からメンタル不調に至る可能性がある、
ということは、一般的にも知られているとは思うのですが、
具体的に仕事のどういったストレスがメンタル不調と関係するのか、
気になりませんか?
日本人労働者を対象とした研究では、
仕事の要求度、仕事の裁量権がないこと、
職場でのハラスメント、心理的安全性の欠如が、
うつ病との関連性があったとのことです。
夜勤・交代勤務
夜勤や交代勤務者は、
睡眠のリズムが崩れやすい環境にあるため、
夜更かしと朝の寝坊や日中の集中力低下を繰り返すようになりがちです。
この状態を、「概日リズム障害」と言います。
そして、概日リズム障害が慢性化、深刻化すると、
気分に影響のある代謝シフトを引き起こし、うつ病などの
気分障害も併発しやすくなることが知られています。
すでに医療関係者や航空関係者など、交代勤務をしている人で
気分が参っている人は、少し仕事から離れてみるのも良いかもしれませんね。
お金がない
お金の余裕は心の余裕、とはよく言ったものですが、
統計的にはどうなのでしょうか。
結論。
貧乏だと、うつ病のリスクは高いそうです。
また、経済的な余裕、あるいは
自分は経済的に余裕がある、と認識している場合は、
うつ病に対して保護的に働く可能性が示唆されているとのことです。
・・・昔の人たちは、的確な指摘をするものなのですね・・・・。
余暇活動
長時間のSNS
最近若者の間で拡散しつつある、TIKTOK、InstagramなどをはじめとしたSNS。
もちろん楽しかったり、癒されるコンテンツも多いのですが、
その反面、傷ついている人も多いはずです。
発信者が悪意がなくとも、その受け取り手が勝手に傷つくこともあるかもしれません。
メンタルヘルスの研究者たちは、どのように考えているのでしょうか。
答えは、「やりすぎはよくない」です。
1日に35分以上のSNS利用者が、
その利用時間を20〜30分以内のSNS利用に制限すると、
やるべき仕事の集中力が増し、仕事への満足度や抑うつに対する効果が
認められているとのことです。この結果は、いくつかの先行研究によっても支持されており、
エビデンスの蓄積が待たれます。
退屈している
趣味を持つことが認知症をはじめうつ病にも効果的と言われていますが、
退屈をすることがうつ病リスクを悪化させることもまた、知られています。
当然ですね。
長時間のTV鑑賞
中国の、1万3千人を対象とした研究によると、
長時間TV鑑賞をしている群は、短時間のTV鑑賞をする群と比較して、
48%も夜に2回以上トイレで起きるリスクが高まるようです。
そもそも夜にトイレで起きるのは、膀胱などの泌尿器の異常が原因だけではなく、
メンタル要因が絡むことも多いため、長期間のTV鑑賞は
メンタルにとっても良くないと言えそうです。
猫を飼う
可愛くて、人間を癒してくれるペット。
そのペットが、実は我々の精神疾患のリスクとなっている可能性があるなんて、
びっくりですよね。
これまでの先行研究をメタ解析した文献によると、
猫を飼育している人は、そうでない人と比べて幻覚や妄想など、
思考に異常をきたす「統合失調症関連疾患」になるリスクが2.24倍高いそうです。
理由はまだ不明確ですが、猫から人に感染するトキソプラズマの寄生が影響することを
指摘する研究者もいます。
でも、そんなリスクがあったとしても、モフモフしたい方は、
もう勝手にしたらいいにゃん。
ネガティブな内容の情報に触れる
自殺関連の報道を見たのち、自殺行動をとる一群がいることは、
有名な話です。なので、そのような情報はテレビなどでは統制されているのですね。
しかし、SNSなどでは依然そのようなネガティブな情報にアクセスできるようになっており、
自殺リスクが高い方が行動化する可能性を高めているようです。
希死念慮が高い人が、ネガティブな情報を検索しようとすることもわかっています。
旅行を避ける
旅行は、もう国民的な趣味と言っていいですよね。
もはや本能的に楽しめるようになっているのか、
ほとんどの人が旅行することを嫌がらないと思います。
しかし、そんな代表的な好楽である旅行をしない人は、
1年に一度以上旅行に行く人と比較して、2倍以上、
うつ病のリスクが高い、と言った報告があります。
一年に一度は、できたら旅に出たいものですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
こうしてみると、多岐にわたって避けた方が良い行動習慣があることがわかります。
精神疾患は重篤になると、後遺症が残りやすくなったり、
年単位でリカバリーに時間がかかるようになるものも多く、
予防できるに越したことはありません。
この記事はどんどん新しくしていくつもりですので、
記事【メンタルヘルスに良い行動習慣】と合わせてご確認いただければ嬉しいです。
それでは皆さん、お大事に。
更新:2024.10.20
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医
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