「その音が耐えられない」──それって“ミソフォニア”かも
皆さんお加減どうですか?
どうも、いつも診る院長の清水です。
咀嚼音や鼻をすする音、タイピング音など、他の人には気にならないような音に激しい嫌悪感や怒りを覚える──このような経験をしたことはありませんか?
それは「ミソフォニア(音嫌悪症)」といわれる状態かもしれません。
ミソフォニアは近年、精神医学・神経科学の分野で注目を集めている感覚過敏の一形態です。
本記事では、ミソフォニアの症状、原因、診断、他精神疾患との関連性、そして有効な治療法などについて、
最新の科学的知見をもとにわかりやすく解説します。
ミソフォニアとは?
ミソフォニア(Misophonia)は、特定の音に対して強い不快感、怒り、嫌悪、または衝動的反応を引き起こす感覚過敏の一種です。
トリガーとなる主な音の例
食事中の咀嚼音
鼻をすする音
呼吸音
キーボードやペンのクリック音
時計の秒針音
- チョークが鳴る音
このような音に反応して、
イライラ、怒り、不安、パニック、逃避行動などが現れることがあります。
誰でもある程度は不快な音はあるのですが、
状態が著しいと、対人関係や職場・学校生活にも深刻な支障をきたします。
ミソフォニアの診断方法と日本語版スケールの存在
診断基準はICD-10やDSM-5などの現行の精神疾患分類にはまだ含まれていません。
最新のICD-11でようやく精神医学的疾患に分類されたばかりの概念ですが、
世界ではいくつかの評価スケールが使用されています。
● アムステルダム・ミソフォニア・スケール(A-MISO-S)
世界的に広く使われている評価尺度
日本語訳版もすでに存在しており、ミソフォニアサポートサイトにて公開されています
● ミソフォニア・インタビュー・スケール(MIS)
トリガー音への反応や生活への影響を詳細に評価する面接型スケール
日本の医療現場ではまだこれらのスケールが一般的に使用されているとは言い難く、臨床での浸透は限定的です。今後の普及と研究の進展が期待されます。
他精神疾患との関係:発達障害との関連も
ミソフォニアは、単独の感覚障害として存在するだけでなく、
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)と併存することも多く報告されています。
発達障害のある人は感覚過敏を持つことが多く、ミソフォニアのリスクが高いとされています(Schwemmle & Arens, 2021)。
強迫性障害(OCD)や不安障害、PTSDとの関連性も指摘されており、神経発達症との重なりが重要な視点です(Erfanian et al., 2019)。
児童期や思春期に発症するケースが多く、早期発見と発達障害との包括的支援が鍵になります(Woolley et al., 2024)。
脳科学的なメカニズム
fMRI(機能的MRI)による研究で、ミソフォニア患者は前部島皮質(AIC)という脳部位が過敏に反応することが確認されています。これは情動処理に関与する領域で、怒りや嫌悪などの感情を増幅している可能性があります(Schröder, 2018)。
ミソフォニアの治療法
1. 認知行動療法(CBT)
現在最も効果が実証されている治療法です。
トリガー音に対する認知や行動のパターンを見直すことで反応を軽減します。
半数近くの患者に有効性が認められた研究も存在します(Schröder et al., 2017)。
2. 曝露療法(エクスポージャー)
段階的にトリガー音に触れ、感情的反応の閾値を下げていく方法。
不快感が軽減されるまで続けるのがコツです。
CBTと組み合わせることで効果的とされます(Avanoğlu & Kılıç, 2024)。
3. 薬物療法
抗うつ薬や抗不安薬の使用が検討されていますが、
科学的エビデンスはまだ限定的で、補助的な位置づけとなります(Köroğlu & Durat, 2024)。
ミソフォニアへの対処法:自分を守るためにできること
不快な音で生活に支障がある状態にならないように、
セルフディフェンスの方法を知って置くことは重要です。
以下に、代表的な方法を列記しておきますね。
ノイズキャンセリングヘッドホンや耳栓を活用
事前にトリガー音を避けられる環境を整備
家族や職場・学校に理解を求める
カウンセリングや医療機関への相談も視野に
まとめ:ミソフォニアは「甘え」ではなく、支援が必要な状態です
ミソフォニアは決して珍しいものではなく、精神的・神経的な基盤を持つれっきとした障害です。
特に、発達障害や不安障害など他の疾患との関連が深く、適切な評価と対応が重要です。
必要であれば、医療機関やカウンセリングルームに相談してみてくださいね。
それでは皆さん、お大事に。
更新:2025.5.27
更新:2025年5月9日

ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医
【引用・参考文献】
・Avanoğlu, K., & Kılıç, C. (2024). Treatment of Misophonia with Cognitive Behaviour Therapy: A Case Report. European Psychiatry.
・Erfanian, M., Kartsonaki, C., & Keshavarz, A. (2019). Misophonia and comorbid psychiatric symptoms: A preliminary study of clinical findings. Nordic Journal of Psychiatry, 73(3), 219–228.
・Köroğlu, S., & Durat, G. (2024). Current Trends in the Treatment of Misophonia. Psikiyatride Guncel Yaklasimlar – Current Approaches in Psychiatry.
・Schröder, A. (2018). Soundbites: Diagnosis, neural mechanisms and treatment of misophonia [Doctoral dissertation].
・Schröder, A., Vulink, N., van Loon, A. J., & Denys, D. (2017). Cognitive behavioral therapy is effective in misophonia: An open trial. Journal of Affective Disorders, 217, 289–294.
・Schwemmle, C., & Arens, C. (2021). „Wut im Ohr“: Misophonie. HNO, 70, 3–13.
・Woolley, M. G., Capel, L., Bowers, E. M., Petersen, J. M., Muñoz, K., & Twohig, M. (2024). Clinical characteristics of a treatment seeking sample of adults with misophonia: Onset, course, triggers, context, and comorbidity. Journal of Obsessive-Compulsive and Related Disorders.