精神科の診断は、アテにならない?
@dr_shimizu #精神科 #精神科医 #メンタルコーチ #お悩み相談 #おすすめ ♬ オリジナル楽曲 – 精神科医清水@ずっと診る院長
みなさんお加減どうですか?
夜の院長から、いつも診る院長への変貌をとげつつある、院長の清水です。
今日は、皆さんにとってのブラックボックス、
精神科診断について、暴露していこうかなと思います!!!
結論からいきます。
【悲報】アテになりません。
はい!嫌われましたかね!
めちゃめちゃ渋い顔しながら、
「あなた・・・ここまでよく頑張りましたね・・・うつ病です・・・」
とか言って多くの患者さんを泣かせてきた私自身が言うんだから。
いや、まったく意味がないとは言いませんが、
他の診療科の意味する診断と比較すれば、
まったくその重みが異なるといってもいいと思います。
では、なぜそう言い切れるのか?
まずは現在の診断の仕方について、どうやって診断するのか詳しく触れたいと思います。
現在の精神科診断は、操作的診断法が主軸である
現在の精神科診断では、大体はDSMという診断基準(診断と統計のためのマニュアル)に沿って行われています(時々ICDを使う事もあり)。
DSMには何がかいてあるかというと、
[症状の数]と[持続期間]をカウントし、一定の条件を満たせば、
このように診断しなさい!と書いてあります。
このような診断法を、操作的診断法と言います。
例えばうつ病を例にとると・・・
DSMでは、
①気分が沈む ②意欲が湧かない ③睡眠に異常がある ④食欲に異常がある ⑤体がだるい ⑥集中力がない ⑦罪悪感がある ⑧不安・焦りがある ⑨希死念慮がある
のうち、5つ以上が2週間以上持続している。ただし、そのうちの少なくとも1つ以上は①か②でなくてはならない、というのが診断条件です。
これを問診で症状を拾い上げていくわけですが、
実に色々な障壁があります。
①患者が症状を表現しない
患者さんも生身の人間。医者に緊張したり圧迫感を感じて、症状を言わない可能性があります。外来では、一人で来院する訳ですから、もう症状を拾い漏らしてしまうわけです。
②患者が過剰に症状を訴える
患者さんの中には、診断書をできるだけ重く書いてもらおうとか、薬を出して欲しいからとか、さまざまな理由で過剰に症状を訴えるケースがあります。これを全て拾ってしまうと、
過剰な診断につながるリスクがあります。
③医者側が評価を誤る
我々医師側はトレーニングを受けているとは言え、全ての人間が全ての状態を同じように評価するかは、甚だ疑問です。
これらの理由で、診断は非常にブレやすいわけです。
そして、もう一つ致命的な障壁が。
うつ病を含めて、ほぼ全ての精神疾患は、
病態生理が完全に特定されていない、実にあやふやな概念ですからね。
診断というゴールがあやふやでブレッブレなのに、
そのゴールに向かうにも手探りだという。
その状況で、アテになる治療なんて提案できるわけないじゃないですか!(半ギレ)
すいません取り乱しました。
そりゃ、しょうがないですよね。病態生理を明らかにするための指標(検査)がないんですから。
我々も、客観的で有用な検査を求めて止まないんですよ?
「数値上、脳の前頭前野の機能低下がみられますね…うつ病ですね」
とか、渋い顔で言いたいんですよ!
デジタル化が進む昨今、
光トポグラフィー(NIRS)や定量的脳波測定(QEEG)などの検査は出てきていますが、
いずれも十分な診断精度がある検査とは言えず、まだまだ実臨床での運用としては充分ではありません。
現状はやはり問診が診断が1番感度・特異度が高いということになります(診断の定義が症状ベースなので当たり前ですけどね)
かつて、精神科診断は職人芸だった
実は、このような操作的診断が台頭してくる前は、診断の仕方は職人芸でした。
病前性格から現在までの性格変化、生活の歴史や血のつながった家族に病気があるか、など、
いわゆる「これまでの人生を考慮して」診断してました。
これを従来診断と呼びます。
従来診断では、幼少期の体験や性格のクセやストレス耐性の有無、対人コミュニケーション能力に加え、
症状の経過、日内変動など脳の機能異常らしい所見をとらえて診断していました。
そう言った意味では、DSMなどの操作的診断基準を使うより、
従来診断の方が適切な治療ができる可能性が高かったとも言えます。
「何で学歴や対人関係のことなんて聞かれるの?」という疑問がある方もおられると思いますが、
これは従来診断の名残りです。
しかし、従来診断には大いなる問題が。
従来診断は職人芸。
どうしても、師匠の色が出てしまいます。
ですので、同じ患者を診断しても、
診断のバラツキが多かったのです。
フランスとドイツで、診断の仕方が異なる、なんてこともありました。
10人の医者が同じ患者をみて、全員が同じ診断でなければいけないのに(理想)、
みんな診断が違っていては、これはもう科学とは言えません。
そこで、適切な診断と統計のためにDSMという診断基準が出てきたわけです。
結果的に、診断の一致率は向上し、混沌とした精神医学を科学という領域まで押し上げてくれるのに
一役買っていることは間違いありません。
実臨床では、操作的診断と従来診断をMixさせている
これまでの記事で、操作的診断法は機械的で表面的、でも統計学的根拠がある診断法というイメージ、
従来診断はこれまでの経過を全部みて診断するが、経験や学んだ環境によってバラツキが大きい診断法というイメージ
これらを共有できればいいかなと思います。
私が精神科を学んだ、国立精神神経医療研究センター病院では、
操作的診断と従来診断それぞれの考え方で診断をしてみて、
診断に解離があればその原因と理由を吟味しながら治療法を検討し合う、
ということを医師同士のカンファレンスでやっていました。
私も、無意識に従来診断と操作的診断を組み合わせて、
1人で脳内カンファレンスをし、
診断と治療を提案することが多いです。
この方法で、出来るだけその患者さんにあった治療を提案できるように
頑張っているんです。
ただ!
ただですよ?
やっぱり精神科診断は以下の点で他の科ほどアテにできないと思っています。
①操作的診断法では、患者さんから症状を拾い上げられない可能性がある
②従来診断では、その医師の経験により診断が狂いがち
③正しく診断しても、その疾患概念自体があやふや
いかがでしたか?
精神科医が何を考えて診断しているか、
少しその謎をわかっていただければ幸いです。
それでは皆さん、お大事に。
更新:2022.3.20
【引用・参考文献】
宮内倫也「こうすればうまくいく!精神科臨床はじめの一歩」2014 中外医学社