認知行動療法(CBT)をセルフで③。【認知再構成法(ソクラテス式質問法)】

認知行動療法ー認知再構成法ーの概略

 

皆さんお加減どうですか?

どうも。いつも診る院長の清水です。

今日は、認知行動療法(CBT)スキルの代表、

「認知再構成法(ソクラテス式質問法)」について、

ご紹介していきたいと思います。

前回は、行動活性化をやりましたね。

不快な感情や身体反応を変えるには、

「思考(認知)」を変えるか、「行動」を変えるしかないっていうのが

認知行動療法(CBT)の考え方でした。

行動活性化は、そのうち「行動」を変えるやり方の1つでしたね。

 

今日は、「思考(認知)」を変えようとするやり方をご紹介します。

さあ、ここから難易度が上がりますよ?

 

認知行動療法で扱う、自動思考

 

突然ですが、こちらの画像をご覧下さい。

認知行動療法の事例

さあ、グラスに水が入っているのですが・・・どう思いました?

 

「水が、半分“しか”入っていない」ですか?

「水が、半分“”入っている」ですか?

 

 

いいえ。

 

 

 

正解は、「水が半分程、入っている」のはずです。

 

別に、「すこし曇ってるグラスやなあ」でも、

「曇りすぎてベチョべチョのグラスや!
なんやこの店は!二度と行くもんかいぃ!!」

でもいいですよ。

 

ここで注目してほしいのは、

同じ光情報を網膜から受け取り、脳に結像したはずなのに、

人によって画像情報の

“解釈”は異なるということなんです。

 

不思議じゃないですか?

 

そう。人間というのは、

物事や事実に対して、

実に勝手に、自動的に“解釈“してしまう生き物なんです。

人が考えた思考というのは、

必ずしも事実に一致するものではない。

思考というのは所詮、主観的で勝手な考えに過ぎない

というのが、CBTの考え方なんですね。

 

認知行動療法では、そうした勝手な、自動的に沸いてくる考え方のことを、

自動思考と呼んでいます。

自動的に考えが沸くから、自動思考。単純ですね。

 

ここで、その勝手な自動思考によって、

実に不快な感情や、身体反応に悩まされている方がいたとします。

そんな方にとって、自動思考なんていうのは、

変えてしまったほうが得だと思いませんか?

認知再構成法(ソクラテス式質問法)の歴史

認知行動療法(ソクラテス式質問法)のイメージ

さて、お待たせいたしました。

認知再構成法について解説するにあたり、その別名である「ソクラテス式質問法」に紐づけて

解説したいと思います。

 

昔々、ソクラテスという

古代ギリシアの哲学者がおりました。

彼は、

 

「そこに・・・
本当の“知”は、あるんか?」

 

だの、言いがかりをつけては

周囲を論破していた

ちょっと空気の読めないお茶目なボーイ。

 

しかも、権力者や政治家などにも

知識の暴力でマウントするもんだから、

恨みを買って処刑されてしまいます。

 

倫理を選択していた方にとっては、

ご存知「無知の知」で有名ですね。

 

彼には多くの弟子がいましたが、

そこは知識マウントを取ることなく、

常に、真理を一緒に探す姿勢を貫きました。

 

これからご紹介するCBTのスキルも、

セラピストが、患者さんと一緒に答えを探すやり方であることから、

ソクラテス式質問法という名前がついたわけです。

 

では、これからその実際のやり方について

お話していきますね。

認知再構成法(ソクラテス式質問法)の実践

自動思考の変容

認知行動療法(ソクラテス式質問法)

 

さて。

このスキル、認知を変える方法としては、

最も基本的かつ強力なスキルです。

 

(もし、あなたが不快な感情、その感情を誘発している自動思考があれば、

紙とペンを用意して、一緒にやっていきましょう!)

 

分かりやすくするため、前回も出てきた

うつ病患者

会社員のAさんに再度登場していただきましょう。

Aさんは、多忙からミスが増え、上司の叱責でうつ病を発症した男性でした。

 

 

Aさんの自動思考はこうです。

CBTワークシート
Aさん

自動思考:私は、会社の役に立たないだろう。

 

 

そして、その自動思考のせいで、自責や抑うつなど、不快な感情が活性化されているのでした。

 

さて次は、自動思考に対して、

100%反論して下さい。

肯定文なら否定文に、否定文なら肯定文に変えるだけでいいです。

(1%でもそのような考えができれば、記入してOKです!)

 

その後、自動思考とその反証を、100~0%で、

それぞれどれくらい信じているか評価します。

Aさんのワークシートは、以下のようになりました。

CBTワークシート
自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%)
 
 
 
 反証:私は、会社の役に立つだろう(20%)
Aさん

 

Aさんったら、かなり自動思考が強いようですね。

 

続いて、自動思考と反証、それぞれを支持する、

客観的な根拠は何か、考えてもらいます。

 

さあ、皆さんは思いつきますか?

 

Aさんの場合、それぞれ考えてもらったところ、以下のようになりました。

CBTワークシート

自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%)
・上司から、「最近ミスが多いぞ」と叱責された

反証:私は、会社の役に立つだろう(20%)
・うつ病を発症する前は、実績を賞賛されていた
・うつ病と診断されたことを伝えたら、上司から「治ったら復帰するように。期待してるぞ」と言われている
・同僚たちから、いつも仕事を引き受けてくれてありがとうと感謝されている

 

客観的、というところがミソで、

例えば、Aさんは最初、自動思考の理由として、

「私はミスが多くて、役立たずなんです」
「仕事が遅くなっている気がします」

というところを理由として挙げようとしましたが、

これらはあくまで自分がそう思っているだけ、

つまり主観的な理由でした。

 

なので、「上司にミスが多いことを指摘された」という理由に変えてもらいました。

これなら、客観性がありますね。

 

さあ、一緒にお付き合いいただいているあなたは、

ワークシート、出来ましたか?

根拠が出てこない場合、

他人は、自分に何と言ってくれるか?
(他者の視点)

過去はどうだったか?(過去の実績)

と、自分に問いかけると、根拠が出てくる事がありますよ。

 

さて、完成したワークシートをフカンして眺めていたAさん。

あることに気がつきました。

CBTワークシート

自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%)
上司から、「最近ミスが多いぞ」と叱責された

反証:私は、会社の役に立つだろう(20%)
うつ病を発症する前は、実績を賞賛されていた
うつ病と診断されたことを伝えたら、上司から「治ったら復帰するように。期待してるぞ」と言われている
同僚たちから、いつも仕事を引き受けてくれてありがとうと感謝されている

Aさん

 

そうです。

 

自動思考の根拠は1つだけ、
反証の根拠は3つもあります。

 

自動思考と反証について、

改めてそれぞれ確信度を見直してみたところ、

以下のように修正されました。

 

CBTワークシート
Aさん

思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%→60%
・上司から、「最近ミスが多いぞ」と叱責された

反証:私は、会社の役に立つだろう(20%→40%
・うつ病を発症する前は、実績を賞賛されていた・うつ病と診断されたことを伝えたら、
上司から「治ったら復帰するように。期待してるぞ」と言われている

・同僚たちから、いつも仕事を引き受けてくれてありがとうと感謝されている

 

ソクラテス式質問法によって、

自動思考に偏った考え方をしていた事に気がついたAさん。

ここまでくれば、気分がマシになるまで、あと少しです。

両極端の考えから、バランス思考を生み出す

Aさんは、ソクラテス式質問法によって、

思考:私は、会社の役に立たないだろう(60%
反証:私は、会社の役に立つだろう(40%

という両極端の考えを持っています。

まだ、悲観的な思考に傾いてはいるものの、

40%は、ポジティブな考え方をしていることになります。

そこで、両極端の考え方から、

バランスのとれた、さらに確信度の高い考えを

導き出してもらいます。

Aさんの新しい考え方は、以下のようになりました。

 

 

認知行動療法におけるバランス思考のイメージ

「私はうつ病のせいで、一時的に役に立たないだけで、
うつが治れば再び会社の役に立つだろう…!」

Aさんは、この考えを90%以上確信するようになり、
ついでにイケメンになったようです。

 

この考えを、CBTではバランス思考と呼んでいます。

バランス思考は、少なくとも75%以上は信じられるようなものが出るまで

検討して下さい。

 

 

さあ、あなたのバランス思考はできましたか?

 

バランス思考が納得できるものであれば、

気分(感情)がマシになっていることに

気づくかもしれません。

 

Aさんは、先ほどのバランス思考によって、

自責感が減ったようですね。

 

ソクラテス式質問法ができない!

難しい!と思った方。

 

全く問題ないです。

 

そもそも、対面式でやっていることを、

文字だけで理解しようとする方が、

難しいに決まってます。

 

そんな時は、もっと簡略化したものがあります!

千葉大学の「ここれん」というサイトで体験できますから、

是非使ってください。

 

あともうひとつ。

ソクラテス式質問法には

弱点があります。

それは、

自動思考が、客観的にも正しいときです。

例えば、不安で困っている方の自動思考が、

「コロナショックで、いずれ生活に困るようになるだろう」

という、現実的な内容だった場合。

 

「コロナショックだけど、今後も生活に困ることはない」

 

と反論するのは、ちょっと無理がありますよね・・・。

 

なので、自動思考に対してうまく反論が出来なかった方は、

次回に紹介するスキルが役立ちます!

また次回、このシリーズでお会いしましょう。

 

【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社

更新:2024.1.22

 

執筆者紹介

清水聖童
ライトメンタルクリニック院長
日本精神神経学会認定専門医/精神保健指定医/薬物療法研修会修了/認知症サポート医

 

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