認知行動療法ー認知再構成法ーの概要
皆さん、お加減どうですか?
どうも。いつも診る院長の清水です。
今日は、認知行動療法(CBT)スキルの代表でもある
「認知再構成法(ソクラテス式質問法)」について、ご紹介していきたいと思います。
前回は「行動活性化」をやりましたね。
不快な感情や身体反応を変えるには
「思考(認知)」を変えるか。「行動」を変えるしかない
というのが認知行動療法(CBT)の考え方でした。
行動活性化は、そのうちの「行動」を変えるやり方の一つでしたね。
今日は、もう一つの「思考(認知)」を変えようとする方法をご紹介します。
ここから難易度が上がりますよ?
認知で扱う自動思考
突然ですが、こちらの画像をご覧ください。

これは、グラスに水が入っている画像なのですが・・・
この画像を見て、皆さんはどう思いましたか?
「水が、”結構入っている”」?
「水が”あまり入っていない”」?
正解は、「水が半分ほど入っている」のはずです。
他にも「冷たそうな水だな」でも、
「グラスが少し曇っているな」でもいいですよ。
ここで注目してほしいのは、
同じ画像の情報を見て、その情報を脳で処理したはずなのに、
人によって画像情報の
”解釈”は異なる、ということなんです。
不思議じゃないですか?
人間というのは、物事や事実に対して
勝手に、自動的に”解釈”してしまう生き物なんです。
人の思考というのは、必ずしも事実に一致するというものではないんです。
事実というのは所詮、主観的で勝手な考えに過ぎない
というのが、CBTの考え方なんですね。
認知行動療法では、そうした勝手な・自動的にわいてくる考え方のことを
「自動思考」
と呼んでいます。
「自動的」に「考え」が沸くから、「自動思考」。
単純で分かりやすいですね。
ここで、その勝手な自動思考によって、実に不快な感情や、身体反応に悩む人が居たとします。
その方にとって、自動思考なんていうのは
変えてしまった方が得だ、と思いませんか?
認知再構成法(ソクラテス式質問法)の歴史

認知再構成法について解説するにあたり
別名でもある「ソクラテス式質問法」に紐づけて解説したいと思います。
皆さんは「ソクラテス」を知ってますか?
ソクラテスは、古代ギリシアの哲学者で「無知の知」という言葉は有名ですよね。
彼は、権力者や政治家などに自分の知識を武器にしてマウントを取っていました。
そのせいで恨みを買って処刑されてしまうんですけどね・・・・・
彼にはたくさんの弟子が居ました。
そこは知識でマウントを取ることなく、常に心理を共に探求する姿勢を貫いていました。
これからご紹介するCBTのスキルも、
面接の中で、セラピストの質問を通して患者さんの気づきを促していくことから
「ソクラテス式質問法」
という名前が付いたのです。
では、実際にどのようなことをやるのか。
実際のやり方について説明していきます。
認知再構成法(ソクラテス式質問法)の実践

Aさんは、仕事が多忙になりミスが増え、上司からの叱責でうつ病を発症した男性でした。
AさんにCBTワークシートを書いてもらいましょう。
皆さんも、Aさんのワークシートがどのようになるのか一緒に考えてみましょう。
【CBTワークシート】
Aさんの自動思考は以下のようになっていると考えられます。
自動思考:「私は、会社の役に立たないだろう」
この自動思考のせいで、自責や抑うつなどの、不快な感情が活性化されています。
では次は、今のAさんの自動思考に対して、
「100%反論してください。」
自動思考が肯定文なら否定文に、否定文なら肯定文に変えるだけでいいですよ。
(100%じゃなくても、1%でもこのような考え方ができれば、記入してOKです!)
その後、自動思考とその反証を100~0%で、どのくらい信じているか評価します。
Aさんのワークシートは、以下のようになりました。
自動思考:「私は、会社の役に立たないだろう(80%)」
反証:「私は、会社の役に立つだろう(20%)」
Aさんは、自動思考がかなり強いですね・・・・
では次!
自動思考と反証のそれぞれを支持する
客観的な根拠は何か
考えてもらいます。
皆さん、思いつきました?
Aさんはこのように記入しました。
自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%)
・根拠:上司から「最近ミスが多いぞ!」と叱責された。
反証:私は、会社の役に立つだろう(20%)
。根拠:うつ病を発症するまでは、実績を称賛されていた
診断を伝えたら、上司から「治ったら復帰するように。期待してるぞ」と言われた」
同僚たちから、いつも仕事を引き受けてくれてありがとうと感謝されている
この根拠については
「客観的に」というところがミソなんです。
例えば、最初は根拠として「ミスが多くて、役立たずなんです」「仕事が遅くなっている」
というのを挙げようとしました。
しかし、この根拠は「あくまで自分がそう思っているだけ」
つまり主観的な根拠でした。
そのため、「上司にミスが多いことを指摘された」に変更してもらいました。
客観性が出ましたね。
皆さんは、ワークシート出来ましたか?
「根拠が思いつかない・・・」という方!
他の人なら、自分に何と言ってくれるんだろう?(他人の視点)
過去はどうだったかな?(過去の実績)
と、自分に問いかけてみると、何か根拠を考え付くかもしれません。
そして
自分が記入したワークシートを見ていたAさん・・・

何かに気付いたようです!
何に気付いたんでしょうか・・・・
【CBTワークシート】
自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%)
①上司から、「最近ミスが多いぞ!」と叱責された
反証:私は、会社の役に立つだろう(20%)
①うつ病を発症する前は、実績を称賛されていた
②診断を伝えたら、上司から「治ったら復帰するように。期待してるぞ」と言われた
③同僚たちからいつも仕事引き受けてくれてありがとうを感謝されている
皆さん気付きましたか?
そうです。
自動思考の根拠は1つだけ、
反証の根拠は3つもあります。
改めて、確信度を見直してみました。
すると・・・・
自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(80%→60%)
反証:私は、会社の役に立つだろう(20%→40%)
ソクラテス式質問法によって
自動思考に偏った考え方をしていたことに気が付いたAさん。
ここまでくれば、気分がマシになるまでもう少し・・・!
両極端の考えから、バランスを生み出す
Aさんは、ソクラテス式質問法によって
自動思考:私は、会社の役に立たないだろう(60%)
反証:私は、会社の役に立つだろう(40%)
という両極端な考えを持っています。
まだ、悲観的な思考に傾いているものの
40%は、ポジティブな考え方をしていることになります。
そこで両極端の考え方から、
バランスの取れた、さらに確信度の高いも考え
を導き出してもらいます。
Aさんの新しい考え方は、以下のようになりました。

「私は、うつ病のせいで、一時的に役に立たないだけで、うつが治れば役に立つだろう!」
Aさんはこの考えを90%確認するようになり、
ついでにイケメンになったようです。。。。
この考えをCBTでは、
「バランス思考」
と呼んでいます。
バランス思考は、少なくとも75%以上は信じられうようなものが出るまで検討してください。
あなたのバランス思考はできましたか?
バランス思考が納得できるものであれば、
気分(感情)がマシになっていることに気付くかもしれません
Aさんはバランス思考により、自責感が減ったみたいですね。
でも、ソクラテス式質問法できない! 難しいよ!と思った方
まったく問題ありません!
そもそも、対面式でやっていることを、文字の説明だけで理解する方が難しいです。
そんな時は・・・
千葉大学の「ここれん」というサイトで体験できますから、ぜひ使ってみてください。
最後にもう一つ・・・
ソクラテス式質問法には弱点があります。
自動思考が客観的に正しい時です
少し前になりますが、不安で困っている人の自動思考が
「コロナショックで、いずれ生活に困るようになるだろう」
という現実的な内容だった時
「コロナショックだけど、今度も生活に困ることはない」
と反証するのは、ちょっと無理がありますよね・・・・
なので、自動思考に対してうまく反証できなかった方は
次回に紹介するスキルが役立ちます!!
また次回、このシリーズでお会いしましょう。
【引用・参考文献】
・ジュディス・S・べック 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第二版 星和書店
・Lee David 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社