心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは
1. 概要
危うく死ぬまたは重症を負うような外傷的出来事を経験した後に、フラッシュバックや悪夢などさまざまな症状を呈する疾患です。性被害や戦闘など対人暴力被害による発症率が高く、レイプ被害者の約半数がPTSDを発症すると言われています。自然災害や交通事故のPTSDの発症率は10%以下です。生涯有病率は7.8% 男5%女10.4%とされています(日本では1.3%、12ヶ月有病率は0.7%と報告される)。若年成人に最も多く発症し、外傷体験からいつPTSDが発症するかは、1週間から半年後と差があります。外傷体験から1年以内に自然軽快する例が多く、数年経過しても一定の割合で自然回復が認められますが、1/3は治療によっても寛解せず難治化します。うつ病やパニック発作、解離性障害を合併することがあります。外傷体験に一致した悪夢は59−68%の患者で認められます。未治療では30%が回復、40%が軽度障害、20%が中等度障害、10%は不変もしくは増悪とされる経過をたどります。虐待など、長期間かつ繰り返し外傷体験を受けることにより、周りに溶け込めないような気がする、対人関係に慢性的な不信感がある、幸福感などの幸せな感情が生まれなくなっているケースもあり(複雑性PTSD)、こちらは非常に難治となります。
2. 原因
遺伝要因、環境要因など様々な要因が関係しているとされ、全てが外傷的出来事にあるという説明は必ずしも適切ではありません。うつ病の家族歴があると発症率が上がったり、コルチゾルのメチル化に関するFKBP5などの遺伝子特性は病態への関連が示唆されているため、遺伝子の関与はあるようです。病態生理学的には、外傷的出来事の最中に感じた恐怖や無力感が、記憶に過剰に固定化されたり消去できなくなったりする状態が関与するとされ、脳領域ですと扁桃体の機能亢進と扁桃体を制御する前部帯状回の機能障害、海馬の萎縮、HPA axis(視床下部−下垂体−副腎系)障害が病態に関わるとされています。また、HPA axisが制御するアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾルは扁桃体や海馬に存在する受容体を介してその機能に影響を与えています。なお、PTSDの発症により海馬が萎縮するのではなく、元々海馬体積が小さい人がPTSDを発症しやすい事が示唆されています。また、心理社会的な要因として、心理的な問題、外傷体験直後のサポート不良、低学歴であること、生活ストレスが発症リスクを上げるとされています。特に、サポートの不良と生活のストレスの関与が大きいとされています。物質の影響も無視できません。例えばカフェインが200mg/日超えていると中毒症状でPTSDに類似の症状が出現する可能性があります。これは、コーヒーチェーンのコーヒーで2杯程度のコーヒーであり、かなりの量のコーヒーを摂取される方は注意が必要です。
3. 診断
まずは身体疾患の除外が重要になります。甲状腺機能亢進症、心疾患、貧血などで説明できないか検討します。また、薬剤性、うつ病や双極性障害、不安障害、物質関連障害で説明できないか鑑別が必要となります。その上で、死亡、瀕死あるいはレイプなどの出来事やその脅威を体験、目撃し、①フラッシュバックなどの再体験症状、②外傷体験を思い出させるような場所や事物、イメージの回避、③不眠やイライラ、④重要な場面を思い出せない、自己や他者へのネガティブな考えなどの認知・感情の否定的な変化の全てを満たし、それらが1ヶ月持続し日常生活に支障をきたしている場合に診断条件が満たされます。CAPSと呼ばれる面接を行うと、より診断精度が高まります。自己記入式の質問しとしては、PTSD診断尺度があります。外傷体験の質は、親しい人が他界したり、経済的に困窮したりするような、誰もが経験しうるものではなく、「破局的なもの」と定義されていますが、具体的には災害、戦闘体験、深刻な事故、拷問、性暴力、テロ、暴力、急性の生命を脅かす疾患、他者が予期せぬ形で、あるいは暴力的な形で負傷したり亡くなることを目撃、あるいはその知らせを受けること、等が挙げられています。
4. 治療