身体症状症とは
身体症状症とは
1. 概要
身体症状症(身体化障害・身体表現性障害)は、適切な検索を行っても、既知の身体疾患や物質(乱用薬物や投薬など)の作用で十分に説明できない、複数の多彩な身体化症状が多年にわたり持続し、身体症状に対する過剰な不安を認める精神疾患です。身体症状症の仲間とされるのが、身体症状がない(あっても軽微)けれど、病気ではないかという不安が主体の「病気不安症」や、ストレスを背景として、身体症状が出現するもその症状に対する葛藤が乏しい「機能性神経学的症状症(変換症)」です。
身体症状症は、疼痛や悪心・嘔吐、月経周期に関する訴え、痒みや灼熱感、うずき、しびれなどの皮膚感覚などが多く、これらが場所をとわず繰り返し出現したり、変化、移動したりし、慢性かつ動揺性に経過します。一般的には25歳未満で発症し、多年に渡って続きます。女性では0.2〜2%、男性では0.2%の有病率とされています、極めて予後不良の病態であり、特に複数の医師が治療に関わっている場合ほど予後が悪いようです。経過中に50%の症例でうつ病や不安障害を合併することが知られています。
2. 原因
3. 診断
日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状が、(典型的には)6ヶ月以上持続しており、かつ以下のうち少なくとも1つを満たすことで診断されます。ただし、例えば「足が痛い」という身体症状が一貫して存在していなくとも良く、ある時は「足が痛い」ある時は「胸に違和感がある」などという、何かしら症状がある状態が6ヶ月以上続けば診断基準は満たされます。
①自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考
②健康または症状についての持続する強い不安
③これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力
訴えの中心が身体症状であるため、特に身体疾患の除外が重要です。身体症状症はSLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病、副甲状腺機能亢進症、急性間欠性ポルフィリン症などの内分泌・代謝疾患、多発性硬化症などの脱髄疾患、側頭葉てんかん、慢性感染症などの身体疾患を除外することが必要です。また、精神疾患においては統合失調症、気分障害、不安障害、作為症や偽病などの精神疾患の除外も重要です。それら医学的検索を行っても既知の身体疾患や物質関連障害の直接的作用として十分に説明できず、また、詐病でない前提のもとで診断されます。
4. 治療
身体症状や不安を破局的に捉えていくことが病態を悪化させるので、身体症状のみに対応しても、部分的あるいは全く改善しない可能性が高いことを理解してもらうことが治療の第一歩です。身体症状の検索に焦点化せず、適宜精神の不調にも焦点をあて、治療につなげることが重要です。治癒を期待するよりも、「どのように症状と付き合っていくか」考えて行動する方が、逆に症状をコントロールしやすくなります。この疾患を抱える家族は、本人の訴えに振り回されず、この病気であることが本人の得にならないように振る舞う必要があります。またこの疾患を患った患者は、自分の納得がいく説明をしてくれる、つまり「何かの病気だから検査をしていきましょう」と言ってくれるドクターを探してドクターショッピングをしやすいのですが、主治医は一人に絞ったほうが予後が良い事が知られています。治療の主体は認知行動療法などの心理療法が主体となるのですが、ストレスに応じて症状が悪化する場合は、まずそれを自覚し、ストレスをコントロールできるかどうか対処法を実行していきます。一方お薬が効くというエビデンスはありませんが、うつ病や不安障害を明らかに合併していたり、痛みやイライラ、不眠を改善させる目的でお薬が有効とされることがあります。