身体症状症とは

身体症状症(身体化障害・身体表現性障害)とは

1. 概要

身体症状症(身体化障害)は、適切な検索を行っても、既知の身体疾患や物質(乱用薬物や投薬など)の作用で十分に説明できない、複数の多彩な身体化症状が多年にわたり持続するという病気です。「病気ではないか」という不安のために、日常生活に支障をきたしてしまう「心気症」と同じく、広い意味では「身体表現性障害」の仲間とされています。疼痛や悪心・嘔吐、月経周期に関する訴え、痒みや灼熱感、うずき、しびれなどの皮膚感覚などが多く、これらが場所をとわず繰り返し出現したり、変化、移動したりし、慢性かつ動揺性に経過します。一般的には25歳未満で発症し、多年に渡って続きます。極めて予後不良の病態であり、特に複数の医師が治療に関わっている場合ほど予後が悪いようです。経過中に50%の症例でうつ病や不安障害を合併することが知られています。

2. 原因

心理社会的要因と生物学的要因によるものの2つが知られています。社会的要因としては、社会的・経済的階層や教育水準の低い者の罹患率が高いことが知られています。また、生物学的要因としては、不快な感情を担う脳部位のうち島皮質、前部帯状回、扁桃体の過活動や、痛みの認識を担う脳部位である内側前頭前皮質の異常が指摘されています。かつては心の問題とされていましたが、近年では脳機能異常を捉える検査法が発達したことで、脳機能の異常であることが分かりつつあります。似通った病態として、線維筋痛症や神経遮断性疼痛との関連性が指摘されています。また、遺伝の関与もあり、一親等以内の女性で10-20%罹患する事が知られています。疫学的には女性の方が圧倒的に罹患しやすいとされています(女2%、男0.2%以下)。また、反社会性パーソナリティ障害やアルコール依存症などの物質関連障害、演技性パーソナリティ障害と関連性があることがわかっています。

3. 診断

まずはSLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病、副甲状腺機能亢進症、急性間欠性ポルフィリン症などの内分泌・代謝疾患、多発性硬化症などの脱髄疾患、側頭葉てんかん、慢性感染症などの身体疾患を除外することが必要です。また、精神疾患においては統合失調症、気分障害、不安障害、作為症や偽病などの精神疾患の除外も重要です。それら医学的検索を行っても既知の身体疾患や物質関連障害の直接的作用として十分に説明できず、また、詐病でない前提のもとで診断されます。具体的には、1つ以上の苦痛を伴う身体症状が典型的には半年以上は持続し、それに伴う過剰な思考、行動、感情のうち少なくとも1つ以上が存在することで診断されます。

4. 治療

身体症状を破局的に捉えていくことが病態を悪化させるので、身体症状のみに対応しても、部分的あるいは全く改善しない可能性が高いことを理解してもらうことが治療の第一歩です。身体症状の検索に焦点化せず、適宜精神の不調にも焦点をあて、治療につなげることが重要です。治癒を期待するよりも、「どのように症状と付き合っていくか」考えて行動する方が、逆に症状をコントロールしやすくなります。この疾患を抱える家族は、本人の訴えに振り回されず、この病気であることが本人の得にならないように振る舞う必要があります。またこの疾患を患った患者は、自分の納得がいく説明をしてくれる、つまり「何かの病気だから検査をしていきましょう」と言ってくれるドクターを探してドクターショッピングをしやすいのですが、主治医は一人に絞ったほうが予後が良い事が知られています。治療の主体は認知行動療法などの心理療法が主体となるのですが、ストレスに応じて症状が悪化する場合は、まずそれを自覚し、ストレスをコントロールできるかどうか対処法を実行していきます。一方お薬が効くというエビデンスはありませんが、うつ病や不安障害を明らかに合併していたり、痛みやイライラ、不眠を改善させる目的でお薬が有効とされることがあります。
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