神経性やせ症とは

神経性やせ症とは

Summary

overview

神経性やせ症は、極端な食事制限と体型認知の歪みを特徴とする摂食障害で、若年女性に多く重篤化しやすい疾患です。

cause

原因は遺伝、ストレスや過去の体験、社会的圧力が関与し、体型へのこだわりや自己評価の歪みが発症を促すとされます。

diagnosis

診断は体重減少、肥満恐怖、体型認知の歪みを基準に、DSM-5やICDの診断基準を用いて行われます。ただし、身体疾患の除外を要します。

treatment

神経性やせ症の治療は、栄養管理と心理療法を組み合わせ、家族支援や長期的関与が重要です。

概要

極端な食事制限とやせを特徴とする精神疾患で、摂食障害のカテゴリーの1つです。多くの場合、自分の体型に関する歪んだ認知を認めます。社会全体がダイエットを励行しているなか、グレーゾーンの対象も少なくなく、診断基準を満たさない場合でも支援が必要なケースが多いとされます。若年女性の0.5–1%に罹患し、有病率は女性が男性の10~20倍で圧倒的に女性の罹患が多く、思春期から20代までに、ストレスイベントを契機に発症することが多いとされます。実際には痩せていても、理想とする体型が極度に痩せているために、太っていると考えて自己嫌悪に陥ったり、肥満恐怖を認め、深刻な体重減少に伴う抑うつ気分や焦燥、不眠、生理不順、性的興味の減退、万引きや盗み食いなどを呈することがあります。ちなみに無月経の時期があっても、将来不妊になるわけではありません。甲状腺の機能低下もよく合併します。予後に関しては、短期的に回復するものも、難治となり長期に病状が及ぶ(10~15%)ものもありますが、約10年は回復の可能性が期待できるとされます(回復率73.2%)。軽症者は回復しやすいですが、体重回復後も肥満恐怖など心理的な症状が持続することが多く、再発には注意が必要です。死亡率は最も高い部類に入り、約10%とされます。神経性やせ症の患者の半数が1年以内に神経性過食症(BN)に移行することになります。

原因

生物学的な異常としては、食欲調節機構の異常が指摘されています。また、遺伝の関連性も指摘されており、第一度親族に発症者がいると、神経性やせ症(AN)や神経性過食症(BN)のリスクが高まるようです。また、性格的には自己評価の低さ、完全癖の強さ、学業成績へのこだわり、環境的には家庭内の葛藤などが影響するようです。低体重が深刻であれば、より病状否認が強かったり、肥満恐怖が強まる傾向があることから、やせそのものが病態に関与する可能性も指摘されています。

診断

下記の診断基準の全てを満たす必要があります。ここで言う「有意に低い体重変化」とは、正常下限を下回る体重であり、成長度に期待される最低体重を下回るものと定義されています。BMIで17を切るような例であると理解すると、イメージしやすいでしょう。

①必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対して有意に低い体重に至る。
※有意に低い体重とは、正常の下限を下回ると定義される
②有意に低い体重であるにも関わらず、体重増加または肥満になる事に対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある
③自分の体重または体型に関わる出来事の否定的な解釈、自己評価において、体重や体型が不相応に影響を与えている、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如がある

他の精神疾患と同様、身体疾患で症状が説明される場合は診断ができないため、甲状腺疾患や頭蓋内腫瘍など、食欲や体重の異常をきたす身体疾患との鑑別を行い、それらを除外した上で下記の診断基準を満たせば診断確定となります。この疾患を至極簡単に言うなら、不相応に痩せているのに、痩せようとする思考や行動があり、そうでないと自尊心を保てないという疾患概念になるでしょう。

治療

心身両面へのアプローチが必要であり、身体面だけでは治療中断しやすく、心理面だけでは身体が改善しません。身体的治療としては、栄養剤、高カロリー輸液などの方法があります。 本人が望まない栄養補給を強制的に実施せざるを得ない場合もあります。無月経に対するホルモン療法は、摂食量が低下しがちであり、低体重の時期にはホルモン治療は推奨されません。BMI18前後を数ヶ月保っても無月経が持続するならホルモン療法を行うことが推奨されています。心理面のアプローチとしては、治療本人が困っていることを探し出し、意識させることで治療の動機づけを行い、食事を増やすことのメリットとデメリットを検討します。過食嘔吐への対応は神経性過食症の治療に準じ、過食に至る心理的苦痛にアプローチしたり、過食を防ぐためのスキルを実践していくことで自己効力感を高めていきます。不適切な代償行動に対しても、例えば過活動に対しては万歩計などでモニタリングするなどして、行動を自制するよう努めます。認知は短期間では修正されにくく、長期の関わりが必要になる事もあるため、医師との信頼関係の構築は非常に重要です。一貫した治療方針を守るため、患者さんのご家族にも協力していただく事が望ましいとされています。慢性期の治療は、何らかの社会参加を進めたり、関わってない職種を介入させることで本人、治療者ともに悲観的にならないように介入を続けていきます。