外出キャンセル 界隈

はじめに:外出キャンセル界隈とは?

「外出キャンセル界隈」ってなに?

 

皆さんお加減どうですか。いつも診る院長の、清水ですよ。

 

外出キャンセル界隈という言葉が、SNS上で広がっているみたいですね。

 

約束はするが、当日になると行けなくなってしまう――そんな行動パターンを自嘲的に表現したものです。

 

一昔前であれば、

 

「甘えやがってぇぇ!!!ぐーーーったりするまで説教してやるぅ!」

 

って言われがちだったのだけど、

 

この令和の時代では、なんか、新たな概念として?

わかりみ深いムーブメントとして?

 

若人の間で広がっているらしいのです。わかんねえよなおじさん世代よ。

 

なにしろこの現象はSNSで共感的に受け止められ、瞬く間に広がっているようです。

 

しかし一部の人には共感されても、やはり多くの人からみると理解し難く、

 

繰り返すことで人間関係のトラブルや自己嫌悪につながることもあります。

 

・・・この、「外出キャンセル界隈」。

 

精神科医の立場から見ると、この現象の背景には、明確な精神疾患や神経発達特性が潜んでいる場合があるように思います。

 

この記事では、最新の研究と臨床的知見をもとに「外出キャンセル界隈」を多角的に分析し、その背景にあるこころのメカニズムや精神疾患、対処法、支援方法、医療とのつながり方について、やさしく・丁寧に解説していきます。

外出キャンセルの背景にある可能性のある精神疾患・神経発達特性

外出の予定をたててもいけないのは、なぜ?

確かに、一度や二度は、誰でも外出の予定をキャンセルしてしまうことは誰にでもあるでしょう。

しかし、繰り返し何度もドタキャンしてしまう、あるいは「約束を入れること自体が苦痛」になるようであれば、それはこころのSOSである可能性があります。

ここでは、外出キャンセルに関係しやすい精神疾患や発達特性を紹介します。

① 社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)

  • 他人の評価・視線に対する強い恐怖

  • 「うまく話せなかったらどうしよう」「変に思われたくない」といった思考

  • 当日になると強い動悸・吐き気・過呼吸などが出ることも

② うつ病気分変調症

  • 気分の落ち込みやエネルギーの枯渇

  • 約束時には「行ける」と思っていても、当日になると「何もしたくない」

  • ベッドから出ることすら困難なケースも

③ 自閉スペクトラム症(ASD)

  • 雑多な人間関係が苦手/予定変更に不安

  • 感覚過敏や「空気を読む」ことへの苦手さがある

  • 人と会うこと=強いストレスや疲労感になる

④ ADHD(注意欠如・多動症)

  • 約束を守るつもりでも“実行力”や“時間感覚”に困難がある

  • 「時間通りに行動する」ことが苦手で、支度に時間がかかり遅刻やドタキャンに

  • 自分でも「なぜできないのかわからない」と悩むケースが多い

👉 約束の時点では本気で行くつもりなのに、実行できないのは「意思の弱さ」の影響以外にも「実行機能障害(executive dysfunction)」の一部である可能性があります。

⑤ 双極性障害II型(MDI)

  • うつ状態と軽躁(ハイテンションな時期)が繰り返される疾患

  • 軽躁期には自信過剰・社交的になり、「予定を詰め込みまくる」

  • しかしその後の反動で抑うつ期に突入し、“あの時の約束”が重荷になる

👉 MDIの人は軽躁期の自己像と、うつ期の自己像が乖離していることが多く、周囲からは「急に連絡がつかなくなった」「ドタキャンばかり」と誤解されやすいのが特徴です。

◆ ⑥ 回避性パーソナリティ障害

  • 他人から拒否されることへの極端な恐れ

  • 仲良くしたい気持ちはあるが、「どうせ拒絶される」と思い込んでしまい避ける

  • 予定を組むことで安心するが、当日になると「やっぱり無理」となることが多い

この現象は、脳の働きや精神状態によって以下のようなプロセスで起きることがあります。

 

 

フェーズ状態主な心理・神経的要因
約束をする時「今度こそ大丈夫」「人に会いたい」軽躁状態、希望、肯定感、報酬系の活性
直前になる「無理かも」「しんどい」「着替えられない」不安、抑うつ、自律神経過敏
キャンセル後「またやってしまった」「もう誘われないかも」自己嫌悪、罪悪感、社会的孤立感

これを繰り返すことで、自己肯定感の低下 → より強い回避行動 → 孤立という負のスパイラルに陥りやすくなります。

自分を責めなくなるための対処法

◆ ステップ①:自分の「回避のタイプ」を見極める

  • 「生まれつき」「怖くて行けない」→ 社交不安・回避性傾向

  • 「体が動かない」「時間の変化によってしんどさが変化する」→ うつ病・MDI

  • 「やる気はある」「準備が間に合わない」→ ADHD

  • 「人といると疲れる」→ ASD

自分の困りごとがどのパターンに近いのかを知ることは、回復のための第一歩です。

◆ ステップ②:予定の立て方を調整する

  • 「予定は立てるが、確定ではなく“仮”にする」

  • 「外出せずにオンライン参加という選択肢を持つ」

  • 「人と会う前日は何もしない日を入れておく」

👉 MDIやADHDの方には、“予定を詰め込みすぎない”技術も重要です。特に軽躁期の「いける気がする!」は要注意です。

◆ ステップ③:支援・医療を使う

● いつ相談すべき?

  • 予定キャンセルを繰り返して落ち込んでいる

  • 対人関係が破綻しつつある

  • 自分の状態がコントロールできない

これらが当てはまる場合、精神科・心療内科への相談を強く推奨します。

● 受診のメリット

  • 診断がつかなくても、「状態に合った支援」を受けられる

  • ADHDやMDIは薬物治療の効果が期待できる

  • 認知行動療法(CBT)や心理教育で、行動調整が可能になる

周囲の人ができる支援

◆ 責めない。受け止めて、支える

  • 「またドタキャン?」「付き合い悪いね」はNG。余計に外出に対するネガティブな気持ちが増えがちです。

  • 「来られなくてもいいよ」「また気が向いたら声かけてね」と“余白のある関わり方”がおすすめ

◆ 無理に誘わず、つながりを絶やさない

  • LINEでちょっと声をかける

  • オンラインで雑談する

  • 本人のペースで交流できる“安全な場”をつくる

◆ 必要なら医療や支援機関への橋渡し役に

  • 「こういうクリニックあるみたいだよ」

  • 「私も通ってるから安心して」など、医療に対する安心感を伝えることが大切です

おわりに:「行けない」理由がある人もいる

いかがだったでしょうか。

 

「外出キャンセル界隈」を構成する人たちには、行きたくない人だけでなく、“行けない”人たちも相当数いるかもしれません。

 

 

本人が最も自分を責めていることも多く、周囲からの何気ない一言がその人を深く傷つけることもあります。

 

大体数の常識を押し付けず、できない人たちの存在を認めてあげて、


「なぜできないの?」ではなく、
「どうしたら少しラクになる?」という視点で関わることが、
この社会を優しくしていく一歩になります。

 

それでは皆さん。

 

お大事に。

 

【引用・参考文献】
  • Braathu, N., Bølstad, E., Bowker, J., & Coplan, R. (2022). Evaluating Links between Social Withdrawal Motivations and Indices of Psychosocial Adjustment among Norwegian Emerging Adults. The Journal of Genetic Psychology, 183, 549–563. 

  • Sette, S., Pecora, G., Laghi, F., & Coplan, R. (2023). Motivations for Social Withdrawal, Mental Health, and Well-Being in Emerging Adulthood. Behavioral Sciences, 13

  • Suwa, M., & Suzuki, K. (2002). Psychopathological features of “primary social withdrawal”. Seishin shinkeigaku zasshi

  • Gresham, F., & Evans, S. E. (1987). Conceptualization and Treatment of Social Withdrawal in the Schools. Special Services in the Schools, 3, 37–51. 

  • Nelson, L. J., Coyne, S., Howard, E., & Clifford, B. N. (2016). Withdrawing to a Virtual World: Associations between Subtypes of Withdrawal, Media Use, and Maladjustment. Developmental Psychology, 52(6), 933–942. 

  • Clifford, B. N., & Nelson, L. J. (2019). Somebody to Lean On: Moderating Effects of Relationships on Withdrawal and Self-Worth. Journal of Relationships Research