うつ病(MDD)とは
うつ病(MDD)とは
1. 概要
うつ病(大うつ病性障害:MDD major depressive disorder)は、抑うつ気分や興味関心の低下などの症状を主体とする症候群です。通常、中年から初老期にかけて好発します。うつ病の症状は大なり小なり持続し、全く不調感がない日があれば通常診断されません。睡眠障害や食欲変化など、何らかの身体症状がほとんどの例で出現します。また、不安や自責、絶望感なども出現する事があります。朝、特に不調を自覚するなどの日内変動や、集中力の低下も特徴的な所見です。日本においては、うつ病の生涯有病率は6.16%(男性3.84%、女性8.44%)程度とされており、女性に多い疾患とされます。かつては高い有病率から「脳の風邪」と言われていましたが、適切に治療しなければ集中力の低下が残ったり、肥満のリスクが上がったりする等、後遺症が残る場合もあり、再発率も60%以上であることから、「脳の骨折」と呼ぶ方がふさわしい疾患であると言えます。
2. 原因
原因については、まだ明確にわかっていません。極めて特異的な所見というのは未だなく、一つの原因というよりは、遺伝、病前性格、感染症、脳機能の異常など多彩な病態が関与していると思われています。脳機能異常に関しては、扁桃体/眼窩前頭皮質の活動亢進、脳梁膝下部前頭前野の活動低下や、炎症性神経障害、視床下部–下垂体–副腎皮質系の機能異常、セロトニン、ノルアドレナリン神経伝達の低下などが推定されています。特にセロトニン、ノルアドレナリンの神経伝達の低下が原因ではないかとする考え方はモノアミン仮説と呼ばれ、抗うつ薬の治療効果の理論的根拠となっています。
3. 診断
現在では問診に頼るところが大きく、抑うつ気分や意欲低下、倦怠感などの症状の数や持続時間などの所見を集計し、一定の条件を満たしたものをうつ病として診断する事が多いです。しかし、実際には患者さんの表情や動き、思考の鈍さや表出ぶりなどを主治医の経験や感性で処理し、最終的な診断を検討する事もあります。診断がどの医師も同じになるよう、精神科医はトレーニングを受けていますが、人間である以上捉え方に差が生まれたり、患者さんが語る内容も刻々と変化するために診断は変化する可能性があります。現に、うつ病と診断された患者さんのうち10%以上が双極性障害に診断変更されているようです。
2014年に光トポグラフィー(NIRS)が抑うつ症状を呈する鑑別診断の補助として保険適用されましたが、診断基準が問診で得られる所見を基準に設定されているため、どうしても問診の方が診断の為には優れている、というのが現状です。今後、うつ病の原因の理解が深まり、生理学的所見や脳画像などで疾患が捉えられるようになれば、客観的な検査でうつ病を診断できる時代が来るかもしれません。うつ病と鑑別が必要な疾患として、適応障害、双極性障害、脳腫瘍などの器質性脳疾患、認知症、統合失調症などがあります。
4. 治療