メンタルヘルスコラム

「ファッション発達障害」は本当に存在するのか?精神科医が考える診断名とアイデンティティの問題

  • 更新日:2026.06.13
  • 公開日:2026.06.13

どうも。いつも診る院長、清水と申します。

今日はですね・・・。

医療機関で診断されてないにもかかわらず、発達障害を自称する

「ファッション発達障害」という言葉を解説したいと思います。

「ファッション発達障害」とは何か?

これは当然ですが、「ファッション発達障害」は医学用語ではないということです。

DSM-5やICD-11といった診断基準にそのような規定は存在しません(※診断閾値未満の発達障害を示す診断名はあります)。

ファッション発達障害という言葉は、あくまでネットスラングです。

そのため、「どこからが本物で、どこからが偽物なのか」という明確な基準も存在しません。

にもかかわらず、この言葉が広く使われる背景には、多くの人が感じている違和感があるのでしょう。

 

実際、

「流行だから発達障害を名乗っているだけではないか」
「ただの怠けや性格の問題を障害と言い換えて、責任逃れをしているのではないか」

など、そのような批判的な意味合いで用いられることが多い言葉です。

 

ただ・・・

精神科医としてこの議論を見ていると、少し奇妙な印象を受けます。

なぜなら、この議論はしばしば「本物の発達障害」と「偽物の発達障害」という二分法を前提にしているからです。

しかし実際の診療現場では、そのように単純に割り切れることはほとんどありません。

むしろ考えるべきなのは、「なぜ人は発達障害という言葉を求めるのか」「なぜそれを嫌悪する人がいるのか」という問題です。

なぜ人は発達障害を名乗るのか

精神科外来でしばしば聞く言葉があります。

「なぜ自分だけこんなに生きづらいのでしょうか」

人間は苦しみそのものよりも、「理由のわからない苦しみ」に耐えがたい苦痛を感じます。

忘れ物が多い。
人間関係がうまくいかない。
仕事で同じ失敗を繰り返してしまう。

その理由がわからない状態は、自分自身への否定感にもつながります。

そこで発達障害という概念は、一つの説明として機能します。

「自分が怠け者だったわけではない」
「努力不足だけでは説明できなかった」

そう理解できることで救われる人も少なくありませんし、

「自分と同じ境遇の人がいる」という考えも、孤立感を和らげます。

 

実際、適切な診断によって開き直ることができ、人生が大きく変わっていくこともあります。

診断名は病名であると同時にアイデンティティになる

しかし現代では、診断名は単なる医学用語ではなくなっています。

SNS上では、

「私はADHDです」
「私はASDです」

という表現が自己紹介の一部として使われます。

本来、診断名は治療方針を考えるための道具です。

ところがSNS社会では、診断名が所属集団やアイデンティティとして機能するようになりました。

人は自分を理解したい生き物です。

そして診断名は、自分自身を説明する強力な言葉になります。

だからこそ、診断名を求める人が増えるのです。

なぜ「ファッション発達障害」は嫌われるのか

一方で、この現象に反発する人もいます。

その背景には二つの心理があるように思います。

一つは、「責任回避への違和感」です。

日本社会には、「努力によって克服すべき」という価値観が根強くあります。

そのため、

「できないのは発達障害だから」

という説明を聞くと、一部の人は責任転嫁のように感じてしまいます。

もう一つは、当事者側の違和感です。

実際に長年苦しみ、診断や支援にたどり着いた人にとっては、軽い困りごとを「ADHDあるある」として消費する風潮が、自らの苦労を軽視されているように映ることがあります。

発達障害は本来スペクトラムである

しかしここで、一つの疑問が生じます。

そもそも「本物」と「偽物」を分けることに意味はあるのでしょうか。

現在の精神医学では、発達障害はスペクトラムとして理解されています。

注意力も。
社交性も。
感覚過敏も。

白か黒かではありません。

多くの人がその中間に存在しています。

忘れ物をまったくしない人もいなければ、多少の対人不安を持たない人もいません。

違うのは程度の問題です。

そう考えると、「本物の発達障害」と「健常者」という区別は、私たちが思うほど明確なものではありません。

能力と性格は本当に別物なのか

この議論には、もう一つ見落とされがちな論点があります。

私たちは一般に、

注意力が低い
記憶力が低い

といった問題は「能力」の問題として捉えます。

一方で、

自己中心的である
感情的になりやすい
空気が読めない

といった問題は「性格」の問題として扱います。

そして前者には比較的寛容である一方、後者には厳しい評価を下しがちです。

しかし精神医学的に考えると、この区別はそれほど明確ではありません。

共感性。
衝動性。
感情調整能力。
対人関係能力。

これらもまた、生得的要因や発達過程の影響を強く受ける特性です。

注意力だけが脳機能で、共感性だけが本人の責任であると考える根拠は実はそれほど強くありません。

極端に言えば、性格もまた広い意味での能力の一部なのです。

それでも診断基準による線引きは必要である

ここまで読むと、

「それなら全員が支援対象ではないか」

という疑問が生じるかもしれません。

ある意味では、その通りです。

人は誰しも何らかの不得意さを抱えています。

生きづらさを感じている人に対して、医療や支援が役に立つ場面も少なくありません。

しかし現実には、医療・福祉・教育の資源には限りがあります。

すべての困りごとを同じ水準で公的支援の対象にすることはできません。

そのため社会は、どこかで線を引かなければなりません。

診断基準とは、「正常」と「異常」を決めるためだけのものではありません。

限られた資源をどこに優先的に投入するかを決めるための社会的ルールでもあります。

診断とは医学的真実であると同時に社会的な約束事でもある

私たちは診断名を、自然界に存在する絶対的な分類のように考えがちです。

しかし実際にはそう単純ではありません。

どの程度の困難を障害と呼ぶのか。

どの程度の支援を提供するのか。

その境界は医学だけでなく、社会や制度によっても決まります。

発達障害という概念は、脳の特性を説明するための概念であると同時に、社会資源を分配するための概念でもあるのです。

だからこそ今後は、「発達障害か否か」という単純な二分法ではなく、より実態に即した支援のあり方と、透明性の高い基準づくりが求められていくでしょう。

最後に―精神科医として考えること

「ファッション発達障害」という言葉は、他人を切り捨てるためには便利な言葉かもしれません。

しかし診療の現場で本当に重要なのは、その人が診断基準を満たしているかどうかだけではありません。

どのような困難を抱えているのか。

どのような支援が役に立つのか。

そして、どのように社会と折り合いをつけながら生きていくのか。

発達障害を「本物」と「偽物」に分けることよりも、その人の生きづらさを理解し、必要な支援を考えることの方がはるかに重要です。

たとえ、それが医療機関が助ける対象でなくても。

家族、友人など周囲の支援者、

趣味、職場、口にするもの目にするものが、

その息苦しさの助けになる可能性があります。

困り感も人それぞれ。

その重症度の違いが、ヘイトの対象にならない世の中になると、もう少し生きやすい世の中になるかも

しれませんね・・・。

それでは、ちょっと良いこと言った気分になってきたから、

おしまいにしますね。

それでは皆さん。

お大事に。

監修者
監修者プロフィール

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水聖童(Seido shimizu)

精神保健指定医/日本精神神経医学会認定専門医/認知症サポート医/コンサータ処方登録医/

参考文献

・American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR). American Psychiatric Publishing.
・Faraone, S. V., Banaschewski, T., Coghill, D., Zheng, Y., Biederman, J., Bellgrove, M. A., … Wang, Y. (2021). The World Federation of ADHD International Consensus Statement: 208 evidence-based conclusions about the disorder. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 128, 789–818.
・Lord, C., Brugha, T. S., Charman, T., Cusack, J., Dumas, G., Frazier, T., … Veenstra-VanderWeele, J. (2020). Autism spectrum disorder. Nature Reviews Disease Primers, 6(1), 5.
・World Health Organization. (2022). International statistical classification of diseases and related health problems (11th ed.). World Health Organization.

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