メンタルヘルスコラム

【専門医解説】抑肝散(ヨクカンサン)の効果・作用機序・副作用|抑肝散加陳皮半夏との違いも解説

  • 更新日:2026.09.18
  • 公開日:2026.09.18

はじめに

「以前よりイライラする」「些細なことで怒りっぽくなった」「神経が高ぶって眠れない」――
このような神経の高ぶり、易怒性、不眠に対して使用される漢方薬の一つが、
抑肝散(よくかんさん)です。

抑肝散は、古くから小児の夜泣きや神経過敏などに用いられてきた処方ですが、
現在では成人や高齢者の精神科・心療内科診療でも使用されています。
とくにイライラ、興奮、怒りっぽさ、不安を伴う神経過敏、不眠などがみられる場合に検討されることがあります。

また、認知症に伴う興奮・易怒性・攻撃性などの行動・心理症状(BPSD)に対して
使用されることもあります。ただし、BPSDそのものは抑肝散の電子添文上の効能・効果ではありません。

漢方薬というと「穏やかで副作用が少ない薬」という印象がありますが、
抑肝散には甘草による偽アルドステロン症や低カリウム血症など、
長期使用時に注意すべき副作用もあります。

このページでは、抑肝散の効果、作用機序、精神科臨床での位置づけ、
抑肝散加陳皮半夏との違い、副作用や安全な使い方について、
患者さんにもわかりやすく、専門的な内容も含めて解説します。

抑肝散とは?

抑肝散は、7種類の生薬から構成される漢方製剤です。
「抑肝」という名前は、漢方医学で情動や神経の高ぶりと関連すると考えられてきた
「肝」の働きを整えるという考え方に由来します。

現代医学的には、単一の受容体だけに作用する薬ではなく、
グルタミン酸神経系やセロトニン神経系など複数の神経伝達系を調整する可能性
が研究されています。

一般名
抑肝散(ヨクカンサン)
代表的な製品
ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)など
識別番号
TJ-54
薬効分類
漢方製剤
構成生薬
蒼朮(ソウジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・川芎(センキュウ)・
釣藤鈎(チョウトウコウ)・当帰(トウキ)・柴胡(サイコ)・甘草(カンゾウ)
効能・効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
通常の成人用量
通常1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に服用
半減期
多数の有効成分を含む漢方製剤のため、薬剤全体として単一の半減期は設定されていません

抑肝散はどのような症状に使われる?

抑肝散は特定の精神疾患だけに使用する薬というより、
神経が高ぶっている状態や、イライラ・興奮が目立つ状態をみながら
使用が検討される漢方薬です。

精神科で使用が検討される代表的な症状

  • 些細なことでイライラする
  • 怒りっぽくなった
  • 感情が高ぶりやすい
  • 神経が過敏で落ち着かない
  • 緊張や神経の高ぶりを伴う不眠
  • 認知症に伴う興奮・易怒性・攻撃性など

一方で、イライラや興奮の原因は一つではありません。
うつ病、双極性障害、発達特性、ADHD、不安症、認知症、せん妄、
身体疾患、薬剤の副作用などでも同様の症状は起こります。

そのため、抑肝散を処方する場合でも、
なぜ神経が高ぶっているのかという背景を評価することが重要です。

抑肝散の作用機序

抑肝散は多数の生薬成分を含むため、
一般的な向精神薬のように「一つの受容体に作用する薬」として
単純に説明することはできません。

現在までの研究では、とくに
グルタミン酸神経系とセロトニン神経系への作用が注目されています。

抑肝散の作用機序。グルタミン酸神経系とセロトニン神経系への作用を示した薬理学的模式図
抑肝散の主な作用機序のイメージ。複数の生薬成分が神経伝達系へ作用すると考えられています。

グルタミン酸の過剰な神経伝達を調整する

グルタミン酸は、脳内で重要な役割を担う
代表的な興奮性神経伝達物質です。

適切な量であれば記憶や学習などに不可欠ですが、
神経伝達が過剰になると、神経系の過興奮につながる可能性があります。

抑肝散については動物実験や細胞実験で、
過剰なグルタミン酸放出を抑制する作用や、
アストロサイトによるグルタミン酸取り込み機能の低下を改善する作用
が報告されています。

こうした作用が、神経の過剰な興奮を落ち着かせる働きの一部に
関係している可能性があります。

セロトニン5-HT1A受容体への作用

抑肝散に含まれる釣藤鈎由来の成分の一つに、
ゲイソシジンメチルエーテル
(geissoschizine methyl ether:GM)
があります。

GMについては、前臨床研究で
セロトニン5-HT1A受容体に対する部分作動作用
が報告されています。

5-HT1A受容体は、不安、ストレス反応、情動調節などに関係する受容体であり、
この作用が抑肝散の抗不安様作用や攻撃性抑制作用の一部に
関係している可能性があります。

5-HT2A受容体の発現を調整する

動物研究では、抑肝散を投与することによって
前頭前野のセロトニン5-HT2A受容体発現量が低下する
ことも報告されています。

5-HT2A受容体は興奮や知覚、情動などに関係する受容体ですが、
これをもって抑肝散を「抗精神病薬と同じ薬」と考えることはできません。

抑肝散はあくまで多数の成分から構成される漢方製剤であり、
複数の神経伝達系への作用が組み合わさって臨床効果につながる
と考えるのが適切です。

精神科臨床における抑肝散の位置づけ

抑肝散は、「強制的に眠らせることで興奮を抑える薬」ではありません。

精神科臨床では、
神経の高ぶりそのものを穏やかに調整する選択肢として
使用されることがあります。

抑肝散を検討しやすい場面

  • 神経過敏とイライラが目立つ
  • 怒りっぽさや興奮が繰り返される
  • 神経の高ぶりによって眠れない
  • 高齢者で過度な鎮静をできるだけ避けたい
  • 認知症に伴う興奮や易怒性への対応を検討している

ただし、症状が強い場合や緊急性がある場合には、
抑肝散だけでは十分ではないことがあります。

抗精神病薬、気分安定薬、抗不安薬などを含め、
病態に応じて適切な治療を選択する必要があります。

認知症のBPSDと抑肝散

認知症では、記憶障害や見当識障害だけでなく、
興奮、易怒性、攻撃性、幻覚、妄想、不安、睡眠障害
などがみられることがあります。

これらは、
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)
と呼ばれます。

抑肝散については、BPSDを対象とした複数の臨床試験が行われており、
ランダム化比較試験をまとめたメタ解析でも、
BPSD全体や一部の興奮・攻撃性などに対する改善が報告されています。

BPSDは抑肝散の承認効能ではありません抑肝散の電子添文上の効能・効果は、
「虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」です。
認知症やBPSDそのものは承認された効能ではありません。

また、抑肝散は認知症そのものを治療したり、
記憶力を回復させたりする薬ではありません。

BPSDでは原因検索が重要

高齢者や認知症の方に突然、
興奮や不穏、怒りっぽさが出現した場合には、
まず原因を確認する必要があります。

  • 感染症
  • 脱水
  • 便秘
  • 疼痛
  • 睡眠不足
  • 薬剤の副作用
  • せん妄
  • 生活環境の変化

こうした要因を見逃して薬だけを追加すると、
本来治療すべき原因への対応が遅れてしまう可能性があります。

抑肝散は「眠らせる薬」ではない

抑肝散は、不眠症にも使用されるため、
「睡眠薬の一種なのですか?」と質問されることがあります。

しかし、一般的なベンゾジアゼピン系睡眠薬や
オレキシン受容体拮抗薬などとは作用機序が異なります。

神経が高ぶって眠れない状態に対して、
過剰な興奮を調整することで睡眠状態の改善を目指す
という位置づけです。

一方で、抑肝散でも副作用として傾眠が報告されています。
「絶対に眠気が出ない薬」という意味ではありません。

抑肝散と抑肝散加陳皮半夏の違い

抑肝散と名前がよく似た漢方薬に、
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
があります。

基本となる処方は抑肝散に近いものですが、
陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)が加えられています。

項目 抑肝散 抑肝散加陳皮半夏
代表番号 TJ-54 TJ-83
基本構成 7種類の生薬 抑肝散を基本に陳皮・半夏を加えた処方
主な症状 神経の高ぶり、神経過敏、不眠など 神経の高ぶり、神経過敏、不眠など
漢方医学的な使い分け 神経過敏や易怒性などを中心に検討 より慢性的な経過や、胃腸虚弱傾向なども考慮して選択されることがある
甘草 含む 含む

ただし、
「胃腸が弱い人なら必ず抑肝散加陳皮半夏」
と機械的に使い分けるものではありません。

症状、体格、胃腸状態、経過などを総合して処方を選択します。

抑肝散の飲み方

ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)の場合、
成人では通常、
1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に服用します。

年齢、体重、症状によって用量は調整されます。

頓服薬とは性質が異なります抑肝散は「イライラした瞬間に飲めば数十分で効く」ということを
前提とした薬ではありません。
一回ごとの変化だけではなく、
数日から数週間単位で症状の推移をみながら効果を評価します。

効果はどのように評価する?

抑肝散を飲んでいると、
「なんとなく効いているような気がする」という評価になりやすいことがあります。

治療効果を判断するためには、
症状の頻度や強さを簡単に記録しておくと役立ちます。

確認項目 記録の例
イライラ 0~10段階で強さを記録
怒り・興奮 1週間に何回あったか
家族とのトラブル 怒鳴る、口論になるなどの頻度
睡眠 入眠までの時間、中途覚醒、睡眠時間
副作用 眠気、むくみ、脱力感、胃腸症状など

「怒りの爆発が週5回から週1回になった」など、
具体的な変化がわかると、
継続・増減・中止の判断もしやすくなります。

抑肝散の副作用

漢方薬にも副作用はあります。
とくに抑肝散では、
甘草に関連する副作用に注意が必要です。

偽アルドステロン症

抑肝散には甘草(カンゾウ)が含まれています。

甘草に含まれるグリチルリチン酸の影響により、
体内にナトリウムや水分がたまり、
カリウムが低下する
偽アルドステロン症を起こすことがあります。

注意する症状

  • 血圧上昇
  • 足などのむくみ
  • 急な体重増加
  • だるさ
  • 筋力低下
  • 手足に力が入りにくい
  • 筋肉痛
  • こむら返りや筋肉のけいれん

低カリウム血症

偽アルドステロン症に伴って、
血液中のカリウム濃度が低下することがあります。

低カリウム血症が進行すると、
脱力、筋力低下、不整脈などにつながることがあります。

長期使用する場合やリスクが高い場合には、
血清カリウム値や血圧などを定期的に確認します。

ミオパチー・横紋筋融解症

低カリウム血症が進行すると、
まれにミオパチーや横紋筋融解症を起こすことがあります。

強い脱力感、筋肉痛、筋力低下、四肢のけいれんなどがみられる場合には
注意が必要です。

心不全

体液貯留の影響によって、
心不全が起こることもあります。

急激な体重増加、息切れ、むくみなどがみられる場合には、
医療機関へ相談してください。

間質性肺炎

頻度は不明ですが、
間質性肺炎も重大な副作用として記載されています。

発熱、咳、息苦しさなどがみられた場合には、
服用を続けたまま様子をみず、医療機関へ相談してください。

肝機能障害・黄疸

AST、ALT、γ-GTPなどの上昇を伴う
肝機能障害や黄疸が起こることがあります。

その他の副作用

  • 発疹・発赤・かゆみ
  • 食欲不振
  • 胃部不快感
  • 悪心
  • 下痢
  • 傾眠
  • 倦怠感

甘草を含むほかの薬との併用に注意

抑肝散を使用するときに特に確認したいのが、
ほかの漢方薬との重複です。

たとえば、
芍薬甘草湯、補中益気湯、六君子湯などにも甘草が含まれています。

甘草を含む製剤を複数使用すると、
グリチルリチン酸の総摂取量が増え、
偽アルドステロン症や低カリウム血症のリスクが高くなる可能性があります。

他院から処方されている漢方薬、市販薬、健康食品なども含め、
使用しているものは医師や薬剤師に伝えてください。

高齢者で使用するときの注意点

抑肝散は高齢者にも使用される機会の多い漢方薬ですが、
高齢になるほど腎機能や心機能などの生理機能が低下しやすくなります。

電子添文でも高齢者については、
減量するなど注意することとされています。

とくに、
むくみ、心疾患、低カリウム血症の既往、
利尿薬使用、複数の漢方薬の併用などがある場合には注意が必要です。

胃腸が弱い方での注意

抑肝散は、すべての体質に適するわけではありません。

電子添文では、
著しく胃腸が虚弱な方では
食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などが起こることがあるとされています。

また、すでに食欲不振、悪心、嘔吐がある場合には、
症状が悪化する可能性があります。

抑肝散が合わないこともある

抑肝散は、すべてのイライラや興奮に効く薬ではありません。

たとえば、
躁状態、重度の精神病症状、せん妄、薬物離脱、重度の不安症状
などでは、別の治療が優先されることがあります。

また、十分な期間使用しても改善がみられない場合には、
電子添文上も漫然と継続せず、
処方を見直すことが求められています。

よくある質問

抑肝散は睡眠薬ですか?

一般的な睡眠薬とは異なります。
ただし、神経が高ぶることによる不眠症は
承認された効能の一つです。

抑肝散はすぐに効きますか?

ベンゾジアゼピン系抗不安薬のような
即効性を前提とした頓服薬とは異なります。

症状や目的によって異なりますが、
一定期間使用しながら症状の頻度や程度を評価します。

認知症に効きますか?

認知症そのものや記憶障害を改善する薬ではありません。

認知症に伴う興奮、易怒性、攻撃性などの
BPSDに対する臨床研究がありますが、
BPSDは電子添文上の承認効能ではありません。

抑肝散を飲むと眠くなりますか?

強い鎮静を目的とする薬ではありませんが、
副作用として傾眠が報告されています。

長期間飲んでも大丈夫ですか?

長期使用されることもありますが、
甘草を含むため、
低カリウム血症、血圧上昇、むくみなどには注意が必要です。

必要に応じて血液検査や血圧測定を行いながら使用します。

食前に飲み忘れたらどうすればよいですか?

自己判断でまとめて2回分を服用することは避けてください。
飲み忘れた場合の対応は、処方した医師や薬剤師の指示に従ってください。

まとめ

抑肝散は、神経の高ぶり、イライラ、不安を伴う神経過敏、
不眠などに使用される漢方薬
です。

薬理学的には、
グルタミン酸放出の抑制や取り込み機能の改善、
セロトニン5-HT1A受容体・5-HT2A受容体などへの作用が研究されています。

精神科臨床では、
認知症に伴う興奮や易怒性などのBPSDに使用されることもありますが、
BPSDそのものは承認された効能ではありません。

一方で、甘草を含むため、
偽アルドステロン症、低カリウム血症、浮腫、
血圧上昇、ミオパチーなど
には注意が必要です。

「漢方だから副作用がない」と考えるのではなく、
効果と安全性の両方を確認しながら使用することが重要です。

執筆者
執筆者プロフィール
ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)電子添文. 株式会社ツムラ / 医薬品医療機器総合機構(PMDA).

・Takeda A, et al. Neurochemical mechanisms of the action of yokukansan involving glutamate neurotransmission. Neurochem Int. 2008;53:230-235.

・Kawakami Z, et al. Neuroprotective effect of yokukansan and its effect on glutamate uptake in cultured astrocytes. Neuroscience. 2009;159:1397-1407.

・Egashira N, et al. Yokukansan inhibits serotonin 2A receptor-mediated behavioral responses and down-regulates cortical 5-HT2A receptors. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2008;32:1516-1520.

・Nishi A, Yamaguchi T, Sekiguchi K, et al. Geissoschizine methyl ether, an alkaloid in Uncaria hook, is a potent serotonin 1A receptor agonist and candidate for amelioration of aggressiveness and sociality by yokukansan. Neuroscience. 2012;207:124-136.

・Ueki T, et al. Serotonin Receptor Binding Characteristics of Geissoschizine Methyl Ether, an Indole Alkaloid in Uncaria Hook. Curr Med Chem. 2018;25.

・Matsunaga S, Kishi T, Iwata N. Yokukansan in the Treatment of Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: An Updated Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Alzheimers Dis. 2016;54(2):635-643.

・ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒(医療用)電子添文. 株式会社ツムラ / 医薬品医療機器総合機構(PMDA).

・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.

・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.

・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.

上部へスクロール