メンタルヘルスコラム

【精神科専門医解説】加味逍遥散の効果・作用機序・副作用|更年期・PMSのイライラや不安に

  • 更新日:2026.09.19
  • 公開日:2026.09.19

「月経前になるとイライラや不安が強くなる」「更年期になってから気分が不安定になり、のぼせや冷えも気になる」「身体の不調と気分の変化が一緒に起こる」――このような状態に用いられる代表的な漢方薬の一つが、加味逍遥散(かみしょうようさん)です。

精神科・心療内科では、特に更年期や月経周期に関連して、イライラ、不安、抑うつ気分、感情の揺れ、不眠などがみられ、同時に疲れやすさ、肩こり、冷え、のぼせ、発汗などの身体症状を伴う場合に処方を検討することがあります。

また、PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)だけでなく、もともと存在する精神疾患が月経前に悪化する月経前増悪(PME:premenstrual exacerbation)は、精神科診療で重要な視点です。

ただし、加味逍遥散は「女性の不安なら何でも効く薬」でも、「天然の抗うつ薬」でもありません。精神疾患そのものに対する標準治療と、月経・更年期に関連する症状への治療を区別しながら使用することが重要です。

この記事のポイント
・更年期や月経に関連したイライラ・不安・気分変動に用いられる代表的な漢方薬
・精神症状と、冷え・のぼせ・肩こり・疲労などが混在する場合に検討しやすい
・PMS・PMDDには臨床的使用実績と予備的な臨床研究がある
・うつ病、パニック症、摂食障害、境界性パーソナリティ障害などでは月経前増悪(PME)にも注意する
・ツムラ24は甘草あり/麻黄なし/柴胡あり/大黄なし/山梔子あり
・甘草による偽アルドステロン症と、山梔子長期使用時の腸間膜静脈硬化症に注意する

加味逍遥散とは?

加味逍遥散は、柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷の10種類の生薬から構成される漢方製剤です。

婦人科領域では、当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸が、いわゆる「女性の三大漢方」として知られています。

この中でも加味逍遥散は、単に月経症状や冷えだけでなく、精神不安、イライラ、気分変動などの精神神経症状が目立つ場合に特徴があります。

一般名
加味逍遙散(加味逍遥散)
代表的製品
ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)
識別番号
TJ-24
薬効分類
漢方製剤
効能・効果
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症
通常の成人用量
1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間
半減期
多成分製剤のため、製剤全体として単一の半減期は設定されていません
精神科で注目する症状
イライラ、不安、気分変動、不眠、月経前・更年期の精神症状
甘草
あり|1日量中1.5g
麻黄
なし
柴胡
あり|1日量中3.0g
大黄
なし
山梔子
あり|長期使用では腸間膜静脈硬化症に注意
加味逍遥散で特に確認したい生薬

甘草・柴胡・山梔子が含まれています。甘草を含む他の漢方薬やグリチルリチン製剤との重複、山梔子含有製剤の長期使用には特に注意します。

加味逍遥散を構成する10種類の生薬

生薬 漢方医学的な位置づけ 処方上のポイント
柴胡 気分の緊張や「気」の滞りを整える処方に用いられる 精神症状との関連で注目される構成生薬
芍薬 血を養い、筋緊張や痛みを整えると考えられてきた 月経関連処方に広く含まれる
蒼朮 水分代謝や消化機能を整える 製剤・処方系統によって白朮を用いる場合もある
当帰 「血」を補い、月経関連症状を整える 女性の漢方処方に多く使用
茯苓 水分代謝・胃腸機能を整える 比較的幅広い漢方処方に含まれる
山梔子 熱感、のぼせ、精神的な高ぶりを整える 長期使用時の腸間膜静脈硬化症に注意
牡丹皮 「瘀血」や熱感を伴う状態に用いられる 妊娠中は特に注意
甘草 処方全体を調和させる目的などで使用 偽アルドステロン症・低K血症に注意
生姜 胃腸機能を整える 悪心や胃部不快感なども確認
薄荷 「気」の滞りや熱感を整える 柴胡とともに精神的緊張への作用が意識される

加味逍遥散の作用機序

加味逍遥散は多数の生薬成分を含むため、SSRIやベンゾジアゼピン系薬のように、特定の単一受容体への作用だけで説明できる薬ではありません。

医療用加味逍遥散の電子添文でも、作用機序は明確ではないとされています。

加味逍遥散の作用機序
加味逍遥散の作用機序の概念図。HPA系・セロトニン神経系・神経可塑性などへの作用が研究されていますが、ヒトにおける作用機序がすべて確立しているわけではありません。

ストレス反応とHPA系

女性ホルモンの変動と慢性的なストレスは、視床下部―下垂体―副腎皮質系(HPA系)を含むストレス応答系に影響します。

動物実験では、加味逍遥散によってストレス負荷に伴う内分泌・行動変化が調節されることが報告されており、精神神経症状への作用機序の一つとして研究されています。

セロトニン神経系

前臨床研究では、加味逍遥散と5-HT1A受容体を含むセロトニン神経伝達との関連も研究されています。

特に、女性ホルモン変動を模した動物モデルなどで、情動・不安に関係する神経回路への作用が示唆されています。

CREB・BDNFなど神経可塑性との関連

一部の基礎研究では、PKA-CREB-BDNF系など、神経可塑性やストレス応答に関係するシグナル伝達系への影響も報告されています。

「セロトニンを増やす漢方」と説明するのは正確ではありません

HPA系や5-HT1A受容体、BDNFなどへの作用は主として基礎研究から示唆されているものです。SSRIと同じ機序の薬として説明することはできません。

漢方医学ではどう考える?

漢方医学では、精神的ストレスや月経・更年期に伴う変化によって「気」や「血」が滞り、さらに「熱」が加わることで、イライラ、のぼせ、月経症状などが生じると考えます。

柴胡・薄荷などで気の滞りを整え、当帰・芍薬などで血に関係する不調を調節し、山梔子・牡丹皮によって熱感や高ぶりを整える、というのが伝統医学的な理解です。

「肝=自律神経」ではありません

漢方医学の「肝」「気」「血」「熱」は伝統医学上の概念です。現代医学の肝臓・自律神経・ホルモン系などと完全に対応するものではなく、両者を区別して理解する必要があります。

精神科ではどのような場合に使用する?

加味逍遥散は、精神科では単独の精神疾患名だけで選ぶというより、月経周期や更年期との関連、身体症状、精神症状の組み合わせをみながら検討します。

1.更年期に伴うイライラ・不安・抑うつ気分

精神科で最も典型的な使用場面の一つです。

  • 以前より怒りっぽくなった
  • 些細なことで感情が揺れる
  • 漠然とした不安が増えた
  • 気分が落ち込みやすくなった
  • 神経が高ぶる
  • 眠りが浅くなった
  • 同時にほてり・発汗・冷えなどがある

このように、精神神経症状と血管運動神経症状・身体症状が混在する更年期障害は、加味逍遥散が検討されやすい状態です。

2.PMS(月経前症候群)

PMSでは、月経前にイライラ、不安、気分の落ち込み、食欲変化、眠気・不眠、乳房の張り、むくみなど、精神症状と身体症状が周期的に現れます。

日本の産婦人科診療では、加味逍遥散はPMSに使用される代表的な漢方処方の一つです。

また、日本でもPMSを対象とした加味逍遥散の臨床研究が行われています。

3.PMDD(月経前不快気分障害)

PMDDはPMSより精神症状が強く、月経前に著しい抑うつ、イライラ、感情不安定、不安などが現れ、仕事・学業・対人関係に大きな支障をきたす状態です。

加味逍遥散については、PMDD患者30例を6月経周期治療した小規模オープン試験があり、19例(63.3%)で黄体期後期のHAM-Dスコアが50%以上改善し、14例(46.7%)が寛解基準を満たしたと報告されています。

PMDDへのエビデンスは「予備的」です

この研究にはプラセボ対照群がなく、30例の小規模pilot studyです。そのため、「加味逍遥散がPMDDに確実に有効」とまでは言えません。

PMDDではSSRIなど、よりエビデンスが確立している治療があります。症状の重症度や希望に応じて、婦人科治療も含めて選択します。

月経前増悪(PME)という考え方

精神科ではPMS・PMDDだけでなく、もともと存在する精神疾患の症状が月経前に悪化する月経前増悪(PME:premenstrual exacerbation)も重要です。

PMDDでは月経前に症状が出現し、月経後にはほぼ消失します。

一方PMEでは、もともとの精神症状が月経周期を通じて存在しながら、黄体期から月経周辺期にさらに悪化するという違いがあります。

PMDD PME
基本状態 月経前に症状が出現 もともとの精神疾患が存在
月経前 精神症状が明確に出現・増悪 基礎疾患の症状がさらに増悪
月経後 症状は大きく軽快または消失 基礎疾患の症状は残る
治療 PMDDそのものへの治療 基礎疾患の治療+月経周期への対応

うつ病と月経前増悪

うつ病では、月経前に抑うつ、不安、易刺激性、疲労などが悪化する患者さんがいます。

2024年のレビューでは、治療を求める閉経前女性の大うつ病患者の中に、月経前の症状増悪を訴える人が多いことが報告されています。

ただし、うつ病そのものに対して加味逍遥散を抗うつ薬の代わりとして使用するわけではありません。

不安症・パニック症と月経周期

月経前に不安、緊張、動悸などが強くなる場合があります。

特にパニック症では、前向き研究をまとめた系統的レビューでも月経周辺期の症状増悪が報告されています。

ただし、全般性不安症やパニック症そのものに対する加味逍遥散の有効性が確立しているわけではありません。

月経周期と症状が明確に連動する場合に、基礎疾患の標準治療と並行して月経関連症状への治療を検討します。

境界性パーソナリティ障害と月経前増悪

境界性パーソナリティ障害(BPD)では、感情不安定、怒り、不安、抑うつ、衝動性などが月経周期の影響を受けることがあります。

BPD女性を月経周期に沿って前向きに観察した研究では、多くの精神症状が黄体期に悪化し、月経周辺期にピークとなることが確認されています。

そのため、BPDで自傷、過量服薬、強い怒り、衝動性などが毎月ほぼ同じ時期に悪化する場合には、月経周期との関連を確認することが臨床的に重要です。

加味逍遥散は「自傷を止める薬」ではありません

BPDの自傷行為そのものに対して、加味逍遥散の有効性を確認した臨床試験はありません。

一方、月経前に精神症状が明らかに悪化する患者では、PMDD・PMEなどの月経随伴症状に対する治療の一環として加味逍遥散を検討する余地があります。

自傷リスクが高い場合には、危機介入、環境調整、境界性パーソナリティ障害に対する心理療法など、基礎疾患への治療を優先します。

摂食障害と月経前増悪

摂食障害でも、月経周辺期に過食、食欲変化、情動不安定などが悪化するケースがあります。

前向き研究をまとめた系統的レビューでは、摂食障害についても月経周辺期に症状が悪化するエビデンスが報告されています。

ただし、加味逍遥散が神経性過食症・過食性障害などの摂食障害そのものを治療するわけではありません。

月経前に過食衝動や情動不安定が繰り返し悪化する場合に、PMEという視点から補助的な治療を考えることがあります。

月経前の不眠

PMS・PMDDや更年期では、イライラ、不安、ほてりなどとともに睡眠が浅くなることがあります。

加味逍遥散は一般的な睡眠薬のように直接睡眠を誘導する薬ではありませんが、月経・更年期に関連する心身の不調全体が改善することで、睡眠状態が改善する場合があります。

慢性的な不眠が独立して存在する場合には、不眠障害として評価します。

「女性のメンタルなら当帰芍薬散」ではないの?

当帰芍薬散も非常に重要な女性の漢方薬ですが、精神神経症状を中心に考えると、加味逍遥散の方が典型的なことがあります。

処方 典型的な特徴 精神科的な見方
当帰芍薬散 虚弱、冷え、めまい、むくみ、疲れやすさ 精神症状そのものより冷え・虚弱・水分代謝が前景
加味逍遥散 多彩な症状、イライラ、不安、のぼせ、冷え、月経症状 精神神経症状+婦人科・自律神経様症状が混在
桂枝茯苓丸 比較的体力あり、瘀血、冷えのぼせ、月経痛 精神症状は比較的軽く、身体所見が中心
精神症状が強ければ加味逍遥散を考えやすい

日本産婦人科医会でも、加味逍遥散は「精神安定作用のある処方」の一つとして位置づけられています。

特に、症状が日によって変わる、多彩な不定愁訴がある、イライラ・不安と冷え・のぼせが混在するといった場合には、加味逍遥散が候補になります。

抑肝散との違い

抑肝散もイライラや神経の高ぶりに使用されるため、精神科では加味逍遥散と比較されることがあります。

加味逍遥散 抑肝散
中心症状 イライラ・不安・気分変動+婦人科症状 神経過敏・怒り・興奮・不眠
月経・更年期 重要な処方対象 必須ではない
身体症状 冷え・のぼせ・肩こりなど 神経の高ぶりがより前景
代表的な精神科使用 更年期、PMS/PMDD、月経前増悪 易怒性、神経症、不眠、BPSDなど

半夏厚朴湯との違い

半夏厚朴湯は、不安と身体症状が結びついているという意味では加味逍遥散と似ています。

ただし、半夏厚朴湯では喉のつかえ、胸のつかえ、吐き気、胃部不快感などがより特徴的です。

加味逍遥散では、月経・更年期との関連や、イライラ、のぼせ・冷えなどをより重視します。

不眠が中心なら酸棗仁湯との違いは?

酸棗仁湯は、「心身が疲れ弱って眠れない」状態に使用される処方です。

加味逍遥散では、不眠だけではなく、月経・更年期に関連したイライラ、不安、冷え・のぼせなどがセットになっていることが処方選択のヒントになります。

臨床研究ではどこまで効果が確認されている?

更年期症状の二重盲検比較試験

更年期症状を有する女性205名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、加味逍遥散群とプラセボ群の両方で症状が改善しました。

一方、8週間後のホットフラッシュ、抑うつ、不安、QOLなどについて、主要解析では加味逍遥散群とプラセボ群の明確な差は認められませんでした。

KOSMOS試験

別の多施設二重盲検試験では、主要評価項目である興奮性・易刺激性スコアの平均変化について、有意な群間差は認められませんでした。

一方、一定以上改善した患者の割合や、閉経前女性のサブグループでは加味逍遥散群に改善シグナルが報告されています。

PMDDに対するpilot study

PMDD患者30例を対象としたオープン試験では、6月経周期の加味逍遥散治療により、19例でHAM-Dが50%以上改善し、14例が寛解基準を満たしました。

ただし、対照群のない小規模研究であり、さらに質の高い臨床試験が必要です。

PMSに関する研究

PMSを対象とした加味逍遥散の研究も進められています。

海外では関連処方であるJiawei Xiaoyao pillを用いた無作為化プラセボ対照試験で、3月経周期後のPMS症状改善が報告されています。

海外製剤の研究結果をそのままTJ-24には当てはめられません

中国のJiawei Xiaoyao pillは日本の医療用加味逍遥散TJ-24と製剤・製造方法などが同一とは限りません。そのため、補助的な研究情報として理解する必要があります。

エビデンスの読み方

加味逍遥散には長い臨床使用経験がありますが、疾患や評価項目によって研究結果にはばらつきがあります。

「誰にでも効く」とも、「プラセボとの差がないから意味がない」とも単純化せず、症状と月経周期・更年期との関連を評価し、実際に本人が改善しているかを確認することが重要です。

加味逍遥散が合いやすい「証」

加味逍遥散は、一般に虚証~中間証で、精神症状と身体症状が多彩に変化する場合に使用されることが多い処方です。

  • 疲れやすい
  • 肩がこる
  • イライラ・不安がある
  • 症状が日によって変動する
  • 月経前に体調・精神状態が悪化する
  • 冷えがある
  • 一方で顔や上半身はほてる
  • 発汗しやすい
  • 月経不順・月経痛がある
  • ときに便秘傾向がある

「冷えのぼせ」は特徴の一つ

手足は冷たいのに顔や上半身は熱い、突然汗が出るなど、冷えと熱感が同時に存在する状態は加味逍遥散を検討する際の一つのヒントです。

胸脇苦満は必須ではない

柴胡を含む処方では、肋骨弓の下に抵抗や圧痛を認める「胸脇苦満」を参考にすることがあります。

ただし、加味逍遥散を処方するために胸脇苦満が必ず必要なわけではありません。

症状、体格、月経・更年期との関連、胃腸状態などを総合して判断します。

加味逍遥散の飲み方

ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)の通常用量
通常、成人では1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に服用します。年齢、体重、症状などに応じて適宜増減されます。

食前・食間に飲めなかった場合

食前または食間で処方されることが一般的ですが、飲み忘れた場合に自己判断で2回分をまとめて服用しないでください。

味がおいしければ「証に合っている」?

漢方診療では飲みやすさや味の感じ方を参考にする医師もいますが、「おいしく感じたから効く」「苦いから合わない」と医学的に判断できるわけではありません。

症状の改善、副作用、服薬継続性などを総合して評価します。

どのくらいで効果を判断する?

初期確認
2~4週
副作用・初期変化を確認
効果判定
4~8週
症状の頻度・強さを比較
改善なし
再評価
漫然投与を避ける

精神科臨床では、まず2~4週間程度で副作用や初期的な変化を確認することが多く、その後も症状の推移をみながら継続の妥当性を判断します。

PMS・PMDDやPMEを評価する場合には、単なる印象だけではなく、月経周期と症状を記録することが非常に重要です。

可能であれば2周期以上の記録を行うと、PMDDと基礎疾患のPMEを区別する助けになります。

加味逍遥散の副作用

漢方薬は天然由来の成分を使用していますが、副作用がない薬ではありません。

偽アルドステロン症・低カリウム血症

加味逍遥散には甘草が含まれています。

甘草に含まれるグリチルリチン酸の影響によって、ナトリウムと水分が体内にたまり、カリウムが低下する偽アルドステロン症が起こることがあります。

  • 血圧上昇
  • むくみ
  • 急な体重増加
  • だるさ
  • 筋力低下
  • 手足に力が入りにくい
  • こむら返り

ミオパチー

低カリウム血症が進行すると、脱力、筋力低下、四肢のけいれんや麻痺などを伴うミオパチーが起こることがあります。

肝機能障害・黄疸

AST、ALT、Al-P、γ-GTPなどの上昇を伴う肝機能障害や黄疸が報告されています。

強い倦怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状がある場合には医療機関へ相談してください。

腸間膜静脈硬化症

山梔子を含む漢方薬の長期使用で重要です

加味逍遥散には山梔子(サンシシ)が含まれています。

山梔子含有製剤の長期使用、特に多くは5年以上の使用例で腸間膜静脈硬化症が報告されています。

  • 腹痛
  • 下痢
  • 便秘
  • 腹部膨満
  • 便潜血陽性

長期投与する場合には、投与継続の必要性を定期的に見直し、必要に応じてCTや大腸内視鏡検査などを検討します。

胃腸症状・アレルギー症状

食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、発疹、発赤、かゆみなどが生じることがあります。

他の漢方薬との併用に注意

加味逍遥散では、特に甘草の重複に注意します。

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、酸棗仁湯などにも甘草が含まれています。

処方名ではなく「含まれる生薬」を確認します

病院から処方されている漢方薬だけでなく、市販の漢方薬、グリチルリチン製剤なども含めて医師・薬剤師へ伝えてください。

妊娠・授乳中の使用

妊娠中

電子添文では、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされています。

構成生薬である牡丹皮によって流早産の危険性があるためです。

授乳中

授乳中は、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮して使用を判断します。

更年期障害ではHRTとどう使い分ける?

ホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状に対しては、ホルモン補充療法(HRT)の有効性に関するエビデンスの方が充実しています。

したがって、加味逍遥散がHRTより優れた治療というわけではありません。

一方で、HRTが使用しにくい場合、HRTを希望しない場合、HRTを行っても精神症状や不定愁訴が残る場合などでは、漢方治療を検討することがあります。

よくある質問

加味逍遥散は抗うつ薬ですか?

いいえ。SSRIやSNRIなどの抗うつ薬とは異なる漢方製剤です。セロトニン神経系への作用が研究されていますが、抗うつ薬と同じ作用機序ではありません。

精神科でもよく使いますか?

月経前や更年期に伴うイライラ、不安、気分変動、不眠などでは使用を検討することがあります。特に精神症状と冷え・のぼせ・月経症状などが同時にみられる場合は候補になります。

PMDDにも使えますか?

使用されることがあります。小規模な臨床研究もありますが、エビデンスは限定的です。症状が強い場合にはSSRIなど標準治療も含めて検討します。

自傷行為を減らす効果はありますか?

加味逍遥散が自傷そのものを減らすことを示した臨床試験はありません。ただし、自傷や衝動性が月経前に繰り返し悪化する場合には、PMDD・PMEなど月経周期との関連を評価することが重要です。

当帰芍薬散との違いは?

当帰芍薬散は、より虚弱で冷え、めまい、むくみなどが目立つ場合に検討されます。加味逍遥散は、イライラ、不安、多彩な不定愁訴など精神神経症状がより目立つ場合に特徴があります。

眠気は出ますか?

一般的な睡眠薬のように鎮静・催眠作用を目的として使用する薬ではありません。そのため強い眠気は典型的な作用ではありませんが、体調変化には個人差があります。

イライラしたときだけ頓服できますか?

通常は頓服ではなく、一定期間継続して症状の推移を評価します。即効性の鎮静薬として使用する薬ではありません。

長期間飲み続けても安全ですか?

漫然と長期間使用することは勧められません。甘草による偽アルドステロン症に加え、山梔子含有製剤では長期使用に伴う腸間膜静脈硬化症にも注意する必要があります。

まとめ

加味逍遥散は、更年期や月経に関連する不調の中でも、イライラ、不安、気分変動などの精神神経症状と、疲労、肩こり、冷え・のぼせ、月経症状などが複合している場合に検討される代表的な漢方薬です。

女性の三大漢方の中では、当帰芍薬散が「虚弱・冷え・めまい・浮腫」寄りであるのに対し、加味逍遥散は精神神経症状や症状の変動性がより前景にある処方と理解すると、精神科臨床では整理しやすくなります。

PMS・PMDDでは実際に使用されており、PMDDについては小規模ながら臨床研究もあります。また、うつ病、パニック症、摂食障害、境界性パーソナリティ障害などでは、基礎疾患が月経前に悪化する月経前増悪(PME)が報告されています。

ただし、加味逍遥散がこれらの精神疾患そのものや、自傷・衝動性を直接治療することが確立しているわけではありません。月経周期との関連を評価し、基礎疾患への標準的治療と組み合わせて考えることが重要です。

安全面では、甘草による偽アルドステロン症・低カリウム血症・ミオパチー、肝機能障害に加え、山梔子を含むことによる長期使用時の腸間膜静脈硬化症にも注意が必要です。

月経前や更年期になると精神状態が変化する場合には、「気の持ちよう」とせず、月経周期、ホルモン変動、精神疾患、身体症状を総合的に評価することが治療につながります。

執筆者
清水聖童医師

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)電子添文.

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