メンタルヘルスコラム

【精神科専門医解説】セロクエル・ビプレッソ(クエチアピン)の効果・副作用|双極性うつ・眠気・体重増加まで

  • 更新日:2026.09.28
  • 公開日:2026.09.28

はじめに

クエチアピンは、
セロクエル、
ビプレッソ
などの商品名で使用される第二世代抗精神病薬です。

ドパミンだけでなく、
セロトニン、ヒスタミン、アドレナリンなど
複数の受容体に作用することから、
日本では
MARTA(Multi-Acting Receptor Targeted Antipsychotic)
と呼ばれることがあります。

クエチアピンの特徴は、
統合失調症に対する抗精神病作用だけではありません。
活性代謝物である
ノルクエチアピン
も薬理作用を持ち、
双極性障害のうつ症状に対する抗うつ作用にも関係すると考えられています。

また、眠気や鎮静が比較的出やすいため、
不眠や強い不安・焦燥を伴う症例では、
この性質を治療上の利点として利用できる場合があります。

一方で、
眠気、起立性低血圧、食欲増加、体重増加、血糖・脂質代謝への影響
は重要な弱点です。
特に日本では、
糖尿病の患者さんだけでなく、
糖尿病の既往歴がある患者さんにも禁忌
となっています。

この記事のポイント

  • セロクエルは国内では統合失調症に承認されています。
  • ビプレッソは双極性障害におけるうつ症状の改善に承認されています。
  • クエチアピンは5-HT2A、D2、H1、α1受容体などに作用します。
  • 活性代謝物ノルクエチアピンのNET阻害・5-HT1A部分作動作用も重要です。
  • 錐体外路症状や持続的なプロラクチン上昇は比較的起こりにくい薬です。
  • 低用量でも眠気・食欲・体重・代謝への影響は無視できません。
  • 単純な不眠症に対する睡眠薬として国内承認されている薬ではありません。

クエチアピン(セロクエル・ビプレッソ)とは?

一般名
クエチアピンフマル酸塩
代表商品名
セロクエル/ビプレッソ
薬効分類
第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
セロクエルの国内承認適応
統合失調症
ビプレッソの国内承認適応
双極性障害におけるうつ症状の改善
主な代謝酵素
CYP3A4
半減期
セロクエル:約3.5時間(国内反復投与データ)/ビプレッソ:約6.5時間
活性代謝物
ノルクエチアピン(半減期:約26.6時間)

セロクエルとビプレッソは同じ薬?

有効成分はいずれもクエチアピンですが、
セロクエルは即放性製剤、
ビプレッソは徐放性製剤です。

血中濃度の上がり方、
服用回数、
食事との関係、
そして国内で承認されている適応が異なります。

そのため、
「同じ成分だからそのまま同じ感覚で使える」
というわけではありません。

クエチアピンの作用機序

セロクエル・ビプレッソ(クエチアピン)の作用機序
クエチアピンは5-HT2A・D2・H1・α1受容体などに作用し、
活性代謝物ノルクエチアピンはNET阻害作用と5-HT1A部分作動作用を示します。

5-HT2A受容体遮断

クエチアピンは、
ドパミンD2受容体だけでなく、
セロトニン5-HT2A受容体にも作用します。

薬理学的には、
D2受容体よりも
5-HT2A受容体に対して高い親和性を持つことが特徴です。

このような受容体プロファイルは、
第一世代抗精神病薬と比較して
錐体外路症状や持続的なプロラクチン上昇が
比較的起こりにくいことに関与すると考えられています。

D2受容体遮断

統合失調症の幻覚や妄想などには、
中脳辺縁系を中心とした
過剰なドパミン神経伝達が関係すると考えられています。

クエチアピンはD2受容体を遮断することで、
過剰なドパミン神経伝達を調節し、
幻覚、妄想、まとまりにくい思考などの改善を目指します。

H1受容体遮断

ヒスタミンH1受容体への作用は、
クエチアピンの
眠気・鎮静・食欲増加
に深く関係しています。

不眠が強い患者さんでは
この鎮静作用を治療上利用できる場合がありますが、
日中の眠気や過食、体重増加につながることもあります。

α1アドレナリン受容体遮断

α1受容体遮断によって血管が拡張するため、
治療開始時や増量時には、
立ちくらみ、めまい、
起立性低血圧が生じることがあります。

活性代謝物ノルクエチアピンが重要

クエチアピンの臨床的な特徴を考えるうえで、
活性代謝物である
ノルクエチアピン
は非常に重要です。

クエチアピンは主にCYP3A4によって代謝され、
ノルクエチアピンが生成されます。

クエチアピン
→
CYP3A4による代謝
→
ノルクエチアピン
→
NET阻害+5-HT1A部分作動

ノルクエチアピンには、
ノルアドレナリントランスポーター(NET)阻害作用
と、
5-HT1A受容体部分作動作用
があります。

これはクエチアピンが
単なるドパミン遮断薬ではなく、
双極性うつに対して抗うつ効果を示す理由の一部と考えられています。

5-HT2Cや5-HT7受容体などへの作用も報告されていますが、
個々の受容体作用から
認知機能改善や概日リズム調整といった臨床効果を
直接断定するのは適切ではありません。

クエチアピンの「fast-off D2」とは?

クエチアピンの薬理を理解するときに、
fast-off D2
という考え方があります。

これは、
クエチアピンがD2受容体に結合した後、
比較的速やかに受容体から解離するという特徴です。

「受容体を長時間ふさぎ続ける」のではなく、
生理的なドパミン神経伝達が入り込める時間を残すことが、
錐体外路症状や高プロラクチン血症の少なさを説明する
一つの仮説となっています。

精神科専門医の個人的見解|「Hit-and-Run」は面白いが、万能な説明ではない

クエチアピンを
「Hit-and-Run型の抗精神病薬」
と表現することがあります。

これは臨床的な特徴を理解するうえで非常に面白い考え方です。
実際、クエチアピンではD2受容体占有が時間とともに比較的速く低下することが
PET研究などでも示されています。

一方で、
クエチアピンの低EPS性を
D2受容体からの解離速度だけで
すべて説明できるわけではありません。

5-HT2A/D2のバランス、
D2受容体占有率、
投与量、血中濃度などを含めて理解するほうが
実臨床には合っていると考えています。

「少量では睡眠、高用量では抗精神病作用」なのか?

クエチアピンについて、
「低用量では睡眠薬のように働き、
高用量では抗精神病薬として働く」
と説明されることがあります。

これは臨床感覚としてはある程度わかりやすい説明ですが、
特定の用量を境に
薬理作用が突然切り替わるわけではありません。

用量帯のイメージ 臨床的に前面に出やすい作用
低用量 H1・α1受容体作用による眠気、鎮静、起立性低血圧などが目立ちやすい
中等量 鎮静作用に加えて気分症状への作用が重要になる
より高用量 D2・5-HT2A受容体を介した抗精神病作用の重要性が高まる

25mgで眠れる=抗精神病作用も十分、ではありません

クエチアピン25mg程度で
強い眠気が出る患者さんは少なくありません。

しかし、
低用量で得られる強い鎮静と、
統合失調症を治療するために必要な抗精神病作用は
同じものではありません。

セロクエルとビプレッソの違い

項目 セロクエル ビプレッソ
有効成分 クエチアピン クエチアピン
製剤 即放性製剤 徐放性製剤
国内承認適応 統合失調症 双極性障害におけるうつ症状の改善
通常の服用回数 1日2〜3回 1日1回就寝前
食事 食事によるCmax・AUCへの明確な影響は認められていません 食後2時間以上あけて服用
血中濃度 比較的速く上昇 比較的緩徐に上昇
臨床的な役割 統合失調症治療。用量調整の自由度が比較的高い 双極性うつ。1日1回投与

ビプレッソはなぜ食後2時間以上あける?

ビプレッソは、
食事によってクエチアピンの最高血中濃度が大きく上昇します。

高脂肪食後のCmax
約2.14倍
空腹時との比較
低脂肪食後のCmax
約1.82倍
空腹時との比較

そのため、
ビプレッソは
1日1回就寝前、食後2時間以上あけて服用
します。

単に「寝る前の薬だから就寝前に飲む」というだけではなく、
食事との時間関係まで含めて服薬する薬です。

クエチアピンの効果・適応

統合失調症

セロクエルは
統合失調症に国内承認されています。

幻覚、妄想、まとまりにくい思考などの精神病症状を改善します。

クエチアピンは、
錐体外路症状や持続的な高プロラクチン血症が
比較的問題になりにくい一方で、
眠気や体重・代謝への影響とのバランスを考えて選択する薬です。

双極性障害のうつ症状

クエチアピンの臨床的位置づけを考えるうえで
特に重要なのが、
双極性障害のうつ症状
です。

日本では、
徐放性製剤であるビプレッソが
「双極性障害におけるうつ症状の改善」
に承認されています。

ビプレッソ300mg
−12.6
8週MADRS変化量
プラセボ
−10.1
8週MADRS変化量
群間差
−2.4
95%CI −4.7〜−0.2

日本人の双極I型・II型患者を対象とした国内第II/III相試験では、
ビプレッソ300mg/日は
プラセボと比較して
MADRS合計スコアを有意に改善しました。

海外でも複数の試験で
双極性うつに対する有効性が示されており、
クエチアピンは
双極性うつに対する重要な治療選択肢の一つです。

同じく双極性うつに国内適応を持つ
ラツーダ(ルラシドン)
とは、
眠気、アカシジア、体重・代謝への影響などを考えながら
使い分けます。

維持療法について

ビプレッソでは、
国内でも52週間の継続投与試験が行われています。

しかし、
国内電子添文では、

「双極性障害の維持療法における日本人での有効性及び安全性は確立していない」

と明記されています。

改善後も漫然と続ける薬とは位置づけられていません

国内電子添文では、
うつ症状が改善した場合には
クエチアピンを継続する必要性を検討し、
漫然と投与しないよう注意することが求められています。

海外の双極性障害治療における位置づけと、
日本国内の承認内容は
分けて理解する必要があります。

うつ病の増強療法に使うことはある?

海外では、
大うつ病性障害で抗うつ薬の効果が不十分な場合に、
クエチアピン徐放製剤を追加する
augmentation(増強療法)
について複数の臨床試験があります。

一方、
日本ではクエチアピンに
大うつ病性障害の承認適応はありません。

精神科専門医の個人的見解|難治性うつ病に使うことはある

難治性うつ病にクエチアピンを追加するという考え方そのものには、
海外の無作為化比較試験を含む一定の根拠があります。

私自身も、
症例によっては適応外で使用を検討することがあります。

特に、
抑うつ症状に加えて
不眠、不安、焦燥などが強い場合には、
一剤で複数の症状に作用できることが利点になることがあります。

ただし、
単に
「抗うつ薬が十分効かないのでセロクエル25mgを足す」
という使い方と、
臨床試験で検討されているクエチアピンaugmentationを
同じものとして扱うべきではありません。

適応外使用であることに加え、
眠気、体重増加、糖代謝への負担まで含めて
治療全体を考える必要があります。

クエチアピンは睡眠薬として使える?

クエチアピンは
H1受容体遮断などによって
比較的強い眠気が生じます。

実際、
睡眠に関する臨床試験をまとめたメタ解析でも、
睡眠の質や総睡眠時間の改善が報告されています。

しかし、
クエチアピンは不眠症治療薬として国内承認された薬ではありません。

「眠れる」という薬理作用があることと、
「不眠症に第一選択で使用すべき」ということは別です。

精神科専門医の個人的見解|「眠れるから追加」より「薬を整理するために使う」

クエチアピン25mg程度でも、
患者さんによってはかなり強い鎮静作用が得られます。

私自身は、
単純な不眠症だけを理由に
クエチアピンを漫然と長期処方することには慎重です。

一方で、
双極性障害や精神病症状など
クエチアピンそのものを使用する医学的理由があり、
そこに不眠、不安、焦燥が重なっている患者さんでは、

鎮静作用を治療上のメリットとして利用できる

と考えています。

睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬を次々に追加するよりも、
クエチアピンを軸として
複数の薬を減らせる症例があります。

個人的には、
「不眠にクエチアピンを足す」というより、

「クエチアピンを使うことでポリファーマシーを整理する」

場面のほうに価値を感じます。

せん妄・BPSD・パーキンソニズムでは?

クエチアピンは
錐体外路症状が比較的起こりにくく、
鎮静作用もあることから、
せん妄、
認知症の行動・心理症状(BPSD)、
パーキンソニズムを伴う患者さんの精神症状などに
適応外で使用されることがあります。

ただし、
これらは国内承認適応ではなく、
領域によって有効性のエビデンスにも限界があります。

高齢者では「少量だから安全」とは限りません

高齢者では、
12.5〜25mg程度の少量でも
眠気、起立性低血圧、転倒、誤嚥などが問題になることがあります。

また、
海外の高齢認知症患者を対象とした臨床試験では、
非定型抗精神病薬投与群で死亡率が上昇したとの報告があります。

認知症やせん妄では、
まず感染症、脱水、疼痛、便秘、薬剤、
睡眠環境などの原因を評価することが重要です。

精神科専門医の個人的見解|EPSを避けたい症例では今でも使いどころがある

パーキンソニズムなどがあり、
EPSをできるだけ避けながら
抗精神病薬を使わなければならない場面では、
クエチアピンを候補にすることがあります。

一方で、
「EPSが少ない=高齢者に安全」
ではありません。

運動症状だけでなく、
血圧、眠気、転倒、嚥下、
認知機能、代謝状態まで含めて判断する必要があります。

用法・用量

セロクエル|統合失調症

成人の通常用量

開始:
1回25mgを1日2〜3回から開始します。

通常用量:
150〜600mg/日を1日2〜3回に分けて服用します。

最大用量:
750mg/日です。

年齢や症状、
副作用などを確認しながら徐々に増減します。

ビプレッソ|双極性障害のうつ症状

成人の通常用量

開始:
50mgを1日1回から開始します。

増量:
2日以上の間隔をあけて150mgへ増量し、
さらに2日以上の間隔をあけて300mgへ増量します。

推奨用量:
300mg/日です。

服用方法:
1日1回就寝前、食後2時間以上あけて服用します。

肝機能障害のある患者さんや高齢者では、
患者さんの状態を確認しながら、
より慎重に増量します。

クエチアピンは太りやすい?

クエチアピンでは、
食欲増加、体重増加、
血糖・脂質代謝への影響が問題になることがあります。

第二世代抗精神病薬の中で比較すると、
オランザピン(ジプレキサ)
やクロザピンは
特に代謝負担が大きい薬剤です。

クエチアピンは
これらより平均的には軽いものの、
代謝的に「軽い薬」とまではいえません。

薬剤 体重・代謝への影響の目安 臨床的な特徴
オランザピン 大きい 強い鎮静・抗躁・抗精神病作用
クエチアピン 中等度〜比較的大きい 鎮静、双極性うつへの強み
レキサルティ 比較的小さい 鎮静が比較的少ない
ラツーダ 比較的小さい 双極性うつに適応。アカシジアに注意

この比較は集団平均としての傾向であり、
個々の患者さんの体重変化を予測するものではありません。

低用量なら太らない?

低用量だからといって、
代謝系副作用が完全になくなるわけではありません。

対象
<200mg/日
2025年メタ解析
平均体重変化
+0.58kg
95%CI 0.32〜0.83kg
7%以上の体重増加
2.12倍
クエチアピン使用との関連

2025年に報告された、
200mg/日未満の低用量クエチアピンを対象とする
系統的レビュー・メタ解析では、
有意な体重増加とHDLコレステロール低下が認められました。

精神科専門医の個人的見解|25mgだから体重を気にしなくてよい、とは考えない

低用量のクエチアピンでは、
抗精神病作用よりも
H1受容体などを介した眠気や食欲への作用が
臨床的に目立つことがあります。

つまり、
抗精神病薬としては非常に少量でも、
食欲増加や体重への影響まで
同じ割合で小さくなるとは限りません。

睡眠目的などで低用量を長期間使用している場合でも、
体重や代謝状態を定期的に見直す価値があると考えています。

なぜ体重が増えると考えられている?

クエチアピンによる体重増加は、
一つの受容体だけでは説明できません。

ヒスタミンH1受容体や
セロトニン5-HT2C受容体などへの作用による
食欲増加が関与すると考えられています。

さらに、
眠気が強くなることで
日中の身体活動量が低下することや、
夜間の食行動が変化することも、
患者さんによっては体重増加に関与します。

体重が増えたときの対策

薬剤性体重増加に対して、
単に
「食べすぎないでください」
と伝えるだけでは十分ではありません。

治療開始前から体重を確認し、
治療後の食欲、
間食、夜食、活動量、睡眠などの変化を
早期に把握することが重要です。

必要に応じて、
体重・BMIだけでなく、
血糖、HbA1c、脂質なども確認します。

食行動の変化が大きい場合には、
セルフモニタリングや刺激統制など
認知行動療法的な介入を取り入れることもあります。

当院では、
肥満に対する認知行動療法
CBT-OB
の考え方を用いて、
食行動や体重管理を支援することも可能です。

精神科専門医の個人的見解|行動療法だけに責任を負わせない

薬剤性体重増加に対する行動療法は有用ですが、
薬そのものが食欲や代謝に影響している以上、
体重増加を患者さんの
「意志の弱さ」
として扱うべきではありません。

明らかな体重増加がみられる場合には、
食事や運動への介入だけでなく、
クエチアピンを本当に継続する必要があるのか、
用量を変更できないか、
代謝負担の小さい薬に変更できないかまで
同時に検討するほうが合理的です。

私は、

「行動介入」と「薬剤選択」の両方を最適化する

ことが重要だと考えています。

糖尿病には特に注意が必要

糖尿病・糖尿病の既往歴がある患者さんには禁忌です

日本では、
現在糖尿病がある患者さんだけでなく、
過去に糖尿病と診断されたことがある患者さんにも
クエチアピンは禁忌です。

著しい高血糖から、
糖尿病性ケトアシドーシスや
糖尿病性昏睡などの重篤な状態に至った報告があります。

また、
糖尿病がなくても、
肥満、高血糖、糖尿病の家族歴などの
リスク因子がある場合には特に注意します。

投与中は、
血糖値の測定などを含めて十分に観察します。

実臨床では必要に応じて、
体重、BMI、HbA1c、血糖、脂質などを組み合わせて
代謝状態を確認します。

口渇、多飲、多尿、頻尿などが急に出現した場合には、
高血糖の可能性があるため、
速やかな医療機関への相談が必要です。

主な副作用

副作用 特徴
眠気・鎮静 比較的起こりやすく、翌朝まで残ることがあります。
起立性低血圧 α1受容体遮断が関与します。開始初期・増量時に特に注意します。
食欲増加・体重増加 長期治療では体重や代謝状態を確認します。
高血糖 重要な副作用です。糖尿病・糖尿病既往は国内では禁忌です。
口渇・便秘 比較的みられる副作用です。
アカシジア・振戦など 起こり得ますが、強力なD2遮断薬と比較するとEPSは比較的少ない傾向があります。
プロラクチン上昇 持続的な上昇はリスペリドン系などより比較的起こりにくい傾向があります。

まれですが重要な副作用

  • 著しい高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡
  • 低血糖
  • 悪性症候群
  • 横紋筋融解症
  • 無顆粒球症、白血球減少
  • 肝機能障害、黄疸
  • 麻痺性イレウス
  • 遅発性ジスキネジア
  • 肺塞栓症、深部静脈血栓症
  • けいれん

CYP3A4|相互作用に注意

クエチアピンは、
主として
CYP3A4
によって代謝されます。

CYP3Aを誘導する薬

フェニトインなどのCYP3A誘導薬を併用すると、
クエチアピンの血中濃度が大きく低下することがあります。

フェニトイン併用
AUC 約80%低下
外国人データ
経口クリアランス
約5倍
フェニトイン併用時

強力なCYP3A4阻害薬

強力なCYP3A4阻害薬では、
逆にクエチアピンの血中濃度が大きく上昇することがあります。

ケトコナゾール併用
Cmax 約3.35倍
外国人データ
ケトコナゾール併用
AUC 約6.22倍
外国人データ

眠気や血圧低下などが強くなる可能性があるため、
クエチアピンを処方する際には
併用薬の確認が重要です。

急に中止してもよい?

クエチアピンを急に減量・中止すると、
不眠、悪心、頭痛、下痢、嘔吐などの
中止後症状が出ることがあります。

また、
統合失調症や双極性障害そのものの再燃と
中止後症状を区別しにくくなることもあります。

自己判断で急に中止しないでください

中止する必要がある場合には、
原則として主治医と相談しながら
徐々に減量します。

精神科専門医からみたクエチアピンの使いどころ

執筆者の個人的見解

クエチアピンの大きな魅力は、
単に
「眠くなる抗精神病薬」
であることではありません。


抗精神病作用、抗うつ作用、抗不安・鎮静作用を
一剤の中である程度まとめて利用できる

ことにあります。

特に、
双極性うつに
不眠、不安、焦燥が重なっている患者さんでは、
非常に使いやすい薬の一つだと考えています。

抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬をそれぞれ追加して
ポリファーマシーになるより、
クエチアピンを治療の軸にすることで
薬剤数を減らせる場合があります。

一方で、
肥満、過食、耐糖能異常のリスクが高い患者さんや、
日中の活動性をなるべく保ちたい患者さんでは、
ラツーダや
レキサルティ
などのほうが扱いやすい場合があります。

そして、
低用量クエチアピンは非常に便利である反面、
「とりあえず25mg追加」
が積み重なりやすい薬でもあります。

長期治療では、
本当にクエチアピンが必要なのか、
クエチアピンによって他の薬を整理できているのか、
逆にクエチアピン自体が不要になっていないかを
定期的に見直すことが重要だと考えています。

ラツーダ・オランザピン・レキサルティとの使い分け

薬剤 臨床的な強み 主な注意点
クエチアピン 双極性うつ。不眠・不安・焦燥を伴う症例。EPSが比較的少ない 眠気、体重増加、血糖・脂質代謝
ラツーダ 双極性うつ。代謝負担や鎮静が比較的小さい アカシジア、食事条件
オランザピン 強い抗精神病・抗躁・鎮静作用 体重増加・糖脂質代謝への影響が特に大きい
レキサルティ 過鎮静が比較的少なく、活動性を維持しやすい アカシジアなど。双極性うつへの国内適応はない
リーマス 双極症の長期的な気分安定・再発予防で重要 TDM、腎機能、甲状腺機能などの管理が必要

よくある質問

セロクエル25mgは睡眠薬ですか?

睡眠薬として国内承認された薬ではありません。
ただし、
低用量でもH1受容体遮断などによって
強い眠気が生じることがあります。

25mgなら太りませんか?

低用量でも、
体重増加やHDLコレステロール低下などの
代謝への影響が報告されています。
「少量だから代謝副作用は起こらない」
とはいえません。

セロクエルとビプレッソはどちらが強いですか?

単純な「強い・弱い」では比較できません。
同じクエチアピンですが、
即放性と徐放性という違いがあり、
国内承認適応、用法、食事との関係、
血中濃度の推移が異なります。

クエチアピンは依存しますか?

ベンゾジアゼピン系薬剤のような
典型的な依存形成を主な問題とする薬ではありません。

ただし、
急激に中止すると
不眠、悪心、頭痛、下痢、嘔吐などの
中止後症状が起こることがあります。

ビプレッソ150mgで治療することはありますか?

国内電子添文上の承認用量は300mg/日です。
臨床試験では150mgを用いた継続投与データもありますが、
承認用量とは区別して考える必要があります。

実際の用量は、
年齢、肝機能、副作用、治療経過などを踏まえて
医師が個別に判断します。

車を運転できますか?

クエチアピンでは、
眠気、注意力・集中力、
反射運動能力の低下が起こる可能性があります。

電子添文では、
投与中は自動車の運転など
危険を伴う機械の操作に従事させないよう
注意するとされています。

まとめ

クエチアピン(セロクエル・ビプレッソ)は、
5-HT2A、D2、
H1、α1受容体など
複数の神経伝達系に作用する
第二世代抗精神病薬です。

さらに活性代謝物ノルクエチアピンには、
NET阻害作用と
5-HT1A部分作動作用があり、
双極性うつへの抗うつ作用に関与すると考えられています。

国内では、
セロクエルは統合失調症、
ビプレッソは双極性障害における
うつ症状の改善に承認されています。

クエチアピンは、
双極性うつに不眠、不安、焦燥が重なっている場合など、
複数の症状を一剤でカバーできることが
大きな臨床的利点です。

一方、
眠気、起立性低血圧、
食欲増加、体重増加、
血糖・脂質代謝への影響という
明確なトレードオフがあります。

特に、

「低用量だから安全」
「眠れるから睡眠薬として漫然と続ければよい」

と単純化しないことが重要です。

クエチアピンは、
抗精神病作用、抗うつ作用、鎮静作用と
代謝負担のバランスを理解して使うことで、
精神科臨床において非常に有用な治療選択肢となる薬です。

執筆者
清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医

引用・参考文献

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宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編.
『こころの治療薬ハンドブック 第16版』.
星和書店; 2026.

11. 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編.
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医学書院; 2016.

12. 姫井昭男.
『精神科の薬がわかる本 第5版』.
医学書院; 2024.

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