【精神科専門医解説】レカネマブ(レケンビ)の効果・作用機序・副作用|ARIAとドナネマブとの違いを解説

レカネマブ(商品名:レケンビ)は、
アルツハイマー病の脳内に蓄積する
アミロイドβ(Aβ)を標的とする
抗アミロイドβモノクローナル抗体です。
これまでのアルツハイマー病治療薬の多くは、
低下した神経伝達機能を補うことで症状を支える
「対症療法」が中心でした。
一方、レカネマブはアルツハイマー病の病態に関与するAβに直接作用し、
病気の進行そのものを緩やかにすることを目的とした疾患修飾療法(DMT)
として位置づけられます。
ただし、レカネマブは
失われた記憶を元に戻す薬でも、アルツハイマー病を治癒させる薬でもありません。
対象となるのは、
Aβ病理が確認された
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症です。
- 可溶性Aβ凝集体、特にAβプロトフィブリルを主な標的とする抗体薬
- 対象はAβ病理が確認された早期アルツハイマー病
- Clarity AD試験では18か月間のCDR-SB悪化を相対的に27.1%抑制
- 長期モデルでは、より進行した病期への移行を1~2年程度遅らせる可能性が推計されている
- 重要な副作用としてARIA(アミロイド関連画像異常)がある
- APOE ε4ホモ接合型ではARIAリスクが高い
- 点滴静注に加えて、2026年9月に週1回の皮下注製剤も国内承認された
- ドナネマブ(ケサンラ)とは標的・投与間隔・治療終了の考え方が異なる
目次
- レカネマブ(レケンビ)とは?
- レカネマブの作用機序
- レカネマブにはどのくらいの効果がある?
- レカネマブ(レケンビ)とドナネマブ(ケサンラ)の違い
- どのような患者さんが治療対象になる?
- 物忘れがあるだけではアルツハイマー病とは限らない
- アミロイドPETや脳脊髄液検査はなぜ必要?
- 治療開始前のMRIが非常に重要
- 最も重要な副作用「ARIA」
- APOE ε4とARIAリスク
- MRI検査はいつ行う?
- ARIAが見つかった場合はどうする?
- インフュージョン・リアクション
- 抗凝固薬・抗血小板薬を使用している場合
- 脳卒中を疑う症状と血栓溶解療法
- 高血圧の管理も重要
- 点滴静注と皮下注射の違い
- 従来のアルツハイマー病治療薬との違い
- 認知症の精神症状・行動症状は別に評価する
- Shared Decision Making(共同意思決定)が重要
- 治療はいつまで続ける?
- レカネマブ(レケンビ)のよくある質問
- まとめ
- 引用・参考文献
レカネマブ(レケンビ)とは?
レカネマブは、無症状の人や中等度以降まで進行したアルツハイマー病に
新たに開始する薬ではありません。
アミロイドPET、脳脊髄液(CSF)検査などによって
Aβ病理が確認されたMCI~軽度認知症が治療対象です。
レカネマブの作用機序
アルツハイマー病では、
アミロイドβ(Aβ)が脳内で異常に凝集・蓄積していくことが、
特徴的な病理変化の一つです。
Aβは単独の分子から徐々に凝集し、
小さな可溶性凝集体、オリゴマー、
プロトフィブリル、
さらにフィブリルやアミロイドプラークへと変化していきます。
レカネマブはヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、
特に可溶性Aβ凝集体であるプロトフィブリルに
選択的に結合することが特徴です。
一方、不溶性Aβフィブリルにも結合します。

① 可溶性Aβプロトフィブリルに結合
レカネマブの薬理学的特徴は、
完成したアミロイドプラークだけではなく、
その形成過程に存在する
可溶性Aβプロトフィブリルに高い選択性を持つ点です。
プロトフィブリルは神経細胞やシナプス機能への障害に関与すると考えられており、
レカネマブはこの段階のAβ凝集体を主要な標的とします。
② ミクログリアによるAβ除去を促進
レカネマブがAβ凝集体へ結合すると、
抗体のFc領域を脳内の免疫細胞である
ミクログリアが認識します。
Fc受容体を介した食作用が促進され、
Aβ凝集体が取り込まれることで、
脳内のアミロイド負荷が減少すると考えられています。
レカネマブを単に「アミロイド斑を除去する薬」と理解すると不十分です。
可溶性プロトフィブリルへの選択的結合と、
抗体で標識されたAβをミクログリアが除去する過程が、
本剤を理解するうえで重要です。
レカネマブにはどのくらいの効果がある?
レカネマブの有効性を検証した代表的研究が、
早期アルツハイマー病患者1,795人を対象とした
国際共同第III相試験
Clarity AD試験です。
レカネマブ10mg/kgを2週間に1回投与する群と
プラセボ群を18か月間比較した結果、
主要評価項目であるCDR-SBの変化は以下のようになりました。
| 18か月後 | レカネマブ | プラセボ |
|---|---|---|
| CDR-SB悪化量 | 1.21点 | 1.66点 |
| 群間差 | −0.45点 | |
| 相対的な悪化抑制率 | 27.1% | |
レカネマブ群でも18か月間にCDR-SBは平均1.21点悪化しています。
したがって、
認知機能を回復させたのではなく、認知・生活機能が悪化する速度を平均的に緩やかにした
と理解する必要があります。
同試験では、
ADAS-Cog14、ADCOMS、ADCS MCI-ADLでも
プラセボ群と比較した悪化抑制が認められ、
アミロイドPETでは脳内Aβ蓄積量も明確に減少しました。
長期的には病気の進行をどの程度遅らせる可能性がある?
Clarity ADで直接確認された治療期間は18か月ですが、
その結果とアルツハイマー病の自然経過データを組み合わせた
長期疾患進行モデルも報告されています。
代表的なモデルでは、
レカネマブ治療によって
中等度アルツハイマー病への進行が中央値で約1.86年、
重度への進行が約2.03年遅れると推計されました。
一方、施設入所までの遅延は約0.58年でした。
これらは患者を実際にその期間追跡して確認した数字ではなく、
臨床試験と自然経過データを用いたモデル推計です。
そのため、
「自立期間が1.5~2年延びる」と説明するより、
より進行した病期への移行を1~2年程度遅らせる可能性が示唆されている
と説明する方が正確です。
48か月までのオープンラベル延長試験でも、
外部対照との比較で約11~13か月の
「time saved」に相当する差が報告されています。
ただし18か月以降はランダム化プラセボ比較ではないため、
長期効果は18か月までのRCTデータと区別して解釈する必要があります。
レカネマブ(レケンビ)とドナネマブ(ケサンラ)の違い
現在、日本では早期アルツハイマー病に対する抗Aβ抗体として、
レカネマブ(レケンビ)と
ドナネマブ(ケサンラ)
が使用されています。
両剤ともAβ病理へ直接介入する疾患修飾療法ですが、
標的とするAβの状態、投与方法、治療を終了する考え方
には重要な違いがあります。
| 比較項目 | レカネマブ (レケンビ) |
ドナネマブ (ケサンラ) |
|---|---|---|
| 抗体の主な標的 |
可溶性Aβ凝集体 特にプロトフィブリル |
沈着したAβプラークに存在する N3pG Aβ |
| 薬理学的イメージ |
プラーク形成前~形成過程の 凝集Aβを主に標的 |
すでに沈着した成熟プラークを 主に標的 |
| 国内適応 |
Aβ病理が確認された MCI・軽度認知症 |
Aβ病理が確認された MCI・軽度認知症 |
| 主要試験での認知機能範囲 |
MMSE 22~30 CDR 0.5~1 |
国内適正使用では主に MMSE 20~28、CDR 0.5~1を考慮 |
| 点滴投与 |
10mg/kg 2週間に1回 約1時間 |
350mg → 700mg → 1050mg → 1400mg 4週間に1回 少なくとも30分 |
| 皮下注製剤 |
あり 500mgを週1回 |
国内では点滴静注製剤 |
| 治療終了の考え方 |
6か月ごとに臨床効果を評価しながら継続 Aβ除去だけを理由とした投与完了規定はない |
Aβプラーク除去が確認された場合は投与完了 除去されなくても原則最長18か月 |
| Aβ PETの役割 | 治療開始時のAβ病理確認が重要 |
治療開始時の確認に加え、 治療終了判断にも利用 |
| 定期MRI (点滴製剤) |
5・7・14回目投与前 +3回目投与前も望ましい |
2・3・4・7回目投与前 +その後も定期的に実施 |
| ARIA |
重要な有害事象 APOE ε4でリスク上昇 |
重要な有害事象 APOE ε4でリスク上昇 |
| 代表的第III相試験 | Clarity AD | TRAILBLAZER-ALZ 2 |
| 代表的な有効性指標 |
18か月CDR-SB悪化を 27.1%相対的に抑制 |
76週iADRS低下を 試験全体で22.3%、 低~中等度タウ群で35.1%相対的に抑制 |
レカネマブのClarity ADと、
ドナネマブのTRAILBLAZER-ALZ 2では、
対象患者、タウ病理、主要評価尺度、治療期間、統計解析方法が異なります。
レカネマブの27.1%はCDR-SB、
ドナネマブの35.1%は低~中等度タウ群におけるiADRSから算出された数値であり、
異なる臨床試験の相対的進行抑制率をそのまま横並びにして、
どちらが強い薬かを判断することはできません。
最大の違い①:狙っているAβの「段階」が異なる
レカネマブは、
Aβが大きなプラークになる前の
可溶性プロトフィブリルを主な標的とします。
これに対して
ドナネマブ(ケサンラ)
は、
成熟したアミロイドプラークに多く存在する
N末端第3残基がピログルタミル化されたAβ(N3pG Aβ)
を主に標的とします。
つまり両剤とも「Aβを除去する抗体」ですが、
Aβ凝集のどの段階を主に認識するかが異なる
と理解すると分かりやすいでしょう。
最大の違い②:ドナネマブには「治療完了」という考え方がある
両剤の実臨床上の大きな違いが、
治療をいつまで続けるかという点です。
ドナネマブでは、
治療中にアミロイドPETなどで
Aβプラークの除去が確認された場合、その時点で投与を完了します。
Aβプラーク除去が確認されない場合でも、
原則として最長18か月で投与完了を検討します。
一方レカネマブには、
ドナネマブのように
「PETでAβプラークが除去されたら治療終了」
という投与完了規定はありません。
ドナネマブは
「蓄積したプラークを一定水準まで除去し、投与を完了する」
という治療設計が特徴です。
レカネマブは
「Aβ凝集体への介入を継続しながら病期進行を抑える」
という性格がより強く、
6か月ごとを目安に臨床症状・認知機能を評価しながら継続可否を判断します。
最大の違い③:ドナネマブではタウ病理の理解も重要
TRAILBLAZER-ALZ 2では、
タウPETを用いて患者を層別化しており、
特に低~中等度タウ蓄積群で
iADRS低下を35.1%相対的に抑制しました。
日本の実臨床でタウPETがすべての患者に一律必須というわけではありませんが、
ドナネマブの臨床試験結果を理解する際には
Aβだけではなくタウ病理の進行度も患者選択に関係していた
ことを理解しておく必要があります。
ドナネマブの作用機序、現在の漸増投与法、
ARIA管理、治療終了基準については、
ドナネマブ(ケサンラ)の効果・作用機序・副作用
で詳しく解説しています。
どのような患者さんが治療対象になる?
日本では、
厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに基づいて
投与対象を慎重に判断します。
| 項目 | 主な基準・確認事項 |
|---|---|
| 病期 | アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症 |
| MMSE | 原則として22点以上 |
| CDR | 全般スコア0.5または1 |
| Aβ病理 | アミロイドPETまたはCSF検査等で確認 |
| MRI | 1.5T以上のMRIによる評価が可能であること |
| 治療意思 | 本人・家族等が治療効果とリスクを理解していること |
臨床試験には年齢の組み入れ基準がありましたが、
「50歳以上であること」自体が独立した国内投与要件ではありません。
病期、認知機能、Aβ病理、MRI所見、身体状態などを総合して判断します。
物忘れがあるだけではアルツハイマー病とは限らない
物忘れや集中力低下は、
アルツハイマー病だけで生じるわけではありません。
うつ病、睡眠障害、せん妄、薬剤、
甲状腺疾患、ビタミン欠乏、
脳血管障害などでも
認知機能低下がみられることがあります。
現在の症状から情報を探したい場合は、
精神科・心療内科|症状・お悩みから探す
もご参照ください。
また、一般に「スマホ認知症」と呼ばれる状態は
アルツハイマー病とは異なる概念です。
詳しくは
スマホ認知症とは?症状・原因・対策
で解説しています。
アミロイドPETや脳脊髄液検査はなぜ必要?
レカネマブはAβそのものを標的とするため、
治療開始前に
「認知機能低下の背景にAβ病理が存在するか」
を確認する必要があります。
- アミロイドPET
- 脳脊髄液(CSF)検査
- 承認された同等の診断方法
などによってAβ病理を確認し、
臨床症状・認知機能評価と組み合わせて
アルツハイマー病と診断します。
精神疾患や神経発達症を含む疾患情報については、
精神科・心療内科|疾患・特性から探す
もご利用ください。
治療開始前のMRIが非常に重要
レカネマブでは、
治療前から存在する脳微小出血や
脳アミロイド血管症を示唆する所見が、
治療中のARIAや脳出血リスクと関連します。
そのため、
治療開始前1年以内のMRIを用いて
安全性を評価します。
- 血管原性脳浮腫
- 5個以上の脳微小出血
- 脳表ヘモジデリン沈着症
- 1cmを超える脳出血
これらが認められる場合、
レカネマブは投与できません。
最も重要な副作用「ARIA」
抗Aβ抗体治療で特に重要なのが、
ARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities:
アミロイド関連画像異常)です。
| 種類 | 意味 | 主なMRI所見 |
|---|---|---|
| ARIA-E | Edema / Effusion | 脳浮腫・滲出液貯留 |
| ARIA-H | Hemosiderin | 脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着など |
Clarity AD試験では、
レカネマブ群で
ARIA-E 12.6%、
ARIA-H 16.5%
が報告されました。
症候性ARIA-Eは2.8%、
症候性ARIA-Hは1.4%でした。
多くのARIAは無症候性であり、
定期MRIではじめて発見されます。
- 頭痛
- 錯乱・急な認知状態の変化
- めまい
- 視覚障害
- 吐き気
- 歩行障害・ふらつき
- けいれん
- 言葉が出にくい
- 片側の筋力低下
このような症状が現れた場合は、
次回予約を待たず速やかな評価が必要です。
APOE ε4とARIAリスク
APOE ε4は
アルツハイマー病の発症リスクに関連する遺伝的因子ですが、
抗Aβ抗体治療ではARIAリスクを評価するうえでも重要です。
特にAPOE ε4を2コピー持つ
APOE ε4ホモ接合型では、
ARIAの発現頻度が高くなります。
| APOE ε4 | ARIA-E | ARIA-H |
|---|---|---|
| ノンキャリア | 5.4% | 11.9% |
| ヘテロ接合型 | 10.9% | 14.0% |
| ホモ接合型 | 32.6% | 39.0% |
APOE ε4ホモ接合型であっても、
それだけでレカネマブが使用できなくなるわけではありません。
一方でARIAリスクは明らかに高いため、
治療開始前のAPOE遺伝子検査を考慮し、
利益とリスクをより慎重に検討します。
MRI検査はいつ行う?
ARIAは無症候性でも発生するため、
症状の有無だけで安全性を判断することはできません。
| 時期 | MRI |
|---|---|
| 治療開始前 | 1年以内の最新MRI |
| 3回目投与前 | 実施が望ましい |
| 5回目投与前 | 実施 |
| 7回目投与前 | 実施 |
| 14回目投与前 | 実施 |
| それ以降 | 定期的に実施 |
| ARIA疑い症状出現時 | 時期にかかわらず速やかに実施 |
特に治療開始前から脳微小出血がある患者、
高血圧がある患者などでは、
3回目投与前MRIを積極的に考慮します。
ARIAは
治療開始後14週間以内に多くみられるため、
治療初期の管理が特に重要です。
ARIAが見つかった場合はどうする?
ARIAが見つかったからといって、
すべての患者で直ちに永久中止になるわけではありません。
| ARIA | 基本的な対応 |
|---|---|
| 軽度・無症候性 | 慎重に評価し、投与継続を検討できる場合がある |
| 中等度以上のARIA-E | 画像所見が消失するまで投与中断 |
| 中等度以上のARIA-H | 画像所見が安定化するまで投与中断 |
| 症候性ARIA | 症状消失と画像改善・安定化まで投与中断 |
| 重度ARIA・大きな脳出血 | 投与中止を含め治療方針を再検討 |
インフュージョン・リアクション
点滴静注では、
Infusion reaction(注入に伴う反応)
も比較的よくみられます。
Clarity AD試験では約26%に認められ、
頭痛、悪寒、発熱、吐き気などがみられることがあります。
症状が生じた場合には、
点滴速度の減速や一時中断を行い、
必要に応じて次回投与時の前投薬などを検討します。
抗凝固薬・抗血小板薬を使用している場合
レカネマブでは脳微小出血や脳出血が問題となるため、
出血リスクを高める可能性のある薬を使用している場合には
慎重な評価が必要です。
- ワルファリン
- ヘパリン
- アピキサバンなどのDOAC
- アスピリン
- クロピドグレル
- アルテプラーゼなどの血栓溶解薬
これらの薬を使用している場合でも、
患者さん自身の判断で中止してはいけません。
抗血栓療法が必要となった背景疾患と、
レカネマブ治療の利益・出血リスクを個別に評価します。
脳卒中を疑う症状と血栓溶解療法
ARIAでは、
言語障害、片麻痺、視覚障害、意識変容など、
急性脳梗塞と似た神経症状を呈することがあります。
レカネマブ治療中に急性神経症状が生じた場合には、
血栓溶解療法を行う前に
症状がARIAによる可能性も考慮する必要があります。
患者向け治療カード等を携帯し、
救急隊や他院の医療者にも
レカネマブ治療中であることを伝えることが重要です。
高血圧の管理も重要
高血圧は脳出血リスクに関係するため、
治療開始前から血圧を確認します。
高血圧が持続する場合には、
レカネマブ治療だけでなく、
血圧そのものを適切に治療・管理すること
が重要です。
点滴静注と皮下注射の違い
レケンビは従来の点滴静注製剤に加え、
2026年9月に「レケンビ皮下注250mgペン」が国内承認
されました。
| 比較 | 点滴静注 | 皮下注ペン |
|---|---|---|
| 1回量 | 10mg/kg | 500mg |
| 頻度 | 2週間に1回 | 週1回 |
| 投与方法 | 約1時間の点滴 | 250mgペンを2本皮下注 |
| 体重による調整 | あり | 固定用量 |
| 投与場所 | 医療機関 | 条件を満たせば在宅投与も検討 |
皮下注製剤によって投与そのものの負担軽減は期待できますが、
Aβ除去作用やARIAリスクがなくなるわけではありません。
自己注射になっても専門医による経過観察やMRI管理は必要です。
在宅自己投与について
皮下注製剤では、
適切な条件を満たした場合には
患者本人または家族・介護者による
在宅自己投与が検討されます。
- 医師による自己投与の妥当性評価
- 患者・家族・介護者への教育訓練
- 副作用と対処法についての理解
- 確実に投与できることの確認
- 定期的な医療機関での安全性評価
などが必要であり、
「皮下注製剤=完全な在宅治療」という意味ではありません。
従来のアルツハイマー病治療薬との違い
ドネペジル、ガランタミン、
リバスチグミン、メマンチンなどは、
主として神経伝達機能を調節することで
認知症症状や生活機能を支える薬です。
一方レカネマブは、
Aβというアルツハイマー病の病態に関係する分子そのものを標的
とします。
| 従来の認知症治療薬 | レカネマブ | |
|---|---|---|
| 主な標的 | 神経伝達機能 | アミロイドβ |
| 位置づけ | 主として対症療法 | 疾患修飾療法 |
| Aβ除去 | 基本的になし | あり |
| Aβ病理確認 | 通常不要 | 必要 |
| MRIモニタリング | 通常不要 | 必要 |
なお、
「脳循環改善薬」などと説明される薬が、
すべてアルツハイマー病に対する疾患修飾薬というわけではありません。
例えば
ニセルゴリン(サアミオン)
はレカネマブとは治療の位置づけが大きく異なります。
精神科で使用される薬物療法・心理療法・その他の治療については、
精神科・心療内科|治療・支援から探す
でまとめています。
認知症の精神症状・行動症状は別に評価する
アルツハイマー病では、
認知機能低下だけでなく、
不眠、焦燥、興奮、易怒性、妄想などの
BPSD(認知症の行動・心理症状)
が問題となることがあります。
レカネマブはBPSDを直接抑えるための薬ではありません。
疼痛、環境変化、せん妄、身体疾患、
薬剤など症状の背景を評価したうえで、
必要に応じて別の治療を組み合わせます。
BPSDに対して精神科臨床で使用されることのある漢方薬については、
抑肝散加陳皮半夏
でも解説しています。
Shared Decision Making(共同意思決定)が重要
レカネマブ治療では、
医学的に投与可能かどうかだけでなく、
患者さん本人と家族が治療によって何を維持したいのか
を確認することが重要です。
治療によって期待されるのは、
認知機能を元通りにすることではなく、
今後の認知機能・生活機能の低下を平均的に緩やかにすることです。
- アルツハイマー病を治癒させる薬ではないこと
- 平均的には進行を緩やかにする効果が示されていること
- 「1~2年の進行遅延」は長期モデルによる推計を含むこと
- 定期的なMRIが必要であること
- ARIAや脳出血などのリスクがあること
- 長期間の治療継続が必要となる可能性があること
- レカネマブとドナネマブでは投与方法・治療戦略が異なること
- 本人がどのような生活機能を維持したいと考えているか
- 家族・介護者が通院や治療を支援できるか
認知機能低下によりセルフケアや生活管理が難しくなる状態については、
セルフネグレクト
も関連するテーマです。
治療はいつまで続ける?
Clarity AD試験は18か月で評価されていますが、
「18か月経過すればレカネマブを必ず終了する」という意味ではありません。
治療中は
6か月ごとを目安に認知機能検査と臨床症状を評価し、
病状や認知症の重症度などから
有効性が期待できないと判断される場合には
投与中止を検討します。
また、
治療中に中等度以降の認知症へ進行した患者に
レカネマブを継続した場合の有効性は確立していません。
ドナネマブ(ケサンラ)
では、
アミロイドPETなどでAβプラーク除去を確認した場合に
治療を完了するという明確な考え方があります。
レカネマブには同様の投与完了基準はありません。
レカネマブ(レケンビ)のよくある質問
いいえ。
アルツハイマー病を治癒させたり、
失われた記憶を元に戻したりする薬ではありません。
早期アルツハイマー病の進行を平均的に緩やかにする治療です。
18か月間のCDR-SB悪化量が、
プラセボ群より相対的に27.1%少なかったという意味です。
認知機能が27.1%改善したという意味ではありません。
長期疾患進行モデルでは、
中等度・重度アルツハイマー病への進行時期が
1~2年程度遅れる可能性が推計されています。
ただし、
臨床試験と自然経過データに基づくモデル推計であり、
患者さん一人ひとりについて保証された期間ではありません。
現時点では、
Clarity ADとTRAILBLAZER-ALZ 2の
相対的な進行抑制率を単純比較して、
どちらが優れているとは判断できません。
両試験では対象患者、主要評価尺度、
タウ病理、治療期間などが異なります。
標的Aβ、投与頻度、ARIAリスク、治療終了の考え方などを含めて
個別に治療を選択する必要があります。
ケサンラについては
ドナネマブ(ケサンラ)の解説
をご参照ください。
いいえ。
Aβ病理だけでなく、
MCI~軽度認知症という病期、
MMSE・CDR、
MRI所見、
身体疾患、服用薬などを総合して判断します。
APOE ε4を保有していることだけで治療が禁止されるわけではありません。
ただし特にε4ホモ接合型ではARIAリスクが高いため、
より慎重に利益とリスクを評価します。
いいえ。
ARIAは治療開始後に発生する可能性があるため、
治療中にも決められた時期にMRIを繰り返します。
抗凝固薬や抗血小板薬では、
脳出血が生じた際に出血を助長する可能性があります。
自己判断で中止せず、
抗血栓療法が必要な理由も含めて個別に判断します。
条件を満たした場合には在宅自己投与が検討されます。
ただし医師による適格性判断と教育訓練が必要であり、
自己注射になってもMRIなどのARIA管理は必要です。
まとめ
レカネマブ(レケンビ)は、
可溶性Aβプロトフィブリルを中心とするAβ凝集体に結合し、
ミクログリアによるAβ除去を促進する
抗アミロイドβモノクローナル抗体です。
対象は
Aβ病理が確認されたアルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症
であり、
病気を治癒させたり、
すでに失われた認知機能を元に戻したりする治療ではありません。
Clarity AD試験では、
18か月後のCDR-SB悪化量を
プラセボと比較して相対的に27.1%抑制しました。
さらに長期モデルでは、
より進行した病期への移行を
1~2年程度遅らせる可能性が推計されていますが、
これは実測値ではなくモデル推計として理解する必要があります。
同じ抗Aβ抗体である
ドナネマブ(ケサンラ)
とは、
主な標的Aβ、投与間隔、
アミロイドPETの位置づけ、
治療終了の考え方などが異なります。
両剤の臨床試験で報告された進行抑制率を直接比較して、
単純に優劣を判断することはできません。
レカネマブ治療では
ARIAと脳出血の管理が非常に重要です。
治療開始前・治療中のMRI、
APOE ε4、
脳微小出血、
血圧、
抗凝固薬・抗血小板薬などを含めた
慎重な安全管理が求められます。
2026年9月には週1回の皮下注製剤も承認され、
治療方法の選択肢は広がりました。
しかし、
投与方法が簡便になっても、
適応判断・MRI・ARIA管理の重要性は変わりません。
医療法人社団燈心会 理事長
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