【精神科専門医解説】ドナネマブ(ケサンラ)の効果・作用機序・副作用|アルツハイマー病の進行を抑える治療薬

目次
- はじめに
- ドナネマブ(ケサンラ)とは?
- ドナネマブの作用機序
- ドナネマブとレカネマブは何が違う?
- ドナネマブにはどの程度の効果がある?
- どのような患者さんが治療対象になる?
- 投与開始前のMRIで確認すること
- ドナネマブの投与方法
- ドナネマブはいつまで続ける?
- 最も重要な副作用「ARIA」とは?
- MRI検査はいつ行う?
- APOE ε4とARIAリスク
- ARIAが見つかったらどうする?
- 抗凝固薬・血栓溶解薬を使用する場合
- 高血圧にも注意する
- Infusion reactionとは?
- 「アミロイドが消える」と「アルツハイマー病が治る」は別
- 精神科医が知っておきたいポイント
- 患者さん・ご家族に知っておいてほしいこと
- よくある質問
- まとめ
- 引用・参考文献
はじめに
ドナネマブ(商品名:ケサンラ)は、
アルツハイマー病の脳内に蓄積した
アミロイドβ(Aβ)プラークを標的とする抗体医薬品です。
従来の認知症治療薬が主として認知機能や日常生活機能を支える「対症療法」であるのに対し、
ドナネマブはアルツハイマー病の病理そのものに介入し、
病気の進行速度を遅らせることを目的とした疾患修飾療法に位置づけられます。
ドナネマブは、沈着したアミロイドβプラークを除去することで、
アルツハイマー病による認知機能・日常生活機能の低下を緩やかにする薬です。
対象はアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症で、
治療にはアミロイドβ病理の確認が必要です。
同じ抗アミロイドβ抗体である
レカネマブ(レケンビ)
とは、標的とするAβの状態、投与方法、アミロイドPETの位置づけ、
治療終了の考え方などに重要な違いがあります。
ドナネマブ(ケサンラ)とは?
ドナネマブは、
N末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβ(N3pG Aβ)
を認識するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。
N3pG Aβは、主として脳内に沈着したアミロイドβプラークに存在します。
ドナネマブはこの構造へ結合し、
ミクログリアなどの免疫機構を介して
アミロイドβプラークの除去を促進すると考えられています。
ドナネマブ(遺伝子組換え)
ケサンラ点滴静注液350mg
ヒト化抗N3pGアミロイドβモノクローナル抗体製剤
アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制
初回350mg、2回目700mg、3回目1050mg、その後1400mgを4週間隔で点滴静注
少なくとも30分かけて点滴静注
単回投与時:約8~10日/母集団薬物動態解析:約12.1日
アミロイドβプラーク除去を確認した場合に投与完了を検討できる
「認知症を治す薬」ではありません
ドナネマブは、すでに失われた記憶を元に戻したり、
アルツハイマー病を完全に治癒させたりする薬ではありません。
臨床試験で確認されているのは、
認知機能や日常生活機能が低下していく速度を緩やかにする効果です。
「病気の時計を巻き戻す」というより、
「時計の進み方を遅くする」と考える方が実態に近い治療です。
ドナネマブの作用機序
アルツハイマー病では、認知症症状が明らかになる以前から、
脳内にアミロイドβが蓄積していくと考えられています。

ミクログリアなどを介したプラーク除去を促進します。
① アミロイドβプラークが形成される
脳内でアミロイドβが凝集すると、
徐々にアミロイドβプラークとして沈着します。
② N3pG Aβを標的とする
ドナネマブはアミロイドβすべてに均一に結合する抗体ではなく、
主として成熟したプラークに存在する
N3pG Aβを認識します。
③ ミクログリアによる除去を促す
ドナネマブがプラークへ結合すると、
抗体のFc領域をミクログリアなどが認識し、
アミロイドβの取り込み・除去が促進されます。
ドナネマブとレカネマブは何が違う?
現在、日本で早期アルツハイマー病に使用できる代表的な抗アミロイドβ抗体が、
ドナネマブ(ケサンラ)と
レカネマブ(レケンビ)
です。
どちらも、アミロイドβ病理が確認された
アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症に対して、
病気の進行を緩やかにすることを目的とする疾患修飾療法です。
一方で、
標的とするAβの状態、投与方法、治療を終了する考え方には大きな違い
があります。
| 比較項目 | ドナネマブ (ケサンラ) |
レカネマブ (レケンビ) |
|---|---|---|
| 主な標的 | 沈着したAβプラークに存在する N3pG Aβ |
可溶性Aβ凝集体、特に Aβプロトフィブリル |
| 薬理学的イメージ | すでに沈着した成熟プラークを主に標的 | プラーク形成前~形成過程の凝集Aβを主に標的 |
| 国内適応 | Aβ病理が確認された MCI・軽度認知症 |
Aβ病理が確認された MCI・軽度認知症 |
| 点滴投与 | 350 → 700 → 1050 → 1400mg 4週間に1回 少なくとも30分 |
10mg/kg 2週間に1回 約1時間 |
| 皮下注製剤 | 国内では点滴静注製剤 | 500mgを週1回 250mgペン×2本 |
| 治療終了の考え方 | Aβプラーク除去を確認した場合に投与完了 除去されなくても原則18か月が一つの区切り |
Aβ除去だけを理由とした投与完了規定はなく、 6か月ごとを目安に臨床効果を評価しながら継続 |
| Aβ PETの役割 | 治療開始時の病理確認に加え、 治療終了判断にも利用 |
主として治療開始前のAβ病理確認に重要 |
| 定期MRI | 2・3・4・7回目投与前 その後も定期的に実施 |
5・7・14回目投与前 3回目投与前も積極的に検討 |
| 代表的第III相試験 | TRAILBLAZER-ALZ 2 | Clarity AD |
| 代表的有効性指標 | 76週iADRS低下を 全体で22.3%、 低~中等度タウ群で35.1%相対的に抑制 |
18か月CDR-SB悪化を 27.1%相対的に抑制 |
| 重要な副作用 | ARIA・infusion reaction | ARIA・infusion reaction 皮下注では注射部位反応にも注意 |
「35.1% vs 27.1%」で薬の優劣を判断することはできません
ドナネマブのTRAILBLAZER-ALZ 2と、
レカネマブのClarity ADでは、
対象患者、主要評価尺度、治療期間、タウ病理による患者選択、
解析方法などが異なります。
ドナネマブの35.1%は
低~中等度タウ群におけるiADRS、
レカネマブの27.1%は
全試験集団におけるCDR-SBの相対的進行抑制率です。
異なる試験の数字を横並びにして
「35%の方が27%より効く」と解釈することはできません。
違い①:標的とするアミロイドβの段階が異なる
レカネマブは、
Aβが大きなプラークとして沈着する前から存在する
可溶性Aβ凝集体、とくにプロトフィブリルへの結合性が高い薬剤です。
これに対しドナネマブは、
成熟したアミロイドβプラークに多く存在する
N3pG Aβを標的とします。
プロトフィブリルを主に標的とします。
N3pG Aβを主に標的とします。
違い②:ドナネマブには「投与完了」という考え方がある
実臨床上、両剤の最も分かりやすい違いの一つが
治療をいつまで続けるかです。
ドナネマブでは、
治療中にアミロイドPETなどで
アミロイドβプラークの除去が確認された場合、
その時点で投与を完了します。
一方、
レカネマブには、
「Aβプラークが除去されたら治療終了」という
ドナネマブと同様の投与完了規定はありません。
治療戦略そのものが少し異なります
ドナネマブは、
「蓄積したプラークを除去し、治療を完了する」
という治療設計が特徴です。
レカネマブは、
「Aβ凝集体への介入を継続しながら、病気の進行を抑える」
という性格がより強く、
臨床症状や認知症の重症度を定期的に評価しながら継続の妥当性を判断します。
違い③:通院頻度はドナネマブの方が少ない
点滴静注で比較すると、
ドナネマブは4週間に1回、
レカネマブは2週間に1回です。
そのため点滴治療だけを比較すれば、
ドナネマブは通院・点滴回数が少なく、
患者さんやご家族の通院負担を抑えやすいという特徴があります。
ただし、2026年9月にはレカネマブに
週1回500mgを皮下注射する「レケンビ皮下注250mgペン」
が日本でも承認されました。
250mgペンを1回2本使用し、
適切な教育・管理条件を満たせば、
患者さん本人またはご家族・介護者による在宅投与も選択肢となります。
皮下注になってもARIA管理が不要になるわけではありません
レカネマブの皮下注製剤は通院・点滴負担を軽減できる可能性がありますが、
抗アミロイドβ抗体としてのARIAリスクがなくなるわけではありません。
定期MRIや認知機能評価を含む専門医療機関でのフォローアップは引き続き必要です。
違い④:アミロイドPETの役割が異なる
両剤とも治療開始前には、
アミロイドPETやCSF検査などによって
アミロイドβ病理を確認する必要があります。
しかし、ドナネマブではアミロイドPETが
治療を開始するためだけではなく、
投与を完了するかを判断するためにも使用される
という特徴があります。
この意味で、ドナネマブでは
アミロイドPETが治療前診断だけでなく、
治療目標の達成を確認する検査としても位置づけられます。
違い⑤:MRIモニタリングのタイミングも異なる
両剤ともARIAを早期に発見するため、
治療開始後に複数回のMRIが必要です。
| ドナネマブ | レカネマブ点滴静注 | |
|---|---|---|
| 初期MRI | 2・3・4回目投与前 | 3回目投与前を積極的に考慮 |
| その後 | 7回目投与前+その後定期的 | 5・7・14回目投与前+その後定期的 |
| 症状出現時 | 時期にかかわらず速やかにMRIを検討 | |
ARIA発生率も単純比較してはいけない
Clarity ADではレカネマブ群で
ARIA-E 12.6%、ARIA-H 16.5%が報告されています。
一方、現在の漸増法を用いたドナネマブのAACQ試験では、
ARIA-E 15.6%、ARIA-H 25.5%でした。
この数字から「レカネマブの方が安全」とは結論できません
ARIA発生率は、
対象患者の背景、APOE ε4保有率、MRI評価方法、
投与レジメン、試験デザインなどによって影響を受けます。
両薬剤を直接比較した無作為化試験の結果ではないため、
異なる試験のARIA発生率を単純に横並びにして
安全性の優劣を判断することは適切ではありません。
ドナネマブにはどの程度の効果がある?
ドナネマブの代表的な臨床試験が、
早期アルツハイマー病患者1,736人を対象とした
TRAILBLAZER-ALZ 2試験です。
76週時点で、認知機能と日常生活機能を組み合わせて評価するiADRSの低下は、
プラセボ群と比較して、
試験全体で22.3%、低~中等度タウ蓄積群で35.1%相対的に抑制
されました。
iADRS低下を相対的に抑制
iADRS低下を相対的に抑制
「35.1%認知機能が改善する」という意味ではありません
低~中等度タウ蓄積群では、76週時点のiADRS変化量は
ドナネマブ群−6.02、プラセボ群−9.27でした。
つまり両群とも認知機能・生活機能は時間とともに低下していますが、
ドナネマブ群では低下の程度が小さかったという結果です。
主要な有効性試験は現在の漸増法そのものを検証した試験ではありません
TRAILBLAZER-ALZ 2では、
最初の3回を700mg、その後1400mgとする
初回承認時の投与方法が使用されました。
現在の
350mg → 700mg → 1050mg → 1400mg
という漸増法は、
その後ARIAを減らす目的で検討・導入されたものです。
有効性データと現在の投与方法の根拠は分けて理解します
TRAILBLAZER-ALZ 2はドナネマブの有効性を示した主要試験ですが、
現在の漸増投与法そのものによって35.1%という数字が得られたわけではありません。
どのような患者さんが治療対象になる?
ドナネマブは、アルツハイマー病と診断されれば
誰にでも使用できる薬ではありません。
| 評価項目 | 主な基準・考え方 |
|---|---|
| 病期 | アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症 |
| MMSE | 原則として20~28点を基本に評価 |
| CDR | 0.5または1 |
| Aβ病理 | アミロイドPET、CSF検査などで確認 |
| MRI | 投与前にARIA・微小出血・脳出血などを確認 |
| タウPET | 国内では一律に必須とはされていない |
無症候者や中等度以降の認知症に新たに開始する薬ではありません
アミロイドβ病理が陽性であっても認知機能障害がない人や、
すでに中等度以上まで進行したアルツハイマー病患者へ
ドナネマブを新たに開始することは現在の承認範囲ではありません。
投与開始前のMRIで確認すること
ドナネマブ治療では、ARIAや脳出血リスクを評価するため、
治療開始前のMRIが非常に重要です。
投与開始前の主な画像上の禁忌
・血管原性脳浮腫がある
・5個以上の脳微小出血がある
・脳表ヘモジデリン沈着症がある
・1cmを超える脳出血がある
また、重度の白質病変などが認められる場合も、
治療による利益とARIA・脳出血などのリスクを慎重に評価する必要があります。
ドナネマブの投与方法
現在の日本では、ARIAをできるだけ抑えるため、
少量から段階的に増量します。
いずれも少なくとも30分かけて点滴静注します。
なぜ350mgから少しずつ増やすのか?
ドナネマブは当初、
700mgを3回投与してから1400mgへ増量する方法で承認されました。
その後のAACQ試験では、
24週までのARIA-E発現率が、
350mgから段階的に増量する群で13.7%、
従来法で23.7%でした。
現在はARIAリスクを抑えるため漸増法が採用されています
この結果などを踏まえ、
日本でも2025年8月から
350mg → 700mg → 1050mg → 1400mg
という現在の投与方法へ変更されています。
ドナネマブはいつまで続ける?
ドナネマブが従来の認知症治療薬と大きく異なる点の一つが、
アミロイドβプラークが十分に除去された場合に投与を完了できる
ことです。
アミロイドβプラークの除去が確認できない場合には、
原則として18か月まで治療を継続できます。
18か月を超えて投与する場合には、
認知機能、日常生活機能、アルツハイマー病の病期、
アミロイドPET所見、ARIAを含む安全性などを改めて評価し、
治療継続の妥当性を慎重に判断します。
Centiloid 11・25とは?
TRAILBLAZER-ALZ 2では治験上、
1回でも11 Centiloid未満、
または連続2回で11以上25未満
となった場合にアミロイド除去基準を満たしたとして、
ドナネマブ投与を終了するプロトコルが採用されました。
実臨床ではCentiloidの数字だけで投与終了を決めるわけではありません
現在の国内診療では、
アミロイドPETによってアミロイドβプラークの除去を確認し、
臨床状態なども含めて投与完了を判断します。
最も重要な副作用「ARIA」とは?
ドナネマブ治療でもっとも重要な安全性上の問題が、
ARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities:アミロイド関連画像異常)
です。
| 分類 | 主な病態 | MRIで確認する所見 |
|---|---|---|
| ARIA-E | 脳浮腫・滲出液貯留 | FLAIR高信号など |
| ARIA-H | 出血性変化 | 脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着など |
現在の漸増法で報告されているARIA
ARIAは「薬が効いている証拠」ではありません
ARIAは抗アミロイドβ抗体治療と関連して生じる有害事象ですが、
治療効果の指標ではありません。
画像上の重症度と症状の有無に応じて、
治療継続、一時中断または中止を判断します。
ARIAでみられることがある症状
ARIAは投与開始後24週間以内に多く、
重篤なARIAは特に最初の12週間以内に多いため、
治療初期には特に慎重な観察が必要です。
MRI検査はいつ行う?
ARIAは症状がなくてもMRIによって初めて発見されることがあります。
そのため、ドナネマブ治療では定期的なMRI検査が
治療そのものの一部になります。
MRIモニタリングの目安
・投与開始前:原則1年以内のMRIを確認
・2回目投与前
・3回目投与前
・4回目投与前
・7回目投与前
・その後:6か月に1回
・ARIAを疑う症状がある場合:予定外でもMRIを検討
APOE ε4とARIAリスク
ドナネマブ治療を考えるうえで重要なのが
APOE ε4です。
APOE ε4を持つ患者ではARIAの頻度が高く、
特にAPOE ε4/ε4ホモ接合型で
ARIA-E・ARIA-Hとも高頻度となることが知られています。
| APOE ε4 | ARIA-E | ARIA-H |
|---|---|---|
| 非保有 | 15.7% | 18.8% |
| ヘテロ接合型 | 23.2% | 32.5% |
| ホモ接合型 | 41.3% | 50.3% |
これらはTRAILBLAZER-ALZ 2で得られたデータであり、
現在の漸増投与法とは投与方法が異なる点には注意が必要です。
治療前のAPOE遺伝子検査を考慮します
現在の電子添文では、ARIAリスク管理のため、
原則として投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮
することとされています。
ただし、APOE遺伝子型はARIAリスクだけでなく、
アルツハイマー病の遺伝的リスクについても情報を与える可能性があります。
検査の意味について十分な説明を受けたうえで実施することが重要です。
ARIAが見つかったらどうする?
対応は、
ARIA-EかARIA-Hか、MRI上の重症度、症状の有無
によって異なります。
| 状態 | 基本的な対応 |
|---|---|
| 軽度・無症候性 | 慎重な評価のうえで治療継続を検討できる場合がある |
| 中等度以上 | 原則として投与を中断し、MRIで経過を確認 |
| 症候性ARIA | 投与中断または中止を検討 |
| 重度ARIA | 投与中断または中止を検討し、必要な治療を行う |
| 1cmを超える脳出血 | 投与中止 |
症候性または重度のARIA-Eでは、
状態に応じてコルチコステロイドなどによる治療が検討される場合があります。
抗凝固薬・血栓溶解薬を使用する場合
ドナネマブではARIA-Hや脳出血が問題になるため、
ワルファリンやDOACなどの抗凝固薬、
血栓溶解薬などを使用する際には特に注意が必要です。
ARIAは脳卒中に似た症状を呈することがあります
言語障害、視覚障害、意識障害、局所神経症状などが出現した場合、
虚血性脳卒中だけでなくARIAの可能性も考える必要があります。
救急受診した際にドナネマブ治療中であることが分からなければ、
治療判断に影響する可能性があります。
そのため、患者さんは治療カードを常に携帯することが重要です。
高血圧にも注意する
高血圧は一般に脳出血のリスク因子です。
ドナネマブ治療前には血圧を確認し、
高血圧が持続している場合には適切に治療することが重要です。
治療開始後も、ARIAや脳出血だけに注意するのではなく、
血圧など通常の脳血管リスク管理を継続します。
Infusion reactionとは?
点滴中または点滴終了後には、
infusion reaction(輸注反応)が起こることがあります。
現在の漸増投与法を用いた試験では、
infusion reactionは17.9%に報告されています。
多くは点滴中または点滴終了後早期に生じるため、
投与終了後も少なくとも30分間は状態を観察します。
「アミロイドが消える」と「アルツハイマー病が治る」は別
ドナネマブによってアミロイドPET上のアミロイドβプラークが大きく減少しても、
アルツハイマー病そのものが完全に治癒したことを意味するわけではありません。
アルツハイマー病ではアミロイドβだけでなく、
タウ病理、神経細胞障害、脳萎縮など複数の病態が関与します。
Aβプラーク除去 = アルツハイマー病の治癒ではありません
治療の最終目的はアミロイドβを除去することそのものではなく、
その介入によって将来的な
認知機能・日常生活機能の低下速度を緩やかにすることです。
精神科医が知っておきたいポイント
抗アミロイドβ抗体治療は、
神経内科や認知症専門外来だけに関係する治療ではありません。
精神科外来では、
「最近もの忘れが増えた」
「仕事の段取りが悪くなった」
「意欲が低下した」
「うつ病として治療しているが改善しない」
といった訴えを入口として、
早期アルツハイマー病が見つかることがあります。
単に「もの忘れがあるからアミロイドPETを行う」のではなく、
認知機能低下の原因を丁寧に評価したうえで、
抗アミロイドβ抗体治療の対象となり得る患者を適切な時期に専門診療へつなぐこと
が重要です。
患者さん・ご家族に知っておいてほしいこと
ドナネマブ治療では、患者さん本人だけでなく、
ご家族・介護者も治療について理解しておくことが重要です。
治療開始前に共有しておきたいこと
・治癒ではなく進行抑制を目的とする治療であること
・定期的なMRI検査が必要になること
・ARIAという特有の副作用があること
・APOE遺伝子検査を検討する場合があること
・ARIAなどにより途中で休薬・中止する可能性があること
・治療カードを携帯すること
また、ドナネマブはMRI、アミロイドPET、ARIAへの対応などについて
一定の要件を満たした医療機関で実施する治療です。
すべての精神科や認知症外来で投与できる薬ではありません。
よくある質問
Q. ドナネマブを使えば記憶力は元に戻りますか?
基本的には、失われた記憶を元に戻す治療ではありません。
臨床試験で確認されているのは、
認知機能や日常生活機能が低下していく速度を
プラセボより緩やかにする効果です。
Q. アルツハイマー病なら誰でも治療できますか?
いいえ。
日本で新たに治療を開始できるのは、
アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症で、
アミロイドβ病理が確認されている患者さんです。
Q. 一生点滴を続ける必要がありますか?
必ずしも一生続ける治療ではありません。
アミロイドβプラークの除去が確認された場合には、
その時点で投与を完了します。
除去が確認されない場合には原則18か月が一つの重要な評価点となり、
それを超える治療では継続の妥当性を改めて評価します。
Q. レカネマブとドナネマブはどちらの方が効きますか?
現在の臨床試験データだけから、
一方がもう一方より有効であると単純に判断することはできません。
レカネマブとドナネマブでは、
対象患者、評価尺度、タウ病理、治療期間などが異なる試験で検証されています。
治療選択では、投与頻度、MRI所見、ARIAリスク、通院負担、
アミロイドPETによる治療終了戦略などを総合して判断します。
Q. APOE遺伝子検査は必ず必要ですか?
現在の電子添文ではARIAリスク管理のため、
原則として投与開始前に
APOE遺伝子検査の実施を考慮することとされています。
検査を行う場合には、
ARIAリスクだけでなく遺伝情報を知ることの意味についても
十分な説明を受けたうえで判断します。
Q. MRIでARIAが見つかったら必ず治療中止になりますか?
必ずしも永久中止になるわけではありません。
ARIAの種類、MRI上の重症度、症状の有無によって、
継続、一時中断または中止を判断します。
ただし、1cmを超える脳出血が確認された場合には投与を中止します。
Q. アミロイドPETが陰性になれば認知症は治ったことになりますか?
いいえ。
アミロイドβプラークが除去されても、
すでに生じている神経細胞障害、タウ病理、脳萎縮などが
すべて元に戻るわけではありません。
アミロイドβプラークの除去と、
アルツハイマー病の治癒は区別して考える必要があります。
まとめ
ドナネマブ(ケサンラ)は、
アルツハイマー病の脳内に蓄積する
N3pG Aβを含むアミロイドβプラークを標的とする抗体医薬品です。
対象となるのは、アミロイドβ病理が確認された
アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症です。
臨床試験では、
認知機能・日常生活機能が低下していく速度を
プラセボより緩やかにすることが示されましたが、
失われた認知機能を元に戻したり、
アルツハイマー病を完全に治癒させたりする薬ではありません。
現在は
350mg → 700mg → 1050mg → 1400mg
と4週間ごとに段階的に増量し、
その後1400mgを4週間隔で投与します。
ドナネマブの特徴の一つが、
アミロイドβプラークの除去を確認した場合に投与を完了できる
という治療概念です。
同じ疾患修飾療法である
レカネマブ(レケンビ)
とは、
標的とするAβ、投与間隔、投与経路、
アミロイドPETの位置づけ、治療終了戦略が異なります。
レカネマブには2026年9月から週1回の皮下注製剤も加わり、
治療選択では単なる有効性の数字だけでなく、
通院負担や治療継続方法まで含めて考える必要があります。
一方、両薬剤とも重要な副作用としてARIAがあり、
APOE ε4、MRI所見、抗凝固薬などを含めた
慎重なリスク評価と継続的なMRI管理が必要です。
抗アミロイドβ抗体治療では、
治療可能な早期段階で患者さんを見つけ、
期待できる効果と治療の限界を患者さん・ご家族と共有し、
それぞれの薬剤の特徴に合わせて治療を選択すること
が重要です。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). ケサンラ点滴静注液350mg 電子添文. 2026年8月改訂(第6版).
・厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン ドナネマブ(遺伝子組換え).
・Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330(6):512-527.
・Mintun MA, Lo AC, Duggan Evans C, et al. Donanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2021;384:1691-1704.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). レケンビ点滴静注200mg/500mg 電子添文. 2026.
・厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え).
・van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.
・エーザイ株式会社/Biogen Japan Ltd. レケンビ皮下注250mgペン 国内承認情報. 2026.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
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