【精神科専門医解説】デパケン(バルプロ酸ナトリウム)の効果・副作用|双極性障害の躁状態・血中濃度・使い分けを精神科医が解説

目次
はじめに
デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)は、
てんかん治療薬としてだけでなく、精神科では
双極症(双極性障害)の躁状態を治療する代表的な気分安定薬です。
急性躁状態に対する有効性が確立しており、特に躁症状が強い場合や、
混合性の特徴を伴う場合には重要な選択肢となります。
一方、体重増加、高アンモニア血症、肝障害、血小板減少、
妊娠・生殖に関する問題など、長期治療では注意すべき点も少なくありません。
このページでは、作用機序、血中濃度(TDM)、他の気分安定薬との使い分け、
妊娠・生殖関連リスクまで、患者さんにも医療従事者にも役立つ形で解説します。
デパケンの要点
- 双極症の躁状態に対する代表的な気分安定薬
- 混合性の特徴を伴う躁状態でも重要な選択肢
- 国内添付文書上の有効血中濃度は40~120µg/mL
- 体重増加、振戦、脱毛、高アンモニア血症などに注意
- 妊娠可能性のある女性では薬剤選択を特に慎重に行う
- ラモトリギンとの併用では、ラモトリギンを通常よりゆっくり増量する
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)とは?
バルプロ酸ナトリウム
デパケン、デパケンR
抗てんかん薬・気分安定薬
躁病および躁うつ病の躁状態
400~1,200mg/日を1日1~2回
40~120µg/mL
約12~13時間(デパケンR単回投与)
おおむね6~7日
作用機序|GABAを中心に神経の過剰な興奮を抑える
バルプロ酸は、一つの受容体だけに作用する薬ではありません。
複数の神経伝達系やイオンチャネルに作用する
「マルチターゲット型」の薬剤と考えられています。

→
GABA神経伝達を増強
+
神経興奮性を抑制
→
躁状態を安定化
GABA作動性神経伝達の増強
GABA(γ-アミノ酪酸)は、脳内の代表的な
抑制性神経伝達物質です。
バルプロ酸は脳内GABA濃度を上昇させ、
神経ネットワークの過剰な興奮を抑える方向に作用すると考えられています。
イオンチャネルへの作用
バルプロ酸には電位依存性Na+チャネルなどを介して
神経細胞の高頻度発火を抑制する作用も報告されています。
この作用は抗てんかん作用の一部を説明すると考えられます。
関与している可能性が示されています。
ただし、GABAの増加だけで双極症に対する気分安定作用のすべてを説明できるわけではありません。
HDAC阻害作用は「興味深い候補機序」
バルプロ酸には、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害し、
遺伝子発現を変化させる作用も知られています。
神経可塑性や神経保護作用との関連が研究されており、
バルプロ酸を単なる鎮静薬とは異なる薬剤として考えるうえで興味深い作用です。
それが双極症に対する臨床効果の主要な原因であることは確立していません。
現時点では、気分安定作用を説明する候補機序の一つとして理解するのが適切です。
双極症ではどのような時に使う?
バルプロ酸の最も確立した精神科領域での役割は、
急性躁状態の治療です。
海外二重盲検試験では、躁状態に対する改善率はバルプロ酸48%、
リチウム49%、プラセボ25%と報告されています。
日本うつ病学会の双極症診療ガイドラインでは、
急性躁状態に対して気分安定薬と第二世代抗精神病薬の併用が主要な選択肢とされ、
気分安定薬としてバルプロ酸またはリチウムが挙げられています。
| 病相 | バルプロ酸の位置づけ |
|---|---|
| 急性躁状態 | 主要な治療選択肢。重症例では第二世代抗精神病薬との併用も重要です。 |
| 混合性の特徴を伴う躁状態 | バルプロ酸またはカルバマゼピンと第二世代抗精神病薬の併用が選択肢として提案されています。 |
| 双極性うつ病 | 国内ガイドラインでは、うつ病相の標準的な気分安定薬としてはリチウム・ラモトリギンが中心で、バルプロ酸は主役ではありません。 |
| 維持療法 | ガイドライン上は再発予防の選択肢ですが、日本では双極症の維持療法としては適応外です。 |
| 急速交代型 | 臨床上選択されることがありますが、「他の気分安定薬より明確に優れている」とまでは断定できません。 |
リチウム・ラモトリギンなどとの使い分け
| 薬剤 | 臨床的に使いやすい場面 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| バルプロ酸 | 躁状態、易刺激性や興奮が強い場合、混合性の特徴を伴う躁状態 | 体重増加、高アンモニア血症、肝障害、血小板減少、妊娠関連リスク |
| 炭酸リチウム | 典型的な躁状態、長期の気分安定、自殺リスクを重視する場合 | 腎機能、甲状腺機能、脱水、リチウム中毒、薬物相互作用 |
| ラモトリギン | 抑うつ病相が多い経過、特に抑うつエピソードの再発予防を重視する場合 | 急性躁状態には向かない。SJS/TENを避けるため緩徐な増量が必要 |
| カルバマゼピン | 躁状態で他剤が使いにくい場合など | 薬疹、血液障害、肝酵素誘導による多数の薬物相互作用 |
| 第二世代抗精神病薬 | 重症躁状態、精神運動興奮、幻覚・妄想を伴う場合 | 薬剤によって代謝異常、鎮静、錐体外路症状など |
易刺激性、睡眠欲求の低下、行動量の増加など
「上方向のエネルギー」が強い患者では使いやすい薬だと考えています。
また、躁とうつが入り混じるような病像では、
臨床上バルプロ酸を選択することがあります。
一方、抑うつ病相が経過の大部分を占める患者に
「気分安定薬だから」という理由だけで漫然と継続するのではなく、
ラモトリギンなどを含め治療設計を定期的に見直すことが重要です。
用法・用量|400~1,200mg/日
400~1,200mg/日を1日1~2回に分けて服用します。
年齢、症状、副作用などに応じて調整します。
デパケンRは徐放製剤で、普通錠と比較して吸収が緩やかになり、
血中濃度の急激な変動を抑えるよう設計されています。
健康成人のデータでは、反復投与後およそ6~7日で定常状態に達しています。
400~1,200mg/日
40~120µg/mL
約6~7日
血中濃度(TDM)|数字だけで処方を決めない
国内添付文書では、躁状態におけるバルプロ酸の有効血中濃度として
40~120µg/mLが報告されています。
一方、報告によっては下限50µg/mL、上限150µg/mLとするものもあり、
明確な一本線が存在するわけではありません。
国内添付文書は特定の一点を目標値として指定していません。
症状、副作用、年齢、併用薬などを踏まえて個別に調整します。
採血はいつ行う?
TDMで血中濃度を経時的に比較する場合には、
服薬直前のトラフ値で条件を揃えることが一般的です。
服薬後の採血では値が高くなるため、
採血時刻と最終服薬時刻を把握したうえで解釈する必要があります。
ただし、「トラフ以外の採血にはまったく意味がない」というわけではありません。
採血条件を把握していれば臨床的に参考になる場合があります。
大切なのは、異なる採血条件の数値を単純比較しないことです。
TDMを特に考えたい場面
- 十分量を服用しているのに効果が乏しい
- 眠気、振戦、ふらつきなど副作用が強い
- 服薬状況が不明確
- 用量や剤形を大きく変更した
- 相互作用する薬剤を追加・中止した
- 高齢者、低アルブミン血症、腎機能障害などで遊離型濃度上昇が懸念される
高齢者や低アルブミン血症では遊離型バルプロ酸の割合が増えるため、
総血中濃度だけを見て「安全」と判断しないことが重要です。
副作用|体重増加・眠気・振戦など
| 副作用 | 臨床上のポイント |
|---|---|
| 眠気・ふらつき | 開始時や増量後にみられることがあります。 |
| 振戦 | 手の細かな震えとして自覚されることがあります。 |
| 悪心・食欲不振 | 治療開始時にみられることがあります。 |
| 体重増加・食欲亢進 | 長期治療では体重・血糖・脂質なども確認します。 |
| 脱毛 | 特徴的な副作用の一つです。 |
| 月経異常・多嚢胞性卵巣 | 若年女性では特に確認したい副作用です。 |
| 精子数・運動性低下 | 男性の生殖機能に影響する可能性があります。中止後に改善した報告があります。 |
高アンモニア血症|肝機能が正常でも起こる
バルプロ酸治療で特に知っておきたい副作用が
高アンモニア血症です。
AST・ALTが正常でも生じることがあるため、
肝機能検査だけでは完全には除外できません。
意識状態の変化などが出現した場合には、
血中アンモニア値を含めた評価が必要です。
バルプロ酸ではカルニチン低下も報告されており、
重症高アンモニア血症などでは状況に応じて
L-カルニチン投与を検討することがあります。
ただし、すべての患者に予防的補充が必要という意味ではありません。
重大な副作用と定期検査
重篤な肝障害
特に投与開始後6か月以内に多いとされ、
初期6か月は定期的な肝機能検査が重要です。
高アンモニア血症を伴う意識障害
症状が乏しいこともあるため、臨床状態に応じてアンモニア値を確認します。
血小板減少・血球減少
あざ、鼻血、歯肉出血などが増えた場合には血算を確認します。
急性膵炎
激しい腹痛、発熱、嘔気・嘔吐がみられる場合には速やかな評価が必要です。
妊娠を考える場合|バルプロ酸で最も重要な注意点
バルプロ酸を使用するうえで、
妊娠・胎児への影響は極めて重要な問題です。
妊娠中の曝露では、二分脊椎などの先天奇形、
出生後の認知機能低下、自閉スペクトラム症などとの関連が報告されています。
日本うつ病学会の双極症診療ガイドラインでは、
妊娠中の双極症にバルプロ酸を使用しないことを強く推奨しています。
今後の妊娠希望も含めて薬剤を選択する必要があります。
将来妊娠を希望する可能性がある場合には、
代替薬を含めた長期的な治療設計を検討します。
一方、服用中に妊娠が判明した場合に
自己判断で突然中止することも適切ではありません。
気分症状の再燃リスクと胎児へのリスクを比較しながら、
主治医と速やかに治療を再検討します。
男性側についても新しい安全性情報があります
2026年3月改訂の国内添付文書では、
受胎前の一定期間にバルプロ酸を使用していた父親について、
児の神経発達症リスク増加を示唆した観察研究が追記されました。
ただし、別の観察研究では統計学的に有意なリスク増加を認めておらず、
現時点では因果関係は確定していません。
男性についても妊娠を計画している場合には、
自己判断で中止せず、治療の必要性を主治医と確認することが重要です。
重要な薬物相互作用
| 薬剤 | 相互作用 | 臨床上の対応 |
|---|---|---|
| カルバペネム系抗菌薬 | バルプロ酸血中濃度を大きく低下させる | 併用禁忌 |
| ラモトリギン | ラモトリギンの消失半減期を約2倍延長 | ラモトリギンを少量から非常にゆっくり増量 |
| ロラゼパム | ロラゼパムの消失半減期が延長することがある | 過鎮静などに注意 |
| ワルファリン等 | 蛋白結合などを介し作用が増強する可能性 | 出血リスクなどを慎重に評価 |
| アスピリン | 遊離型バルプロ酸濃度が上昇することがある | 副作用や血中濃度に注意 |
ラモトリギンとの併用は特に重要
消失半減期を約2倍延長します。
双極症でバルプロ酸を併用している場合、
ラモトリギンは通常25mg隔日から開始するなど、
専用の漸増スケジュールに従います。
急速な増量はSJS/TENなど重篤な皮膚障害のリスクを高めるため避けます。
デパケンRは噛み砕かない
デパケンRは、錠剤内部のマトリックスと徐放性被膜によって
バルプロ酸の溶出を調整する徐放製剤です。
また、白色の錠剤残渣が便中にみられることがありますが、
それだけで薬が吸収されていないことを意味するわけではありません。
よくある質問
Q. デパケンは太りますか?
体重増加や食欲亢進は知られている副作用です。
全員に起こるわけではありませんが、
長期治療では体重だけでなく血糖や脂質代謝も含めて確認することが重要です。
Q. 血中濃度はいくつを目指せばよいですか?
国内添付文書では躁状態について40~120µg/mLが報告されています。
ただし、数字だけで用量を決めるものではありません。
実際の症状改善、副作用、採血条件などを合わせて判断します。
Q. 採血は必ず服薬前でなければいけませんか?
血中濃度を同じ条件で比較する目的では、服薬直前のトラフ採血が一般的です。
ただし、服薬後の採血が無意味というわけではありません。
最終服薬から何時間後の採血かを把握して解釈することが重要です。
Q. 急速交代型ならデパケンが一番ですか?
急速交代型でバルプロ酸を使用することはありますが、
現在のエビデンスから「急速交代型ならバルプロ酸が他剤より明確に優れる」
とまでは言えません。過去の薬剤反応、躁・うつの比率、
身体状態、併用薬などを含めて選択します。
Q. うつ状態にも効きますか?
バルプロ酸にも双極性うつ病への有効性を示唆する研究はありますが、
日本の診療ガイドラインで双極性うつ病の標準的な気分安定薬として挙げられるのは
主にリチウムとラモトリギンです。
抑うつ病相が主体の場合は治療薬を再検討します。
Q. 調子が良ければ自分でやめてもよいですか?
自己判断での中断は推奨されません。
双極症では症状が落ち着いた後も再発予防が重要であり、
急な中断によって状態が不安定になる可能性があります。
減量や中止は病歴・再発リスクを評価しながら主治医と計画します。
治療中に確認したい検査
- バルプロ酸血中濃度(必要に応じて)
- AST・ALTなどの肝機能
- 血算・血小板
- アンモニア値
- 腎機能
- 体重・BMI
- 必要に応じて血糖・脂質
- 月経、生殖機能に関する症状
数年単位で治療する場合には、
体重、代謝、生殖、妊娠計画まで含めて継続の妥当性を定期的に見直す必要があります。
特に若年者では、現在の症状を抑えることだけでなく、
「5年後、10年後にもこの薬を選び続ける合理性があるか」
という視点で処方することが重要だと考えています。
まとめ
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は、
双極症の躁状態に対する代表的な気分安定薬です。
急性躁状態に対する有効性が確立しており、
混合性の特徴を伴う躁状態でも重要な選択肢となります。
一方で、体重増加、高アンモニア血症、肝障害、血小板減少に加え、
妊娠・生殖に関する問題は治療開始時から考慮する必要があります。
リチウム、ラモトリギン、抗精神病薬とはそれぞれ得意とする病相が異なります。
「どの薬が最も強いか」ではなく、
その患者さんがどのような病相を繰り返しているかを基準に
長期的な治療設計を行うことが重要です。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医
引用・参考文献
1. デパケンR錠100mg/200mg 添付文書.2026年3月改訂(第7版).
2. 日本うつ病学会 診療ガイドライン 双極症2023.医学書院,2023.
3. Kato T, et al. Practice Guidelines for Bipolar Disorder by the Japanese Society of Mood Disorders. Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78:633-645.
4. Bowden CL, et al. Efficacy of divalproex vs lithium and placebo in the treatment of mania. JAMA. 1994;271:918-924.
5. Miura T, et al. Pharmacological treatment of bipolar disorder: systematic reviews and related evidence.
6. こころの治療薬ハンドブック 第16版.星和書店,2026.
7. 今日の精神疾患治療指針 第2版.医学書院,2016.
8. 精神科の薬がわかる本 第5版.医学書院,2024.
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