【精神科専門医解説】シクレスト(アセナピン)の効果・副作用|舌下錠の飲み方、苦味・しびれ、太りやすさまで

目次
はじめに
シクレスト(一般名:アセナピンマレイン酸塩)は、
統合失調症の治療に使用される第二世代抗精神病薬です。
ドパミンD2受容体だけでなく、
5-HT2A、5-HT2C、5-HT7、
D3、αアドレナリン受容体、
ヒスタミンH1受容体など、
非常に幅広い受容体に作用することが特徴です。
さらにシクレストは、
一般的な錠剤のように飲み込む薬ではありません。
舌の下で溶かし、口腔粘膜から吸収させる「舌下錠」
です。
飲み込んでしまうと肝臓で強い初回通過代謝を受け、
薬物の吸収量が大きく低下します。
そのため、
「何mg処方するか」と同じくらい「正しく舌下投与できているか」が重要な薬
です。
この記事のポイント
シクレストは、
多数のセロトニン・ドパミン・アドレナリン・ヒスタミン受容体へ作用する
第二世代抗精神病薬です。
日本での承認適応は統合失調症で、
通常は5mgを1日2回から開始し、
最大10mgを1日2回まで使用します。
最大の特徴は舌下錠であることで、
飲み込まずに舌の下で溶かし、投与後10分間は飲食を避ける
必要があります。
口のしびれ、苦味・味覚異常、眠気、アカシジアなどが特徴的な副作用です。
苦味が強い場合でも、
10分後の口直しや服薬手順の工夫によって継続しやすくなることがあります。
シクレスト(アセナピン)とは?
シクレストは、
統合失調症
に使用する第二世代抗精神病薬です。
セロトニン・ドパミン系を中心として非常に多くの受容体へ作用するため、
日本の精神科臨床では
多受容体作用型抗精神病薬(MARTA)
と説明されることがあります。
ただしMARTAは、
薬理を理解するための便宜的な分類です。
受容体への親和性だけから、
実際の治療効果や副作用を単純に予測できるわけではありません。
シクレストの作用機序
シクレストの特徴は、
ドパミンD2受容体だけではなく、
セロトニン・ドパミン・アドレナリン・ヒスタミン系へ幅広く作用すること
です。

複数のセロトニン・ドパミン・アドレナリン・ヒスタミン受容体へ作用します。
① ドパミンD2受容体を遮断する
統合失調症の幻覚や妄想などの陽性症状には、
中脳辺縁系を中心とする
ドパミン神経伝達の過剰が関与すると考えられています。
アセナピンはD2受容体を遮断することで、
過剰なドパミン神経伝達を抑え、
幻覚、妄想、まとまりにくい思考などの改善を目指します。
② 5-HT2A受容体を強く遮断する
アセナピンは、
D2受容体だけでなく
5-HT2A受容体にも高い親和性を持っています。
5-HT2A受容体遮断は、
第二世代抗精神病薬に特徴的な薬理作用の一つです。
D2受容体遮断とセロトニン系への作用を組み合わせることで、
シクレストの抗精神病作用が形成されていると考えられています。
③ 5-HT2C・5-HT7・D3などにも作用する
アセナピンは、
5-HT2C、
5-HT7、
D3などにも高い親和性を示します。
これらの受容体は、
気分、意欲、認知機能、睡眠、食欲などとの関連が研究されています。
ただし、
「5-HT7を遮断するから認知機能が改善する」
といった単純な因果関係が
ヒトで確立しているわけではありません。
特徴的な受容体プロファイルとして理解することは重要ですが、
個々の受容体作用から臨床効果を過度に推測しないことも必要です。
④ ムスカリン受容体への親和性が非常に低い
シクレストの特徴の一つが、
ムスカリン受容体への親和性が非常に低い
ことです。
クロザピンやオランザピンなどと比べると、
強い抗コリン作用に由来する
口渇、尿閉、認知機能への影響などは
薬理学的には生じにくい方向にあります。
ただし、
便秘などの副作用が起こらないという意味ではありません。
⑤ H1受容体には高い親和性を持つ
シクレストはムスカリン受容体への親和性は低い一方、
ヒスタミンH1受容体には高い親和性
を持っています。
そのため、
「多受容体作用型だが眠くなりにくい薬」
と理解するのは適切ではありません。
実際、
傾眠は比較的よくみられる副作用です。
薬理学的ポイント|M1作用が弱い=太らない、ではありません
抗精神病薬による体重増加や糖脂質代謝への影響は、
一つの受容体だけで決まるものではありません。
シクレストはオランザピンより
体重増加・代謝への影響が小さい傾向がありますが、
H1や5-HT2Cなどにも作用し、
体重増加そのものは起こり得ます。
「太らない薬」と説明するより、
オランザピンより代謝負担は小さいが、
代謝面への影響がほとんどない薬ではない
と理解する方が適切です。
シクレストの効果・適応
統合失調症
日本におけるシクレストの承認適応は
統合失調症
です。
日本人患者を含む急性増悪期の統合失調症を対象とした
国際共同第Ⅲ相試験では、
シクレスト5mgまたは10mgを1日2回、
6週間使用しました。
5mg群、10mg群の双方で、
プラセボ群と比較して
PANSS合計スコアの有意な改善が確認されています。
| 投与群 | PANSS変化量 |
|---|---|
| プラセボ | -1.13 |
| シクレスト 5mg×2回 | -12.39 |
| シクレスト 10mg×2回 | -14.23 |
ただし、
この数字だけを見て
「10mg×2回の方が5mg×2回より優れている」
と結論づけることはできません。
国内添付文書でも、
開始用量・維持用量はいずれも5mgを1日2回
とされています。
執筆者の臨床的見解|最初から20mg/日を目標にする薬ではない
最大量は20mg/日ですが、
シクレストは最大量まで機械的に増量する薬ではないと考えています。
まず5mgを1日2回で、
効果と眠気、アカシジア、起立性低血圧などを評価します。
効果が不十分な場合には、
増量前に
「本当に舌下投与できているか」
「すぐに水を飲んでいないか」
を確認することも重要です。
服薬手技に問題がなく、
忍容性も保たれている場合に
10mgを1日2回までの増量を検討します。
海外では双極Ⅰ型障害にも使用される
アセナピンは、
海外では統合失調症だけでなく、
双極Ⅰ型障害にも使用されています。
一方、
日本のシクレストの承認適応は統合失調症のみ
です。
海外でのエビデンスと
日本国内の保険適応は分けて考える必要があります。
最大の特徴|シクレストは「飲み込む薬」ではありません
シクレストを使用するうえで最も重要なのが、
舌下投与
です。
シクレストの基本的な服用方法
乾いた手で錠剤を取り出し、
舌の下に置きます。
錠剤は噛んだり飲み込んだりせず、
水を使わずにそのまま溶かします。
舌下投与後は、
10分間、水を含めて飲食を避けます。
なぜ飲み込んではいけない?
アセナピンは、
消化管から吸収されて肝臓を通過すると、
強い初回通過代謝を受けます。
舌下投与した場合の絶対的バイオアベイラビリティは
約35%とされています。
一方、
飲み込んだ場合のバイオアベイラビリティは
2%未満
と報告されています。
つまりシクレストは、
「舌下でも飲み込んでもほぼ同じ」
という薬ではありません。
正しく舌下投与することそのものが、
治療効果を成立させる重要な条件
です。
OD錠とは違います
OD錠(口腔内崩壊錠)も
水なしで服用できるため混同されることがあります。
OD錠は口の中で崩壊した後、
最終的には飲み込んで消化管から吸収させます。
一方、
シクレストは
舌下粘膜から薬を吸収させること自体が重要
です。
「あと何分我慢すればいい?」|10分が明確な目安です
シクレストを服用した患者さんから、
「苦いのですが、いつまで我慢すればいいですか?」
と聞かれることがあります。
この点については、
薬物動態試験から比較的明確な目安があります。
アセナピンを舌下投与した後、
2分、5分、10分、30分の時点で水を飲んだ場合の
その後の薬物曝露量が比較されています。
| 水を飲んだ時点 | 30分後飲水を100とした 最終的な薬物曝露量の目安 |
|---|---|
| 2分後 | 約81 (AUC 約19%低下) |
| 5分後 | 約90 (AUC 約10%低下) |
| 10分後 | 30分後と差なし |
| 30分後 | 100(比較基準) |
「10分で100%吸収される」という意味ではありません
この試験で評価されているのは、
その時点までに血液中へ入った薬の割合ではなく、
その時点で水を飲んだ後に最終的に得られる薬物曝露量(AUC)
です。
したがって、
「5分で90%がすでに吸収済み」
「10分で100%吸収完了」
という意味ではありません。
シクレストの血中濃度は、
投与後およそ0.5~1.5時間で最高値に達します。
一方、
10分後に水を飲んでも、
30分後まで待った場合と薬物動態に差がなかった
ため、
服用後に飲食を我慢する時間として
10分が明確な目安になります。
執筆者の臨床的見解|「ずっと我慢」ではなく「10分がゴール」と伝える
シクレストの苦味が強い患者さんに、
「薬が全部吸収されるまで我慢してください」
と伝えると、
いつ終わるかわからない苦痛になってしまいます。
私は、
「スマートフォンで10分タイマーをかけて、
そこまでは頑張りましょう。
10分経てば水を飲んだり、口直しをしたりできます」
と、
ゴールを具体的に示す方が実用的だと考えています。
5分で誤って水を飲んだ場合も、
薬がすべて無駄になるわけではありません。
試験では平均的な薬物曝露量の低下は約10%でした。
そのため、
「失敗したからもう1錠追加する」
という対応はしません。
ただし、
正規の服用方法はあくまで
舌下投与後10分間は飲食を避けることです。
唾液は飲み込んでもいい?
「舌下投与後10分間は、
唾液まで飲み込んではいけない」
と説明されることがあります。
しかし、
国内添付文書では
唾液を10分間飲み込まないことまでは求められていません。
重要なのは、
錠剤そのものを飲み込まず、
舌下で溶かすことと、
投与後10分間は飲食しないことです。
必要以上に複雑な服薬ルールを追加すると、
かえって治療継続を難しくすることがあります。
シクレストは味がまずい?|苦味・口のしびれ
シクレストの使用感として、
患者さんから比較的よく聞かれるのが
「苦い」「独特の味がする」
「舌や口の中がしびれる」
という訴えです。
臨床試験では、
口の感覚鈍麻が約10%に認められています。
そのほか、
味覚異常、口腔内不快感、
口の錯感覚なども報告されています。
これらは、
舌下錠であるシクレストに特徴的な問題です。
執筆者の臨床的見解|味の問題は軽視しない
シクレストは薬理学的には特徴のある薬ですが、
実臨床では
「薬は効いているが、味がつらくて続けられない」
ということがあります。
抗精神病薬は、
数日だけ服用する薬ではありません。
数か月、数年単位で継続する場合があります。
そのため、
苦味を単なる「我慢の問題」にするのではなく、
服薬継続性に影響する副作用の一つとして扱う
ことが大切だと考えています。
苦味を少し楽にするための工夫
苦味が強い患者さんでは、
「ただ我慢する」よりも、
服用から10分後までを一つのルーティンとして設計する
方が続けやすくなることがあります。
執筆者の臨床的見解|10分後の「口直し」まで服薬手順にする
私なら、
まず服薬時に10分タイマーを設定します。
10分間は飲食せずに待ち、
10分経過したら、
水を飲む、あるいは水で軽く口をすすぐ
ようにします。
苦味や口腔内の違和感が残る場合には、
その後に
シュガーレスガムを噛んで味覚を切り替える
方法も実践的です。
シュガーレスガムそのものについて、
シクレストの苦味を軽減することを検証した臨床試験があるわけではありません。
しかし、
服薬後の苦味をリセットするための簡便な方法であり、
糖分や摂取エネルギーを増やしにくいという点からも、
長期治療では比較的取り入れやすい方法だと考えています。
なお、
ガムを噛むのは必ず10分経過後
にします。
D-ソルビトールによる「服用前の含嗽」という方法も研究されている
シクレストの苦味については、
日本から興味深い研究が報告されています。
統合失調症患者20名を対象とした
ランダム化単盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、
シクレストを服用する直前に
75%D-ソルビトール液25mLで口をすすぎ、
飲み込まずに吐き出す
方法が検討されました。
その結果、
D-ソルビトール前処置では、
プラセボと比較して
シクレストの苦味が有意に軽減
しました。
一方、
シクレストを今後も継続したいという意向については、
統計学的に有意な改善までは確認されませんでした。
執筆者の臨床的見解|味だけが理由で中止する前に検討する余地がある
シクレストで症状がよく改善しているにもかかわらず、
苦味だけが理由で中止を検討している場合には、
服薬方法を工夫してから薬剤変更を考える価値があります。
まず、
10分タイマー、
10分後の飲水・含嗽、
シュガーレスガムなど、
日常的に実施しやすい工夫を試します。
それでも苦味が大きな障害になる場合には、
D-ソルビトールによる服用前の含嗽も、
エビデンスのある選択肢として検討できます。
ただし、
D-ソルビトール含嗽は
現在のシクレスト添付文書に記載された標準的服用法ではありません。
自己判断で濃度を調整した液を作るのではなく、
実際に行う場合には
医師・薬剤師と相談して使用する方法だと考えています。
苦味を避けるために投与位置を変えない
苦味やしびれを避けようとして、
錠剤を頬と歯ぐきの間に置いたり、
舌の上で溶かしたりする方法はおすすめしません。
アセナピンは、
口腔内のどこに置くかによって
薬物曝露量が変化することが確認されています。
健康成人を対象とした研究では、
頬粘膜投与では舌下投与と比較して
AUCが約24%高くなりました。
承認された方法どおり、
舌の下で溶かして使用すること
が基本です。
単なるしびれとアレルギー症状は区別が必要です
軽い口のしびれや感覚低下は
比較的よくみられます。
一方、
舌が大きく腫れる、
喉が腫れる、
息苦しい、
飲み込みにくいといった症状がある場合には、
舌腫脹・咽頭浮腫・アナフィラキシーなどを考える必要があります。
このような症状がある場合には、
速やかに医療機関へ相談してください。
シクレストは太りやすい?
シクレストでも
体重増加は起こります。
一方、
抗精神病薬間の比較では、
オランザピンなどと比較すると
体重・糖脂質代謝への影響は小さい傾向があります。
ただし、
「太らない抗精神病薬」ではありません。
使用中は、
体重、腹囲、血圧、
血糖・HbA1c、脂質などを
状況に応じて確認します。
| 薬剤 | 体重・代謝面の傾向 |
|---|---|
ラツーダ |
比較的小さい |
| アリピプラゾール系 | 比較的小さい |
| シクレスト | 中間的 |
| オランザピン | 比較的大きい |
| クロザピン | 比較的大きい |
これはあくまで集団としての傾向であり、
個人差があります。
執筆者の臨床的見解|代謝負担と鎮静の中間に位置することがある
体重・糖脂質代謝への影響をできるだけ抑えたい場合には、
ラツーダ(ルラシドン)
やアリピプラゾール系などを先に検討する場面があります。
一方、
シクレストはオランザピンほど代謝負担が大きくなく、
ある程度の鎮静作用も持っています。
そのため、
強い代謝負担は避けたいが、
ある程度鎮静性のある抗精神病薬を使いたい
といった場面で候補になることがあります。
シクレストの主な副作用
アカシジア
シクレストで重要な副作用の一つが
アカシジア
です。
「じっとしていられない」
「脚を動かしたくなる」
「座っていることが苦痛」
といった強い落ち着かなさが出現します。
国内外を含む急性期試験では、
およそ10%前後に認められています。
不安、焦燥、不眠、病状悪化と見分けにくいため、
開始時・増量時には特に注意します。
眠気・鎮静
シクレストでは
傾眠も比較的よくみられます。
H1受容体などへの作用が関係すると考えられます。
使用中は自動車運転など、
危険を伴う作業を避ける必要があります。
錐体外路症状
パーキンソニズム、
振戦、
ジストニア、
ジスキネジアなどが生じることがあります。
長期使用では
遅発性ジスキネジアにも注意します。
高プロラクチン血症
高プロラクチン血症も報告されています。
月経異常、
乳汁分泌、
性機能障害などがある場合には、
必要に応じて血中プロラクチンを確認します。
起立性低血圧
αアドレナリン受容体遮断作用によって、
起立時のふらつきや血圧低下が起こることがあります。
特に投与開始時、
再投与時、
増量時には注意します。
QT延長
QT延長が起こる可能性があります。
QT延長の既往、
先天性QT延長症候群、
電解質異常、
QTを延長させる他剤を併用している場合などは
慎重に評価します。
用法・用量
| 項目 | 用量 |
|---|---|
| 開始 | 5mgを1日2回 |
| 維持 | 5mgを1日2回 |
| 増減 | 年齢・症状に応じて調整 |
| 最高用量 | 10mgを1日2回 |
シクレストは
1日2回投与
が承認用法です。
半減期だけを見ると比較的長い薬ですが、
自己判断で1日1回にまとめる薬ではありません。
他の抗精神病薬から切り替える場合
抗精神病薬の切り替えでは、
単純に旧薬を突然中止して新薬へ置き換えればよいとは限りません。
特に、
クロザピンやオランザピンなど
ムスカリン・ヒスタミン受容体への作用が比較的強い薬から、
ムスカリン作用の弱い薬へ急速に切り替えると、
不眠、焦燥、発汗、悪心などの
反跳症状が出現することがあります。
執筆者の臨床的見解|オランザピンなどからの切り替えは急ぎすぎない
シクレストはM1受容体への親和性が非常に低いため、
抗コリン作用を持つ薬から変更するときには
旧薬の中止による反跳症状を意識します。
特に、
オランザピンなどを急に減らすと、
不眠、焦燥、発汗、悪心などが
原疾患の悪化のように見えることがあります。
患者さんの状態を見ながら、
クロスタペリングを行う方が扱いやすい場合があります。
なおクロザピンは、
治療抵抗性統合失調症に使用する特殊な薬剤であり、
中止・切り替えは通常の抗精神病薬以上に慎重な管理が必要です。
肝機能が低下している場合
アセナピンは肝臓で広範に代謝されます。
重度肝機能障害(Child-Pugh分類C)では禁忌
です。
重度肝障害では、
アセナピンへの曝露量が大きく上昇することが確認されています。
薬の飲み合わせ
フルボキサミン
アセナピンは
CYP1A2の基質です。
CYP1A2を阻害する
フルボキサミンなどを併用すると、
アセナピンの血中濃度が上昇する可能性があります。
パロキセチン
アセナピンは
CYP2D6を軽度阻害します。
アセナピン反復投与中にパロキセチンを投与した試験では、
パロキセチンのCmaxおよびAUCが上昇しました。
併用する場合には、
パロキセチンの副作用にも注意します。
アルコール・睡眠薬など
アルコールや中枢神経抑制作用を持つ薬剤と併用すると、
眠気・鎮静などが強まる可能性があります。
アドレナリンを含む薬剤
α受容体遮断作用を持つ抗精神病薬では、
アドレナリンとの併用によって
血圧低下を起こす可能性があります。
シクレストでも、
アドレナリンとの併用には注意が必要です。
アナフィラキシーの救急治療などには例外があります。
歯科治療や手術を受ける際には、
シクレストを使用していることを
医師・歯科医師へ伝えてください。
他の抗精神病薬とどう使い分ける?
| 薬剤 | 特徴 | 主な弱点 |
|---|---|---|
| シクレスト | 多受容体作用 舌下投与 ある程度の鎮静性 |
苦味・口のしびれ 1日2回 アカシジア |
ラツーダ |
代謝負担が比較的小さい 双極性うつにも国内適応 |
アカシジア 食後投与が重要 |
| アリピプラゾール系 | D2部分アゴニスト 代謝負担が比較的小さい |
アカシジア 不眠・賦活 |
| オランザピン | 抗精神病作用 鎮静性 |
体重増加 糖脂質代謝 |
パリペリドン/ゼプリオン |
LAIへ移行可能 服薬継続性を確保しやすい |
高プロラクチン血症 EPS |
執筆者の臨床的見解|第一候補になりやすい薬ではないが、残しておきたい選択肢
現在は、
1日1回で済む薬、
代謝負担の小さい薬、
LAIへ移行できる薬など、
抗精神病薬の選択肢が増えています。
その中でシクレストは、
1日2回の舌下投与、
独特の苦味、
10分間の飲食制限
があるため、
利便性だけで見ると第一候補になりにくい薬です。
一方、
多受容体作用を持ち、
オランザピンほど代謝負担が大きくなく、
一定の鎮静性も期待できるという
独特のポジションがあります。
他剤で十分な効果が得られなかった患者さんや、
オランザピンの体重増加を避けながら
もう少し鎮静性も欲しい患者さんなどで、
シクレストが合うことがあります。
私自身は、
「誰にでも使いやすい薬ではないが、
合う患者さんには独特に使いやすい薬」
と位置づけています。
飲み忘れ・間違えて飲み込んだ場合
うっかり錠剤を飲み込んでしまった場合、
薬の吸収量が大きく低下する可能性があります。
ただし、
自己判断でもう1錠追加することは避けてください。
実際に吸収された量を正確に判断できないためです。
次回以降は正しい舌下投与に戻し、
対応に迷う場合には
処方医または薬剤師へ確認してください。
よくある質問
Q. シクレストは普通に飲み込んではいけませんか?
はい。
舌の下に置いて溶かして使用します。
飲み込むと強い初回通過代謝を受け、
バイオアベイラビリティが大幅に低下します。
Q. 飲んだ後に水を飲んでもいいですか?
舌下投与後10分間は、
水を含め飲食を避けてください。
10分後の飲水では、
30分後まで待った場合と薬物動態に差が認められていません。
Q. 10分で薬の100%が吸収されますか?
いいえ。
10分で吸収がすべて完了するという意味ではありません。
10分後に水を飲んでも、
30分後まで待った場合と最終的な薬物曝露量に差がなかった、
という意味です。
Q. 5分で水を飲んでしまったら、もう効きませんか?
すべて無効になるわけではありません。
臨床薬理試験では、
5分後に水を飲んだ場合、
30分後に飲んだ場合と比較して
AUCは約10%低下しました。
自己判断で追加服用はせず、
次回から10分間の飲食制限を守ってください。
Q. 唾液も10分間飲み込んではいけませんか?
添付文書では、
唾液を10分間飲み込まないことまでは求められていません。
錠剤をそのまま飲み込まず、
舌下で溶かすことが重要です。
Q. 舌がしびれるのは異常ですか?
軽い口の感覚鈍麻・しびれは、
シクレストで比較的よくみられる副作用です。
ただし、
舌や喉の腫れ、
呼吸困難などを伴う場合には
速やかに医療機関へ相談してください。
Q. 苦いのですが、薬が効いている証拠ですか?
いいえ。
苦味や味覚異常は
舌下投与によって起こることがある副作用ですが、
苦味の強さと薬の効果が比例するわけではありません。
Q. 苦味が強い場合はどうすればよいですか?
まず10分間を明確な目安として、
タイマーを使う方法があります。
10分経過後であれば、
水を飲む、
水で口をすすぐ、
シュガーレスガムを噛んで口直しをする、
といった方法が実践的です。
それでも苦味が強い場合には、
D-ソルビトールによる服用前の含嗽について
医師・薬剤師と相談する方法もあります。
Q. シクレストは太りにくいですか?
オランザピンなどより
体重・代謝への影響は小さい傾向があります。
ただし、
体重増加は実際に起こるため、
「太らない薬」と考えるのは適切ではありません。
Q. 双極性障害にも使えますか?
海外では双極Ⅰ型障害にも承認されている国があります。
一方、
日本におけるシクレストの承認適応は統合失調症です。
Q. 5mgと10mgではどちらを使いますか?
通常は5mgを1日2回から開始し、
維持用量も5mgを1日2回です。
症状が十分改善せず、
副作用が許容できる場合に
10mgを1日2回まで増量します。
まとめ
シクレスト(アセナピン)は、
統合失調症に使用される第二世代抗精神病薬
です。
D2・D3、
5-HT2A・5-HT2C・5-HT7、
αアドレナリン受容体、
H1受容体など、
多数の受容体へ作用します。
一方、
ムスカリン受容体への親和性が非常に低いという
独特の薬理学的特徴があります。
最大の特徴は
舌下錠であること
です。
舌の下で自然に溶かし、
錠剤を飲み込まず、
使用後10分間は飲食を避けます。
飲み込んだ場合には、
初回通過代謝のため
バイオアベイラビリティが大きく低下します。
苦味が強い患者さんには、
「まず10分」が明確なゴール
です。
10分後に水を飲んでも、
30分後まで待った場合と薬物動態に差は認められていません。
そのため、
10分タイマーを使い、
10分後に水で口をすすぐ、
シュガーレスガムで口直しをする、
といった服薬ルーティンを作ることで
継続しやすくなる場合があります。
苦味そのものに対しては、
D-ソルビトールによる服用前の含嗽で
苦味が軽減した小規模な臨床試験も報告されています。
標準用量は5mgを1日2回で、
必要に応じて最大10mgを1日2回まで増量します。
主な副作用には、
口の感覚鈍麻、味覚異常・苦味、
アカシジア、眠気、錐体外路症状、
体重増加、起立性低血圧などがあります。
シクレストは、
「副作用が少なく誰にでも使いやすい薬」ではありません。
しかし、
多受容体作用、
オランザピンより比較的小さい代謝負担、
ある程度の鎮静性という特徴がうまく合えば、
他の抗精神病薬とは異なる有用な選択肢になります。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
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今日の精神疾患治療指針 第2版.
医学書院; 2016.
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