メンタルヘルスコラム

【精神科専門医解説】パリペリドンパルミチン酸エステル(ゼプリオン)の効果・副作用・使い方|LAIの導入法とゼプリオンTRIとの違い

  • 更新日:2026.09.23
  • 公開日:2026.09.23

はじめに

ゼプリオン(一般名:パリペリドンパルミチン酸エステル)は、統合失調症の治療に用いられる持効性注射剤(LAI:Long-Acting Injectable antipsychotic)です。

活性本体であるパリペリドンを筋肉内からゆっくり放出することで、1回の注射で約4週間にわたって抗精神病薬による治療を維持します。

統合失調症では「どの薬を選ぶか」だけでなく、必要な薬物治療が数か月、数年単位で途切れず続くかが重要です。ゼプリオンは毎日の服薬を4週間に1回の注射へ置き換えることで、飲み忘れや自己中断による薬物曝露の変動を減らします。

一方、一度注射すると薬剤をすぐに体外へ取り除くことはできません。そのため、導入前にはパリペリドンまたはリスペリドンへの反応性・忍容性、腎機能、副作用リスクなどを十分に評価する必要があります。

この記事のポイント

  • ゼプリオンは統合失調症に用いる4週間隔の持効性抗精神病薬
  • 標準導入は初回150mg → 1週後100mgを三角筋内へ投与
  • その後は75mgを基本として4週間ごとに投与
  • 標準導入では経口パリペリドン・リスペリドンの継続的オーバーラップは原則不要
  • 終末相半減期は約25~49日と長い
  • 高プロラクチン血症、アカシジア・EPS、代謝異常などに注意する
  • 腎機能の影響を受けやすく、CrCl 50mL/分未満では投与しない
  • 十分安定すれば12週間隔のゼプリオンTRIへ移行できる
  • リアルワールドでは経口薬の服薬継続は完全ではなく、LAIをより早期から提示する意義がある

ゼプリオンとは?

一般名
パリペリドンパルミチン酸エステル
代表的商品名
ゼプリオン水懸筋注
薬効分類
第二世代抗精神病薬/持効性抗精神病剤(LAI)
国内承認適応
統合失調症
製剤
25mg・50mg・75mg・100mg・150mgシリンジ
標準導入
初回150mg → 1週後100mgを三角筋内投与
維持用量
75mgを基本に25~150mg、4週間に1回
投与部位
導入2回は三角筋、維持期は三角筋または臀部筋
半減期
約25~49日(単回筋注後の終末相半減期、外国人データ)
主な排泄
腎排泄の影響が大きい

ゼプリオンの作用機序

ゼプリオンに含まれるパリペリドンパルミチン酸エステルは、活性本体であるパリペリドンを長時間作用させるために設計されたエステル型プロドラッグです。

筋肉内へ投与された薬剤は投与部位で徐々に溶解し、加水分解されてパリペリドンとなった後、全身循環へ移行します。

ゼプリオン(パリペリドンパルミチン酸エステル)の作用機序。筋肉内デポから徐放され、パリペリドンとしてD2受容体と5-HT2A受容体を遮断する

① 筋肉内へ投与

筋肉内にパリペリドンパルミチン酸エステルが投与されます。

② 徐々に溶解・放出

投与部位から長期間にわたって薬剤が徐々に放出されます。

③ パリペリドンへ変換

加水分解され、活性本体であるパリペリドンとして血中へ移行します。

④ D2・5-HT2A受容体を遮断

ドパミン・セロトニン神経伝達を調整し、抗精神病作用を発揮します。

ドパミンD2受容体遮断

中脳辺縁系などにおける過剰なドパミン神経伝達を抑えることで、幻覚や妄想などの陽性症状を改善します。

セロトニン5-HT2A受容体遮断

パリペリドンは5-HT2A受容体にも拮抗します。これによって脳内のドパミン神経伝達が部位ごとに調節され、純粋なD2受容体遮断薬とは異なる作用・副作用プロファイルを示します。

「5-HT2A遮断=陰性症状を強力に改善」と単純化しない

第二世代抗精神病薬では5-HT2A受容体遮断による前頭前野などのドパミン調節が説明されますが、これだけを根拠に一次性陰性症状を強力に改善すると断定することはできません。

意欲低下や社会的引きこもりには、抑うつ、EPS、鎮静、社会的孤立などによる二次性陰性症状も混在します。

パリペリドンはリスペリドンの主要活性代謝物

パリペリドンは、リスペリドン(リスパダール)が体内で代謝されて生じる主要な活性代謝物でもあります。

したがって、D2受容体遮断、高プロラクチン血症、錐体外路症状など、両剤には薬理学的に共通する特徴があります。

なぜ初回150mg、1週後100mgなのか?

ゼプリオンの導入法は、一般的な向精神薬の「少量から開始して徐々に増量する」という考え方とは異なります。

Day 1:150mgを三角筋内投与

Day 8:100mgを三角筋内投与

以後:4週間ごとに75mgを基本として維持

これは初回だけ強く効かせることが目的ではありません。

ゼプリオンは筋肉内からゆっくり吸収されるため、通常の維持量を1回投与するだけでは、治療に必要な薬物曝露を形成するまで時間がかかります。

そこで初回150mg、1週後100mgを三角筋へ投与し、治療開始早期から必要な血中濃度を形成するよう設計されています。

精神科医向けポイント:LAI特有のローディング戦略

三角筋内投与時のCmaxは臀部筋内投与時より平均約28%高く、導入時の2回を三角筋に限定することには薬物動態上の意味があります。

150mg→100mgと100mg→75mgを混同しない

通常の腎機能では標準導入は150mg→100mgです。

100mg→75mgはCrCl 50~80mL/分未満の軽度腎機能障害患者に用いる減量導入法です。

導入時に経口薬を重ねる必要はある?

過去にパリペリドンまたはリスペリドンを使用したことがない場合は、まず一定期間、経口パリペリドンまたは経口リスペリドンを投与し、治療反応性と忍容性を確認します。

そのうえで標準的な150mg→100mgの導入を行えば、経口パリペリドンやリスペリドンを継続してオーバーラップする必要は原則ありません。

なぜ経口薬で先に確認するのか?

経口薬であれば副作用が強ければ中止できます。一方、ゼプリオンは一度注射すると長期間にわたり薬剤が放出されます。

したがって、LAI導入前には「効くか」だけでなく、「その薬理作用に耐えられるか」を確認しておくことが重要です。

半減期は約25~49日|LAI特有の薬物動態

ゼプリオンを単回投与した際の血漿中パリペリドンの終末相半減期は、投与量・投与部位によって異なりますが、外国人データでは約25~49日です。

国内試験では、臀部筋内へ単回投与した後、血中濃度は投与11~18日後に最高値へ到達し、投与126日後にも測定可能でした。

「パリペリドンそのものの排泄が極端に遅い」という意味ではない

長い終末相半減期は、筋肉内の薬剤が長期間かけて溶解・吸収され続けることを強く反映しています。

このため、服薬中断による急激な薬物曝露低下を起こしにくい一方、副作用が出現した場合も翌日から薬をゼロにすることはできません。

リアルワールドでは「毎日きちんと飲める」とは限らない

経口抗精神病薬は、処方しただけでは治療が成立しません。実際に患者さんが服用を継続して、初めて期待した薬物曝露が得られます。

しかし、統合失調症の実臨床では、この前提そのものが想像以上に不安定です。

電子的服薬モニタリングを用いた19研究・2,184人の系統的レビュー・メタ解析では、経口抗精神病薬の服薬遵守率は、服用の有無で平均71.1%、処方された服薬回数・スケジュールの遵守で70.0%、服用時刻まで含めると64.9%でした。

「処方されている」ことと「薬が予定どおり体内に入っている」ことは同じではない

これを単純に「約3割の患者が薬を飲んでいない」と解釈することはできません。

しかし、経口抗精神病薬では、現実の薬物曝露が処方内容から相当程度ずれることが珍しくないことを示すデータです。

初回精神病200人を1年間追跡した研究では、39%がnon-adherent、20%がinadequately adherentと評価され、十分なadherenceとされたのは41%でした。

また、フィンランドで初めて統合失調症により入院した2,588人を対象とした全国コホートでは、退院30日以内に抗精神病薬を受け取った患者は58.2%、最初に開始した抗精神病薬を30日以上継続した患者は45.7%でした。

筆者の臨床的見解:怠薬が確認されるまでLAIを待つ必要はない

筆者は、「今のところ薬を飲めているからLAIは不要」という判断には、やや慎重であるべきだと考えています。

服薬アドヒアランスは固定した患者特性ではありません。退院、就職、進学、独居、症状改善、病識の変化、生活リズムの変化などによって数か月後には容易に変化します。

したがってLAIは、怠薬を繰り返した患者さんに後から導入する治療というより、将来的な服薬中断を起こしにくくするために早い段階から検討できる治療と位置づける方が合理的だと筆者は考えています。

リアルワールドではLAIの利点が見えやすい

LAIについては、「経口薬より必ず再発予防効果が高い」と単純化することはできません。

無作為化比較試験では、LAIと経口抗精神病薬の再発予防効果に大きな差が認められない研究もあります。

一方、日常診療に近いリアルワールド研究では、LAIの利点がより明確にみられることがあります。

米国のリアルワールド研究57報を対象とした系統的レビュー・メタ解析では、経口抗精神病薬と比較してLAI使用者では、入院のオッズが0.62、PDC 80%以上という服薬継続基準を満たすオッズが1.89でした。

また、フィンランドの統合失調症患者29,823人を対象とした全国コホートでは、LAIは同一成分の経口製剤と比較して、精神科再入院リスクが全体でHR 0.78、初発群ではHR 0.68でした。

RCTとリアルワールド研究ではLAIの見え方が異なる

臨床試験では経口薬群も定期的な診察や研究スタッフによるフォローを受けるため、通常診療より服薬遵守が良くなりやすく、LAIが本来解決する「服薬が途切れる」という問題自体が小さくなる可能性があります。

一方、リアルワールド研究では実際の怠薬や治療中断も結果に反映されるため、LAIの剤形としてのメリットが表れやすいと考えられます。

ただし、これらは観察研究を含むため、患者選択などによる交絡を完全には除外できません。

筆者の臨床的見解:LAIを「失敗した後の治療」にしない

筆者は、LAIを「何度も怠薬し、何度も再発した患者さんに最後に使う治療」と位置づける必要はないと考えています。

経口薬で有効性と忍容性が確認でき、維持療法へ移る段階であれば、LAIを経口薬と並ぶ通常の選択肢として積極的に提示する価値があります。

もちろん、すべての患者さんにLAIを推奨すべきという意味ではありません。注射を望まない患者さんや、毎日の服薬を問題なく継続できる患者さんには経口薬も合理的です。

しかし、医療者側が「まだLAIを使うほど悪くない」と判断して、選択肢そのものを提示しないことには再考の余地があると考えます。

LAIを「怠薬対策」だけで考えない

臨床状況 LAIを検討する意味
飲み忘れが多い 毎日の服薬行動への依存を減らす
良くなると自己中断する 急激な治療中断を防ぎやすい
毎日の内服が心理的負担 薬について考える頻度を減らせる
過去に怠薬と再発の関連がある 再発予防の治療設計そのものを変更できる
病識が変動する 病識の変化が即座に服薬中断につながりにくい
本人がLAIを希望する 患者自身の生活に合わせた維持療法として選択できる

筆者の臨床的見解:アドヒアランスを「意志」から「仕組み」へ移す

「毎日忘れず薬を飲んでください」と患者さんの意志や自己管理能力だけに治療継続を委ねることには限界があります。

LAIの価値の一つは、毎日の服薬行動そのものを治療成立の必須条件から外せることです。

筆者はこれを、アドヒアランスを患者本人の意志だけに依存するモデルから、患者さんと医療システムが共同で支えるモデルへ移行することと考えています。

これは患者さんを管理しやすくするための治療ではありません。むしろ、毎日薬を管理し続ける負担の一部を、治療システム側が引き受ける方法と考える方が適切でしょう。

LAIは必ずしも治療の最終段階ではない

従来、LAIは「薬を飲まない患者さんに仕方なく使用する治療」というイメージを持たれることがありました。

しかし近年は、初回エピソードや早期統合失調症におけるLAIの位置づけも再検討されています。

2025年に公表された国際専門家コンセンサスでは、統合失調症の診断確定後からLAIをproactiveに検討し、早期導入を考慮することが提案されています。

一方、日本の2025年専門家コンセンサスでは、LAI導入を考える代表的状況として、再発反復、患者本人の希望、服薬アドヒアランス不良などが挙げられています。

筆者の臨床的見解:維持療法に入るなら一度はLAIを説明してよい

筆者は、長期の抗精神病薬治療が必要と判断した患者さんには、経口薬だけを当然の選択肢とするのではなく、LAIという方法も比較的早期から説明してよいと考えています。

そのうえで、毎日の内服と定期注射のどちらが本人の生活に合うのかを一緒に検討します。

「内服できなくなったら注射」ではなく、最初から複数の維持療法があり、その中から本人が選ぶという位置づけの方が、現在のLAIの考え方に近いでしょう。

再発してからではなく、再発を防ぐために考える

統合失調症では、治療中断による再発をできるだけ経験しないことが重要です。

特に初回エピソード後の患者さんでは、「まだ1回しか発症していないから経口薬で様子を見る」という考え方だけでなく、次の再発をどう防ぐかという視点から維持療法を設計する必要があります。

筆者の臨床的見解:LAIを考えるタイミングを一段前に置く

怠薬によって再発してからLAIを勧めるのではなく、「怠薬による再発を起こさないためにLAIをどう使うか」を考える方が自然だと筆者は考えています。

特に、過去に一度でも服薬中断と症状悪化が関連していた場合、病識が変動する場合、独居や生活リズムの不安定さがある場合には、より積極的にLAIを提示する理由になります。

「怠薬したらLAI」ではなく、「怠薬による再発をできるだけ経験させないためにLAIを提案する」という順序です。

LAIはアドヒアランスを「見える化」する

経口薬では、薬を処方したことは分かっても、実際にどの程度服用できていたかを完全に把握することはできません。

LAIでは投与日が診療記録として明確になるため、少なくとも予定された抗精神病薬が投与されたかどうかは客観的に確認できます。

筆者の臨床的見解:これは「監視」ではなく治療評価の精度にも関わる

十分量の抗精神病薬を処方しているのに症状が改善しないとき、経口薬では「薬そのものが効いていない」のか、「実際には十分服用できていなかった」のか判断できない場合があります。

LAIで薬剤投与が確認されていれば、再燃した際に、薬効不足、投与量、ストレス要因、診断、治療抵抗性などをより整理して考えることができます。

したがってLAIには、再発予防だけでなく、偽性治療抵抗性を減らし、治療反応性を評価しやすくするという臨床的価値もあると筆者は考えています。

維持期の投与量

ゼプリオンの標準的な維持量は75mgを4週間に1回ですが、症状と忍容性に応じて25~150mgの範囲で調整できます。

正常腎機能では、1回の増量幅は50mgを超えないようにします。

LAIでは用量を変更しても、その影響を翌日すぐに完全評価できるわけではありません。持効性製剤の薬物動態を考慮し、十分な観察期間をとりながら調整します。

腎機能による用量調整

パリペリドンは肝代謝への依存が比較的小さく、腎機能低下による影響を受けやすい薬剤です。

クレアチニンクリアランス Day 1 Day 8 維持量
80mL/分以上 150mg 100mg 75mgを基本に25~150mg
50~80mL/分未満 100mg 75mg 50mgを基本に25~100mg
50mL/分未満 投与しない

軽度腎機能障害では、正常腎機能患者と比べてクリアランスが低下し、薬物曝露量が増加すると推定されています。

特に高齢者では血清クレアチニンだけでは腎機能低下を見逃す場合があるため、クレアチニンクリアランスを意識した評価が重要です。

注射手技|確実な筋肉内投与が必要

ゼプリオンは筋肉内からの吸収を前提として設計されているため、体格と投与部位に応じた注射針を選択します。

投与部位 体格 添付文書上の注射針
三角筋 体重90kg未満 23G・1インチ(25mm)
三角筋 体重90kg以上 22G・1½インチ(38mm)
臀部筋 体重を問わない 22G・1½インチ(38mm)

皮下・静脈内には投与しません

三角筋または臀部筋内へ深く垂直に刺入し、左右を交互に使用します。

添付文書では、投与後に注射部位をもまないよう指示されています。

ゼプリオンTRIとの違い

ゼプリオンTRIは、同じパリペリドンパルミチン酸エステルを12週間に1回投与する持効性製剤です。

ゼプリオン ゼプリオンTRI
投与間隔 4週間に1回 12週間に1回
初回から使用 可能 不可
用量調整 TRIより行いやすい 即時調整が難しい
主な位置づけ 導入~維持期 十分安定した維持期

TRIへ移行する条件

  • ゼプリオン4週間隔製剤を4か月以上継続している
  • 他の抗精神病薬を併用せず治療している
  • 安全性・忍容性が確認されている
  • 精神症状が安定している
  • 少なくとも直前2回のゼプリオン投与量が同一である
ゼプリオン4週間製剤 ゼプリオンTRI
25mg 対応用量なし
50mg 175mg
75mg 263mg
100mg 350mg
150mg 525mg

TRIは単純な「上位版」ではない

投与回数を大幅に減らせる一方で、副作用や症状変化が生じても直ちに用量を変更することができません。

そのため、4週間隔製剤で十分な安定性を確認した患者さんへ使用します。

筆者の臨床的見解:「病気を忘れられる時間」も治療アウトカムの一つ

毎日薬を飲むことは、そのたびに自分が治療中であることを意識する行為でもあります。

TRIまで安定して移行できれば、患者さんによっては日常生活の中で病気や薬について考える頻度をかなり減らすことができます。

もちろん、定期的な注射そのものが心理的負担になる方もいます。

それでも、症状尺度や再発率だけでなく、「治療を生活の中心からどこまで遠ざけられるか」も維持療法の重要な価値だと筆者は考えています。

ゼプリオンの主な副作用

高プロラクチン血症

ゼプリオンで特に意識したい副作用の一つです。

現行電子添文では高プロラクチン血症27.6%と記載されています。

D2受容体遮断によって下垂体からのプロラクチン分泌が増加し、月経不順・無月経、乳汁分泌、性欲低下、勃起障害・射精障害、女性化乳房などが起こることがあります。

プロラクチン関連症状は医療者側から確認する

月経や性機能に関する副作用は患者さんから自発的に申告されにくいため、パリペリドンを長期使用する場合には医療者側から定期的に確認することが重要です。

アカシジア・錐体外路症状(EPS)

D2受容体遮断によって、アカシジア、振戦、筋強剛、動作緩慢、急性ジストニアなどが起こることがあります。

ただし、すべての運動症状に抗コリン薬を追加すればよいわけではありません。アカシジア、薬剤性パーキンソニズム、ジストニア、遅発性ジスキネジアでは対応が異なります。

体重増加・糖脂質代謝異常

ゼプリオンでも体重増加、血糖上昇、脂質異常などがみられることがあります。

現行電子添文では体重増加は1~5%未満の頻度区分です。

パリペリドンはオランザピンやクロザピンほど代謝系副作用が突出して大きい薬剤ではありませんが、長期治療では体重・BMI、血糖・HbA1c、脂質などを定期的に確認します。

遅発性ジスキネジア

抗精神病薬を長期間使用すると、口唇、舌、顔面、四肢などの持続的な不随意運動を特徴とする遅発性ジスキネジアが生じることがあります。

悪性症候群

頻度は高くありませんが、高熱、強い筋強剛、意識障害、自律神経症状、CK上昇などを特徴とする悪性症候群が生じることがあります。

疑われる場合には緊急評価が必要です。

注射部位反応

注射部位疼痛や硬結は比較的よくみられる副作用です。腫脹、紅斑、熱感などを認めることもあります。

ゼプリオンでは「一度入れたらすぐ抜けない」

ゼプリオンを使用するうえで非常に重要な性質です。

経口薬では、副作用が生じた場合には次回の服薬を中止できます。一方、ゼプリオンでは一度筋肉内へ投与した薬剤を回収する方法はありません。

電子添文でも、急激な精神興奮などの治療や、複数の抗精神病薬を必要とするような不安定な患者には使用しないことが明記されています。

導入前に確認したいポイント

  • パリペリドンまたはリスペリドンへの反応性
  • パリペリドンまたはリスペリドンへの忍容性
  • 現在の精神状態がLAIによる維持療法に適しているか
  • 複数の抗精神病薬を必要とする不安定な状態ではないか
  • 腎機能
  • 高プロラクチン血症のリスク
  • EPS・アカシジアの既往
  • 体重・血糖・脂質
  • 患者本人がLAIのメリット・デメリットを理解しているか

2014年の安全性速報をどう考えるか

ゼプリオンでは、国内発売後早期に死亡例が集積したことを受け、2014年4月に安全性速報が発出されました。

これは報告された死亡例すべてについてゼプリオンとの因果関係が確定したという意味ではありません。

一方、この出来事を契機として、LAIでは患者選択、抗精神病薬の重複、用量、全身状態、腎機能などを慎重に評価することの重要性が改めて強調されました。

現在の電子添文にも、ゼプリオンによる治療中に原因不明の突然死が報告されている旨が記載されています。

筆者の臨床的見解:LAIを積極的に使うことと、安易に使うことは別である

筆者はLAIを維持療法の早期から積極的に提示してよいと考えています。

しかし、「便利だからとりあえず注射する」という意味ではありません。

一度投与すると撤回できない治療だからこそ、経口薬以上に、現在の抗精神病薬が本当に適切なのか、過量になっていないか、併用薬を整理できないか、腎機能に問題がないかを確認する価値があります。

適応患者には早く提示する。しかし、導入そのものは慎重に行う。この2つは矛盾しません。

治療中に確認したい項目

確認項目 目的
幻覚・妄想・思考障害 抗精神病効果と再燃徴候の評価
陰性症状・生活機能 症状だけでなく社会生活への影響を確認
アカシジア・EPS D2遮断による運動副作用の評価
月経・乳汁分泌・性機能 高プロラクチン血症の評価
体重・BMI 体重増加の把握
血糖・HbA1c・脂質 代謝異常の早期発見
腎機能 薬剤蓄積・用量の評価
不随意運動 遅発性ジスキネジアの早期発見
注射部位 疼痛・硬結・腫脹などの確認

よくある質問

Q. ゼプリオンは自分で注射する薬ですか?

いいえ。ゼプリオンは医療機関で医療従事者が筋肉内へ投与する持効性注射剤です。自己注射する薬ではありません。

Q. 注射の方が飲み薬より強いのですか?

単純に「強い薬」という意味ではありません。活性本体は経口パリペリドンと同じです。大きな違いは、薬剤を長期間徐々に放出し、薬物曝露を安定して維持しやすいことです。

Q. ゼプリオン開始後もインヴェガなどを飲み続けますか?

標準的な導入法で開始する場合、経口パリペリドンやリスペリドンを継続的に重ねる必要は原則ありません。

Q. 薬をきちんと飲めていてもLAIを選べますか?

はい。LAIは服薬できない患者さんだけの治療ではありません。毎日の服薬負担を減らしたい、薬物濃度を安定させたい、治療中断のリスクをできるだけ減らしたいという希望から選択することもできます。

Q. 初発の統合失調症でもLAIを検討できますか?

患者さんの希望、経口薬への反応性・忍容性、治療継続の見通しなどを踏まえて検討できます。LAIを何度も再発した後だけの治療と位置づける必要はありません。

Q. 注射を中止すればすぐ薬は抜けますか?

すぐには抜けません。終末相半減期は約25~49日で、単回投与後も数か月にわたり血中で測定可能な場合があります。そのため、中止後も効果と副作用を継続して観察します。

Q. 初めからゼプリオンTRIを使えますか?

使えません。まず4週間隔のゼプリオンを4か月以上使用し、安全性・忍容性と精神症状の安定を確認します。少なくとも直前2回は同じ用量であることも必要です。

Q. 注射予定日を過ぎたら効果はすぐ切れますか?

予定日を過ぎた瞬間に薬効がなくなるわけではありません。ただし、空いた期間によって再開方法が異なることがあります。前回投与日と投与量を確認し、医師が再開方法を判断します。

Q. LAIにすると一生注射を続ける必要がありますか?

必ずしもそうではありません。再発歴、治療期間、生活状況、本人の希望などを踏まえて長期的な治療方針を検討します。経口薬へ変更することも可能ですが、ゼプリオンは長期間体内に残るため薬物動態を考慮して切り替えます。

まとめ

ゼプリオンは、パリペリドンを筋肉内から長期間徐放する4週間隔の持効性抗精神病薬です。

標準導入は初回150mg、1週後100mgを三角筋内へ投与し、その後は75mgを基本として4週間隔で継続します。十分に安定した患者さんでは、12週間隔のゼプリオンTRIへ移行できます。

LAIの価値は、単純に抗精神病作用を強くすることではありません。毎日の服薬行動への依存を減らし、必要な薬物曝露が途切れる可能性を低くすることにあります。

リアルワールドでは、経口抗精神病薬は処方どおり100%服用され続けるとは限りません。実臨床研究では、LAIは経口薬と比較して服薬継続性が高く、入院・再入院が少ない傾向が示されています。

そのため筆者は、LAIを「怠薬や再発を繰り返した患者さんに最後に使う治療」と限定するのではなく、維持療法に入る比較的早い段階から患者さんへ提示してよい選択肢と考えています。

一方、ゼプリオンは一度投与するとすぐに中止できません。反応性・忍容性、腎機能、高プロラクチン血症やEPSなどの副作用、現在の処方設計を慎重に評価したうえで導入する必要があります。

「LAIを早く提示すること」と「LAIを慎重に導入すること」は両立します。患者さん自身の希望や生活に合わせて、経口薬とLAIを並列の維持療法として検討することが重要です。

執筆者

執筆者
執筆者 清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長/ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水 聖童(Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

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  2. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).ゼプリオンTRI水懸筋注175mg・263mg・350mg・525mgシリンジ 電子添文・適正使用資料.
  3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).ゼプリオン水懸筋注シリンジの使用中の死亡症例について.安全性速報.2014.
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  12. こころの治療薬ハンドブック 第16版.星和書店;2026.
  13. 今日の精神疾患治療指針 第2版.医学書院;2016.
  14. 精神科の薬がわかる本 第5版.医学書院;2024.
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