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【精神科専門医解説】エミレース(ネモナプリド)とは?効果・副作用・販売中止と代替薬を解説

  • 更新日:2026.09.28
  • 公開日:2026.09.28

はじめに

エミレース(一般名:ネモナプリド)は、主として
ドパミンD2受容体を強力に遮断する抗精神病薬です。
日本で開発されたベンズアミド系抗精神病薬で、1991年から統合失調症の治療に使用されてきました。

一方、エミレース錠3mg・10mgは製造販売中止が決定しており、
メーカー発表では2026年12月頃の在庫消尽、
2027年3月31日の経過措置期間満了が予定されています。
そのため、現在エミレースで安定している患者さんでは、
「何に変更するか」が重要な臨床課題になっています。

この記事のポイント

  • エミレースはD2を中心にD3・D4受容体にも高い親和性を持つ抗精神病薬です。
  • 現在の国内承認適応は統合失調症です。
  • 通常9~36mg/日、最大60mg/日まで使用されます。
  • D2遮断が強い分、アカシジア、筋強剛、振戦などの錐体外路症状には注意が必要です。
  • 販売中止後の代替薬は、単純な「同じ薬」ではなく、これまで何を目的にエミレースを使用していたかによって選択が変わります。

エミレース(ネモナプリド)の基本情報

一般名
ネモナプリド(Nemonapride)
代表商品名
エミレース錠3mg/10mg
薬効分類
抗精神病薬/ベンズアミド系
国内承認適応
統合失調症
通常用量
9~36mg/日を食後に分割投与
最大用量
60mg/日
半減期
約2.3~4.5時間(単回投与データ)
主な代謝酵素
CYP3A4
販売状況
販売中止予定(在庫消尽予定:2026年12月)

エミレースの作用機序

エミレース(ネモナプリド)の作用機序。D2・D3・D4ドパミン受容体への作用を示した図
エミレース(ネモナプリド)は、主としてD2ドパミン受容体を遮断し、
ドパミン神経伝達を抑制します。

統合失調症では、中脳辺縁系を中心としたドパミン神経系の過剰な活動が、
幻聴や妄想などの陽性症状に関与すると考えられています。

ネモナプリドは特に
D2系ドパミン受容体への親和性が非常に高い薬剤であり、
D2に加えてD3、D4受容体にも高い親和性を示します。
この強力なドパミン遮断作用が、抗精神病作用の中心と考えられています。

5-HT2A受容体にも一定の親和性がありますが、
リスペリドンなどの第二世代抗精神病薬のように
「セロトニン遮断を主軸とした薬」と理解するより、
非常にD2系遮断の強い抗精神病薬
と理解する方が臨床像に近い薬です。

D4受容体作用をどう考えるか

ネモナプリドはD4受容体にも高い親和性を持つため、
過去には「D4遮断が難治性の幻覚・妄想や陰性症状に有効なのではないか」
という議論もありました。

しかし現在のところ、
D4遮断そのものが治療抵抗性統合失調症や陰性症状に
特異的な臨床効果をもたらすことは確立していません。

エミレースの抗精神病作用は、基本的には強力なD2系遮断作用を中心に考えるのが妥当です。

どのような症状に効果が期待される?

エミレースは主に統合失調症の
幻聴、妄想、興奮、まとまりにくい思考などの陽性症状
に対して使用されます。

承認時の国内臨床試験では、統合失調症393例を対象とした集計で、
「中等度改善以上」は119例、30.3%でした。

ただし、これらは1980年代に行われた試験であり、
現在一般的に使用されているPANSSなどを用いた現代的臨床試験とは
評価方法が異なります。
この30.3%という数字を、現在の第二世代抗精神病薬とそのまま比較することはできません。

エミレースは「効き目の強い薬」なのか

臨床的には、エミレースは
少量でも比較的しっかりD2遮断がかかる薬
と考えられます。

日本で作成された抗精神病薬のクロルプロマジン換算では、
ネモナプリド約4.5mgがクロルプロマジン100mg相当
とされています。

ネモナプリド CP換算のおおよその目安
4.5mg 約100mg
9mg 約200mg
18mg 約400mg
27mg 約600mg
36mg 約800mg

CP換算は「その量に一気に置き換える表」ではありません。

抗精神病薬の換算値は、集団データから作られた大まかな目安です。
実際の切り替えでは、現在の症状、副作用、治療期間、年齢、身体疾患、
併用薬などを考慮しながら調整します。

用法・用量

成人では通常、
ネモナプリドとして1日9~36mgを食後に分割して内服します。

年齢や症状に応じて適宜増減できますが、
承認上の最大量は60mg/日です。

60mgを超える投与について

過去の精神科臨床では、難治例に対して承認用量を超える
高用量の抗精神病薬が使用されることがあり、
エミレースについても高用量処方が行われた経験はあります。

しかし、現在の承認上限は60mg/日であり、
60mgを超えるエミレースを標準的な治療戦略として推奨できる
十分なエビデンスはありません。

十分な用量の抗精神病薬を使用しても改善しない場合には、
単純な高用量化よりも診断・服薬状況を再評価し、
治療抵抗性統合失調症であればクロザピンなど、
エビデンスの確立した選択肢を検討することが重要です。

エミレースの副作用

錐体外路症状(EPS)

エミレースで特に注意したいのが、
錐体外路症状です。

添付文書では以下が5%以上の副作用として記載されています。

  • 振戦(手などの震え)
  • 筋強剛
  • 流涎
  • 急性ジストニア
  • 嚥下困難
  • アカシジア(じっとしていられない、そわそわする)
  • その他のパーキンソン症候群

これは強力なD2遮断作用と表裏一体の副作用です。

精神科専門医の臨床的見解

エミレースは「昔の抗精神病薬の割には眠気や抗コリン作用が前面に出にくい」
という処方感を持つ精神科医もいる薬です。

一方で、臨床的にはアカシジアや筋強剛などのEPSは決して軽視できません。
「眠くならないから副作用が少ない」という意味ではない点が重要です。

また、アカシジアを患者さん自身が
「不安が強くなった」「イライラする」「落ち着かない」
と表現することがあります。
これを統合失調症の悪化や「賦活」と誤認してさらに増量すると、
かえって状態を悪化させる可能性があります。

高プロラクチン血症に関連する症状

D2受容体を遮断すると、
下垂体からのプロラクチン分泌が増加することがあります。

エミレースでも、
月経異常や乳汁分泌が副作用として記載されています。

長期治療では、無月経、性機能障害、不妊、骨密度への影響なども含め、
症状が疑われる場合にはプロラクチン値を確認することがあります。

眠気・過鎮静

エミレースはD2遮断が中心で、
クロルプロマジンやレボメプロマジンのような
強い鎮静を主目的に使用する薬ではありません。

ただし、傾眠、眠気、過剰鎮静、めまい、ふらつきなどは起こり得ます。
添付文書では、自動車運転など危険を伴う機械操作を行わせないよう
注意することとされています。

その他の主な副作用

  • 不眠、不安、焦燥感
  • 口渇
  • 便秘
  • 血圧低下
  • めまい、ふらつき
  • 肝機能障害
  • 体重増加

重大な副作用

  • 悪性症候群
  • 無顆粒球症、白血球減少
  • 肝機能障害、黄疸
  • 肺塞栓症、深部静脈血栓症

パーキンソン病・レビー小体型認知症には使用できません


パーキンソン病またはレビー小体型認知症の患者さんには、
エミレースは禁忌です。

強力なドパミンD2遮断により、
パーキンソニズムや錐体外路症状を悪化させる可能性があります。

EPSが出たら抗パーキンソン薬を最初から併用する?

ビペリデンなどの抗コリン性抗パーキンソン薬を、
エミレースと routinely に予防投与する必要があるわけではありません。

EPSが出現した場合は、

  • エミレースの減量
  • 他の抗精神病薬への変更
  • 症状に応じた副作用治療薬の使用

などを検討します。

特に抗コリン薬を長期間併用すると、
便秘、口渇、排尿障害、認知機能への影響などが問題になるため、
漫然とした長期併用は避けることが重要です。

エミレースは販売中止になります

エミレース錠3mg・10mgは販売中止が決定しています。

LTLファーマの発表では、
在庫消尽時期は2026年12月頃とされています。
在庫消尽までは通常出荷が予定されていますが、
実際の終了時期は流通状況により前後する可能性があります。

経過措置期間満了予定日は
2027年3月31日で、
2027年4月1日以降は保険請求できない予定です。

そのため、長期間エミレースで安定している患者さんについても、
在庫が完全になくなってから急いで変更するのではなく、
余裕のある段階から主治医と代替薬について相談しておく
ことが望まれます。

販売中止後の代替薬は?

メーカーは、販売中止に伴う代替製品として
ロドピン(一般名:ゾテピン)を案内しています。

ただし、ここでいう「代替製品」は流通上の案内であり、
エミレースとロドピンが薬理学的に同じ薬という意味ではありません。

抗精神病薬の変更では、
「商品名が近い薬」を選ぶのではなく、
エミレースのどの特性がその患者さんに合っていたのか
を考える必要があります。

候補 考えやすいケース 主な注意点
ロドピン
(ゾテピン)
メーカーが公式に示している代替製品。
従来型抗精神病薬を継続したい場合の候補。
エミレースとは薬理プロファイルが異なり、
鎮静、体重増加、抗コリン作用などにも注意。
ロナセン
(ブロナンセリン)
強いD2/D3遮断を維持しつつ、
H1・ムスカリン作用を比較的抑えたい場合。
アカシジア、パーキンソニズムなどのEPSには注意。
リスペリドン/パリペリドン 幻覚・妄想など陽性症状への
しっかりした抗精神病作用を維持したい場合。
高プロラクチン血症やEPSが問題になることがある。
パリペリドンにはLAIという選択肢もある。
ハロペリドール D2遮断を明確に維持したい場合の
薬理学的に理解しやすい候補。
EPSや高プロラクチン血症に注意。
単純な第一選択という意味ではない。
エビリファイ
(アリピプラゾール)
高プロラクチン血症や
パーキンソニズムを減らしたい場合。
D2部分作動薬であり、
エミレースとは作用様式が大きく異なる。
アカシジアに注意。
レキサルティ
(ブレクスピプラゾール)
D2遮断一辺倒ではなく、
EPS・プロラクチンへの負担を考えながら
維持療法を組み直したい場合。
エミレースのような強力なD2遮断薬とは
使用感が異なる。

ラツーダ
(ルラシドン)

体重増加や代謝系副作用をできるだけ抑えながら
統合失調症治療を続けたい場合。
食事条件があり、アカシジアにも注意が必要。
クロザピン 十分量・十分期間の抗精神病薬を複数使用しても
改善しない治療抵抗性統合失調症。
厳格な血液検査・登録管理が必要。
単なるエミレースの置換薬ではない。

精神科専門医が考える「エミレースからの変更」

執筆者の個人的・臨床的見解

エミレースの販売中止に伴う切り替えでは、
私は「エミレースに一番似た薬は何か」と考えるより、
その患者さんにとってエミレースの何が良かったのか
を最初に整理することが重要だと考えています。

例えば、

  • 幻覚・妄想を強く抑える力が必要だった
    → ロナセン、リスペリドン、パリペリドンなどを候補にしやすい
  • 眠気が比較的少ないことが良かった
    → ロナセン、ラツーダ、アリピプラゾール系などを検討しやすい
  • EPSや高プロラクチン血症が既に問題だった
    → アリピプラゾールやレキサルティなど、
    D2部分作動薬への変更を考える余地がある
  • 服薬忘れによる再発が問題だった
    → 内服薬だけにこだわらず、
    パリペリドンやアリピプラゾールなどの
    LAI(持効性注射剤)も選択肢になる
  • 十分な治療でも幻覚・妄想が残っている
    → 単純に「さらに強いD2遮断薬」に変更するだけではなく、
    治療抵抗性統合失調症の評価とクロザピン適応を検討する

「長年エミレースで安定している」という事実を軽視しない

一方で、抗精神病薬では
その患者さんが実際に何年も安定しているという事実そのもの
に大きな価値があります。

新しい薬の方が理論上の副作用プロファイルに優れていても、
長期間安定している患者さんを不用意に変更すれば、
不眠、不安、アカシジア、幻覚・妄想の再燃などが起こる可能性があります。

今回は販売中止という避けられない事情がありますが、
だからこそ十分な時間を確保し、
急激な変更ではなく、患者さんの状態を確認しながら慎重に移行する
ことが重要です。

切り替え時に注意したいこと

エミレースは半減期だけを見ると比較的短い薬ですが、
抗精神病薬の臨床効果や受容体適応は半減期だけでは決まりません。

別の抗精神病薬へ変更するときは、

  • 急激なD2遮断低下による症状再燃
  • 新しい薬によるアカシジアや眠気
  • プロラクチンの変化
  • 食欲・体重・代謝系の変化
  • 不眠や焦燥

などを観察しながら調整します。

エミレースを自己判断で中止しないでください。

販売中止が決まっていても、
現在服用している薬を突然中止する必要はありません。
自己中断すると幻覚・妄想などが再燃する可能性があります。
代替薬への変更時期や方法は必ず主治医と相談してください。

よくある質問

エミレースはもう処方してもらえませんか?

直ちに処方できなくなるわけではありません。
メーカー発表では在庫消尽予定は2026年12月頃です。
ただし医療機関や薬局ごとの在庫状況は異なるため、
今後は入手できなくなる可能性があります。

エミレースの後継薬はロドピンですか?

メーカーは代替製品としてロドピンを案内していますが、
ロドピンはエミレースと同じ成分ではなく、
薬理作用や副作用も異なります。

必ずしも全員がロドピンへ変更する必要はなく、
患者さんの状態に応じて第二世代抗精神病薬なども含めて検討します。

エミレースは眠気の少ない薬ですか?

クロルプロマジンなど強い鎮静作用を持つ抗精神病薬と比較すると、
鎮静が前面に出にくいと感じられることがあります。
ただし眠気や過鎮静自体は起こり得ます。

エミレースは陰性症状にも効きますか?

一部では意欲や活動性が改善したという臨床的な印象が語られてきました。
しかし、D4受容体遮断などによる
特異的な陰性症状改善効果が確立しているわけではありません。

エミレースを飲んでいてそわそわするのは病気の悪化ですか?

病気の症状の場合もありますが、
エミレースによるアカシジアの可能性もあります。

「じっとしていられない」「足を動かしたくなる」
「座っていることがつらい」といった症状がある場合は、
薬の副作用かどうかを主治医に相談してください。

他の抗精神病薬について

統合失調症の治療では、
エミレース以外にも薬理作用や副作用特性の異なる
多くの抗精神病薬があります。

体重増加、眠気、アカシジア、高プロラクチン血症、
錐体外路症状などのバランスを見ながら、
患者さんごとに治療薬を選択します。

まとめ

エミレース(ネモナプリド)は、
D2受容体を中心とした強力なドパミン遮断作用
を特徴とするベンズアミド系抗精神病薬です。

幻覚・妄想などの陽性症状に対する抗精神病作用が期待できますが、
その強いD2遮断作用と表裏一体として、
アカシジア、振戦、筋強剛などの錐体外路症状や、
プロラクチン関連副作用には注意が必要です。

D3・D4受容体にも高い親和性がありますが、
「D4遮断だから難治例や陰性症状に特別によく効く」
とまでは現在のエビデンスからはいえません。

そして現在もっとも重要なのが、
エミレースの販売中止が決定していることです。

長期間エミレースで安定している患者さんでは、
ロドピンへの機械的な置換ではなく、
ロナセン、リスペリドン/パリペリドン、
アリピプラゾール、レキサルティ、ラツーダなども含め、
「これまでエミレースのどの特徴がその患者さんに適していたのか」
を考えて代替薬を選ぶことが重要です。

執筆者

清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック渋谷本院 院長

清水 聖童 (Seido Shimizu)

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定 精神科専門医
  • 認知症サポート医
  • コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・LTLファーマ株式会社. エミレース錠3mg/10mg 電子添文. 2024年10月改訂.
・LTLファーマ株式会社. エミレース錠3mg/10mg 販売中止のご案内. 2025年10月.
・LTLファーマ株式会社. エミレース錠3mg/10mg 経過措置品目移行のご案内. 2026年3月.
・岡島詳泰ほか. ネモナプリドの健康成人における薬物動態. 神経精神薬理. 1989;11(7):555-562.
・村崎光邦ほか. ネモナプリドの統合失調症に対する臨床試験. 薬理と治療. 1989;17(9):4347-4365.
・工藤義雄ほか. ネモナプリドの統合失調症に対する臨床評価. 臨床医薬. 1989;5(9):1813-1840.
・Terai M, et al. Pharmacological profile of nemonapride. Eur J Pharmacol. 1989;173:173-182.
・Inagaki A, Inada T. Dose equivalence of psychotropic drugs in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 2015;69:440-447.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.

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