メンタルヘルスコラム

【精神科専門医解説】ジプレキサ(オランザピン)の効果・副作用|統合失調症・双極性障害、体重増加と糖尿病リスクまで

  • 更新日:2026.09.28
  • 公開日:2026.09.28

はじめに

ジプレキサ(一般名:オランザピン)は、
統合失調症と双極性障害の躁症状・うつ症状の両方に国内承認を持つ第二世代抗精神病薬
です。

ドパミンD2受容体だけでなく、
セロトニン5-HT2A・5-HT2C受容体、
ヒスタミンH1受容体、
ムスカリン受容体、
α1アドレナリン受容体など、
多数の受容体に作用します。

日本ではこのような薬理学的特徴から、
MARTA(Multi-Acting Receptor Targeted Antipsychotic)
と呼ばれることがあります。

オランザピンの大きな特徴は、

抗精神病作用や抗躁作用がしっかりしており、
興奮・焦燥・不眠を伴う急性期にも使いやすい

一方で、
食欲亢進、体重増加、血糖・脂質代謝への影響が比較的大きいことです。

そのため、
「よく効く抗精神病薬」という側面と、
「代謝系副作用を管理しながら使う必要がある薬」という側面を
両方理解することが重要です。

この記事のポイント

オランザピンは、
統合失調症だけでなく
双極性障害の躁症状・うつ症状にも使用できる抗精神病薬です。
抗精神病作用と鎮静作用を同時に利用できる一方、
抗精神病薬の中でも体重増加・代謝異常が起こりやすい薬剤
です。

また、
喫煙・禁煙やフルボキサミンなどによって
血中濃度が変化することも、
実臨床では重要です。

ジプレキサ(オランザピン)とは?

一般名
オランザピン(Olanzapine)
代表商品名
ジプレキサ
薬効分類
第二世代抗精神病薬/MARTA
主な剤形
錠剤/ザイディス錠(口腔内崩壊錠)/細粒/筋注製剤
国内承認適応
統合失調症/双極性障害における躁症状の改善/
双極性障害におけるうつ症状の改善/
抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐
統合失調症
通常5~10mg/日から開始。維持量10mg/日。最大20mg/日
双極性障害・躁症状
通常10mg/日から開始。最大20mg/日
双極性障害・うつ症状
通常5mg/日から開始し、その後10mg/日へ増量。
就寝前投与。最大20mg/日
半減期
健康成人で平均約33時間
主な代謝
グルクロン酸抱合、CYP1A2など

オランザピンの作用機序

ジプレキサ(オランザピン)の作用機序
オランザピンはD2・5-HT2A受容体を中心に、
5-HT2C、H1、ムスカリン受容体など
複数の受容体へ作用します。

ドパミンD2受容体遮断|幻覚・妄想を抑える

統合失調症の幻覚・妄想などの陽性症状には、
中脳辺縁系を中心とした
ドパミン神経伝達の過活動が関係すると考えられています。

オランザピンはD2受容体を遮断することで、
過剰なドパミン神経伝達を抑え、
幻覚、妄想、思考のまとまりにくさ、
興奮などの改善を目指します。

5-HT2A受容体遮断|第二世代抗精神病薬としての特徴

オランザピンは、
セロトニン5-HT2A受容体にも
高い親和性を持っています。

5-HT2A受容体遮断は、
黒質線条体路や前頭前野などにおける
ドパミン神経伝達を調節すると考えられています。

こうしたセロトニン系への作用が、
D2受容体遮断を主体とする
第一世代抗精神病薬とは異なる薬理学的特徴の一つです。

ただし、

5-HT2A受容体遮断だけで
陰性症状や認知機能の改善を単純に説明することはできません。

5-HT2C・H1受容体|食欲と体重への影響

オランザピンでは、
5-HT2C受容体と
ヒスタミンH1受容体への作用が、
食欲亢進や体重増加に関係すると考えられています。

この点は、
オランザピンの副作用を理解するうえで非常に重要なので、
後ほど詳しく解説します。

H1受容体|鎮静・眠気

ヒスタミンH1受容体への作用は、
眠気や鎮静に関係します。

これは副作用になる一方、
強い興奮、焦燥、不眠を伴う急性期では、
治療上利用できる性質でもあります。

ムスカリン受容体|口渇・便秘など

オランザピンには抗コリン作用もあるため、
口渇、便秘、排尿障害などが起こることがあります。

特に高齢者では、
他の抗コリン作用を持つ薬剤と併用した場合の
総合的な抗コリン負荷にも注意します。

α1受容体|起立性低血圧

α1アドレナリン受容体遮断作用によって、
めまい、ふらつき、
起立性低血圧などがみられることがあります。

統合失調症への効果

オランザピンは、
統合失調症に対する有効性が確立した
第二世代抗精神病薬です。

幻覚・妄想などの陽性症状だけでなく、
興奮、焦燥、思考障害などを含めた
精神症状全体の改善を目的として使用されます。

多数の抗精神病薬を比較したネットワークメタ解析でも、
オランザピンは

急性期統合失調症に対して
比較的しっかりした有効性を示す薬剤

の一つです。

一方で、
体重増加や糖脂質代謝への負担も大きいため、
有効性だけを見て一律に第一選択とする薬ではありません。

双極性障害の躁状態への効果

オランザピンは、
双極性障害における躁症状にも
国内承認があります。

躁状態でみられる
易刺激性、活動性亢進、多弁、
睡眠欲求の低下、誇大的な考え、
精神運動興奮、幻覚・妄想などの改善を目的として使用します。

特に、
精神病症状や強い興奮、不眠を伴う躁状態では、
抗躁作用・抗精神病作用・鎮静作用を
一剤で利用できることがあります。

双極性障害のうつ症状にも使える

オランザピンの重要な特徴の一つが、

双極性障害のうつ症状にも単剤で国内承認を持つ

ことです。

双極I型障害の抑うつエピソードを対象とした
プラセボ対照試験でも、
オランザピンによる抑うつ症状の改善が確認されています。

一方、
双極性うつには
ラツーダ(ルラシドン)、
ラミクタール(ラモトリギン)、
リーマス(炭酸リチウム)
など複数の治療選択肢があります。

抑うつ症状だけでなく、
不眠、焦燥、精神病症状、
過去の躁病相、
体重や糖脂質代謝の状態などを考慮して使い分けます。

維持療法について

国内電子添文では、
躁症状またはうつ症状が改善した後には、
オランザピンを継続する必要性を検討し、
漫然と投与しないことが求められています。

また、
双極性障害の維持療法における
日本人での有効性・安全性は確立していないとされています。

CINV|抗がん剤による悪心・嘔吐にも使われる

オランザピンは精神科領域だけでなく、
抗悪性腫瘍薬による

CINV(chemotherapy-induced nausea and vomiting)

にも使用されます。

制吐作用には、
セロトニン、ドパミン、
ヒスタミン、ムスカリン系などへの
多受容体作用が関係すると考えられています。

高度催吐性化学療法では、
オランザピン、
NK1受容体拮抗薬、
5-HT3受容体拮抗薬、
デキサメタゾンを組み合わせる治療が
用いられることがあります。

日本では、
他の制吐薬との併用で通常5mg/日、
必要に応じて10mg/日まで使用し、
各化学療法サイクルで原則6日間までとされています。

用法・用量

統合失調症

成人では通常、
5~10mgを1日1回
から開始します。

維持量は通常10mg/日で、
年齢や症状に応じて調整し、
最大20mg/日です。

双極性障害の躁症状

通常、
10mgを1日1回
から開始します。

最大20mg/日です。

双極性障害のうつ症状

通常、

5mgを1日1回から開始し、その後10mgへ増量

します。

双極性うつでは
就寝前に投与
します。
最大20mg/日です。

ザイディス錠|水なしでも服用できる口腔内崩壊錠

ジプレキサには、
口の中で速やかに崩壊する
ザイディス錠
があります。

嚥下が難しい患者さんや、
通常錠の服用が負担になる場合に便利な剤形です。

一方で、
非常に壊れやすく吸湿性があるため、
取り扱いには注意します。

使用直前に乾いた手で扱い、
ブリスター裏面のシートを剥がしてから
錠剤を壊さないよう取り出し、
すぐに口の中へ入れます。

寝たままの状態で、
水なしで服用することは避けます。

なぜオランザピンは体重が増えやすいのか?

オランザピンの代表的な弱点が、
食欲亢進と体重増加
です。

ただし、
「眠くなって運動しなくなるから太る」
「食べすぎるから太る」
だけで説明できる現象ではありません。

現在では、

食欲・満腹感を調節する脳内回路、
活動量、
エネルギー代謝、
糖・脂質代謝などへの複数の作用が重なって
体重増加につながる

と考えられています。

5-HT2C受容体遮断|満腹のブレーキが弱くなる

オランザピンは、
セロトニン5-HT2C受容体を
強く遮断します。

5-HT2C受容体は、
視床下部を中心として
食欲・満腹感の調節に関係しています。

この働きが弱まることで、

「食べてもまだ食べたい」
「以前より間食したくなる」

といった摂食亢進が起こる可能性があります。

オランザピンと同様に
体重増加を起こしやすいクロザピンも、
5-HT2C受容体への高い親和性を持っています。

H1受容体遮断|食欲亢進と鎮静

オランザピンは、
ヒスタミンH1受容体も強く遮断します。

H1受容体は
覚醒だけでなく
摂食行動やエネルギー調節にも関係しています。

その遮断によって
食欲が増加する可能性があり、
同時に眠気・鎮静が強くなれば
身体活動量が低下する方向にも働きます。

ただし、
オランザピンの体重増加を
「眠くなって動かなくなるから」
だけで説明することはできません。

視床下部AMPKなどの食欲調節系

基礎研究では、
オランザピンやクロザピンによる
H1受容体などへの作用を介して、
視床下部の
AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)
を含むエネルギー調節系が変化する可能性が示されています。

その結果として、
NPYやAgRPなどの摂食促進系が優位となり、
食事摂取量の増加につながる可能性があります。

ただし、
この領域には動物実験や基礎研究から得られた知見も多く、
ヒトで起こる体重増加を
一つの経路だけで説明できるわけではありません。

レプチン・グレリンなど食欲ホルモンへの影響

レプチンは、
体脂肪量などに応じて
脳へエネルギー充足の情報を伝えるホルモンです。

オランザピン治療では、
体重増加とともにレプチン値が上昇しても
それに見合った食欲抑制が起こらないことがあり、
レプチン感受性の変化が関与している可能性があります。

また、
摂食を促進するグレリンとの関連も研究されています。

ただし、
これらのホルモン変化については
研究結果が完全には一致しておらず、
体重増加の一部を説明する候補機序として考えるのが適切です。

体重が増える前から糖代謝が変化する可能性

オランザピンの代謝系副作用で重要なのは、

糖代謝異常が必ずしも
体重増加だけの結果ではない可能性がある

ことです。

健常者を対象として
食事や活動量などを管理した短期試験でも、
オランザピン投与によって
インスリン感受性の低下が認められた報告があります。

末梢組織におけるインスリン作用、
肝臓での糖代謝、
膵β細胞機能などへの直接的な作用も
研究されています。

したがって、

「まだ太っていないから血糖も大丈夫」
とは限りません。

オランザピン治療で、
体重だけでなく
血糖・HbA1c・脂質まで確認する理由の一つです。

体重増加は「意志が弱いから」ではない

オランザピン開始後に
食欲が明らかに強くなった患者さんでは、
「食べないように頑張る」
だけで対応することが難しい場合があります。

5-HT2C受容体や
H1受容体など、
食欲調節系そのものへ薬剤が作用しているためです。

そのため、
体重増加が起こった場合には、
食生活への介入だけでなく、
オランザピンの用量、
薬剤変更の可能性、
活動量、
血糖・脂質などを含めて
総合的に評価します。

他の抗精神病薬と比べてどのくらい太りやすい?

抗精神病薬は、
薬剤によって体重への影響がかなり異なります。

多数の臨床試験をまとめたメタ解析では、

オランザピンとクロザピンは、
抗精神病薬の中でも特に体重増加リスクが大きい薬剤

として一貫して位置づけられています。

一方、
アリピプラゾール、
ブレクスピプラゾール、
ルラシドンなどは、
平均的には体重増加が比較的小さい群です。

薬剤 体重増加の傾向 臨床的な特徴
オランザピン
(ジプレキサ)
非常に大きい 5-HT2C・H1作用が強い。
食欲だけでなく糖脂質代謝にも注意。
クロザピン
(クロザリル)
非常に大きい オランザピンと並ぶ高リスク群。
糖尿病・脂質異常にも注意。
クエチアピン
(セロクエル)
大きい~中等度 H1作用が強く、
眠気・食欲亢進を伴いやすい。
リスペリドン
(リスパダール)
中等度 体重増加は起こり得るが、
平均的にはオランザピンより小さい。
パリペリドン
(インヴェガ)
中等度 リスペリドンに近い傾向。
プロラクチン上昇にも注意。

レキサルティ
(ブレクスピプラゾール)
比較的小さい 体重増加はゼロではないが、
オランザピンより小さい傾向。
アリピプラゾール
(エビリファイ)
比較的小さい 代謝系への負担は比較的小さい。
アカシジアなどに注意。

ラツーダ
(ルラシドン)
比較的小さい 体重・糖脂質代謝への影響が比較的小さく、
代謝リスクを重視する場合の選択肢。

この比較は、
各薬剤の平均的な傾向を示したものです。

「オランザピンなら必ず太る」
「ルラシドンなら絶対に太らない」
という意味ではありません。

患者さんごとの差が非常に大きいため、
実際の体重変化を確認することが重要です。

リフレックス・デパケン・リチウムなどと比べると?

「太りやすい薬」は抗精神病薬だけではありません。

抗うつ薬や気分安定薬の中にも、
食欲や体重に影響しやすい薬があります。

ただし、
以下は異なる疾患・試験期間・患者背景を含む研究をもとにした
大まかな臨床的位置づけ
です。

薬効群をまたいで
「平均何kgだからこちらの方が必ず太る」
と直接比較できるものではありません。

薬剤 体重への傾向 オランザピンとの位置関係
オランザピン
(ジプレキサ)
非常に増えやすい 精神科薬全体で見ても、
特に注意が必要な薬剤の一つ。
クロザピン
(クロザリル)
非常に増えやすい オランザピンと並ぶ
高リスク抗精神病薬。

リフレックス
(ミルタザピン)
増えやすい
(抗うつ薬の中では高リスク)
食欲亢進・眠気が特徴。
ただし、一般にオランザピンと同列の
代謝リスクとは扱わない。
アミトリプチリンなど
三環系抗うつ薬
増えやすい 抗うつ薬の中では
体重増加に注意する群。

デパケン
(バルプロ酸)
中等度~増えやすい 長期投与では体重増加が
臨床的に問題になることがある。
パキシル
(パロキセチン)
小さい~中等度
長期で増加することがある
SSRIの中では
比較的体重増加に注意。

リーマス
(炭酸リチウム)
平均的には小さい 従来の印象ほど大きくない可能性。
メタ解析では平均体重増加は有意ではなかった。
SSRI・SNRIの多く 比較的小さい
長期では増えることもある
一般にオランザピンや
ミルタザピンより小さい。

リフレックスは「太りやすい抗うつ薬」

リフレックス(ミルタザピン)
も、
精神科でよく知られた
体重増加を起こしやすい薬剤です。

H1受容体遮断などの影響によって、
眠気とともに
食欲亢進・体重増加
がみられることがあります。

系統的レビューでも、
ミルタザピンはプラセボより
体重増加・食欲亢進を起こしやすいことが確認されています。

抗うつ薬の中では
特に体重増加に注意する薬と考えてよいでしょう。

ただし、
オランザピンは
体重増加だけでなく
糖・脂質代謝への影響も大きい抗精神病薬であり、

リフレックスとオランザピンを
単純に「同じくらい太る薬」と扱うのは適切ではありません。

デパケンも長期では体重増加に注意

デパケン(バルプロ酸)
も、
体重増加が問題となることがある気分安定薬です。

バルプロ酸による体重増加には、
食欲、
インスリン抵抗性、
脂質代謝、
内分泌系など
複数の機序が関与すると考えられています。

特に、
すでに肥満やメタボリックリスクがある患者さんで
オランザピンとバルプロ酸を併用する場合には、
体重・糖脂質代謝をより意識して確認します。

リチウムは「かなり太る薬」とは限らない

リーマス(炭酸リチウム)
も、
以前から体重増加が副作用として知られています。

しかし、
近年の系統的レビュー・メタ解析では、
リチウムによる平均体重増加は約0.46kgで
統計学的に有意ではなく、
活性対照薬よりも体重増加が小さかったと報告されています。

もちろん、
個々の患者さんでは体重が増えることがありますが、

「リチウムはオランザピンと同じようにかなり太りやすい」
という理解は修正した方がよい

と考えられます。

初回精神病では特に体重増加が大きくなりやすい

初回精神病または早期統合失調症患者を対象とした
26件のランダム化比較試験のメタ解析では、
オランザピン治療中の平均体重増加は
約7.5kg
でした。

治療期間が13週間以下の研究では
平均約5.5kg、
13週間を超える研究では
平均約11.4kgでした。

これは患者さん全員が
同じだけ増加するという意味ではありません。

しかし、
特に抗精神病薬による治療歴が少ない患者さんでは、
治療開始早期から
体重・食欲・代謝指標を確認する必要があります。

体重だけを見ていてはいけない

オランザピンでは、
体重だけではなく、
血糖、HbA1c、中性脂肪、
コレステロールなども確認します。

開始前には可能であれば、

体重・BMI、血圧、
血糖またはHbA1c、脂質

を把握し、
開始後も経時的に確認します。

特に治療開始後の比較的早い段階で
急速な体重増加がみられる場合には、
単に様子を見るだけではなく、
治療計画そのものを早めに見直す価値があります。

重要|糖尿病・高血糖

統合失調症、
双極性障害の躁症状、
双極性障害のうつ症状に使用する場合、

糖尿病の患者さん、
および糖尿病の既往歴がある患者さんには
オランザピンは禁忌

です。

オランザピンでは、
著しい高血糖から
糖尿病性ケトアシドーシスや
糖尿病性昏睡などに至った症例も報告されています。

糖尿病と診断されていなくても、
肥満、高血糖、
糖尿病の家族歴などがある場合には、
特に注意して経過を確認します。

CINVでは糖尿病患者の扱いが異なる

抗がん剤による悪心・嘔吐に使用する場合には、
糖尿病または糖尿病の既往歴がある患者さんでも、
治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合に限り、
使用できる場合があります。

ただし、
血糖コントロールが良好であることを確認したうえで、
投与前・投与中の頻回な血糖モニタリングと、
投与後の継続的な観察が必要です。

精神科適応とは扱いが異なるため、
混同しないことが重要です。

高血糖のSOSサイン

オランザピン服用中に、
次のような症状が急にみられた場合には、
高血糖の可能性があります。

  • 強い口渇
  • 水を大量に飲む
  • 尿の量・回数が増える
  • 強い倦怠感
  • 意識がぼんやりする

このような症状がある場合には、
速やかに医療機関へ相談してください。

眠気・鎮静

オランザピンでは、
傾眠が比較的よくみられます。

開始時や増量後には、
翌朝まで眠気が残る、
頭がぼんやりする、
起きにくい、
日中の活動性が低下する、
といったことがあります。

服用中は、
自動車の運転や
危険を伴う機械操作を避ける必要があります。

その他の主な副作用

食欲亢進

食事量や間食が増えることがあります。

治療開始後は、
体重が何kg増えたかだけではなく、
食欲や食行動そのものが変化していないかも確認します。

口渇・便秘

抗コリン作用によって、
口渇や便秘がみられることがあります。

高度の便秘、
腹部膨満、
嘔吐などがある場合には、
麻痺性イレウスなどにも注意が必要です。

錐体外路症状・アカシジア

オランザピンは
第一世代抗精神病薬と比較すると、
錐体外路症状が比較的少ない傾向があります。

ただし、
振戦、筋強剛、アカシジア、
ジストニアなどが起こることはあり、

「錐体外路症状が起こらない薬」
ではありません。

プロラクチン上昇

プロラクチンが上昇することがあります。

月経異常、乳汁分泌、
性機能障害などがみられる場合には、
必要に応じて血中プロラクチン値を確認します。

悪性症候群・遅発性ジスキネジア

頻度は高くありませんが、
悪性症候群、
遅発性ジスキネジア、
痙攣、
横紋筋融解症、
血栓塞栓症などの重大な副作用にも注意します。

喫煙と禁煙|オランザピンでは重要な確認事項

オランザピンを処方するうえで、
精神科医が特に知っておきたいのが
喫煙による薬物動態への影響
です。

タバコの煙に含まれる成分によって
CYP1A2が誘導され、
オランザピンの代謝が速くなります。

電子添文に記載された薬物動態データでは、
喫煙者のオランザピンクリアランスは
非喫煙者より
約35~40%高い
とされています。

そのため、
同じ10mgを服用していても、
喫煙状況によって
血中濃度が異なる可能性があります。

入院後の急な禁煙には注意

外来では喫煙していた患者さんが
入院を契機に急に禁煙すると、
CYP1A2の誘導が弱まり、
オランザピンの血中濃度が上昇する可能性があります。

それまで安定していた用量でも、
禁煙後に
眠気、ふらつき、過鎮静、
錐体外路症状などが強くなった場合には、
病状だけでなく
喫煙状況の変化
も確認します。

フルボキサミン|オランザピン濃度を上昇させる

ルボックス/デプロメール
(一般名:フルボキサミン)は、
CYP1A2を阻害します。

そのため、
オランザピンと併用すると、
オランザピンの血中濃度が上昇します。

電子添文に記載された薬物動態試験では、
オランザピンのAUCが
男性喫煙者で約108%、
女性非喫煙者で約52%増加しています。

併用時には、
眠気、ふらつき、
過鎮静などを確認しながら、
必要に応じてオランザピンの減量を検討します。

カルバマゼピン|オランザピン濃度を低下させる


テグレトール(カルバマゼピン)

は薬物代謝酵素を誘導し、
オランザピンの血中濃度を低下させます。

併用試験では、
オランザピンのCmaxが約24%、
AUCが約34%低下しています。

したがって、
カルバマゼピンを開始・中止した際にも、
オランザピンの効き方が変化する可能性があります。

ジプレキサ筋注用|精神運動興奮への使用

オランザピンには、
統合失調症における
急激な精神運動興奮に使用する
筋注製剤もあります。

通常成人には、
オランザピン10mgを1回筋肉内投与します。

効果不十分の場合には追加投与を検討できますが、
前回投与から
2時間以上
空け、
1日2回までとされています。

経口薬によって管理できる状態になれば、
速やかに筋注を終了します。

ジプレキサ筋注用と非経口ベンゾジアゼピン

ジプレキサ筋注用と、
ジアゼパム、
フルニトラゼパム、
ミダゾラムなどの
非経口ベンゾジアゼピン製剤
を併用すると、
過鎮静や心肺機能抑制の危険があります。

国内電子添文では、
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は
併用しないこととされています。

やむを得ず使用する場合には、
十分な投与間隔を空け、
呼吸、循環、意識状態などを厳重に観察します。

「1時間空ければ安全」
といった単純なルールではありません。

執筆者の個人的見解|オランザピンの臨床的位置づけ

以下は電子添文そのものではなく、

精神科診療における執筆者の臨床的な考え方

です。

「効かせること」を優先したい急性期では今でも重要な薬

オランザピンは、
体重増加という弱点が強調される薬ですが、
私自身は現在でも

抗精神病作用をしっかり取りにいきたい場面では
非常に重要な薬

だと考えています。

特に、
幻覚・妄想だけでなく、
興奮、焦燥、易刺激性、不眠などが
同時に強く出ている症例では、
オランザピン一剤によって
複数の症状をまとめて改善できることがあります。

抗精神病薬を複数重ねたり、
睡眠薬や抗不安薬を何剤も追加したりする前に、
一剤で治療全体をシンプルにできないかを
検討する価値があります。

精神病性躁状態では特に使いやすいと感じる

個人的には、

「躁状態+強い不眠+興奮+精神病症状」

という組み合わせは、
オランザピンの長所が出やすい場面だと考えています。

抗躁作用、
抗精神病作用、
鎮静作用を
一剤で同時に狙えるためです。

一方で、
急性期を離れて躁状態が落ち着いた後も
同じ用量を長期間漫然と継続するかどうかは、
改めて検討します。

双極性うつでは「不眠・焦燥が強いタイプ」に相性がよいことがある

オランザピンは、
双極性うつそのものに有効性があります。

その中でも臨床的には、
強い不眠、焦燥、
易刺激性、精神病症状などを伴う場合には、
鎮静性を含めた薬理作用が
治療上のメリットになることがあります。

逆に、
すでに肥満傾向が強い、
将来的な糖尿病リスクが高い、
日中の活動性低下が問題になっている場合には、
ラツーダ(ルラシドン)
など、
代謝負担の比較的小さい薬剤を
優先する場面が多くなります。

「眠れるから」だけで長期投与するには代謝コストが大きい

少量のオランザピンでも
非常によく眠れる患者さんはいます。

しかし、
単純な不眠症に対する睡眠薬として考えた場合、
体重増加や糖脂質代謝への負担は無視できません。

そのため私は、

不眠だけを理由に
オランザピンを長期使用することには慎重

です。

一方、
躁症状、精神病症状、強い焦燥など
オランザピン本来の治療対象があり、
その結果として睡眠も改善するのであれば、
鎮静作用を積極的に利用する価値があります。

体重増加は開始時点から意識する

個人的には、
オランザピンを処方するときには

「10mgや20mgになったら体重を気にする」
のではなく、
開始した時点から体重管理を意識する

ようにしています。

抗精神病薬による体重増加には
用量との関連もありますが、
低用量でも体重が大きく増える患者さんはいます。

そのため、
「2.5mgや5mgだから代謝的には安全」
とは考えません。

開始後数週間から
食欲、間食、体重の変化を確認し、
明らかな増加傾向があれば
早めに介入した方が現実的だと考えています。

体重が増えたら「本人の努力不足」と考えない

オランザピン開始後に
食欲が明らかに増えた患者さんへ、
単に
「食べないようにしてください」
と伝えるだけでは、
十分な介入とは言えないと考えています。

食欲そのものが、
薬理学的に変化している可能性があるためです。

私自身は、
何kg増えたかだけではなく、

間食、夜食、食事時間、
食欲が強くなる時間帯、
ストレス時の摂食、
睡眠、活動量

まで具体的に確認するようにしています。

CBT-OBの考え方を体重管理に利用する

当院では、
肥満や食行動に対する

CBT-OB(肥満に対する認知行動療法)

を行っています。

CBT-OBは、
オランザピンによる体重増加だけを対象として
開発された治療ではありません。

そのため、
「CBT-OBを行えば
オランザピンによる体重増加を防げる」
と断定することはできません。

一方、
食事や間食をセルフモニタリングし、
どの時間・状況・感情で
食行動が崩れやすいのかを可視化する方法は、
オランザピン開始後に生じた
食欲亢進や体重増加に対する
行動面からの介入として応用できると考えています。

具体的には、
食行動の記録、
規則的な食事、
過食のトリガー分析、
食環境の調整、
活動量の見直し、
極端な食事制限による反動への対処などを検討します。

ただし、
体重や代謝指標が悪化しているにもかかわらず、
行動療法だけで無理に押し切るべきではありません。

必要に応じて、
オランザピンの減量、
代謝負担の小さい抗精神病薬への変更、
身体科や肥満症診療との連携なども含めて考えます。

効いている患者を「太る薬だから」だけで機械的に変更しない

一方で、
オランザピンによって
長期間非常によく安定している患者さんを、
「オランザピンは太りやすいから」
という理由だけで
機械的に他剤へ切り替えることにも慎重です。

統合失調症や双極性障害では、
薬剤変更によって再燃した場合の
生活上の損失も大きいためです。

私自身は、

精神症状の安定性、
過去の再発歴、
他剤への反応、
体重増加量、
血糖・脂質、
患者さん本人の優先順位

を合わせて判断します。

「太るから中止する」
「効くからそのまま続ける」
の二択ではなく、
精神症状と身体リスクの両方を管理することが
オランザピン治療では重要だと考えています。

オランザピンを処方したら喫煙状況まで確認したい

オランザピンでは、
服用量だけでなく、
喫煙しているかどうかも重要です。

入院による禁煙、
禁煙治療の開始、
退院後の喫煙再開などによって、
同じオランザピン用量でも
血中濃度が変化する可能性があります。

個人的には、
オランザピンを継続処方する患者さんでは、

「何mg飲んでいるか」と同様に
「喫煙状況が変わっていないか」

も確認しておきたいと考えています。

よくある質問

ジプレキサは「強い薬」ですか?

抗精神病作用という意味では、
有効性がしっかり確認されている薬です。

ただし、
「強い=危険」
という意味ではありません。

オランザピンでは、
高い治療効果が期待できる一方、
体重・血糖・脂質や眠気への影響も比較的大きいため、
効果と副作用のバランスを考えて使用します。

少量なら太りませんか?

少量なら必ず体重増加を防げるわけではありません。

個人差が大きく、
少量でも食欲や体重が大きく変化する患者さんがいます。

用量だけではなく、
実際の体重変化、
食欲、
血糖・脂質などを確認することが重要です。

リフレックスとジプレキサはどちらが太りやすいですか?

リフレックス(ミルタザピン)も
抗うつ薬の中では体重増加が起こりやすい薬ですが、
オランザピンは
抗精神病薬の中でも特に体重増加・代謝異常リスクが高い薬剤です。

異なる疾患や研究を単純比較することはできませんが、
臨床的には

オランザピンの方が
より強く体重・糖脂質代謝を意識して管理する薬

と考えます。

飲み始めたらずっと飲み続けるのですか?

疾患や経過によって異なります。

統合失調症では、
再発予防のために
長期間抗精神病薬を継続することがあります。

一方、
双極性障害では、
急性期症状が改善した後も
オランザピンをそのまま継続する必要があるかを
改めて評価します。

急にやめても大丈夫ですか?

自己判断での急な中止は勧められません。

原疾患の再燃だけでなく、
不眠、不安、焦燥、
悪心などが起こる可能性があります。

減量・中止する場合には、
主治医と相談しながら計画的に行います。

まとめ

ジプレキサ(オランザピン)は、
D2・5-HT2A受容体を中心に、
5-HT2C、
H1、
ムスカリン、
α1受容体など
多数の受容体へ作用する第二世代抗精神病薬です。

日本では、
統合失調症だけでなく、
双極性障害の躁症状と
うつ症状の双方に承認されています。

抗精神病作用や抗躁作用はしっかりしており、
興奮、不眠、焦燥などを伴う急性期では、
鎮静作用も含めて利用できることがあります。

一方で、
最大の弱点は
体重増加と糖脂質代謝への影響
です。

その体重増加には、
5-HT2C・H1受容体遮断による
食欲亢進だけでなく、
視床下部の食欲調節系、
活動量、
インスリン感受性など
複数の機序が関与すると考えられています。

抗精神病薬の中では、
クロザピンと並んで
特に体重増加に注意する薬剤です。

また、
リフレックス(ミルタザピン)や
デパケン(バルプロ酸)など
他の精神科薬でも体重増加が起こることがありますが、
薬剤ごとにその程度や代謝への影響は異なります。

精神科適応では、
糖尿病または糖尿病既往歴がある患者さんには禁忌であり、
治療前後の身体管理が非常に重要です。

また、
喫煙・禁煙、
フルボキサミン、
カルバマゼピンなどによって
血中濃度が変化する点も、
実臨床では重要です。

オランザピンは、
単純に
「太りやすいから避ける薬」
でも、
「よく効くから積極的に使う薬」
でもありません。


その患者さんに必要な治療効果と、
長期的な身体リスクを比較しながら使い分けること

が重要です。

執筆者

清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水 聖童(Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医

引用・参考文献

1. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA).
ジプレキサ錠2.5mg/5mg/10mg 電子添文.
2026年8月25日改訂.

2. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA).
ジプレキサザイディス錠2.5mg/5mg/10mg 電子添文.
2026年8月改訂.

3. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA).
ジプレキサ筋注用10mg 電子添文.
2024年11月改訂.

4. Huhn M, Nikolakopoulou A, Schneider-Thoma J, et al.
Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics
for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia:
a systematic review and network meta-analysis.
Lancet. 2019;394(10202):939-951.

5. Wu H, Siafis S, Hamza T, et al.
Antipsychotic-Induced Weight Gain:
Dose-Response Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
Schizophr Bull. 2022;48(3):643-654.

6. Correll CU, Højlund M, Graham C, et al.
Weight Gain and Metabolic Changes in Patients With First-Episode Psychosis
or Early-Phase Schizophrenia Treated With Olanzapine:
A Meta-Analysis.
Int J Neuropsychopharmacol. 2023;26(7):451-464.

7. Teff KL, Rickels MR, Grudziak J, et al.
Antipsychotic-induced insulin resistance and postprandial hormonal dysregulation
independent of weight gain or psychiatric disease.
Diabetes. 2013;62(9):3232-3240.

8. Reynolds GP, Kirk SL.
Metabolic side effects of antipsychotic drug treatment:
pharmacological mechanisms.
Pharmacol Ther. 2010;125(1):169-179.

9. Tohen M, McDonnell DP, Case M, et al.
Randomised, double-blind, placebo-controlled study of olanzapine
in patients with bipolar I depression.
Br J Psychiatry. 2012;201(5):376-382.

10. Katagiri H, Tohen M, McDonnell DP, et al.
Efficacy and safety of olanzapine for treatment of patients with bipolar depression:
Japanese subpopulation analysis of a randomized, double-blind,
placebo-controlled study.
BMC Psychiatry. 2013;13:138.

11. Tohen M, Sanger TM, McElroy SL, et al.
Olanzapine versus placebo in the treatment of acute mania.
Am J Psychiatry. 1999;156(5):702-709.

12. Hesketh PJ, Kris MG, Basch E, et al.
Antiemetics: ASCO Guideline Update.
J Clin Oncol. 2020;38(24):2782-2797.

13. Solmi M, Miola A, Capone F, et al.
Risk factors, prevention and treatment of weight gain associated with the use
of antidepressants and antipsychotics:
a state-of-the-art clinical review.
Expert Opin Drug Saf. 2024;23(10):1249-1269.

14. Domecq JP, Prutsky G, Leppin A, et al.
Drugs commonly associated with weight change:
a systematic review and meta-analysis.
J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(2):363-370.

15. Mirtazapine adverse-event systematic review.
The risks of adverse events with mirtazapine for adults with major depressive disorder:
a systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis.
2025.

16. Fornaro M, et al.
Lithium therapy and weight change in people with bipolar disorder:
a systematic review and meta-analysis.
Neurosci Biobehav Rev. 2021.

17. Popkova D, Fellendorf F, Vinberg M, et al.
Mechanisms of weight gain associated with valproic acid:
a scoping review.
Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2026;276(5):2759-2768.

18. Dalle Grave R, Sartirana M, El Ghoch M, Calugi S.
Personalized cognitive-behavioural therapy for obesity(CBT-OB):
theory, strategies and procedures.
BioPsychoSocial Medicine. 2020;14:5.

19. 井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義,
宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編.
『こころの治療薬ハンドブック 第16版』.
星和書店; 2026.

20. 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編.
『今日の精神疾患治療指針 第2版』.
医学書院; 2016.

21. 姫井昭男.
『精神科の薬がわかる本 第5版』.
医学書院; 2024.

上部へスクロール