AQ-J(自閉症スペクトラム指数)とは|50項目・5領域・カットオフ値とASD評価での見方

目次
- はじめに
- AQ-Jとは?|自閉スペクトラム特性を連続的に捉える質問紙
- AQ-Jでは何を評価する?|5つの下位尺度
- AQ-Jの回答方法と採点方法
- AQ-Jのカットオフ値|33点以上とは何を意味する?
- 「33点」と「26点」があるのはなぜ?
- AQ-JだけでASDを診断できない理由
- AQ-Jが33点未満でもASDを否定できるわけではありません
- AQ-Jでは不足しやすい「発達歴」をPARS-TRで補う
- AQ-Jの結果は「高い・低い」だけで読まない
- AQ-J・PARS-TR・ADOS-2・WAIS-IV・WISC-Vの違い
- 成人ではAQ-JとWAIS-IVをどう組み合わせる?
- 児童用AQとWISC-V・PARS-TR
- AQ-Jの結果を職場での環境調整に活かす
- 児童用AQの結果を学校での支援に活かす
- 当院でのAQ-J評価の考え方
- AQ-Jについてよくある質問
- まとめ
- 引用・参考文献
はじめに
AQ-J(Autism-Spectrum Quotient Japanese Version/自閉症スペクトラム指数日本語版)は、
自閉スペクトラム症(ASD)に関連する認知・行動特性を質問紙から整理するための心理尺度です。
成人用では50項目に本人が回答し、
社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、コミュニケーション、想像力
という5つの領域から、自閉スペクトラムに関連する特徴を定量的に把握します。
AQ-Jは短時間で実施でき、発達特性を考える入口として有用です。
一方で、AQ-JだけでASDを診断することはできません。
発達歴、現在の生活上の困難、診察所見、家族などからの情報、
必要に応じた他の心理検査を組み合わせて解釈することが重要です。
AQ-Jは「ASDか、ASDではないか」を一つの点数で決定する検査ではありません。
本人がどのような発達特性を自覚しているかを整理し、詳しい診察につなげるスクリーニング尺度
として活用します。
AQ日本語版 自閉症スペクトラム指数
Autism-Spectrum Quotient
16歳以上
6〜15歳
50項目
約10〜15分
AQ-Jとは?|自閉スペクトラム特性を連続的に捉える質問紙
AQ(Autism-Spectrum Quotient)は、
Simon Baron-Cohenらによって2001年に開発された質問紙です。
当初は、知的能力が概ね平均域以上の成人について、
自閉スペクトラムに関連する特性がどの程度みられるかを簡便に評価する目的で開発されました。
AQの背景には、自閉スペクトラムに関連する認知・行動特徴を
「ある・ない」の二分法だけではなく、
一般人口の中にも程度の差を伴って連続的に分布する特性として捉える考え方があります。
日本でも日本語版について標準化研究が行われ、
臨床群と一般成人・大学生との比較、
信頼性・妥当性などが検討されてきました。
若林らによるAQ日本語版と、栗田らによるAQ-Jでは、
研究対象やカットオフ値が同一ではありません。そのためインターネット上では「33点」「26点」といった異なる数字がみられます。
単純にどちらかが誤りなのではなく、
どの日本語版・どの研究を基準としているかを確認する必要があります。
AQ-Jでは何を評価する?|5つの下位尺度
AQは50項目から構成され、
5つの領域に10項目ずつ分けて整理されます。
ただし、各領域を単純に「能力が高い・低い」と評価するものではありません。
同じ特徴でも、環境や仕事内容、対人関係との組み合わせによって、
困りごとになる場合と強みとして機能する場合があります。
社会的な場面での振る舞いなどに関連する特徴を確認します。雑談や集団場面での疲労、
他者との距離感の取りにくさなどがないかを診察で確認します。
予定変更への対応、
注意を柔軟に移すことなどに関連します。一方で、一つの課題に長時間集中できる特徴が
状況によって強みとなる場合もあります。
数字やパターンなどへ注意が向きやすい傾向をみます。正確な確認作業に役立つこともありますが、
全体像とのバランスが課題になる場合もあります。
暗黙の意味や言外の情報の扱いなどに関連します。曖昧な指示より、
明確で具体的な情報の方が理解しやすい場合があります。
未経験の状況を思い描くこと、
仮定の状況を扱うことなどに関連します。具体的・事実的な情報を好む認知スタイルとして現れることもあります。

研究によって因子構造が完全には一致しないことも報告されています。したがって、
「コミュニケーションが8点だから能力が低い」
「注意の切り替えが7点だから特定の仕事に向かない」
といった機械的な解釈は行いません。
AQ-Jの回答方法と採点方法
成人用AQでは、
50項目について自分にどの程度当てはまるかを4段階で回答します。
50
5領域×10項目
4件法
当てはまり方を選択
0 / 1
回答方向を二値化
0〜50
関連特性を定量化
回答自体は4段階ですが、
通常の採点では自閉スペクトラム特性を示す方向の回答を1点、
それ以外を0点として二値化します。
したがって、
回答の強さを0・1・2・3点としてそのまま加算する検査ではありません。
回答や結果に影響が生じることがあります。
本ページでは検査の考え方・評価領域・結果の読み方を中心に解説しています。
AQ-Jのカットオフ値|33点以上とは何を意味する?
AQについて広く知られている数字の一つが
33点です。
若林らによる2004年の日本語版標準化研究では、
Asperger症候群または高機能自閉症と診断された成人群と、
一般成人・大学生群が比較されています。
37.9
平均AQ得点
18.5
平均AQ得点
20.7
平均AQ得点
同研究では、
臨床群の約88%が33点以上だったのに対し、
対照群で33点以上だった人は約3%でした。
すでにASD関連の臨床診断を受けていた研究参加者のうち、
約88%が33点以上だった
という意味です。AQ-Jを受けた一般の方が33点だった場合に
「88%の確率でASDである」という意味ではありません。
「33点」と「26点」があるのはなぜ?
AQについて調べると、
33点以外に「26点」という数字が示されている場合があります。
これは単純な誤記ではなく、
異なる日本語版・異なる研究対象によって
検討されたカットオフ値が異なるためです。
横にスクロールできます →
| 尺度・研究 | 代表値 | 解釈 |
|---|---|---|
| 若林ら・成人AQ日本語版 | 33点 | AS/HFA臨床群と一般成人・大学生群を比較した研究で用いられた代表的な値 |
| 栗田ら・成人AQ-J | 26点 | 別の日本語版・臨床対象を用いた研究で検討された値 |
| 児童用AQ日本語版 | 25点 | 児童を対象とした標準化研究で報告された識別点 |
「成人は33点、子どもは26点」と単純に理解するのは正確ではありません。
使用する日本語版、対象年齢、研究対象、検査目的
を確認して解釈します。
臨床的な境界線が突然生じるわけではありません。私は一点の差よりも、
どの項目に該当したのか、
幼少期から同様の特徴があったのか、
現在どの程度生活上の困難につながっているのか
を重視します。
AQ-JだけでASDを診断できない理由
AQ-Jは有用な質問紙ですが、
自己記入式である以上、
得点には本人の自己認識や現在の心理状態などが影響します。
どの程度正確に把握しているかによって回答は変化します。
一部の回答が普段とは異なる可能性があります。
本来の困難が質問紙上では目立ちにくくなる場合があります。
AQの一部項目と似た困りごとが生じることがあります。
「33点以上だからASD」と結論を出すことではなく、
診察でどこを詳しく聞くべきかを明確にできること
にあると考えています。例えば「注意の切り替え」の得点が高くても、
ASDによる認知的柔軟性の問題なのか、
ADHDによる注意制御の問題なのか、
不安によって変化を避けているのかでは意味が異なります。
AQ-Jが33点未満でもASDを否定できるわけではありません
AQ-Jがカットオフ値を下回っても、
ASDを完全に否定することはできません。
特に成人では、
長年にわたって周囲の行動を観察したり、
会話の仕方や社会的ルールを学習したりすることで、
外からは困難が目立ちにくくなっていることがあります。
1
こだわりなどの特徴が存在します。
2
社会的なルールや対応方法を学習していきます。
3
学習した方法で表面上は対応できることがあります。
4
強い疲労や負荷を伴っていることがあります。
そのため、
AQ-Jの得点と生活歴が一致しない場合には、
得点だけを優先せず、
発達歴や現在の適応に必要としている努力量まで含めて評価します。
AQ-Jでは不足しやすい「発達歴」をPARS-TRで補う
成人用AQ-Jは、
本人自身が現在の特徴を振り返って回答する検査です。
一方、ASDの診断では、
現在の特徴だけではなく、幼少期から同様の特性が存在していたか
を確認することが重要です。
この点でAQ-Jを補完しやすい検査の一つが、
PARS-TR(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度)です。
PARS-TRでは、
保護者・養育者への半構造化面接を通して、
幼少期から現在までの発達歴やASD関連特性を整理します。
現在本人が認識しているASD関連特性を整理します。
幼少期を含む発達歴とASD関連特性を整理します。
PARS-TRは「養育者から見た幼少期からの特徴」という
異なる情報源を扱います。自己認識と他者からの情報が一致する場合もあれば、
大きく異なる場合もあり、
その差自体が重要な臨床情報になることがあります。
AQ-Jの結果は「高い・低い」だけで読まない
AQ-Jの結果を支援へつなげる際には、
総得点だけでなく、
実際にどのような場面で困っているかを確認します。
雑談、集団活動、新しい人間関係などで強い疲労がないか確認します。調整例:
役割を具体化する、少人数でのやり取りを増やすなどを検討します。
予定変更、割り込み、複数業務で混乱しないか確認します。調整例:
予定の事前提示、優先順位の明確化などを検討します。
細かな情報に注意が向きすぎて、
全体像の把握に時間がかかっていないか確認します。調整例:
最初に全体像や終了基準を提示します。
曖昧な指示、比喩、暗黙の了解などで困っていないか確認します。調整例:
指示を具体化し、文章でも残します。
未経験の状況や曖昧な課題で、
見通しを立てにくくないか確認します。調整例:
具体例、見本、事前説明を提示します。
一律にマルチタスクを避ける必要があるわけではありません。実際にどの場面で支障が生じているか、
本人がどの方法なら能力を発揮しやすいかを確認しながら、
個別に環境調整を検討します。
AQ-J・PARS-TR・ADOS-2・WAIS-IV・WISC-Vの違い
ASD評価に用いられる検査は、
それぞれ異なる情報を扱います。
多くの検査を受ければ自動的に診断精度が上がるというより、
現在不足している情報に応じて検査を選択する
ことが重要です。
AQ-J情報源:成人では本人の自己評定
役割:
本人が認識しているASD関連特性を短時間で整理します。
PARS-TR情報源:保護者・養育者への面接
役割:
幼少期から現在までの発達歴とASD関連特性を整理します。
ADOS-2情報源:本人の直接的な行動観察
役割:
標準化された状況における社会的コミュニケーションや行動を評価します。
WAIS-IV情報源:成人本人の課題遂行
役割:
成人の知的能力や認知プロフィールを評価します。
ASDそのものを直接診断する検査ではありません。
WISC-V情報源:児童本人の課題遂行
役割:
児童の知的能力や認知プロフィールを評価します。
ASDそのものを直接診断する検査ではありません。
本人、家族、発達歴、生活歴、資料など役割:
症状・発達歴・生活上の支障・鑑別診断を統合し、
最終的な臨床判断につなげます。
成人ではAQ-JとWAIS-IVをどう組み合わせる?
成人の発達特性評価では、
AQ-JとWAIS-IVは異なる側面を評価します。
AQ-Jは主としてASD関連特性についての本人の自己認識を整理します。
一方、WAIS-IVでは、
実際に課題へ取り組むことで
知的能力や認知機能の特徴を評価します。
コミュニケーションなどをどのように認識しているかを整理できます。
処理速度などの認知能力を課題遂行から評価します。
例えば「会議で複数人の話を追うのが難しい」という困りごとでも、
社会的コミュニケーションだけでなく、
ワーキングメモリー、注意、情報処理、不安など
複数の要因が関係している可能性があります。
WAIS-IVを併用する目的は
「ASDらしいプロフィールを探すこと」ではなく、
実生活でなぜ困難が生じているのかを具体化すること
です。
児童用AQとWISC-V・PARS-TR
児童用AQでは、
成人版のように本人が回答するのではなく、
保護者・養育者が日常生活でみられる特徴について回答します。
児童用AQ保護者評定からASD関連特性を質問紙で整理します。
幼少期を含む発達歴とASD関連特性をより詳しく整理します。
知的能力や認知プロフィールを評価します。
子どものASD評価では、
家庭だけでなく学校での様子も重要です。
発達歴、保護者からの情報、本人の行動、
学校生活でのお困りごとなどを総合して判断します。
AQ-Jの結果を職場での環境調整に活かす
AQ-Jは、
高得点か低得点かを確認して終わるための検査ではありません。
実際のお困りごとと照合することで、
働きやすい環境を考える手がかりになります。
期限、完成形、優先順位などを具体的に示します。
後から確認できる形で情報を残します。
優先順位や対応順を明確にします。
座席や作業環境の調整を検討します。
児童用AQの結果を学校での支援に活かす
変更内容と変更後の見通しを事前に伝えます。
記録係など役割を明確にします。
手順表、見本、板書などを用いて見通しを作ります。
一時的に落ち着ける場所を検討します。
「社会的スキルが高いから一人で仕事をする方がよい」
といった決めつけは避ける必要があります。強みはAQ-Jの結果だけではなく、
実際の能力、経験、興味、環境との相性を含めて評価します。
当院でのAQ-J評価の考え方
当院では、
AQ-Jの点数だけを単独で評価するのではなく、
現在のお困りごとや発達歴と照合しながら解釈します。
必要に応じてPARS-TR、WAIS-IV、WISC-Vなどを組み合わせ、
診断や支援につながる情報として活用します。
STEP 1
具体的にどの場面で困っているかを確認します。
STEP 2
本人が認識しているASD関連特性を把握します。
STEP 3
学校・仕事・家庭でどのような影響があったかを確認します。
STEP 4
成人の認知評価ではWAIS-IV、
児童ではWISC-Vなどを検討します。
STEP 5
現在の生活上の支障を総合し、
必要な支援や環境調整を検討します。
AQ-Jについてよくある質問
AQ-Jが33点以上ならASDですか?
いいえ。
33点は成人日本語版の標準化研究で示された代表的な識別基準の一つですが、
医学的診断を確定する点数ではありません。
発達歴、現在の症状、生活上の支障、診察所見などを総合して判断します。
32点ならASDではないということですか?
そのようには判断できません。
カットオフ値の前後1点に絶対的な境界があるわけではなく、
低得点でも発達歴や臨床所見からASDが疑われる場合があります。
26点と33点のどちらが正しいのですか?
使用する日本語版と研究対象が異なります。
若林らの成人AQ日本語版では33点、
栗田らの成人AQ-Jでは26点が検討されています。
使用している検査の版を確認して解釈する必要があります。
AQ-Jの得点が高いほどASDが重いのでしょうか?
AQ-Jの総得点を、
そのままASDの重症度や必要な支援量と置き換えることはできません。
実際の生活上の支障や適応状態を別に評価する必要があります。
AQ-Jが低くてもASDの可能性はありますか?
あります。
自己認識の程度や補償・カモフラージュの影響などによって、
ASD特性があってもAQ-Jが高得点にならない場合があります。
得点と発達歴・診察所見を合わせて判断します。
AQ-JとPARS-TRはどちらを受ければよいですか?
評価する情報が異なります。
成人AQ-Jは本人の自己評定を中心とし、
PARS-TRは保護者・養育者への面接から
幼少期を含む発達歴を評価します。
必要な情報に応じて選択し、
両者を組み合わせることもあります。
WAIS-IVでASDかどうか分かりますか?
WAIS-IVだけでASDを診断することはできません。
WAIS-IVは成人の知的能力・認知プロフィールを評価する検査です。
ASD評価では発達歴や社会的コミュニケーション、
行動特性などを別に確認します。
WISC-Vで子どものASDかどうか分かりますか?
WISC-VもASDそのものを診断する検査ではありません。
子どもの知的能力や認知特性を整理し、
発達歴、行動観察、PARS-TRなどの情報と組み合わせて
総合的に理解するために活用します。
まとめ
AQ-Jは、ASDに関連する特性を短時間で整理できる
有用なスクリーニング尺度です。
成人用では50項目から、
社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、
コミュニケーション、想像力という5つの領域を評価します。
一方で、
33点などのカットオフ値は診断確定ラインではありません。
日本語版や研究対象によって26点など別の値も報告されているため、
使用する尺度を確認して解釈する必要があります。
また、AQ-Jは本人の自己評定を得ることには適していますが、
ASD診断で重要となる幼少期からの発達歴を十分に把握することはできません。
必要に応じて
PARS-TR、成人ではWAIS-IV、児童ではWISC-V、診察所見
などを組み合わせます。
AQ-Jの価値は、
一つの点数で人を分類することではなく、
「どのような状況で負荷がかかりやすく、
どのような支援や環境調整が役立つか」を具体化する
手がかりとして活用することにあります。

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ・ビバンセ登録医
引用・参考文献
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