ビペリデン(アキネトン)の効果・作用機序・副作用・使い方を詳しく解説

抗精神病薬を飲み始めてから、
「手が震える」「体がこわばる」「動きにくくなった」と感じることがあります。
また、薬を開始した直後や増量した後に、
目が上を向いたまま戻りにくくなったり、
首やあごの筋肉が急につっぱったりすることもあります。
こうした薬による運動症状の治療に使われる代表的な薬が、
ビペリデン(商品名:アキネトン)です。
ビペリデンは中枢性抗コリン薬と呼ばれる薬で、
脳内のドパミンとアセチルコリンのバランスを調整することで、
薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアなどを改善します。
一方で、抗精神病薬による運動症状であれば、
すべてビペリデンが適しているわけではありません。
とくにアカシジアや遅発性ジスキネジアでは位置づけが異なるため、
症状を正しく見分けることが重要です。
目次
ビペリデン(アキネトン)とは?
ビペリデンは、1960年代から使用されている
中枢性抗コリン薬(抗パーキンソン薬)です。
日本では内服薬だけでなく注射薬もあり、
精神科では特に抗精神病薬によって生じた運動症状の治療に使用されます。[1,2]
ビペリデン
ビペリデン塩酸塩(内服薬)/乳酸ビペリデン(注射薬)
アキネトン
中枢性抗コリン薬/パーキンソン症候群治療剤
特発性パーキンソニズム、その他のパーキンソニズム、
向精神薬によるパーキンソニズム・ジスキネジア(遅発性を除く)・アカシジア
約18.4時間(経口投与後β相、外国人健康成人データ)
一方、アーテンの一般名はトリヘキシフェニジルです。
どちらも中枢性抗コリン薬ですが、有効成分は異なります。
ビペリデンはどんな症状に使う?
精神科でビペリデンが使われる代表的な場面は、
抗精神病薬などによって起こる錐体外路症状(EPS)です。
ただし、EPSにはいくつか異なるタイプがあり、
ビペリデンが適している症状と、
あまり適していない症状があります。[1,3]
薬剤性パーキンソニズム
抗精神病薬によって脳内のドパミン作用が低下すると、
パーキンソン病に似た症状が現れることがあります。
- 手が震える
- 筋肉がこわばる
- 動作が遅くなる
- 表情が乏しくなる
- 歩幅が小さくなる
ビペリデンは、
薬剤性パーキンソニズムに比較的効果が期待できる薬です。
急性ジストニア
急性ジストニアは、筋肉が自分の意思とは関係なく
強く収縮してしまう副作用です。
- 目が上を向いたまま戻りにくい(眼球上転)
- 首が一方向につっぱる
- あごが開きにくい・閉じにくい
- 舌が突出する
- 顔や首の筋肉が強くこわばる
急性ジストニアでは、
ビペリデンの注射薬が速やかな症状改善に役立つことがあります。[2,4]
アカシジア
アカシジアは、
「じっとしていられない」「脚がむずむずする」
「座っていることがつらい」といった
強い落ち着かなさを特徴とする副作用です。
日本では、向精神薬によるアカシジアも
ビペリデンの効能・効果に含まれています。[1]
一方、近年の薬剤性運動障害に関するレビューでは、
抗コリン薬はアカシジアに対して一貫した有効性が示されておらず、
ルーチンに使用する薬とは位置づけられていません。[3]
そのため、アカシジアが疑われる場合には、
原因となった抗精神病薬の減量や変更なども含めて治療法を検討します。
遅発性ジスキネジアには通常使用しません
口をもぐもぐ動かす、舌が勝手に動く、
顔や手足に繰り返す不随意運動が現れる
遅発性ジスキネジア(TD)は、
薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアとは異なる病態です。ビペリデンなどの抗コリン薬は、
遅発性ジスキネジアを通常改善せず、
かえって症状を悪化・顕在化させることがあります。[1,3]
ビペリデンの作用機序
私たちの体の動きを調整している脳の線条体では、
ドパミンとアセチルコリンという神経伝達物質が、
互いに影響しながら運動機能を調節しています。
抗精神病薬の多くは、
ドパミンD2受容体を遮断することで治療効果を発揮します。
一方、線条体でもドパミン作用が低下すると、
相対的にアセチルコリンの働きが強くなった状態になります。
抗精神病薬によるD2受容体遮断
↓
線条体のドパミン作用が低下
↓
アセチルコリンが相対的に優位
↓
振戦・筋強剛などの運動症状
ビペリデンは、
中枢神経系のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断し、
過剰になったコリン作動性神経の働きを抑えます。
その結果、ドパミンとアセチルコリンの機能的なバランスが改善し、
振戦や筋強剛などの症状が軽減すると考えられています。[1,2]

相対的に強くなったアセチルコリンの作用を抑えます。
もう少し専門的に:抗コリン作用と線条体
抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムでは、
黒質線条体ドパミン系のD2受容体遮断によって
ドパミン神経伝達が低下します。
ビペリデンは原因となるD2受容体遮断そのものを解除する薬ではなく、
相対的に優位となったコリン作動性神経伝達を抑制することで症状を改善する対症療法
と位置づけられます。
そのため、ビペリデンを追加するだけでなく、
原因となっている抗精神病薬の用量や種類を見直すことも重要です。
急性ジストニアでは注射薬が使われることがある
急性ジストニアは、
抗精神病薬の開始直後や増量後などに起こりやすく、
突然強い筋収縮が現れることがあります。
このような場合、
ビペリデンなどの抗コリン薬を筋肉内注射することで、
比較的速やかに症状が改善することがあります。[2,4]
呼吸や飲み込みに異常がある場合
のど周辺の筋肉にジストニアが起こると、
まれに呼吸や嚥下に影響することがあります。
息がしにくい、声が出しにくい、
飲み込みにくいなどの症状がある場合には、
速やかな医療評価が必要です。
ビペリデンの飲み方・用量
内服薬
通常成人では、
ビペリデン塩酸塩として1回1mgを1日2回から開始し、
症状や副作用を確認しながら徐々に増量します。
通常は1日3〜6mgを分割して服用します。
年齢や症状によって適宜調整されます。[1]
注射薬
注射薬では、通常成人に
乳酸ビペリデンとして5〜10mgを筋肉内注射します。
静脈内注射は特殊な場合に限られ、
5〜10mgを5mgにつき約3分かけて
ゆっくり投与します。[2]
自己判断で増量しないでください
ビペリデンは量を増やせば増やすほど
効果が高くなる薬ではありません。
大量投与では、かえってパーキンソン症状が悪化することもあります。[1,2]
ビペリデンはどのくらいで効く?
内服したビペリデンは、
健康成人における薬物動態データでは
約1.5時間で最高血中濃度に到達しています。
経口投与後のβ相半減期は
約18.4時間です。[1]
ただし、半減期は薬が体内から減っていく速度を示す指標であり、
「18時間ずっと同じ強さで効く」という意味ではありません。
ビペリデンの副作用
ビペリデンはアセチルコリンの働きを抑えるため、
抗コリン作用による副作用が中心です。[1,2]
比較的みられやすい抗コリン性副作用
- 口の渇き
- 便秘
- 排尿しにくい
- 眼のピントが合いにくい
- 悪心・胃部不快感
- 眠気
認知機能・せん妄への影響
アセチルコリンは、
記憶や注意などの認知機能にも関係しています。
ビペリデンでは、
記憶障害、幻覚、せん妄、精神錯乱、不安などが
現れることがあります。[1,2]
とくに高齢者では、
中枢性の副作用や便秘、排尿困難などが起こりやすいため、
使用の必要性を慎重に判断します。
気分高揚と依存
ビペリデンでは、
気分高揚や多幸感が現れることがあり、
添付文書でも依存形成につながる可能性が注意されています。[1,2]
必要以上に長期間使用したり、
自己判断で増量したりしないことが重要です。
長期間飲み続けても大丈夫?
ビペリデンが必要な期間は、
症状や原因となっている薬によって異なります。
急性期に有効だったからといって、
そのまま長期間飲み続ける必要があるとは限りません。
抗精神病薬の量や種類が調整され、
薬剤性パーキンソニズムなどが改善していれば、
ビペリデンの減量・中止を検討できる場合があります。
抗コリン薬は「必要最小限」が基本
近年のレビューでは、
薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアには有効性が支持される一方、
長期間の漫然投与は避け、
必要最小限の用量・期間で使用することが推奨されています。[3]
ビペリデンを急にやめても大丈夫?
長期間服用しているビペリデンを
自己判断で急に中止することは避けてください。
中止すると、
抑えられていた薬剤性パーキンソニズムなどが
再び目立つことがあります。
また、抗精神病薬などとの併用中に、
ビペリデンや併用薬の減量・中止に関連して、
発熱、強い筋強剛、意識障害などを伴う
悪性症候群が報告されています。[1,2]
長期間使用している場合は、
医師と相談しながら段階的に減量します。
ビペリデンを使用できない方
次の方には、原則としてビペリデンを使用できません。[1,2]
- 閉塞隅角緑内障のある方
- 重症筋無力症のある方
- ビペリデンに対して過敏症のある方
慎重な使用が必要な方
- 開放隅角緑内障のある方
- 前立腺肥大など尿が出にくくなる病気のある方
- 腸閉塞など消化管に閉塞性疾患のある方
- 不整脈や頻脈傾向のある方
- てんかんのある方
- 肝機能・腎機能が低下している方
- 高齢の方
服用中の自動車運転
眠気、眼の調節障害、
注意力・集中力・反射機能の低下が起こることがあります。
添付文書では、投与中は自動車の運転など
危険を伴う機械操作に従事しないよう注意されています。[1,2]
他の薬との飲み合わせ
抗コリン作用をもつ薬と併用すると、
ビペリデンの抗コリン作用が強く現れることがあります。
とくに、
一部の抗精神病薬、三環系抗うつ薬などとの併用では、
強い便秘や腸管麻痺などに注意が必要です。[1,2]
また、中枢神経を抑制する薬との併用では、
眠気や精神運動機能低下、
幻覚・妄想などが強くなる場合があります。
アーテン(トリヘキシフェニジル)との違い
ビペリデン(アキネトン)と
トリヘキシフェニジル(アーテン)は、
どちらも中枢性抗コリン薬です。
作用機序や使用される症状には共通点がありますが、
別の有効成分です。
ビペリデンには注射製剤が存在するため、
急性ジストニアなど、
急いで治療する必要がある場面でも使用しやすいという特徴があります。
精神科治療では「副作用の薬を追加する」だけで考えない
ビペリデンは、
抗精神病薬による運動症状を改善する重要な薬です。
ただし、薬剤性パーキンソニズムなどが生じた場合には、
ビペリデンを追加することだけが治療ではありません。
原因となった抗精神病薬について、
- 投与量が多すぎないか
- 増量が急でなかったか
- 別の抗精神病薬へ変更できないか
- ビペリデンを長期間続ける必要があるか
といった点も含めて、
治療全体を見直すことが重要です。
よくある質問
ビペリデン(アキネトン)は何の薬ですか?
脳内のアセチルコリンの働きを抑える
中枢性抗コリン薬です。
精神科では主に、
抗精神病薬によって起こる薬剤性パーキンソニズムや
急性ジストニアなどに使用されます。
アキネトンとアーテンは同じ薬ですか?
いいえ。
アキネトンはビペリデン、
アーテンはトリヘキシフェニジルという別の薬です。
アカシジアにも効きますか?
日本では適応に含まれていますが、
すべてのアカシジアに効果があるわけではありません。
原因となった抗精神病薬の調整などを優先することもあります。
遅発性ジスキネジアにも効きますか?
通常は使用しません。
遅発性ジスキネジアを改善しないだけでなく、
症状を悪化・顕在化させる可能性があります。
長期間飲み続けても大丈夫ですか?
必要な場合には継続しますが、
長期使用では抗コリン性副作用や
認知機能への影響などが問題になることがあります。
定期的に必要性を見直します。
症状がなくなったら自分でやめてもよいですか?
自己判断で急に中止せず、
処方した医師に相談してください。
長期間服用している場合は、
徐々に減量することがあります。
まとめ
ビペリデン(アキネトン)は、
脳内のコリン作動性神経を抑え、
抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムや
急性ジストニアなどを改善する中枢性抗コリン薬
です。
とくに急性ジストニアでは、
注射薬を使用できることも大きな特徴です。
一方、
薬剤性パーキンソニズム、急性ジストニア、
アカシジア、遅発性ジスキネジアは、
いずれも抗精神病薬治療中に現れることがありますが、
病態も治療方法も異なります。
「抗精神病薬の副作用だから、とりあえずビペリデンを追加する」
のではなく、
どの運動障害が起きているのかを見極めることが重要です。
また、長期間使用する場合には、
口渇や便秘だけでなく、
認知機能低下、せん妄、排尿障害、依存などにも注意し、
現在も必要な薬かどうかを定期的に見直します。

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医
引用・参考文献
・住友ファーマ株式会社. アキネトン注射液5mg 添付文書.
・Vanegas-Arroyave N, Caroff SN, Citrome L, et al. An Evidence-Based Update on Anticholinergic Use for Drug-Induced Movement Disorders. CNS Drugs. 2024;38:239-254.
・van Harten PN, Hoek HW, Kahn RS. Acute dystonia induced by drug treatment. BMJ. 1999;319:623-626.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
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