【精神科医専門医解説】ダリドレキサント(クービビック)の効果・作用機序・副作用

目次
- はじめに
- クービビック(ダリドレキサント)とは?
- クービビックの作用機序|覚醒システムを抑えるDORA
- クービビックの効果|入眠と睡眠維持の両方を改善
- 睡眠時間だけでなく「日中の機能」も治療目標
- 半減期は約6~7時間|ただし高齢者では長くなる
- 高齢者では転倒しにくい?|夜間の姿勢安定性を直接調べた試験
- 25mgと50mgはどう使い分ける?
- いつ飲む?|食事と同時・食直後を避ける理由
- 錠剤を粉砕してもよい?|「粉砕厳禁」ではありません
- DORAはどう使い分ける?|クービビック・デエビゴ・ベルソムラ・ボルズィ
- クービビックの主な副作用
- 悪夢は「REMリバウンド」だから起こる?
- 薬の飲み合わせ|CYP3A4が重要
- アルコールと一緒に飲んでもよい?
- ナルコレプシー・カタプレキシーでは注意
- 睡眠時無呼吸症候群やCOPDでは?
- 依存性・耐性は?|DORAだから「依存性ゼロ」ではない
- 長期間使用した場合|52週間の日本人データ
- 不眠症では睡眠薬だけでなく原因を評価する
- 薬だけに頼らない不眠治療|CBT-I
- よくある質問
- まとめ
- 執筆者
- 引用・参考文献
はじめに
ダリドレキサント(商品名:クービビック®)は、不眠症の治療に用いられるデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA:Dual Orexin Receptor Antagonist)です。
従来のベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が、主としてGABA系の抑制性神経伝達を増強するのに対し、クービビックは覚醒を維持するオレキシン神経系を抑制することで、睡眠へ移行しやすい状態をつくります。
日本では通常、成人に50mgを1日1回、就寝直前に服用します。患者さんの状態に応じて25mgを使用することもできます。
本記事では、効果や副作用だけでなく、半減期、高齢者の夜間転倒に関するデータ、食事の影響、粉砕・簡易懸濁、CYP3A相互作用、他のDORAとの臨床的な使い分け、長期使用、認知行動療法(CBT-I)との組み合わせまで解説します。
クービビックは脳を一律に鎮静するというより、覚醒を維持しているオレキシンシステムを弱める睡眠薬です。日本人非高齢者では比較的短い半減期を持ちますが、「翌朝に絶対残らない」「依存性がまったくない」「高齢者でも転倒しない」という意味ではありません。薬物動態と臨床データの両方を踏まえて使用することが重要です。
クービビック(ダリドレキサント)とは?
ダリドレキサント塩酸塩
クービビック®(QUVIVIQ)
デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)
不眠症
25mg錠・50mg錠
50mgを1日1回、就寝直前
状態に応じ25mg。中等度肝機能障害・中程度CYP3A阻害薬併用時は25mg
日本人非高齢者:約6.2~6.9時間/高齢者:約8.9~11.7時間
主としてCYP3A4
フィルムコーティング錠
習慣性医薬品・処方箋医薬品
2024年12月
クービビックの作用機序|覚醒システムを抑えるDORA
私たちが日中に覚醒を保つためには、脳内のさまざまな覚醒系が働いています。
その中心的な役割の一つを担うのが、主として視床下部の神経細胞から分泌されるオレキシンという神経ペプチドです。
オレキシン神経は脳幹、視床、大脳皮質など覚醒に関与する領域へ広く投射し、覚醒状態を安定して維持しています。
オレキシンには主としてオレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)という2種類の受容体があります。
ダリドレキサントは両方の受容体を阻害するため、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)と呼ばれます。
→
OX1R・OX2Rを遮断
→
覚醒ドライブ低下
→
入眠・睡眠維持を促す

これに対し、クービビックは覚醒を維持するオレキシンシステムそのものを抑制するという異なる機序を持っています。
したがって同じ「睡眠薬」であっても、作用機序、副作用、依存・耐性、翌朝への影響については分けて考える必要があります。
クービビックの効果|入眠と睡眠維持の両方を改善
日本国内の第III相試験では、不眠症のある成人約490例を対象として、ダリドレキサント50mg、25mg、プラセボを4週間比較しています。
+20.3分
4週後、プラセボとの差
-10.7分
4週後、プラセボとの差
50mgでは、4週後の主観的総睡眠時間がプラセボと比較して20.3分長く、主観的入眠潜時は10.7分短くなりました。
25mgでも、主観的総睡眠時間と入眠潜時の双方でプラセボと比較した改善が確認されています。
睡眠時間だけでなく「日中の機能」も治療目標
不眠症の治療目的は、単に「8時間眠れるようにする」ことではありません。
海外第III相試験では、ダリドレキサント50mgで夜間の睡眠指標に加えて、IDSIQ(Insomnia Daytime Symptoms and Impacts Questionnaire)の眠気領域でも改善が認められています。
これはダリドレキサントが直接「日中の能力を高める」という意味ではありません。不眠の改善に伴って、日中の眠気や生活上の支障も改善する可能性を示した結果と理解するのが適切です。
睡眠時間の数字だけでなく、翌日に仕事・家事・学業など必要な活動ができるか、日中の眠気や集中力低下が改善しているかまで評価します。
半減期は約6~7時間|ただし高齢者では長くなる
クービビックの特徴として、比較的短い消失半減期が挙げられます。
日本人健康成人を対象とした第I相試験では、非高齢者と高齢者で以下のような違いが認められています。
| 対象 | 25mg | 50mg |
|---|---|---|
| 非高齢者・1日目 | 6.16時間 | 6.92時間 |
| 非高齢者・4日目 | 6.42時間 | 6.60時間 |
| 高齢者・1日目 | 11.66時間 | 9.73時間 |
| 高齢者・4日目 | 9.80時間 | 8.87時間 |
したがって、日本人非高齢者ではおおむね約6.2~6.9時間ですが、高齢者では約8.9~11.7時間と長くなる傾向があります。
また、血中濃度と実際の眠気、注意力、反射運動能力が完全に一致するわけでもありません。電子添文でも、翌朝以降に眠気や注意力低下などが生じる可能性への注意が求められています。
高齢者では転倒しにくい?|夜間の姿勢安定性を直接調べた試験
高齢者に睡眠薬を使用するときに重要なのが、夜間にトイレなどで起きた際のふらつきや転倒です。
ダリドレキサントでは、この点について実際に夜間覚醒させて評価した臨床薬理試験があります。
健康成人36例を対象とした無作為化二重盲検クロスオーバー試験では、非高齢者18例と高齢者18例にダリドレキサント25mg、50mgまたはプラセボを投与し、就寝4時間後に覚醒させて姿勢安定性、移動能力、認知機能などを評価しました。
約22%増加
全体集団・対プラセボ
差 ≤1秒
対プラセボ
プラセボと同程度
増加は主に非高齢者で観察
全体ではbody sway(身体動揺)が約22%増加しましたが、この変化は主として非高齢者で認められ、高齢者ではプラセボと同程度でした。
また、Timed Up and Go(TUG)に要する時間はプラセボとの差が1秒以内で、夜間の機能的移動能力への大きな影響は認められませんでした。
国内第III相試験の高齢者データ
日本国内第III相試験でも、65歳以上について、傾眠、浮動性めまい、転倒などが年齢別に解析されています。
| 高齢者での有害事象 | 25mg | 50mg | プラセボ |
|---|---|---|---|
| 傾眠 | 2.0%(1/49) | 2.1%(1/48) | 0%(0/50) |
| 浮動性めまい | 0% | 4.2%(2/48) | 0% |
| 転倒 | 報告なし | 報告なし | 報告なし |
ただし、これらの試験だけから「転倒しない薬」「他の睡眠薬より転倒リスクが低いことが証明された」と結論づけることはできません。
高齢者では夜間頻尿、起立性低血圧、筋力低下、認知機能、多剤併用なども転倒に影響します。実臨床では翌朝の眠気、めまい、ふらつきを確認しながら使用します。
25mgと50mgはどう使い分ける?
通常、成人にはダリドレキサント50mgを1日1回、就寝直前に服用します。患者さんの状態に応じて25mgを使用することができます。
したがって、クービビックは「全員25mgから開始して50mgへ増量する薬」ではありません。
いつ飲む?|食事と同時・食直後を避ける理由
クービビックは就寝直前に服用します。
服用したあとに一度眠り、夜中に起きて仕事や運転などの活動をする可能性がある場合には服用しません。
また、電子添文では食事と同時または食直後の服用を避けることが定められています。
食後ではTmaxが約1.3時間遅れる
外国人健康成人を対象としたクロスオーバー試験では、ダリドレキサント50mgを空腹時、または高脂肪・高カロリー食開始30分後に投与して薬物動態を比較しました。
+1.28時間
食後で遅延
-15.6%
食後で低下
大きな変化なし
総曝露量への影響は小さい
食後では吸収量が大きく失われるというより、吸収のピークが後ろへずれることが重要です。
何時間も絶食しなければならないという意味ではなく、夕食直後の服用を避け、就寝直前に服用するという理解が適切です。
錠剤を粉砕してもよい?|「粉砕厳禁」ではありません
クービビックは徐放錠ではなくフィルムコーティング錠です。
さらに、インタビューフォームには25mg錠・50mg錠について粉砕後の安定性試験が掲載されています。
| 粉砕後の保存条件 | 期間 | 性状・含量・類縁物質 | その他 |
|---|---|---|---|
| 40±2℃ | 3か月 | 規格内 | ― |
| 25±2℃/75±5%RH | 3か月 | 規格内 | 水分増加あり |
| 光曝露条件 | 1か月 | 規格内 | 長期では水分増加あり |
少なくとも、これらの試験条件では、粉砕によって直ちに含量や類縁物質が規格外となる結果は確認されていません。
簡易懸濁・経管投与についての参考データ
→
5分自然放置
→
崩壊・懸濁
→
8Frチューブを通過
インタビューフォームでは、55℃のお湯20mLに錠剤を入れて5分自然放置すると崩壊・懸濁し、その懸濁液は8Frのチューブを通過しています。
したがって「粉砕厳禁」とする根拠はありませんが、患者さんが自己判断で粉砕してよいという意味でもありません。嚥下困難などがある場合には、医師・薬剤師が投与方法を個別に判断します。
DORAはどう使い分ける?|クービビック・デエビゴ・ベルソムラ・ボルズィ
現在、日本では複数のデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)を不眠症治療に使用できます。
同じDORAでも、作用の立ち上がり、半減期、用量調整の幅、翌朝への持ち越し、CYP3Aとの相互作用、臨床試験で重点的に評価されたアウトカムには違いがあります。
そのため、単純に「どのDORAが一番強いか」を比較するより、その患者さんの不眠のタイプと翌日の生活に合わせて選ぶことが実際の診療では重要です。
以下は、各薬剤の承認用量、薬物動態、相互作用、個別の臨床試験結果をもとにした臨床上の使い分けの考え方です。他剤に対する優越性を示すものではありません。
臨床場面から考えるDORAの使い分け
横にスクロールできます →
| 臨床で重視すること | 検討しやすい選択肢 | 臨床的な考え方 |
|---|---|---|
| 翌朝への持ち越しをできるだけ抑えたい | ボルズィ クービビック |
ボルズィは10mg反復投与時の半減期が約2時間、クービビックは日本人非高齢者で約6~7時間と、DORAの中では比較的短い薬物動態を示します。翌朝早くから仕事など高い覚醒度が求められる場合には、薬剤選択を考える材料になります。
ただし、半減期が短い=翌朝の眠気が起こらないという意味ではありません。 |
| 寝つきの悪さが特に目立つ | ボルズィ デエビゴ クービビック |
ボルズィは投与後比較的速やかに吸収され、国内第III相試験でも主観的睡眠潜時を主要評価項目として有効性が確認されています。
デエビゴ、クービビックにも入眠潜時を改善した臨床試験データがあり、入眠困難にも使用されます。薬物動態だけで効果の優劣を判断することはできません。 |
| 中途覚醒・睡眠維持困難が目立つ | デエビゴ ベルソムラ クービビック |
デエビゴやベルソムラは比較的長い曝露を示し、睡眠維持効果について豊富な臨床試験データがあります。睡眠後半までの維持を重視するときに検討しやすい薬剤です。
一方、クービビックも総睡眠時間や睡眠維持を改善するため、半減期が短めだから中途覚醒には効かないという意味ではありません。 |
| 入眠困難と中途覚醒の両方がある | クービビック デエビゴ ベルソムラ ボルズィ |
DORAはいずれも入眠と睡眠維持の双方に作用し得ます。クービビックは比較的短い半減期を持ちながら、国内試験で入眠潜時と総睡眠時間の双方を改善しており、夜間効果と翌朝への影響のバランスを考える際の一つの選択肢です。 |
| 翌日の日中機能まで治療評価に入れたい | クービビック | ダリドレキサントの第III相試験では、夜間の睡眠指標だけでなく、IDSIQを用いた日中機能も評価され、50mgで日中の眠気領域の改善が示されています。
これは他のDORAより日中機能に優れることを証明した直接比較ではありませんが、開発時から翌日の機能を主要な臨床アウトカムとして評価した点は特徴です。 |
| 高齢者で夜間のふらつき・転倒が特に心配 | クービビック その他のDORAも候補 |
クービビックには、高齢者を含む被験者を就寝4時間後に起こし、body swayとTimed Up and Goを直接評価した試験があります。高齢者のbody swayはプラセボとほぼ同程度で、TUGへの大きな影響も確認されませんでした。
ただし他剤より転倒が少ないことを証明した直接比較ではなく、高齢者ではクービビック自体の半減期も延長します。 |
| 効果と眠気をみながら細かく用量調整したい | デエビゴ ボルズィ |
デエビゴは2.5mg・5mg・10mg、ボルズィも2.5mg・5mg・10mgの製剤があり、臨床反応や副作用をみながら用量を調整しやすい構成です。
クービビックは25mg・50mgの2段階で、通常量は50mgです。 |
| CYP3A阻害薬を併用している | 薬剤ごとに個別確認 | DORAはいずれもCYP3Aの影響を受けるため、抗真菌薬、マクロライド系抗菌薬、抗ウイルス薬などの併用確認が重要です。
ただし、禁忌になる組み合わせや減量方法は薬剤によって異なります。「DORAだから同じ」と考えず、各薬剤の電子添文を確認します。 |
| 長い国内使用経験を重視したい | ベルソムラ | スボレキサントは日本で最も早期から使用されているDORAで、長い市販後使用経験があります。これは有効性が他剤より優れるという意味ではありませんが、実臨床における使用経験の蓄積を重視する場合には一つの特徴です。 |
4剤の「臨床的キャラクター」を整理すると
日本人非高齢者では半減期約6~7時間。入眠・睡眠維持の双方に有効性が確認され、IDSIQによる日中機能評価を第III相試験に組み込んでいる点が特徴です。
反復10mg投与時のTmax中央値は約1.5~1.75時間、半減期は約2時間です。国内第III相試験では主観的睡眠潜時の有意な短縮が確認されており、入眠困難が前景にある場合や翌朝への持ち越しを意識する場合に薬物動態上検討しやすい薬剤です。
2.5mg・5mg・10mgの用量選択肢があり、睡眠開始・睡眠維持の双方について臨床データが蓄積されています。終末相半減期は長いため、翌朝の傾眠などを確認しながら使用します。
DORAとして国内で長く使用されてきた薬剤です。日本人健康成人での半減期は約10時間と報告され、入眠・睡眠維持の双方に使用されます。翌朝の眠気には注意します。
薬物動態は薬剤選択の重要な材料ですが、実際には入眠潜時、中途覚醒、早朝覚醒、翌朝の眠気、起床時刻、年齢、肝機能、併用薬、飲酒、過去の睡眠薬への反応まで確認して選びます。
DORA同士の直接比較試験は限られているため、各薬剤の個別試験と薬物動態から臨床的位置づけを考えることが重要です。
DORAの半減期は「作用時間ランキング」ではない
DORAを比較するとき、半減期は分かりやすい数値ですが、半減期だけで臨床効果を判断すると誤解が生じます。
そのため、「半減期が2時間なら2時間しか効かない」「50時間なら翌日まで必ず眠い」といった解釈は適切ではありません。
クービビックの主な副作用
国内第III相試験で代表的だった副作用の一つが傾眠です。
傾眠は50mg群で6.8%、25mg群で3.7%、プラセボ群で1.8%に認められました。
悪夢は「REMリバウンド」だから起こる?
DORAでは悪夢や異常な夢が副作用として報告されています。
一方で、「クービビックによって抑制されていたREM睡眠が回復するため悪夢が出る」と一律に説明するのは慎重であるべきです。
症状が強い場合には、用量や服薬継続の必要性を主治医と相談します。
薬の飲み合わせ|CYP3A4が重要
ダリドレキサントは主としてCYP3A4によって代謝されます。
このため、CYP3Aを強く阻害する薬剤との併用ではダリドレキサントの血中濃度が上昇し、副作用が増強する可能性があります。
| 分類 | 代表例 | 対応 |
|---|---|---|
| 強いCYP3A阻害薬 | イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビルなど | 併用禁忌 |
| 中程度CYP3A阻害薬 | ジルチアゼム、ベラパミル、エリスロマイシン、フルコナゾールなど | 投与する場合は25mgとして慎重に使用 |
| 強い・中程度CYP3A誘導薬 | リファンピシン、フェニトイン、エファビレンツ、カルバマゼピンなど | 効果が弱くなる可能性があり、代替薬を検討 |
| 中枢神経抑制薬 | 他の睡眠薬、鎮静作用を持つ向精神薬など | 中枢神経抑制作用が増強する可能性 |
アルコールと一緒に飲んでもよい?
アルコールとダリドレキサントはいずれも中枢神経系へ作用するため、併用すると眠気や注意力低下などが強くなる可能性があります。
特に日常的な飲酒そのものが不眠を悪化させている場合には、睡眠薬の調整だけでなく飲酒パターンを見直すことも重要です。
ナルコレプシー・カタプレキシーでは注意
オレキシン神経系は覚醒維持に重要であり、ナルコレプシーではオレキシン系が病態に深く関与しています。
そのため、ナルコレプシーまたはカタプレキシーのある方では症状への影響に注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群やCOPDでは?
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)があることだけで、クービビックが一律に禁忌になるわけではありません。
一方、呼吸機能障害の程度によっては臨床試験データが限られており、個々の患者さんで呼吸状態を含めた評価が必要です。
依存性・耐性は?|DORAだから「依存性ゼロ」ではない
ダリドレキサントは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のようにGABAA受容体へ作用する薬ではありません。
そのため、依存や耐性を考える薬理学的背景はベンゾジアゼピン系とは異なります。
日本国内の短期第III相試験では、治療終了後に明らかな反跳性不眠や退薬症候は確認されませんでした。
日本ではクービビックは習慣性医薬品に指定されています。症状が改善した場合には、投与継続の必要性を定期的に見直します。
長期間使用した場合|52週間の日本人データ
日本人を対象とした長期第III相試験では、ダリドレキサント25mgまたは50mgが最大52週間投与されました。
睡眠開始、睡眠維持、日中機能の改善は長期にわたり維持され、長期使用に関する安全性データも集積されています。
一方、この長期試験は非盲検試験です。
長期間服用する場合でも、必要性、有効性、副作用を定期的に再評価します。
不眠症では睡眠薬だけでなく原因を評価する
「眠れない」という症状にはさまざまな原因があります。
薬だけに頼らない不眠治療|CBT-I
慢性的な不眠では、薬物療法に加えて不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が重要です。
不眠を抱える方では、「今夜こそ眠らなければならない」「8時間眠れなかったら明日は何もできない」と考えるほど、睡眠への不安そのものが覚醒を高めることがあります。
夜に何時間眠ったかだけではなく、「翌日に必要な活動ができているか」「睡眠について悩む時間が減っているか」を含めて治療効果を評価します。
よくある質問
「クービック」と「クービビック」は同じ薬ですか?
正式な商品名はクービビック®です。一般名はダリドレキサントです。「クービック」と呼ばれることがありますが、正式な製品名ではありません。
25mgから開始する薬ですか?
必ずしもそうではありません。国内電子添文上の通常量は50mgです。患者さんの状態に応じて25mgを使用できます。中等度肝機能障害や中程度CYP3A阻害薬を併用する場合には25mgとします。
食後すぐに飲んではいけませんか?
食事と同時・食直後は避けます。食後では吸収のピークが遅れ、Tmaxが約1.28時間延長したデータがあります。一方、完全な空腹状態を何時間も維持しなければならないという意味ではありません。
夜中に目が覚めたとき追加で服用できますか?
追加では服用しません。1日1回、就寝直前に服用する薬です。服用後に睡眠途中で起床して仕事などをする予定がある場合にも服用しません。
翌朝に残りにくい薬ですか?
日本人非高齢者では半減期がおおむね約6~7時間と比較的短いことは特徴です。しかし、翌朝への影響がないことを保証するものではありません。高齢者では半減期が約9~12時間まで延長することがあります。
高齢者では転倒しにくいですか?
高齢者を含む夜間姿勢安定性試験では、TUGへの大きな影響は認められず、高齢者のbody swayもプラセボとほぼ同程度でした。また国内第III相試験でも転倒は報告されませんでした。ただし症例数や観察期間には限界があり、「転倒しない薬」と断定することはできません。
デエビゴ・ベルソムラ・ボルズィのどれが一番よいですか?
一律に「最もよいDORA」はありません。寝つき、中途覚醒、翌朝の眠気、起床時刻、年齢、肝機能、併用薬などによって選択が変わります。DORA同士を同一条件で比較した十分な直接比較試験もないため、薬物動態と個々の臨床反応をみながら選択します。
錠剤を粉砕してはいけませんか?
クービビックは徐放錠ではなく、インタビューフォームには粉砕後の安定性試験も掲載されています。そのため「粉砕厳禁」とする根拠はありません。一方、粉砕投与が承認された用法という意味でもありません。必要な場合は医師・薬剤師へ相談してください。
経管投与はできますか?
インタビューフォームには、55℃のお湯20mLで5分後に崩壊・懸濁し、8Frチューブを通過した参考試験があります。ただし、経管投与の可否を正式に保証するデータではありません。実際の使用では医療従事者による個別判断が必要です。
依存性はありませんか?
ベンゾジアゼピン系とは作用機序が異なり、国内短期試験では中止後の明らかな反跳性不眠や退薬症候は確認されませんでした。一方、日本では習慣性医薬品に指定されているため、「依存性が完全にない」とは説明できません。
悪夢が増えた場合は中止した方がよいですか?
悪夢はクービビックで報告されている副作用の一つですが、原因が薬剤だけとは限りません。頻度や苦痛の程度、PTSDやうつ病などの背景、他の薬剤などを含めて主治医と評価します。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬から変更したら、以前の薬をすぐ中止できますか?
長期間ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用していた場合、急な中止によって反跳性不眠や離脱症状が生じることがあります。クービビックへの変更と、従来薬の減量方法は分けて考える必要があります。
まとめ
クービビック(ダリドレキサント)は、OX1受容体とOX2受容体を遮断し、オレキシンによる覚醒維持を抑える不眠症治療薬です。
国内では通常50mgを就寝直前に使用し、患者さんの状態に応じて25mgを使用します。入眠困難と睡眠維持の双方に対する有効性が国内第III相試験で確認されています。
日本人非高齢者では半減期は約6~7時間ですが、高齢者では約9~12時間まで延長することがあります。そのため、「短時間型だから翌朝には残らない」と単純化しないことが重要です。
一方、高齢者を含む夜間姿勢安定性試験では、TUGへの大きな影響はなく、高齢者のbody swayもプラセボとほぼ同程度でした。国内第III相試験でも転倒は報告されていません。ただし、これらは「転倒リスクがない」ことを証明するものではありません。
DORAの選択では半減期だけを見るのではなく、入眠困難、中途覚醒、翌朝の日中機能、年齢、併用薬、用量調整の必要性まで含めて考えます。クービビックは比較的短い半減期を持ちながら入眠・睡眠維持の双方に有効性が確認され、日中機能を臨床試験で評価していることが特徴です。
食事については、食後投与でTmaxが約1.28時間遅延し、Cmaxが約15.6%低下します。このため完全な空腹時を要求するのではなく、食事と同時・食直後を避けて就寝直前に服用することがポイントです。
また、クービビックは徐放錠ではなく、粉砕後の安定性や簡易懸濁に関する参考データも存在します。「粉砕厳禁」とは言えませんが、加工投与が正式に承認されているわけでもないため、必要な場合には医師・薬剤師が個別に判断します。
不眠症の治療では睡眠時間だけにこだわらず、CBT-Iや睡眠習慣の調整も組み合わせ、夜間の睡眠と翌日の日中機能の両方を改善することを目標とします。
執筆者

医療法人社団燈心会 理事長/ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水 聖童(Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定精神科専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ・ビバンセ登録医
引用・参考文献
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. クービビック錠25mg/50mg 電子添文.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. クービビック錠25mg/50mg 医薬品インタビューフォーム.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. クービビック錠25mg/50mg 審査報告書.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg 電子添文.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ベルソムラ錠10mg/15mg/20mg 電子添文.
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ボルズィ錠2.5mg/5mg/10mg 電子添文・審査報告書.
・Uchimura N, Taniguchi M, Ariyoshi Y, et al. Daridorexant in Japanese patients with insomnia disorder: A phase 3, randomized, double-blind, placebo-controlled study. Sleep Med. 2024;122:27-34.
・Uchimura N, Ozone M, Suzuki M, et al. Long-term safety and efficacy of daridorexant in Japanese patients with insomnia disorder. Sleep Med. 2024;122:64-70.
・Mignot E, Mayleben D, Fietze I, et al. Safety and efficacy of daridorexant in patients with insomnia disorder: results from two multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trials. Lancet Neurol. 2022;21(2):125-139.
・Nighttime safety of daridorexant: Evaluation of responsiveness to an external noise stimulus, postural stability, walking, and cognitive function. J Psychopharmacol. 2024.
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