【精神科専門医解説】ラツーダ(ルラシドン)の効果・副作用|双極性うつ・統合失調症、食後服用とアカシジア

目次
はじめに
ラツーダ(一般名:ルラシドン塩酸塩)は、
ドパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体を遮断する
第二世代抗精神病薬です。
日本では
統合失調症と、
双極症(双極性障害)における
うつ症状の改善に承認されています。
ラツーダの特徴は、
D2・5-HT2A受容体だけでなく、
5-HT7受容体を遮断し、
5-HT1A受容体には部分アゴニストとして作用することです。
一方、ヒスタミンH1受容体やムスカリンM1受容体への親和性は低く、
第二世代抗精神病薬の中では
体重・糖脂質代謝や強い鎮静への影響が比較的小さい薬剤として位置づけられます。
ラツーダは、統合失調症だけでなく
双極性障害のうつ症状そのものに国内承認を持つことが大きな特徴です。
体重増加・代謝異常・過鎮静が比較的少ない一方、
アカシジア(じっとしていられない強い落ち着かなさ)は重要な副作用です。
また、吸収が食事によって大きく変化するため、
「食後に飲めているか」まで含めて処方する薬と考える必要があります。
ラツーダ(ルラシドン)とは?
ラツーダは、
セロトニン・ドパミン系の複数の受容体に作用する
非定型抗精神病薬です。
統合失調症への抗精神病作用に加え、
双極性障害の抑うつ症状に対する臨床試験で有効性が示され、
日本では2020年に両疾患への適応で承認されました。
ルラシドン塩酸塩
ラツーダ
錠20mg・40mg・60mg・80mg
第二世代抗精神病薬/双極性障害のうつ症状治療薬
統合失調症/双極性障害におけるうつ症状の改善
通常40mgを1日1回食後。最大80mg/日
20mgから開始し20~60mgを1日1回食後
食後40mg単回投与:約22.5時間
CYP3A4
ラツーダの作用機序
ラツーダは、
D2・5-HT2A・5-HT7受容体への拮抗作用と、
5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用
を併せ持っています。

5-HT1A受容体には部分アゴニストとして作用します。
① ドパミンD2受容体を遮断する
統合失調症の幻覚や妄想などの陽性症状には、
中脳辺縁系を中心としたドパミン神経伝達の過剰が関係すると考えられています。
ラツーダはD2受容体を遮断することで、
過剰なドパミン神経伝達を抑え、
幻覚・妄想・まとまりにくい思考などの改善を目指します。
② 5-HT2A受容体を遮断する
5-HT2A受容体遮断作用は、
第二世代抗精神病薬に共通する重要な薬理作用の一つです。
D2受容体だけを強く遮断する古典的な抗精神病薬とは異なり、
セロトニン系にも作用することによって、
治療効果や錐体外路症状などの副作用プロファイルが変化します。
③ 5-HT7受容体を強く遮断する
ラツーダを薬理学的に特徴づけている作用の一つが、
5-HT7受容体への拮抗作用です。
5-HT7受容体は、
気分、認知機能、睡眠・覚醒や概日リズムなどとの関連が研究されています。
動物実験では認知機能や抗うつ作用との関連を示唆する結果があります。
5-HT7遮断=認知機能が改善する、とまでは言えません
5-HT7受容体はラツーダの興味深い標的ですが、
受容体作用から患者さんの認知機能改善を直接断定することはできません。
認知機能や概日リズムへの臨床的な影響は現在も研究が続いている領域であり、
「期待される薬理学的特徴」と
「臨床的に確立した効果」は分けて考える必要があります。
④ 5-HT1A受容体には部分アゴニストとして作用する
ラツーダは5-HT1A受容体に対して
部分アゴニストとして作用します。
この作用は前頭前野機能や抗不安・抗うつ作用への関与が研究されていますが、
ラツーダの抗うつ効果を
5-HT1A作用だけで説明できるわけではありません。
⑤ H1・M1受容体への親和性が低い
ラツーダは、
ヒスタミンH1受容体と
ムスカリンM1受容体には
ほとんど親和性を示しません。
「副作用が少ない薬」ではなく「副作用の出方が違う薬」です
代謝系や抗コリン系の副作用が比較的少ない一方、
ラツーダはD2受容体をしっかり遮断します。
そのため、
アカシジア、パーキンソニズム、ジストニアなどの錐体外路症状
はむしろ重要な弱点です。
ラツーダの効果・適応
統合失調症
ラツーダは
統合失調症
に国内承認されています。
急性期の国際共同第3相試験では、
40mg/日でプラセボと比較してPANSS合計スコアの有意な改善が確認されています。
統合失調症では長期間の治療が必要になることが多いため、
症状改善だけでなく、
体重、糖脂質代謝、眠気、プロラクチン、錐体外路症状などを含めて、
その患者さんが継続しやすい薬を選ぶことが重要です。
双極性障害のうつ症状
精神科臨床でラツーダの存在感が特に大きいのが、
双極性障害のうつ症状
です。
双極性障害では、
躁状態よりも抑うつ状態に長い期間悩まされる患者さんも少なくありません。
一方、単極性うつ病と同じ感覚で抗うつ薬を使用することには、
躁転や気分不安定化などを考慮する必要があります。
ラツーダは抗精神病薬でありながら、
双極性うつそのものに対する無作為化比較試験で有効性が示され、
日本でも正式な適応を持っている
ことが大きな強みです。
双極性うつでは20~60mgが重要な用量帯
日本人179例を含む双極I型障害の大うつ病エピソード患者525例を対象とした
国際共同第3相試験では、
6週間の治療で20~60mg/日群が
プラセボ群よりMADRSスコアを有意に改善しました。
| 治療群 | MADRS変化量 | プラセボとの差 |
|---|---|---|
| プラセボ | −10.6 | ― |
| ラツーダ20~60mg | −13.6 | 有意差あり |
| ラツーダ80~120mg | −12.6 | 主要評価項目で有意差なし |
日本で承認されている双極性うつへの用量も
20~60mg/日です。
さらに2024年に報告された用量反応メタ解析では、
双極性うつに対する有効性と忍容性のバランスは
40~60mg/日前後で良好である可能性が示されています。
執筆者の臨床的見解|ラツーダは「高用量まで押す薬」とは考えていません
双極性うつで20mgから開始して部分的な改善が得られた場合、
40mg、必要であれば60mgまで検討する価値は十分あります。
一方で、
「効かなければどんどん増量すればよい」という薬ではないと考えています。
日本人を含む承認時試験では20~60mg群が有効で、
80~120mg群は主要評価項目で有意差に到達しませんでした。
近年の用量反応メタ解析でも40~60mg付近が合理的な用量帯として示唆されています。
20~60mgの範囲で十分に治療効果を評価し、
アカシジアなどの副作用とのバランスを見る
という使い方が、ラツーダには合っていると考えています。
双極I型と双極II型は分けて考える必要があります
日本の添付文書上の適応は
「双極性障害におけるうつ症状の改善」であり、
双極I型・II型による記載上の区別はありません。
ただし、
ラツーダの主要な無作為化比較試験で対象となったのは
双極I型障害です。
双極II型障害だけを対象とした質の高い臨床試験は乏しく、
国際的なCANMAT/ISBDガイドラインでは、
双極II型うつ病における第一選択薬はクエチアピンとされており、
ラツーダは双極I型と同じレベルの根拠が確立しているわけではありません。
承認適応とエビデンスの対象集団は必ずしも同じではありません
双極II型の患者さんにラツーダを使用すること自体が
国内承認上除外されているわけではありません。
一方で、
「双極I型でもII型でも同じ強さのエビデンスがある」
と説明するのは適切ではありません。
病型、過去の軽躁・躁状態、抑うつの経過、治療歴を踏まえて判断します。
リチウム・バルプロ酸との併用
海外では、
リチウムまたは
バルプロ酸
で十分に改善しない双極I型うつ病に対して、
ラツーダを追加する臨床試験も行われています。
有効性を示した試験がある一方、
別の試験では6週時点の主要評価項目でプラセボとの差が有意にならなかったため、
「併用療法の全試験で一貫して強い効果が証明されている」
というほど単純ではありません。
それでもCANMAT/ISBDなどの国際ガイドラインでは、
双極I型うつ病における重要な治療選択肢として位置づけられています。
執筆者の臨床的見解|ラツーダが最も「らしい」のは双極性うつです
ラツーダは統合失調症にも有効な抗精神病薬ですが、
実臨床で他剤との差別化が最も明確になるのは
双極性うつを治療するときだと考えています。
特に、
抑うつが前景にありながら、
体重増加や強い眠気をできるだけ避けたい患者さんでは
非常に検討しやすい薬です。
反対に、
著しい不眠や興奮があり、
鎮静作用そのものを積極的に利用したい患者さんでは、
ラツーダの「眠くなりにくさ」は必ずしも長所になりません。
ラツーダは太りにくい?
ラツーダの臨床上の大きな長所の一つが、
第二世代抗精神病薬の中では代謝系への影響が比較的小さい
ことです。
抗精神病薬では、
食欲増加、体重増加、脂質異常、耐糖能悪化などが
長期治療を妨げることがあります。
ラツーダでは臨床試験および複数の比較研究で、
体重・脂質・血糖への変化が比較的小さいことが示されています。
これはH1受容体への親和性が低いことなどとも整合する特徴です。
「太らない薬」ではありません
添付文書にも体重増加、血糖上昇、脂質異常症は記載されています。
また、抗精神病薬として高血糖や糖尿病悪化にも注意が必要です。
ラツーダを使用しているから体重・血糖・脂質のチェックが不要、
という意味ではありません。
執筆者の臨床的見解|体重を理由に治療をやめてしまう患者では大きな意味があります
精神科薬物療法では、
数値上の症状改善だけでなく
「患者さんがその治療を続けられるか」が非常に重要です。
特に若年者や、
過去に抗精神病薬による体重増加を経験している患者さんでは、
体重変化そのものが服薬中断の大きな理由になることがあります。
そのため、
体重・代謝系への影響をなるべく小さくしたいという理由だけでも、
ラツーダを選ぶ臨床的価値は十分ある
と考えています。
ただし、年齢や性別だけで機械的に選ぶのではなく、
アカシジアの出やすさ、食事パターン、併用薬まで含めて判断します。
用法・用量
| 適応 | 通常用量 | 最高用量 |
|---|---|---|
| 統合失調症 | 40mgを1日1回食後 | 80mg/日 |
| 双極性障害のうつ症状 | 20mgから開始し、20~60mgを1日1回食後 | 60mg/日 |
統合失調症では、
忍容性が確認され、
40mgで効果不十分な場合に増量を検討します。
添付文書でも必要最小限の投与量となるよう調節することが求められています。
ラツーダは「食後」が非常に重要
ラツーダは、
食事の有無によって吸収量が大きく変わる
という特徴があります。
健康成人男性に40mgを単回投与した国内試験では、
食後投与と空腹時投与で以下の違いが認められました。
| 食後 | 空腹時 | |
|---|---|---|
| Cmax | 52.73 ng/mL | 22.10 ng/mL |
| AUC0-∞ | 212.37 ng・h/mL | 125.64 ng・h/mL |
| 半減期 | 約22.5時間 | 約16.0時間 |
つまり、
空腹時と比較すると食後投与では
Cmaxが約2.4倍、AUCが約1.7倍
になります。
「効かないから増量」の前に、食後に飲めているかを確認します
ラツーダでは、
処方されたmg数だけを確認していても不十分です。
朝食を抜く、夕食をほとんど食べない、
食事と離れた就寝前に服用するといった状態では、
同じ用量でも薬物曝露が低くなる可能性があります。
服薬条件を整えてから効果判定する
ことが重要な薬です。
「350kcal以上」は必要?
日本の電子添文には、
具体的なカロリー数ではなく
「1日1回食後」と規定されています。
一方、米国のLATUDA prescribing informationでは、
少なくとも350kcalの食事とともに服用する
よう規定されています。
350kcalは実践的な目安ですが、日本の承認用法そのものではありません
患者さんへの説明として
「ある程度しっかり食事をした後に飲む」
という意味で350kcalを目安にすることには合理性があります。
ただし、
日本の添付文書が「350kcal以上」を条件としているわけではありません。
国内では食後服用を守ることが基本です。
執筆者の臨床的見解|食事量が不安定な患者では、そもそもラツーダが使いやすいかを考えます
ラツーダは1日1回で便利な薬ですが、
毎日ほとんど食事をとらない患者さんや、
摂食リズムが著しく不規則な患者さんでは
吸収の再現性が問題になります。
私はそのようなケースでは、
単に「頑張って食べて飲んでください」と指導するだけでなく、
その患者さんの生活にラツーダという薬が本当に合っているか
まで考える必要があると思っています。
腎機能・肝機能が低下している場合
ラツーダは主にCYP3A4で代謝されますが、
中等度以上の腎機能障害や肝機能障害では血中濃度が上昇するため、
通常より少量から開始します。
| 状態 | 統合失調症 | 双極性うつ |
|---|---|---|
| 中等度以上の腎機能障害 | 20mgから開始 | 10mgから開始 |
| 中等度肝機能障害 Child-Pugh B |
20mgから開始 | 10mgから開始 |
| 重度肝機能障害 Child-Pugh C |
20mgから開始 最大30mg |
10mgから開始 最大30mg |
通常の患者さんに
「副作用を避けるため必ず10mgから始める」
という薬ではありません。
10mg開始は主として
双極性うつで中等度以上の腎・肝機能障害がある場合の用量調節です。
ラツーダの主な副作用
アカシジア|最も意識したい副作用
ラツーダを処方するときに特に注意したいのが、
アカシジア(静坐不能)です。
電子添文全体ではアカシジアは8.3%とされ、
双極性うつの承認時20~60mg群では
13.0%に認められています。
双極性うつでは「病状悪化」とアカシジアを混同しないことが重要です
うつ病相の患者さんが
「不安が強くなった」「落ち着かない」「眠れない」
と訴えたとき、
抑うつ状態が悪化したとは限りません。
特に開始後・増量後であれば、
薬剤性アカシジアを必ず鑑別する
必要があります。
アカシジアが出た場合はどうする?
まず検討するのは、
原因となっている抗精神病薬の
減量、増量速度の見直し、必要に応じた薬剤変更です。
症状が強く、
ラツーダを継続する利益が大きい場合には、
プロプラノロールなどのβ遮断薬、
ミルタザピンなどの5-HT2A拮抗作用を持つ薬剤、
ベンゾジアゼピン系薬剤などが検討されることがあります。
ビペリデンなどの抗コリン薬も選択肢になる場合がありますが、
特に薬剤性パーキンソニズムを併発している場合に検討しやすく、
アカシジアなら機械的に抗コリン薬を追加する
という対応が常に最適とは限りません。
執筆者の臨床的見解|アカシジアに「さらに薬を足す」前にラツーダの量を見直します
ラツーダでアカシジアが出たとき、
副作用止めを追加してそのまま増量を続けるより、
まず現在の投与量が本当に必要かを考えます。
特に双極性うつでは20~60mgが承認用量であり、
高用量化しなくても十分な抗うつ効果が期待できます。
20mgや40mgで効果があり、
60mgへの増量で強いアカシジアが出たのであれば、
40mgへ戻すという判断は非常に合理的だと考えています。
悪心・嘔吐
悪心や嘔吐も比較的よくみられる副作用です。
双極性うつの20~60mg群では、
悪心が6.5%に認められました。
開始初期に出現することが多く、
症状の程度や経過をみながら投与継続の可否を判断します。
眠気・不眠
ラツーダはH1受容体への親和性が低いため、
強い鎮静を特徴とする抗精神病薬ではありません。
ただし、
実際には傾眠が出る患者さんもいれば、
反対に不眠や落ち着かなさが目立つ患者さんもいます。
服用時間は生活リズムや副作用に応じて調整できますが、
時間を変更しても「食後」という条件は維持する
必要があります。
プロラクチン上昇
ラツーダでも血中プロラクチンが上昇することがあります。
月経異常、乳汁分泌、乳房症状、性機能障害などがある場合には、
必要に応じてプロラクチン値を確認します。
「代謝系への影響が少ない」ことと
「D2遮断に伴う副作用がない」ことは別です。
重大な副作用
頻度は高くありませんが、
悪性症候群、遅発性ジスキネジア、痙攣、高血糖・糖尿病性ケトアシドーシス、
肺塞栓症・深部静脈血栓症、横紋筋融解症、無顆粒球症などが報告されています。
CYP3A4|相互作用が多い薬です
ラツーダは主として
CYP3A4
によって代謝されます。
したがって、
CYP3A4を強く阻害・誘導する薬剤との併用によって
血中濃度が大幅に変化する可能性があります。
強力なCYP3A4阻害薬は併用禁忌
イトラコナゾール、ボリコナゾール、フルコナゾール、
クラリスロマイシン、
リトナビルを含む製剤、エンシトレルビルなど、
強力なCYP3A4阻害薬との併用は禁忌です。
強力なCYP3A4誘導薬も併用禁忌
リファンピシン、フェニトイン、ホスフェニトインは、
ラツーダの血中濃度を大きく低下させるため併用禁忌です。
カルバマゼピンは併用注意
カルバマゼピン(テグレトール)
はCYP3A4を誘導し、
ラツーダの血中濃度を低下させる可能性があります。
双極症では両薬剤が候補になることがあるため、
「精神科薬同士だから問題ない」と考えず、相互作用を確認する
必要があります。
グレープフルーツは避けます
グレープフルーツ含有食品はCYP3A4を阻害し、
ラツーダの血中濃度を上昇させる可能性があります。
電子添文でも、
ラツーダ服用中はグレープフルーツ含有食品を摂取しないよう注意されています。
双極性うつで他の薬とどう使い分ける?
| 薬剤 | 得意な場面 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| ラツーダ | 急性期の双極性うつ。体重・代謝への影響を抑えたい場合 | アカシジア、食事条件、CYP3A4相互作用 |
| リチウム | 躁病治療と長期的な躁・抑うつ再発予防 | TDM、腎機能、甲状腺、脱水、相互作用 |
| ラモトリギン | 抑うつ優位の双極症、特に長期的な抑うつ再発予防 | 急性躁状態には不向き。皮疹を避けるため緩徐増量 |
| バルプロ酸 | 急性躁状態、混合性の特徴が前景にある場合 | 体重、肝機能、高アンモニア血症、妊娠・生殖関連リスク |
双極症では、
単に「気分安定薬か抗精神病薬か」という分類だけでなく、
現在の病相と、その後の長期的な再発予防を分けて考える
ことが重要です。
ラツーダは維持療法にも使う?
双極性うつが改善したあとに
ラツーダを長期継続することはありますが、
急性期の双極性うつに対するエビデンスほど、
維持療法としての根拠が確立しているわけではありません。
リチウムまたはバルプロ酸にラツーダを併用した維持療法試験では、
全体の主要評価項目である気分エピソード再発までの時間について
統計学的有意差に到達しませんでした。
そのため急性期のうつ症状が改善した後は、
病相歴、躁状態の重症度、再発パターンなどを確認し、
リチウム、
ラモトリギン、
バルプロ酸
などを含めて長期治療を再検討します。
執筆者の臨床的見解|「急性期に効いた薬」と「一生続ける薬」は同じとは限りません
ラツーダで双極性うつが大きく改善した場合、
そのまま継続することには一定の合理性があります。
一方、
双極症の治療は数か月ではなく数年単位で考える必要があります。
私は急性期が落ち着いた段階で、
この患者さんの次の躁・うつ病相を何で予防するのか
を改めて考えることが重要だと思っています。
ラツーダを「双極症の万能な気分安定薬」と考えるより、
双極性うつに非常に強いカードを持った抗精神病薬
と理解する方が、臨床的な位置づけとしては分かりやすいと思います。
よくある質問
ラツーダは抗うつ薬ですか?
SSRIやSNRIなどの抗うつ薬とは異なり、
薬効分類としては第二世代抗精神病薬です。
ただし、
日本では双極性障害のうつ症状そのものに承認されているため、
双極性うつに対して抗うつ効果を期待して使用します。
普通のうつ病にも使いますか?
日本での承認適応は
双極性障害におけるうつ症状であり、
通常の単極性うつ病には承認されていません。
大うつ病性障害に混合性の特徴を伴う患者を対象とした海外研究などはありますが、
国内承認適応とは分けて考える必要があります。
躁状態にも効きますか?
ラツーダは抗精神病薬ですが、
日本での双極性障害に対する承認適応は
うつ症状の改善です。
急性躁状態そのものに対する有効性は確立しておらず、
躁状態では
リチウム、
バルプロ酸、
その他の抗精神病薬などを病状に応じて検討します。
ラツーダは太りますか?
体重増加は起こり得ますが、
第二世代抗精神病薬の中では
体重・血糖・脂質への影響が比較的小さい薬
と考えられています。
ただし、全く太らない薬ではありません。
長期使用では体重や代謝指標を確認します。
眠くなりにくいですか?
強い鎮静を特徴とする薬ではありませんが、
患者さんによっては傾眠が生じます。
反対に不眠やアカシジアが出ることもあるため、
「必ず眠くならない薬」と考えるのも適切ではありません。
朝と夜のどちらに飲みますか?
国内添付文書では、
朝・夕の指定ではなく
1日1回食後です。
眠気、不眠、アカシジア、生活リズムなどを考慮して
服用する食後の時間帯を調整します。
就寝前へ変更する場合でも、
食事から大きく離れた空腹時服用にならないよう注意します。
夕食を抜いてしまったらどうしますか?
ラツーダは食事条件によって吸収が大きく変化します。
自己判断で空腹時に服用したり、
翌日に2回分をまとめて服用したりすることは避けてください。
食事を取れないことが頻繁にある場合は、
その患者さんの生活パターンを踏まえて
服用時間や治療薬そのものを主治医と再検討します。
依存性はありますか?
ベンゾジアゼピン系抗不安薬や睡眠薬のような
依存・耐性を形成するタイプの薬ではありません。
ただし、
統合失調症や双極症では薬を中止することで
原疾患が再燃することがあります。
依存性がないことと、
自己判断で突然中止してよいことは別です。
ソワソワしたら病気が悪化したということですか?
必ずしもそうではありません。
特にラツーダ開始後・増量後に出現した場合には、
アカシジアの可能性があります。
「不安が増えた」とだけ伝えるより、
「座っていられない」
「脚を動かしていないとつらい」
「体の内側からソワソワする」
など、具体的に医師へ伝えると鑑別しやすくなります。
まとめ
ラツーダ(ルラシドン)は、
D2・5-HT2A・5-HT7受容体拮抗作用と、
5-HT1A部分アゴニスト作用
を持つ第二世代抗精神病薬です。
日本では
統合失調症と
双極性障害におけるうつ症状
に承認されています。
特に双極性うつでは、
日本人を含む臨床試験で20~60mg/日の有効性が示されており、
近年の用量反応メタ解析でも40~60mg付近が
有効性と忍容性のバランスに優れた用量帯として示唆されています。
また、
第二世代抗精神病薬の中では
体重増加・糖脂質代謝への影響や強い鎮静が比較的小さい
ことも大きな特徴です。
一方で、
アカシジアはラツーダを使ううえで非常に重要な副作用です。
不安、焦燥、不眠など原疾患の悪化と似ているため、
開始時・増量時には特に注意します。
さらにラツーダは食事によって吸収量が大きく変化します。
そのため、
「何mg処方するか」と同じくらい「食後に安定して飲めているか」が重要
です。
ラツーダは、
「副作用の少ない万能な抗精神病薬」ではありません。
しかし、
双極性うつへの抗うつ効果、比較的小さな代謝負担、1日1回投与
という特徴を適切に生かせば、
現代の精神科臨床で非常に価値の高い治療選択肢になります。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
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