メンタルヘルスコラム

プロメタジン(ピレチア)の効果・作用機序・副作用・腎機能に応じた投与設計を徹底解説

  • 更新日:2026.09.18
  • 公開日:2026.09.18

精神科で抗精神病薬を使用していると、「体がこわばる」「手が震える」「首が曲がったまま戻らない」といった錐体外路症状(EPS:Extrapyramidal Symptoms)がみられることがあります。

こうした症状に対して使用されることがある薬の一つが、プロメタジン(商品名:ピレチア、ヒベルナなど)です。

プロメタジンは本来、第一世代抗ヒスタミン薬に分類される薬ですが、ヒスタミンH1受容体を遮断するだけでなく、抗コリン作用も持っています。精神科ではこの作用を利用し、特に薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアなどの錐体外路症状(EPS)への対応に用いられます。

一方で、眠気、口渇、便秘、排尿困難などの副作用があり、特に高齢者では抗コリン作用による負担に注意が必要です。

この記事では、ピレチアの基本情報、作用機序、精神科での使いどころ、錐体外路症状との関係、副作用や注意点について、患者さんにもわかりやすく、専門的な内容も含めて解説します。

ピレチア(プロメタジン)とは?

ピレチアは、フェノチアジン骨格を持つ第一世代抗ヒスタミン薬です。

第一世代抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過しやすく、中枢神経系のH1受容体も遮断するため、アレルギー症状を抑える作用に加えて、眠気や鎮静作用が現れやすい特徴があります。

さらにプロメタジンは抗コリン作用を持ち、この作用がパーキンソニスムなどの錐体外路症状に対して使用される薬理学的な根拠となっています。[1][2]

一般名
プロメタジン(Promethazine)
有効成分
ピレチア:プロメタジンメチレンジサリチル酸塩
※製剤によって塩の種類が異なります
代表的商品名
ピレチア、ヒベルナなど
薬効分類
第一世代抗ヒスタミン薬/抗パーキンソン薬
主な作用
H1受容体遮断作用、抗コリン作用、中枢抑制作用
主な効能・効果
パーキンソニスム、アレルギー性疾患、動揺病、麻酔前投薬など
精神科での主な位置づけ
薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアなど、錐体外路症状(EPS)への対応
半減期
約16〜19時間程度との報告があります(製剤・個人差があります)

ピレチアの作用機序

プロメタジンは複数の受容体に作用しますが、精神科診療で特に重要なのは、H1受容体遮断作用と抗コリン作用です。

H1受容体遮断作用

プロメタジンはヒスタミンH1受容体を遮断します。

末梢では、鼻汁、くしゃみ、皮膚のかゆみなどのアレルギー症状を抑えます。一方、中枢神経系では覚醒に関与するヒスタミン神経系を抑制するため、眠気や鎮静が生じます。[1][2]

抗コリン作用と錐体外路症状(EPS)

精神科領域でより重要なのが、ムスカリン性アセチルコリン受容体に対する抗コリン作用です。

抗精神病薬によって黒質線条体経路のD2受容体が遮断されると、線条体ではドパミン作用が低下します。その結果、ドパミンとアセチルコリンの機能的なバランスが崩れ、相対的にアセチルコリン作用が優位となります。

抗精神病薬によるD2受容体遮断
↓
黒質線条体のドパミン作用低下
↓
相対的にアセチルコリン作用が優位
↓
錐体外路症状(EPS)

プロメタジンの抗コリン作用によってアセチルコリンの作用を弱めることで、このアンバランスを補正し、薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアなどの症状を軽減します。[1][3]

プロメタジン(ピレチア)の作用機序。抗精神病薬による黒質線条体ドパミン低下と、プロメタジンの抗コリン作用によるEPS改善を示した図
プロメタジンは抗コリン作用によって線条体のドパミン・アセチルコリンの機能的な不均衡を補正し、錐体外路症状(EPS)を軽減します。

精神科ではどのようなときに使う?

薬剤性パーキンソニズム

抗精神病薬によって黒質線条体経路のドパミン作用が低下すると、薬剤性パーキンソニズムが生じることがあります。

代表的な症状には次のようなものがあります。

  • 手足の震え
  • 筋肉のこわばり
  • 動作が遅くなる
  • 表情が乏しくなる
  • 歩幅が小さくなる

プロメタジンは抗コリン作用によって、これらの症状を改善する目的で使用されます。

ただし、対症薬を追加することだけが治療ではありません。原因となっている抗精神病薬の種類や投与量を確認し、可能であれば減量や薬剤変更も含めて処方全体を見直すことが重要です。[3]

急性ジストニア

抗精神病薬の開始後や増量後などに、筋肉が突然強く収縮して異常な姿勢をとる急性ジストニアが起こることがあります。

代表的な症状として、

  • 眼球が上を向いたままになる「眼球上転」
  • 首が一方向に曲がる「斜頸」
  • 口が開きにくくなる、顎がこわばる
  • 舌が突出する
  • 顔面や体幹の筋肉が強く収縮する

などがあります。

急性ジストニアは、抗コリン作用を持つ薬剤が有効となりやすい代表的なEPSです。プロメタジンも治療選択肢の一つとなります。[3]

呼吸や嚥下に影響するジストニアには注意

まれに喉頭周囲の筋肉にジストニアが生じ、呼吸や嚥下に影響することがあります。このような場合は緊急性の高い状態として速やかな対応が必要です。

アカシジアには第一選択ではない

アカシジアは、

  • じっと座っていられない
  • 足を動かさずにはいられない
  • 体の内側から強く落ち着かない

といった静座不能感を特徴とする錐体外路症状です。

プロメタジンの鎮静作用などを利用して使用される場合はありますが、抗コリン薬はアカシジアに対する標準的な第一選択治療ではありません。[3]

まず原因となった抗精神病薬の減量・変更を検討し、症状に応じてβ遮断薬など別の治療を選択します。

鎮静作用を利用する場合

プロメタジンは中枢のH1受容体を遮断するため、比較的強い眠気や鎮静作用を持っています。

精神科臨床では、この鎮静作用を利用して不眠や焦燥、不穏などに対して使用されることがあります。

注意:「不眠」「不安」「不穏」そのものは、ピレチア錠の添付文書上の効能・効果として明記されていません。精神科での鎮静目的の使用と、承認されたパーキンソニスムなどへの使用は分けて理解する必要があります。

遅発性ジスキネジアには使用しない

錐体外路症状をすべて「抗コリン薬で治療する」と考えるのは適切ではありません。

特に区別が重要なのが、抗精神病薬の長期使用などに関連して生じる遅発性ジスキネジアです。

遅発性ジスキネジアでは、

  • 口をもぐもぐ動かす
  • 舌を繰り返し出す
  • 口をすぼめる
  • 顔面、手足、体幹が不随意に動く

などの症状がみられます。

抗コリン薬は遅発性ジスキネジアには推奨されず、症状を悪化・顕在化させる可能性があります。添付文書でも、抗パーキンソン薬はフェノチアジン系・ブチロフェノン系薬剤などによる遅発性ジスキネジアを通常軽減せず、場合によっては増悪・顕性化することがあるとされています。[1][3]

抗コリン薬が有効になりやすいEPS
薬剤性パーキンソニズム/急性ジストニア

同じ方法では治療しないEPS
アカシジア/遅発性ジスキネジア

ピレチアの用法・用量

用量は治療目的、年齢、症状、副作用などを考慮して調整します。

目的 添付文書上の用法・用量 ポイント
通常の成人投与 プロメタジン塩酸塩として1回5〜25mgを1日1〜3回 年齢・症状により適宜増減します
振戦麻痺・パーキンソニスム 1日25〜200mgを適宜分割 眠気や抗コリン副作用をみながら調整します

ピレチアは塩の種類が異なる製剤であるため、添付文書ではプロメタジン塩酸塩相当量として用量が示されています。[1]

実際の精神科診療では、EPSが出現した場合に単純にプロメタジンを追加するのではなく、

EPSの種類を確認
↓
原因となった抗精神病薬を確認
↓
減量・変更が可能か検討
↓
必要に応じて対症薬を使用

という考え方が重要です。

主な副作用

眠気・ふらつき

プロメタジンは中枢神経系のH1受容体を遮断するため、眠気や注意力・集中力の低下が生じることがあります。

服用中は、自動車の運転や危険を伴う機械の操作を行わないよう注意が必要です。[1][2]

アルコールや他の中枢神経抑制薬と併用すると、眠気や中枢抑制作用が強くなることがあります。

抗コリン作用

ムスカリン受容体を遮断することで、次のような症状が現れることがあります。

  • 口渇
  • 便秘
  • 目のかすみ、視調節障害
  • 排尿困難、尿閉
  • 頻脈

抗コリン作用を持つ他の薬剤を複数使用している場合には、それぞれの薬の作用が重なり、副作用が強くなることがあります。

血圧低下・ふらつき

血圧低下や起立時のふらつきがみられることがあります。特に高齢者では、眠気や筋力低下などと重なることで転倒・骨折につながる可能性があるため注意が必要です。

使用できない人・特に注意が必要な人

閉塞隅角緑内障

抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させる可能性があるため、閉塞隅角緑内障の患者さんには使用できません。[1][2]

下部尿路に閉塞性疾患がある場合

前立腺肥大などによって尿路が閉塞している場合には、抗コリン作用によって排尿がさらに困難となり、尿閉につながる可能性があります。

2歳未満の乳幼児

2歳未満の乳幼児には投与できません。

プロメタジン投与後に乳児突然死症候群(SIDS)、乳児睡眠時無呼吸発作、致死的な呼吸抑制が報告されています。[1][2]

2歳以上の小児についても、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に使用します。

高齢者

高齢者では薬物代謝・排泄機能が低下していることに加え、抗コリン作用への感受性も高くなります。

眠気、ふらつき、便秘、排尿困難だけでなく、注意力や認知機能の低下、せん妄、転倒などにつながる可能性があります。[3]

特に複数の抗コリン作用を持つ向精神薬を併用している場合には、個々の薬剤だけでなく、処方全体としての抗コリン負荷を考えることが重要です。

まとめ

ピレチア(プロメタジン)は、H1受容体遮断作用と抗コリン作用を併せ持つ第一世代抗ヒスタミン薬です。

精神科では特に、抗精神病薬による黒質線条体のドパミン作用低下に伴って生じる薬剤性パーキンソニズムや急性ジストニアなどの錐体外路症状(EPS)に対して使用されます。

一方で、アカシジアでは第一選択とはならず、遅発性ジスキネジアでは抗コリン作用によって症状を悪化させる可能性があります。

また、眠気、口渇、便秘、排尿困難などの副作用があり、閉塞隅角緑内障や下部尿路閉塞性疾患、2歳未満の乳幼児などでは使用できません。

「EPSならすべてピレチア」と考えるのではなく、症状の種類を見分けたうえで適切に使い分けることが重要な薬剤です。

執筆者
清水聖童

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水 聖童(Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・高田製薬株式会社. ピレチア細粒10%/ピレチア錠(5mg)/ピレチア錠(25mg)電子添文. 2023年5月改訂.
・田辺ファーマ株式会社. ヒベルナ糖衣錠5mg/ヒベルナ糖衣錠25mg 電子添文. 2025年12月改訂.
・Vanegas-Arroyave N, Caroff SN, Citrome L, et al. An Evidence-Based Update on Anticholinergic Use for Drug-Induced Movement Disorders. CNS Drugs. 2024;38:239-254.
・Southard BT, Al Khalili Y. Promethazine. StatPearls. StatPearls Publishing.
・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.

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