バルペナジン(ジスバルカプセル)とは?|効果・副作用・作用機序・遅発性ジスキネジアへの効果を解説

目次
はじめに
「口や舌が勝手に動く」「口をもぐもぐする動きが止められない」「手足や体が自分の意思とは関係なく動いてしまう」――抗精神病薬などを長期間使用している方では、このような不随意運動がみられることがあります。
その代表的なものが、遅発性ジスキネジア(Tardive Dyskinesia:TD)です。
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などのドパミン受容体を遮断する薬剤の使用に関連して生じる運動症状です。一度出現すると、原因となった薬を減量・中止しても症状が残ることがあり、治療に難渋する場合があります。
こうした遅発性ジスキネジアに対して使用されるのが、ジスバル(一般名:バルベナジン)です。
シナプス小胞へのモノアミンの取り込みを抑えることでドパミン放出を減少させ、遅発性ジスキネジアの不随意運動を軽減します。
この記事では、ジスバルの作用機序、効果、飲み方、半減期、副作用、薬物相互作用、AIMSによる評価まで、精神科専門医が解説します。
ジスバル(バルベナジン)とは?
ジスバルは、遅発性ジスキネジアの治療に使用されるVMAT2阻害薬です。
バルベナジン(valbenazine)
バルベナジントシル酸塩
ジスバルカプセル20mg・40mg
VMAT2阻害剤-遅発性ジスキネジア治療剤-
遅発性ジスキネジア
おおむね約15~20時間(代謝能などにより変動)
ジスバルには20mgと40mgのカプセルがあり、通常用量だけでなく、肝機能やCYP2D6・CYP3Aを介した薬物相互作用などに応じて用量を調節できます。
遅発性ジスキネジアとは?
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬をはじめとするドパミン受容体遮断薬を一定期間使用した後に出現する不随意運動です。
特に口・舌・顎などの口腔顔面領域に現れやすく、次のような症状がみられます。
- 口をもぐもぐと繰り返し動かす
- 舌を突き出す、左右に動かす
- 唇をすぼめる、舐めるような動きをする
- 顎を繰り返し動かす
- 手指や腕が勝手に動く
- 足や体幹がくねるように動く
抗精神病薬だけでなく、メトクロプラミドなどドパミン受容体遮断作用を持つ一部の制吐薬・消化器系薬剤でも生じることがあります。
遅発性ジストニアなどとの違い
長期間のドパミン受容体遮断薬使用後に生じる運動障害には、典型的な遅発性ジスキネジアだけでなく、遅発性ジストニア、遅発性アカシジア、振戦などさまざまな表現型があります。
遅発性ジスキネジアでは、口腔顔面の反復運動や舞踏病様・アテトーゼ様の動きが目立つことが多い一方、遅発性ジストニアでは、筋収縮が持続または反復することで、首が傾く、体幹がねじれる、顎や口が一定方向に引かれるといった異常姿勢が前景に立ちます。
また、薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニアなどでも、「体が勝手に動く」「じっとしていられない」と表現されることがあります。
ジスバルの作用機序|VMAT2を阻害する

ジスバルの最大の特徴は、VMAT2(vesicular monoamine transporter 2:小胞モノアミントランスポーター2)を選択的に阻害することです。
VMAT2は神経終末のシナプス小胞膜に存在し、細胞質にあるドパミンなどのモノアミンをシナプス小胞内へ取り込む輸送体です。
通常、ドパミン作動性神経終末では、細胞内で作られたドパミンがVMAT2によってシナプス小胞内に取り込まれ、貯蔵された後、シナプス間隙へ放出されます。
バルベナジンがVMAT2を阻害するとどうなる?
バルベナジンとその活性代謝物がVMAT2を阻害すると、細胞質からシナプス小胞内へのモノアミン取り込みが減少します。
その結果、小胞に貯蔵されるドパミン量が減り、神経終末からシナプス間隙へ放出されるドパミンも減少します。
→
小胞内へのドパミン取り込み低下
→
ドパミン放出低下
→
シナプス後部へのドパミン刺激低下
→
不随意運動を軽減
なぜドパミンを減らすと遅発性ジスキネジアが改善する?
遅発性ジスキネジアの病態は完全には解明されていません。
代表的な仮説の一つが、抗精神病薬などによって長期間ドパミンD2受容体が遮断されることで、線条体のシナプス後ドパミン系が刺激に対して過敏になるドパミン受容体過感受性です。
VMAT2を阻害して前シナプスから放出されるドパミン量を減らすことで、過敏になったシナプス後部へのドパミン刺激を弱め、不随意運動を軽減すると考えられています。
ジスバルにはどのくらい効果がある?
日本人の遅発性ジスキネジア患者を対象とした国内第II/III相試験(J-KINECT)では、バルベナジン40mgまたは80mgを1日1回投与し、AIMS(異常不随意運動評価尺度)によって治療効果が評価されました。
6週間後のAIMS項目1~7の合計スコアの平均変化量は、次の通りでした。
-0.1点
-2.3点
-3.7点
40mg・80mgのいずれもプラセボと比較して統計学的に有意な改善が認められました。
また、長期投与期間でもAIMSスコアの改善は48週まで維持されました。
AIMS|遅発性ジスキネジアを客観的に評価する
遅発性ジスキネジアの評価には、AIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale:異常不随意運動評価尺度)が広く用いられています。
AIMSでは、主に以下の部位の不随意運動を観察します。
- 表情筋
- 口唇・口周囲
- 顎
- 舌
- 上肢
- 下肢
- 頸部・肩・股関節などの体幹
項目1~7では、それぞれの不随意運動を0~4点で評価します。ジスバルの国内臨床試験でも、この項目1~7の合計点が主要な有効性評価指標として使用されました。
患者さん自身が不随意運動に気付いていない場合もあるため、抗精神病薬を長期間使用している場合には、診察時に顔面・口腔・四肢・体幹の動きを定期的に確認することも重要です。
ジスバルの飲み方・用量
成人では、通常バルベナジン40mgを1日1回服用します。症状に応じて増減しますが、最大80mgを1日1回です。
初回投与量は40mgを上限として1週間以上投与し、忍容性が確認されても効果が不十分な場合に増量を検討します。
したがって、「40mgを数週間~数か月使用しなければ80mgへ増量できない」という規定ではありません。一方で、副作用の発現にも注意し、必要最小限の用量となるよう調節します。
20mgから開始することがあるケース
血中濃度が上昇し、QT延長などの副作用リスクが高くなる可能性がある場合には、20mgを1日1回から開始することがあります。
- CYP2D6 Poor Metabolizerであることが判明している場合
- 中等度以上の肝機能障害がある場合
- パロキセチン、キニジンなど中程度以上のCYP2D6阻害薬を使用している場合
- イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど中程度以上のCYP3A阻害薬を使用している場合
これらの場合、増量する場合でも原則として40mgを超えないようにします。
食事条件にも注意する
空腹時に服用した場合には、食後投与と比較してバルベナジンの血中濃度が上昇する可能性があります。
そのため、食後に服用している患者さんで増量する場合には、用量調整の前後で食事条件を変更しないことが添付文書で求められています。
半減期と薬物動態
バルベナジンは比較的長い半減期を持つため、1日1回投与で使用できます。
バルベナジンおよび活性代謝物の半減期は、国内外の薬物動態データからおおむね10数~20時間程度です。臨床的には約15~20時間程度を目安として理解できますが、CYP2D6の代謝能などによって個人差があります。
40mgを1日1回反復投与した場合、バルベナジンおよび活性代謝物の血中濃度は反復投与8日以内に定常状態へ到達すると推定されています。
代謝には次のような特徴があります。
- バルベナジンは加水分解によって活性代謝物へ変換される
- 未変化体は主としてCYP3A4/5によって代謝される
- 活性代謝物は主としてCYP2D6およびCYP3A4/5によって代謝される
このため、CYP2D6やCYP3Aに影響する併用薬は、ジスバルの血中濃度や副作用リスクに影響する可能性があります。
ジスバルの主な副作用
ジスバルでは、VMAT2阻害によるドパミン神経伝達の低下に関連して、眠気や錐体外路症状などがみられることがあります。
副作用の現れ方には個人差があります。特に傾眠、錐体外路症状、精神状態の変化には注意して経過をみます。
比較的みられやすい副作用
傾眠
16.9%
流涎過多
11.2%
振戦
7.2%
アカシジア
6.8%
特に注意したい症状
服用中の注意
遅発性ジスキネジアが改善する一方で、「口の動きは減ったが手が震えるようになった」「動作が遅くなった」といった変化がみられる場合には、薬剤性パーキンソニズムなど新たな錐体外路症状が生じていないか再評価します。
QT延長と薬物相互作用
ジスバルを使用する際には、QT延長と薬物相互作用にも注意します。
特に活性代謝物の血中濃度が上昇すると、QT間隔が延長する可能性があります。
著明な徐脈、心不全、低カリウム血症・低マグネシウム血症などQT延長を起こしやすい背景がある場合や、QT延長作用を持つ薬剤を併用する場合には、必要に応じて投与前および投与中に心電図を確認します。
特に確認したい併用薬
CYP2D6・CYP3A阻害薬はバルベナジンまたは活性代謝物の血中濃度を上昇させる一方、CYP3A誘導薬は血中濃度を低下させ、効果を弱める可能性があります。
このほか、次の薬剤にも注意します。
- MAO阻害薬:セレギリン、ラサギリン、サフィナミドなど
- テトラベナジン:類似した作用機序を持つため併用は推奨されません
- P-gp基質:ジゴキシン、アリスキレン、ダビガトランなど
- QT延長作用を持つ薬剤
原因となった抗精神病薬は中止した方がよい?
遅発性ジスキネジアが認められた場合には、まず原因となっている薬剤を確認し、可能であれば減量や中止を検討することが基本です。
しかし、統合失調症や双極症などでは、抗精神病薬の減量・中止によって精神症状が再燃する可能性があります。
ジスバルは、原因薬を十分に減量・中止できない場合や、原因薬を調整しても遅発性ジスキネジアが残る場合にも治療選択肢となります。
ジスバルを使用するときに重要なこと
ジスバルは遅発性ジスキネジアに対する治療選択肢ですが、不随意運動があれば一律に使用する薬ではありません。
- 本当に遅発性ジスキネジアなのか
- 原因となっている薬剤は何か
- 原因薬を減量・変更できるか
- 薬剤性パーキンソニズムやアカシジアではないか
- 不随意運動が生活にどの程度影響しているか
- 精神症状への影響はどうか
- 薬物相互作用やQT延長リスクがないか
特に、遅発性ジスキネジアと薬剤性パーキンソニズムでは治療の方向性が異なるため、「どのような動きが、どのタイミングで出現したのか」を丁寧に評価することが重要です。
よくある質問
ジスバルを飲めば遅発性ジスキネジアは治りますか?
ジスバルには不随意運動を軽減する効果が期待できますが、すべての患者さんで症状が完全に消失するわけではありません。また、服用を中止すると症状が再び目立つことがあります。
抗精神病薬は中止しなければいけませんか?
必ずしもそうではありません。原因薬の減量・中止を検討しますが、精神症状が再燃するリスクもあります。原疾患の状態を踏まえて、原因薬の調整と遅発性ジスキネジアの治療を並行して検討します。
40mgで効かなければ80mgに増量できますか?
40mg以下を少なくとも1週間使用し、忍容性が確認されても効果が不十分な場合には80mgへの増量を検討できます。ただし、肝機能やCYP2D6・CYP3Aに関わる併用薬などによっては、より低用量に制限される場合があります。
ジスバルの半減期はどのくらいですか?
おおむね10数~20時間程度で、臨床的には約15~20時間程度が目安です。CYP2D6の代謝能などによって個人差があります。比較的長い半減期を持つため、通常は1日1回投与です。
パーキンソニズムにもジスバルは効きますか?
ジスバルの適応は遅発性ジスキネジアです。薬剤性パーキンソニズムの治療薬ではなく、むしろVMAT2阻害によってパーキンソニズムが新たに出現・悪化することがあります。
まとめ
ジスバル(バルベナジン)は、VMAT2を選択的に阻害し、シナプス小胞へのモノアミン取り込みを減らすことでドパミン放出を抑え、遅発性ジスキネジアの不随意運動を軽減する薬剤です。
通常は40mgを1日1回使用し、効果と副作用を確認しながら最大80mgまで調整します。一方、CYP2D6・CYP3Aを介した薬物相互作用や肝機能障害などがある場合には、20mgから開始することがあります。
半減期はおおむね10数~20時間程度で、国内臨床試験では40mg・80mgともにAIMSスコアの改善が確認されています。
遅発性ジスキネジアの治療では、単に不随意運動を抑えるだけではなく、原因となった薬剤の調整と原疾患の安定を両立させることが重要です。

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医
引用・参考文献
・田辺ファーマ株式会社.ジスバルカプセル20mg/40mg 医薬品インタビューフォーム.2026年4月改訂.
・Horiguchi J, et al. Efficacy and safety of valbenazine in Japanese patients with tardive dyskinesia: A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled study (J-KINECT). Psychiatry Clin Neurosci. 2022;76:560-569.
・Hauser RA, et al. KINECT 3: A Phase 3 Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Valbenazine for Tardive Dyskinesia. Am J Psychiatry. 2017;174:476-484.
・井上猛,桑原斉,酒井隆,鈴木映二,水上勝義,宮田久嗣,諸川由実代,吉尾隆,渡邉博幸 編.こころの治療薬ハンドブック 第16版.星和書店;2026.
・樋口輝彦,市川宏伸,神庭重信,朝田隆,中込和幸 編.今日の精神疾患治療指針 第2版.医学書院;2016.
・姫井昭男.精神科の薬がわかる本 第5版.医学書院;2024.
・Neurocrine Biosciences. INGREZZA (valbenazine) Prescribing Information.
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