メンタルヘルスコラム

【精神科医解説】酸棗仁湯の効果・作用機序・飲み方・副作用|疲れているのに眠れない不眠に

  • 更新日:2026.09.19
  • 公開日:2026.09.19

はじめに

「疲れているのに眠れない」「眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める」
「心身ともに消耗しているのに、夜になると神経が休まらない」。

このような不眠に対して用いられる漢方薬の一つが、
酸棗仁湯(さんそうにんとう)です。

酸棗仁湯は、一般的な睡眠薬のように服用後の強い眠気を主な作用として利用する薬ではありません。
日本で承認されている効能・効果は、
「心身がつかれ弱って眠れないもの」です。

とくに、心身の疲労が蓄積しているにもかかわらず、
神経が休まらない、眠りが浅い、熟睡感が得られないといった
不眠症
で検討される漢方処方です。

酸棗仁湯のポイント

  • 「心身がつかれ弱って眠れない」状態に用いられる漢方薬
  • 疲れているのに神経が休まらない、浅眠・熟睡感の乏しさなどで検討される
  • 一般的な睡眠薬のような強い即効性の催眠作用を目的とする薬ではない
  • GABA系・セロトニン系などへの作用が基礎研究から示唆されている
  • 甘草を含むため、偽アルドステロン症や低カリウム血症には注意が必要

酸棗仁湯とは?

処方名
酸棗仁湯(サンソウニントウ)
代表的製剤
ツムラ酸棗仁湯エキス顆粒(医療用)など
薬効分類
漢方製剤
効能・効果
心身がつかれ弱って眠れないもの
構成生薬
酸棗仁・茯苓・川芎・知母・甘草
半減期
複数の生薬成分からなるため、製剤全体として一定の血中半減期は設定されていません

ツムラの医療用酸棗仁湯では、成人1日量7.5g中に、
酸棗仁10g、茯苓5g、川芎3g、知母3g、甘草1g
から得られた乾燥エキスが含まれています。

どのような不眠に向いている?

酸棗仁湯で重要なのは、単に「眠れない」という症状だけを見るのではなく、
どのような心身の状態を背景として不眠が起きているか
を考えることです。

酸棗仁湯を検討しやすい状態

  • 身体は疲れているのに頭が休まらない
  • 眠りが浅く、何度も目が覚める
  • 眠っても十分に休んだ感じがしない
  • 長期間の仕事・介護・ストレスなどで心身が消耗している
  • 夜になるとかえって神経が冴えてしまう

漢方医学では、このような状態を「虚」を背景とした不眠として捉えます。
中医学では「心血不足」「虚熱」などの概念で説明されることもあります。

一方、日本の保険診療では、まず添付文書に記載された
「心身がつかれ弱って眠れないもの」
という適応を基準として考えるのが実践的です。

酸棗仁湯を構成する5つの生薬

生薬 漢方医学上の主な位置づけ ポイント
酸棗仁
(サンソウニン)
養心・安神 処方の中心となる生薬です。
不眠や精神的な落ち着かなさに古くから用いられてきました。
茯苓
(ブクリョウ)
利水・安神 水分代謝を調整するとともに、
心身の安定を支える目的で配合されます。
川芎
(センキュウ)
活血・行気 漢方医学では「血」の巡りに関与する生薬として位置づけられます。
知母
(チモ)
清熱・滋陰 心身の消耗に伴う熱感や落ち着かなさなどを調整する目的で配合されます。
甘草
(カンゾウ)
調和・緩和 処方全体を調和させる生薬ですが、
偽アルドステロン症や低カリウム血症には注意が必要です。

酸棗仁湯の作用機序

酸棗仁湯は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のように、
単一の受容体への作用だけで説明できる薬ではありません。

酸棗仁やその含有成分については、
GABA作動性神経系、セロトニン作動性神経系など、
睡眠・覚醒調節に関与する複数の神経系への作用

が基礎研究から示唆されています。

酸棗仁湯の作用機序。GABA系やセロトニン系を介した睡眠・覚醒調節を示した概念図
酸棗仁湯の作用機序の概念図。基礎研究をもとにした図であり、
ヒトにおける作用機序が完全に確立しているわけではありません。

GABA系への作用

GABAは、中枢神経系における代表的な
抑制性神経伝達物質です。

酸棗仁や酸棗仁に含まれる成分について、
GABA作動性神経系を介して神経の過剰な興奮を抑える可能性が、
動物実験などで示されています。

「天然のベンゾジアゼピン」ではありません酸棗仁湯を「GABAを直接増やす薬」や
「天然のベンゾジアゼピン」と説明するのは正確ではありません。
複数の生薬成分による複合的な作用として理解する必要があります。

セロトニン系と睡眠・覚醒調節

酸棗仁の含有成分については、
5-HT(セロトニン)受容体を介した睡眠調節
への関与も報告されています。

ただし、セロトニンは単純に「眠気を起こす物質」ではありません。
情動、覚醒、睡眠・覚醒リズムなど複数の機能に関与します。

したがって酸棗仁湯は、
GABA系・セロトニン系を含む複数の神経調節機構に働きかける可能性がある、
と考えるのが現時点では適切です。

酸棗仁湯にはどの程度の効果が期待できる?

酸棗仁や酸棗仁を含む漢方処方については、
不眠に対する複数の臨床研究やシステマティックレビューが報告されています。

一部の研究では主観的な睡眠の質や不眠症状の改善が示されていますが、
使用された製剤、対象患者、評価方法、研究規模などにはばらつきがあります。

エビデンスをどう捉えるか酸棗仁湯を一般的な睡眠薬より
「効く」「安全」「誰にでも適している」と位置づけるのではなく、
心身の疲労を背景とした不眠に対する治療選択肢の一つ
と考えるのが妥当です。

効果はいつから?2〜4週間を一つの目安に評価

酸棗仁湯は、服用した直後に強い眠気を起こすことを主な目的とした薬ではありません。

患者さんによっては比較的早期に変化を感じる場合もありますが、
効果発現までの期間には個人差があります。

評価時期
2〜4週間
一つの臨床的な目安
入眠
寝つき
入眠までの時間を確認
睡眠維持
中途覚醒
夜間に目覚める回数など
睡眠の質
熟睡感
朝・日中の状態も含めて評価

「何分早く眠れたか」だけではなく、
中途覚醒、熟睡感、朝の目覚め、日中の疲労感などを含めて評価することが重要です。

改善がなければ漫然と続けない「漢方だから長く飲めばいつか効く」と考えるのではなく、
一定期間ごとに効果を確認し、改善が乏しい場合は診断や治療方針を再検討します。

精神科臨床ではどのように使う?

心身の消耗を伴う不眠

酸棗仁湯がもっとも検討しやすいのは、
「疲れているにもかかわらず眠れない」状態です。

仕事、介護、人間関係、長期間のストレスなどを背景として、
身体は消耗しているのに頭が休まらない、
睡眠が浅いと訴える場合には治療選択肢となります。

不安を伴う場合

強い心配や緊張が持続している場合には、
不眠だけを治療するのではなく、
全般性不安症
などの背景疾患がないかを評価することも重要です。

睡眠薬を増やしたくない場合

高齢者や多剤併用の患者さんなど、
睡眠薬をさらに追加することによる眠気、ふらつき、
薬剤相互作用などを避けたい場面で、
酸棗仁湯を検討することがあります。

「漢方だから高齢者に必ず安全」ではありません酸棗仁湯にも消化器症状や偽アルドステロン症、
低カリウム血症などの副作用があります。
高齢者では体格、生理機能、併用薬を確認しながら慎重に使用します。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減薬時

長期間使用しているベンゾジアゼピン系睡眠薬を減量する際に、
酸棗仁湯を補助的に併用することは臨床上あります。

酸棗仁湯が離脱症状を防ぐわけではありません酸棗仁湯そのものに、
ベンゾジアゼピン離脱症状を予防する効果が確立されているわけではありません。
元の睡眠薬を自己判断で急に中止しないことが重要です。

ベンゾジアゼピン系薬剤を急激に中止すると、
反跳性不眠、不安、焦燥、振戦などが生じることがあります。

使用期間、用量、半減期、併用薬などを考慮しながら、
必要に応じて段階的に減量します。

酸棗仁湯の飲み方・用法用量

ツムラ酸棗仁湯エキス顆粒(医療用)の一般的な用法

成人では通常、
1日7.5gを2〜3回に分けて、食前または食間に服用
します。

年齢、体重、症状などに応じて適宜増減されます。

「食間」とは?食事をしている最中という意味ではありません。
一般的には、食後およそ2時間程度が経過した時間帯を指します。

なお、「漢方薬は空腹時なら必ず吸収がよくなる」という意味ではなく、
医療用製剤として食前または食間という用法が設定されています。

酸棗仁湯の副作用

酸棗仁湯は漢方薬ですが、副作用がないわけではありません。
とくに消化器症状と甘草由来の副作用に注意します。
横にスクロールして確認できます

消化器症状

胃腸が弱い方では、以下の症状がみられることがあります。

食欲不振
胃部不快感
悪心
腹痛
下痢

偽アルドステロン症

甘草に含まれるグリチルリチン酸により生じることがあります。

血圧上昇
顔・手足のむくみ
体重増加
むくみや急な体重増加、血圧上昇がみられた場合は医師へ相談してください。

低カリウム血症・ミオパチー

血清カリウム値が低下すると、
筋肉や全身に症状が現れることがあります。

手足のだるさ
筋力低下
筋肉のつり・こわばり
著しい脱力や歩きにくさなどがある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

甘草を含むほかの薬との併用に注意

酸棗仁湯には甘草(カンゾウ)が含まれています。

芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散など、
甘草を含む漢方処方は少なくありません。

漢方薬同士でも生薬の重複を確認甘草含有製剤やグリチルリチン酸製剤を複数併用すると、
偽アルドステロン症や低カリウム血症のリスクが高まる可能性があります。

精神科では複数の漢方薬が同時に処方されることもあるため、
「漢方同士だから安全」と考えず、生薬の重複まで確認する
ことが重要です。

血液検査は必要?

酸棗仁湯を服用するすべての方に、
頻回の採血が必要というわけではありません。

一方、次のような場合には、
血圧や浮腫の確認に加えて、
血清カリウム値などの測定を検討します。

  • 高齢者
  • 長期間継続している場合
  • 複数の甘草含有製剤を使用している場合
  • 低カリウム血症を起こしやすい薬剤を使用している場合
  • 高血圧や浮腫が出現した場合
  • 脱力感や筋力低下がみられる場合

妊娠・授乳中、高齢者では?

対象 考え方
妊娠中 治療上の有益性とリスクを検討して使用を判断します。
自己判断で開始・継続しないことが重要です。
授乳中 治療上の必要性と母乳栄養の有益性を考慮して判断します。
高齢者 生理機能、体格、併用薬、副作用などを確認しながら慎重に使用します。

酸棗仁湯だけで改善しない不眠もある

「眠れない」という症状には、さまざまな原因があります。

不眠の背景として確認したいもの

  • 不安症やうつ状態
  • 強い心理的ストレス
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 概日リズムの乱れ
  • むずむず脚症候群
  • アルコールやカフェイン
  • 服用中の薬剤
  • 身体疾患

したがって、不眠が長期間続いている場合には、
「どの睡眠薬・漢方薬を使うか」だけではなく、
なぜ眠れないのかを評価することが重要です。

不眠治療では「薬を飲むこと」だけが治療ではない

酸棗仁湯を使用する場合でも、睡眠習慣の調整は重要です。

とくに、
「今夜こそ眠らなければならない」
「眠れなかったら明日は何もできない」
と強く考えるほど、
睡眠への不安そのものが覚醒を高めることがあります。

睡眠を整える基本

  • 起床時刻を大きくずらさない
  • 眠くないのに早くから寝床へ入らない
  • 眠れないまま長時間ベッドにとどまり続けない
  • 睡眠時間だけでなく日中の機能も評価する

認知行動療法(CBT-I)も重要な治療選択肢

慢性的な不眠では、薬物療法だけではなく、
不眠に対する認知行動療法(CBT-I)
などの非薬物療法も重要です。

睡眠についての過度な不安や、
不眠を維持している生活行動を整理し、
徐々に睡眠・覚醒リズムを再構築していきます。

よくある質問

酸棗仁湯を飲めばすぐ眠くなりますか?

一般的な睡眠薬のように、
服用後すぐに強い眠気を起こすことを主な目的とした薬ではありません。
効果の現れ方には個人差があります。

どのくらいで効果を判断しますか?

臨床では症状や副作用を確認しながら、
2〜4週間程度を一つの目安として評価することがあります。
ただし、これはすべての患者さんに固定された期間ではありません。

睡眠薬と一緒に飲めますか?

睡眠薬と併用されることはあります。
ただし、現在使用している睡眠薬を自己判断で減量・中止し、
酸棗仁湯へ急に切り替えることは避けてください。

毎日飲む必要がありますか?

医療用酸棗仁湯は通常、決められた用法で継続しながら効果を評価します。
自己判断で頓服へ変更せず、処方された用法に従ってください。

漢方薬なので長期間飲んでも安全ですか?

漢方薬にも副作用があります。
酸棗仁湯では特に、
甘草による偽アルドステロン症や低カリウム血症に注意が必要です。
効果が乏しいまま漫然と長期間継続することも勧められません。

まとめ


酸棗仁湯は、「心身がつかれ弱って眠れない」状態に用いられる漢方薬です。

心身が消耗しているにもかかわらず神経が休まらず、
寝つきが悪い、眠りが浅い、熟睡感が得られないといった不眠では、
治療選択肢の一つとなります。

酸棗仁やその含有成分については、
GABA系やセロトニン系などを介した睡眠・覚醒調節作用が基礎研究から示唆されていますが、
ヒトにおける詳細な作用機序のすべてが確立しているわけではありません。

また、「漢方だから安全」というわけではなく、
甘草による偽アルドステロン症や低カリウム血症、
消化器症状などにも注意が必要です。

不眠が長く続いている場合には、
不眠症そのものの評価、
薬物療法、
認知行動療法、
生活リズムの調整などを組み合わせ、
不眠の背景そのものを評価しながら治療していくことが重要です。

執筆者

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長 清水聖童

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水 聖童(Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・井上猛, 桑原斉, 酒井隆, 鈴木映二, 水上勝義, 宮田久嗣, 諸川由実代, 吉尾隆, 渡邉博幸 編. こころの治療薬ハンドブック 第16版. 星和書店; 2026.
・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.
・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.
・医薬品医療機器総合機構. ツムラ酸棗仁湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
・Zhou QH, et al. Suanzaoren Formulae for Insomnia: Updated Clinical Evidence and Possible Mechanisms. Front Pharmacol. 2018;9:76.
・Yang M, et al. The Herbal Medicine Suanzaoren for Sleep Quality Improvements: A Systematic Review and Meta-analysis. Integr Cancer Ther. 2023.

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