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【専門医解説】抑肝散加陳皮半夏の効果・作用機序・副作用|抑肝散との違いとBPSDでの使い方

  • 更新日:2026.09.19
  • 公開日:2026.09.19

はじめに

「以前よりイライラしやすい」「神経が高ぶって眠れない」「不安や落ち着かなさがあり、同時に食欲も落ちている」――このような状態に対して使用されることがある漢方薬の一つが、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)です。

抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散を基本に、陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた漢方処方です。

精神科・心療内科では、神経の高ぶり、易怒性、不安を伴う神経過敏、不眠症などに使用されるほか、高齢者では認知症に伴うBPSD(認知症の行動・心理症状)への使用が検討されることもあります。

ただし、BPSDや認知症そのものは電子添文上の承認効能ではありません。また、抑肝散加陳皮半夏のBPSDに対する研究はありますが、抑肝散ほど臨床研究が蓄積しているわけではありません。

この記事では、抑肝散加陳皮半夏の効果・作用機序・副作用に加え、抑肝散との違い、BPSDでの位置づけ、高齢者で使用する際の注意点について、患者さんにもわかりやすく、精神科臨床で重要なポイントまで含めて解説します。

この記事のポイント

  • 抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散に陳皮・半夏を加えた漢方製剤
  • 神経の高ぶりに加え、胃腸が弱い・食欲が落ちている・胃部不快感がある場合に検討しやすい
  • BPSDへの使用例はあるが、認知症・BPSDは承認適応ではない
  • 甘草を含むため、偽アルドステロン症・低カリウム血症・ミオパチーに注意する

抑肝散加陳皮半夏とは?

抑肝散加陳皮半夏は、神経の高ぶりを鎮める目的で古くから使用されてきた抑肝散に、陳皮と半夏を加えた処方です。

「抑肝」という名称は、漢方医学において情動や神経の高ぶりと関連すると考えられてきた「肝」を整えるという考え方に由来します。

一方、陳皮と半夏は漢方医学では胃腸症状や「痰飲」などを考慮して使用される生薬です。現代の臨床では、抑肝散を検討したい神経症状がありながら、体力低下や食欲不振、悪心、胃部不快感などを伴う患者さんで、抑肝散加陳皮半夏が選択肢となることがあります。

一般名
抑肝散加陳皮半夏エキス
代表的な製品
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒(医療用)など
識別番号
ツムラ/83(TJ-83)
薬効分類
漢方製剤
構成生薬
半夏・陳皮・蒼朮・茯苓・川芎・釣藤鈎・当帰・柴胡・甘草
効能・効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
通常の成人用量
通常1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に経口投与
半減期
多数の成分を含む漢方製剤のため、製剤全体として単一の半減期は設定されていません

どのような症状に使われる?

抑肝散加陳皮半夏は、特定の精神疾患だけを対象とする薬というよりも、神経が高ぶっている状態と、胃腸の弱さや身体的な虚弱さが重なっている場合に検討される漢方薬です。

精神科で使用を検討することがある症状

  • イライラしやすい、怒りっぽい
  • 神経が過敏で落ち着かない
  • 不安や緊張が強い
  • 神経の高ぶりを伴う不眠
  • 興奮や易刺激性がみられる
  • こうした症状に加えて食欲不振、悪心、胃部不快感などがある

ただし、イライラ、不眠、不安、興奮などは、不安症、気分症、せん妄、認知症、薬剤の副作用、身体疾患などでもみられます。

そのため、「イライラしているから漢方薬を処方する」というだけではなく、症状の背景にどのような病態があるのかを評価することが重要です。

抑肝散加陳皮半夏の作用機序

抑肝散加陳皮半夏は、多数の生薬と成分を含むため、一般的な向精神薬のように「一つの受容体だけに作用する薬」として説明することはできません。

基礎研究では、抑肝散と共通するグルタミン酸神経系・セロトニン神経系への作用を中心に、複数の神経伝達系や神経保護作用が関係する可能性が研究されています。

抑肝散加陳皮半夏の作用機序
抑肝散加陳皮半夏の作用機序のイメージ。実際には複数の生薬成分が複数の神経伝達系へ作用すると考えられています。

① グルタミン酸神経系を調整する可能性

グルタミン酸は脳内の代表的な興奮性神経伝達物質です。

抑肝散では、過剰なグルタミン酸神経伝達を調節する作用や、アストロサイトによるグルタミン酸取り込み機能への作用が研究されています。

抑肝散加陳皮半夏についても細胞実験で、チアミン欠乏条件下で低下したアストロサイトのグルタミン酸取り込み機能を改善し、グルタミン酸による神経細胞障害を抑制したことが報告されています。

ただし、これらは主として基礎研究であり、患者さんにおける臨床効果を一つの作用機序だけで説明できるわけではありません。

② セロトニン神経系への作用

抑肝散に含まれる釣藤鈎由来のゲイソシジンメチルエーテル(geissoschizine methyl ether:GM)には、前臨床研究でセロトニン5-HT1A受容体部分作動作用などが報告されています。

5-HT1A受容体は、不安、ストレス反応、衝動性、情動調節などに関係する受容体であり、抑肝散系処方の抗不安様作用や攻撃性抑制作用の一部に関与する可能性があります。

また、陳皮についても動物研究でセロトニン神経系を介した抗不安様作用が報告されています。

③ GABA系を含む複数の神経伝達系

抑肝散については、GABA系、ドパミン系、アドレナリン系などを含む複数の神経伝達系への作用も基礎研究で報告されています。

ただし、抑肝散加陳皮半夏を「GABAを増やす薬」と単純化することは適切ではありません。現時点では、複数の作用が組み合わさって神経の過剰な興奮を調整している可能性がある、と理解するのが妥当です。

④ 陳皮・半夏を加える意味

抑肝散加陳皮半夏では、抑肝散に陳皮と半夏が追加されています。

漢方医学では、陳皮は「理気」、半夏は「化痰・降逆」などの目的で用いられ、胃腸症状や悪心などを伴う状態で使用されてきました。

精神科臨床でも、神経症状だけでなく、食欲低下・悪心・胃部不快感などを伴う虚弱な高齢者では、抑肝散より抑肝散加陳皮半夏を検討しやすい場面があります。

抑肝散との違い

抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は、神経の高ぶりを整えるという基本的な方向性は共通しています。

最大の違いは、抑肝散加陳皮半夏には陳皮と半夏が追加されていることです。

比較項目 抑肝散 抑肝散加陳皮半夏
構成 7種類の生薬 抑肝散の構成+陳皮・半夏
基本的な適応 神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症 同じ
精神症状 神経過敏、易怒性、興奮、不眠など 基本的には共通
胃腸症状 著しく胃腸が弱い場合は慎重に使用 食欲不振・悪心・胃部不快感などを伴う場合に検討しやすい
高齢者での使い分け 神経症状を中心に検討 体力低下や胃腸症状を伴う場合に選択肢
BPSDのエビデンス RCT・メタ解析を含む研究あり 小規模な前向き研究・観察研究が中心

「抑肝散より抑肝散加陳皮半夏の方が強い」という関係ではありません。

神経症状の強さだけで使い分けるのではなく、体力、食欲、悪心、胃部不快感、便通、併用薬などを含めて処方を選択します。

認知症のBPSDに使われることはある?

認知症では、記憶障害や見当識障害などの認知機能障害だけでなく、興奮、易怒性、攻撃性、幻覚、妄想、不安、睡眠リズムの乱れなどがみられることがあります。

これらはBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)と呼ばれます。

BPSDは抑肝散加陳皮半夏の承認効能ではありません。

電子添文上の効能・効果は、「虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」です。

厚生労働省の「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版」では、抑肝散とともに抑肝散加陳皮半夏も取り上げられています。

同ガイドラインでは、BPSDに対してはまず身体疾患、疼痛、便秘、脱水、感染症、薬剤、せん妄、環境要因などを評価し、非薬物的介入を優先することが原則とされています。

その上で薬物療法が必要な場合に、症状や身体状態に応じて抑肝散などが検討されることがあります。

アルツハイマー型認知症での研究

抑肝散加陳皮半夏については、アルツハイマー型認知症患者を対象とした小規模な多施設前向き研究があります。

32名を8週間追跡した研究では、BEHAVE-ADで評価したBPSDが改善し、とくに攻撃性や睡眠・概日リズム関連症状で改善がみられました。

一方で、この研究は無作為化プラセボ対照試験ではありません。したがって、「抑肝散加陳皮半夏がBPSDに有効である」と確立した治療として断定することはできません。

レビー小体型認知症では?

レビー小体型認知症に伴うREM睡眠行動障害についても、小規模な予備的研究で抑肝散加陳皮半夏による改善が報告されています。

ただし対象者数は少なく、標準治療に代わる確立したエビデンスがあるわけではありません。

また、レビー小体型認知症の幻視については、BPSDガイドラインではまずコリンエステラーゼ阻害薬を検討することが推奨されており、抑肝散加陳皮半夏だけで治療するという意味ではありません。

BPSDでは「薬を足す前の評価」が重要

高齢者で突然、怒りっぽさ、興奮、幻覚、不眠などが出現した場合、すぐに向精神薬や漢方薬を追加するとは限りません。

BPSDのように見える症状の原因

  • 感染症
  • 脱水
  • 便秘
  • 疼痛
  • 低酸素
  • 電解質異常
  • 睡眠不足
  • 薬剤の副作用
  • せん妄
  • 生活環境の変化

これらが原因の場合、原因そのものへの対応が優先されます。

とくに高齢者では、「認知症が悪化した」と思われていた症状が、実際には感染症や脱水、便秘、薬剤性せん妄だったということも珍しくありません。

抑肝散加陳皮半夏の飲み方・用量

ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒(医療用)の成人における標準的な用法・用量は、1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に服用します。

通常成人:1日7.5g

2~3回に分け、食前または食間に経口投与します。

年齢、体重、症状などに応じて適宜増減されます。

食前に飲み忘れた場合に、自己判断で2回分をまとめて服用することは避けてください。飲み忘れへの対応は処方医・薬剤師の指示に従います。

効果はどのように評価する?

漢方薬は「何週間飲めば必ず効く」という薬ではありません。

対象となる症状をあらかじめ明確にし、投与後に頻度・強さ・生活への影響がどう変化したかを評価することが重要です。

投与前
イライラ・興奮・不眠・食欲低下など、標的症状を明確にする
投与後
症状の頻度・程度、食事量、睡眠、介護負担などを確認する
改善が乏しい場合
漫然と継続せず、診断・処方・環境要因を再評価する

BPSDでは、本人の苦痛だけでなく、家族・介護者からみた変化を確認することも重要です。必要に応じてNPIやNPI-Qなどの評価尺度を使用することがあります。

副作用と安全性

抑肝散加陳皮半夏は漢方薬ですが、副作用がない薬ではありません。

偽アルドステロン症

甘草に含まれるグリチルリチン酸の影響により、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などが起こることがあります。

低カリウム血症・ミオパチー

カリウムが低下すると、脱力感、筋力低下、四肢のけいれん・麻痺などがみられることがあります。

消化器症状

食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などが起こることがあります。

血清カリウムと血圧を確認する

電子添文では、甘草を含むことから血清カリウム値や血圧値に十分留意することが求められています。

特に高齢者、利尿薬を使用している方、心疾患のある方、低カリウム血症の既往がある方、複数の甘草含有製剤を併用している方では注意が必要です。

甘草を含む薬との重複に注意

抑肝散加陳皮半夏には甘草が含まれています。

ほかの漢方製剤やグリチルリチン酸を含む薬を併用すると、偽アルドステロン症や低カリウム血症のリスクが高くなる可能性があります。

他院処方・市販漢方薬・健康食品も含めて確認します。

漢方薬は名称が異なっていても同じ生薬を含むことがあるため、「漢方同士だから安全」とは限りません。

高齢者で使用するときのポイント

抑肝散加陳皮半夏は、高齢者の精神科・認知症診療でも使用されることがあります。

一方、高齢者では生理機能が低下していることが多く、電子添文でも減量するなど注意することとされています。

特に確認したいのは次のような点です。

  • 血圧
  • 浮腫
  • 体重変化
  • 食事摂取量
  • 血清カリウム
  • 筋力低下・脱力感
  • 併用している漢方薬
  • 利尿薬など低カリウム血症に関係する薬剤

よくある質問

抑肝散と抑肝散加陳皮半夏はどちらが強いですか?

単純な強弱の関係ではありません。神経症状だけでなく、体力や胃腸症状などを考慮して使い分けます。胃腸が弱く、食欲不振や悪心、胃部不快感などを伴う場合には、抑肝散加陳皮半夏が検討されることがあります。

認知症に効く薬ですか?

認知症そのものや記憶障害を改善する薬ではありません。認知症に伴うBPSDへの臨床研究はありますが、認知症・BPSDは電子添文上の承認効能ではありません。

不眠にも使いますか?

はい。虚弱な体質で神経が高ぶる方の不眠症は承認された効能の一つです。ただし、すべての不眠に適するわけではなく、不眠の原因を評価する必要があります。

抑肝散で胃がもたれる場合、変更することがありますか?

選択肢になることがあります。ただし、「抑肝散の胃腸副作用を必ず防ぐ薬」という意味ではありません。症状、体質、併用薬などを確認した上で処方を見直します。

長期間飲んでも大丈夫ですか?

長期投与されることもありますが、甘草による偽アルドステロン症や低カリウム血症などに注意が必要です。効果が乏しいまま漫然と継続せず、定期的に必要性を評価します。

漢方薬なら血液検査は不要ですか?

いいえ。年齢、投与期間、併用薬、身体疾患などによっては、血清カリウムを含む血液検査や血圧測定が重要です。

まとめ

抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散に陳皮・半夏を加えた漢方製剤です。

神経の高ぶり、イライラ、不安を伴う神経過敏、不眠などに使用され、特に体力が低下している方や、食欲不振・悪心・胃部不快感などを伴う方では、抑肝散との使い分けが検討されます。

精神科臨床では認知症に伴うBPSDに使用されることもありますが、BPSDは承認された効能ではなく、抑肝散加陳皮半夏そのものの臨床エビデンスもまだ限定的です。

BPSDでは薬剤を追加する前に、感染症、脱水、疼痛、便秘、せん妄、薬剤の副作用、環境要因などを確認し、非薬物的な対応を優先することが重要です。

また、甘草を含むため、偽アルドステロン症、低カリウム血症、ミオパチーなどに注意し、必要に応じて血圧や血清カリウムを確認しながら使用します。

「漢方だから安全」「認知症なら抑肝散系」という一律の考え方ではなく、症状・体質・身体状態・併用薬を含めて処方を選択し、効果が乏しければ漫然と継続しないことが大切です。

執筆者

清水聖童

ライトメンタルクリニック 渋谷院 院長

清水聖童 (Seido Shimizu)

精神保健指定医 / 日本精神神経学会認定専門医 / 認知症サポート医 / コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒(医療用)電子添文.

・厚生労働省. かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版.

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・樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸 編. 今日の精神疾患治療指針 第2版. 医学書院; 2016.

・姫井昭男. 精神科の薬がわかる本 第5版. 医学書院; 2024.

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