【精神科専門医解説】エビリファイ持続性水懸筋注用(アリピプラゾールLAI)とは?効果・副作用・使い方と再発予防を解説

目次
はじめに
エビリファイ持続性水懸筋注用は、
アリピプラゾールを4週に1回筋肉内へ投与する
持効性注射剤(LAI:Long-Acting Injectable)です。
日本では
統合失調症と、
双極Ⅰ型障害における
気分エピソードの再発・再燃抑制に使用されます。
毎日の服薬を4週ごとの治療へ置き換えられることが、
この薬の大きな特徴です。
エビリファイLAIは「経口エビリファイより強い薬」ではありません。
同じアリピプラゾールを長期間持続的に供給することで、
服薬忘れ・自己中断という治療上の不確実性を減らし、
長期治療を継続しやすい仕組みに変える薬です。
エビリファイ持続性水懸筋注用とは?
アリピプラゾールは第二世代抗精神病薬の一つです。
エビリファイ持続性水懸筋注用では、
アリピプラゾール水和物を筋肉内へ投与し、
注射部位から薬剤が徐々に吸収されることで長時間作用します。
アリピプラゾール水和物
エビリファイ持続性水懸筋注用
第二世代抗精神病薬・持効性注射剤(LAI)
統合失調症/双極Ⅰ型障害の気分エピソード再発・再燃抑制
400mgを4週に1回筋注。症状・忍容性に応じ300mgへ減量
反復400mg投与後の終末相半減期:約34~43日
基本的には病状が安定した後の維持療法・再発予防に使用する持続性製剤です。
一度投与するとすぐに薬を取り除くことができないため、
導入前に経口アリピプラゾールで効果と忍容性を確認することが重要です。
作用機序|ドパミンを単純に遮断しない抗精神病薬

アリピプラゾールの最大の薬理学的特徴は、
ドパミンD2受容体を単純に遮断するのではなく、
部分アゴニスト(partial agonist)として作用することです。
D2・D3
部分アゴニスト
+
5-HT1A
部分アゴニスト
+
5-HT2A
アンタゴニスト
→
神経伝達を
調整
アリピプラゾールはD2受容体に加えて、
D3受容体への部分アゴニスト作用、
セロトニン5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用、
5-HT2A受容体への拮抗作用を持ちます。
この特徴から、
アリピプラゾールはしばしば
「ドパミン・システム・スタビライザー」
と表現されます。
ドパミン活性が高い状況では過剰な刺激を抑える方向へ働きながら、
完全なD2遮断とは異なり一定の受容体刺激を残すことが、
他の抗精神病薬と異なる特徴です。
陰性症状ではドパミンを上げる薬」と説明されることがありますが、
実際の脳内神経回路はそれほど単純ではありません。
陰性症状や認知機能への効果を、
D2部分アゴニスト作用だけから直接説明することはできません。
なぜ4週間作用が続くのか
筋肉内へ投与された薬剤は注射部位に留まり、
そこからアリピプラゾールが徐々に吸収されます。
経口薬では毎日、服薬・吸収・消失を繰り返しますが、
LAIでは注射部位から長期間にわたり薬剤が供給されるため、
1回の飲み忘れで突然薬物治療が途切れることを避けやすい
という特徴があります。
4週
通常400mg
約12週
反復投与時
約34~43日
反復400mg投与後
反復400mg投与後の終末相半減期中央値は、
臀部筋肉内投与で約1030時間、
三角筋内投与で約825時間と報告されています。
一方、副作用が起きたからといって、
翌日から薬を完全に中止することはできません。
そのため、
まず経口アリピプラゾールで「この成分がその患者さんに合うか」を確認してからLAIへ移行する
という順序が重要になります。
統合失調症での再発予防
統合失調症では、
症状が安定した後も再発を予防することが治療の重要な目標です。
再発は単に「症状が一時的に悪化した」というだけではなく、
入院、休職・退職、学業中断、家族関係の悪化、
住居や経済基盤の喪失など、
患者さんの生活そのものへ大きな損失を生じさせることがあります。
アリピプラゾール錠で症状が安定していたアジア人統合失調症患者を対象とした試験では、
26週後の精神症状の非悪化・非再発率は、
エビリファイLAI群95.0%、
経口アリピプラゾール群94.7%で、
経口アリピプラゾールに対する非劣性が確認されました。
95.0%
26週後 非悪化・非再発率
94.7%
26週後 非悪化・非再発率
ここで重要なのは、
LAIが経口アリピプラゾールより
薬理学的に「強い」ことが示されたわけではないという点です。
経口薬で得られていた効果を、
4週に1回の投与でも維持できる
ことが確認された試験と考えるのが適切です。
それでもLAIを積極的に考える理由
臨床試験では服薬状況が比較的厳密に管理されます。
しかし実際の診療では、
飲み忘れ、生活リズムの乱れ、
病識の変化、副作用への不安、
「良くなったからもう薬はいらない」という自己判断などが起こります。
日本のリアルワールドデータを用いた研究では、
アリピプラゾールLAI群は経口アリピプラゾール群と比較して
治療中断が少なく、
調整ハザード比は0.54でした。
さらに、LAIと経口抗精神病薬を比較した
137研究・397,319人を対象とするメタ解析では、
ランダム化比較試験、コホート研究、前後比較研究のいずれにおいても、
LAIは経口抗精神病薬より
入院または再発リスクが低い方向の結果を示しました。
「何度も怠薬し、何度も再発し、入院を繰り返した患者さんへ最後に使う治療」
と位置づける必要はないと私は考えています。
統合失調症では、
再発後も以前と同じように速やかに回復する患者さんがいる一方で、
治療反応が遅くなったり、
以前の機能水準まで戻りにくくなったり、
一部では治療抵抗性が顕在化したりすることがあります。
再発のたびに「不可逆的な脳損傷が必ず蓄積する」と断定できるほど
エビデンスは確立していません。
しかし、少なくとも社会生活上の損失は現実に累積します。
また、再発後に治療反応性が悪化する一群が存在することを示す研究もあります。
そのため私は、
「再発したらLAIを考える」のではなく、
再発させないために早期からLAIという選択肢を提示する
ことには十分な臨床的意義があると考えています。
「患者さんが薬を勝手にやめられないようにすること」
と捉えるのは適切ではありません。
毎日の内服と4週ごとの注射のメリット・デメリットを説明し、
本人が自分の生活に合った治療方法として選択できることが重要です。
当院では、
精神科・心療内科|治療・支援から探す
でも持効性注射について解説しています。
双極Ⅰ型障害での再発・再燃抑制
エビリファイLAIは、
双極Ⅰ型障害における
気分エピソードの再発・再燃抑制にも承認されています。
躁病エピソード後に経口アリピプラゾール、
さらにエビリファイLAIで安定化した患者を対象とした52週間の試験では、
気分エピソードの再発率はLAI群26.5%、
プラセボ群51.1%でした。
26.5%
52週以内の気分エピソード再発
51.1%
52週以内の気分エピソード再発
0.45
95%CI 0.30–0.68
主として躁病エピソードの再発抑制によるものでした。
うつ病エピソードの再発については、
プラセボとの有意差は示されていません。
したがって、
「躁とうつの両方を同じ程度に防ぐ薬」と説明するのは適切ではありません。
過去の病相や併用する気分安定薬などを含めて維持療法を設計します。
使い方|400mgを4週に1回
400mgを4週に1回、
臀部筋肉内または三角筋内へ投与します。
症状や忍容性に応じて300mgへ減量します。
経口薬で
忍容性確認
→
初回LAI
400mg
→
約2週間
経口薬併用
→
以後
4週ごと
初回投与後は約2週間、経口薬を併用する
初回のLAIを投与しても、
その日から十分な血中濃度が得られるわけではありません。
そのため初回投与後は、
約2週間を目安に経口アリピプラゾールを併用するなど、
治療が途切れないようにします。
| 切替え前の経口量 | 初回LAI後 約2週間の経口量 |
|---|---|
| 6~15mg/日 | 6mg/日 |
| 18~24mg/日 | 12mg/日 |
| 30mg/日 | 15mg/日 |
まず経口アリピプラゾールで忍容性を確認します。
他の抗精神病薬を使用している場合も、
経口アリピプラゾールへ切り替えて病状が安定してから
LAIへの移行を検討することが基本です。
300mgと400mgの違い
| 項目 | 400mg | 300mg |
|---|---|---|
| 位置づけ | 標準用量 | 症状・忍容性に応じた減量 |
| 投与間隔 | 4週に1回 | 4週に1回 |
| 投与部位 | 臀部筋または三角筋 | 臀部筋または三角筋 |
300mgは単純に「高齢者用」「低体重者用」という位置づけではありません。
標準量は400mgであり、
症状や忍容性などに応じて300mgへ減量します。
副作用|アカシジアを精神症状の悪化と誤認しない
アリピプラゾールで臨床上特に注意したい副作用の一つが、
アカシジア(静座不能)です。
「じっとしていられない」
「脚を動かさずにはいられない」
「内側から焦る」
「理由なくイライラする」
などの訴えとして現れるため、
不安、焦燥、躁状態、精神病症状の悪化と誤認されることがあります。
| 主な注意点 | 確認すること |
|---|---|
| アカシジア | 静座不能、脚のむずむず、内的焦燥。 病状悪化との鑑別が重要です。 |
| 不眠・焦燥 | 眠気だけでなく、不眠、賦活感、落ち着かなさが前景に出ることがあります。 |
| 体重・代謝 | 体重、血糖、必要に応じて脂質などを経過観察します。 |
| 注射部位反応 | 疼痛、発赤、腫脹、硬結などがみられることがあります。 |
| 錐体外路症状 | 振戦、筋強剛、ジストニア、ジスキネジアなどにも注意します。 |
発症時期や重症度を評価し、
アリピプラゾールの用量調整や併用薬の見直しを検討します。
「抗パーキンソン病薬を追加すればよい」と機械的に考えるのではなく、
原因となっている薬の調整が可能かを先に検討することが重要です。
病的賭博、病的性欲亢進、強迫性購買、暴食などの
衝動制御障害が報告されています。
本人自身が副作用だと気づきにくいこともあるため、
導入時に具体的な症状を説明しておくことが重要です。
高血糖・糖尿病性ケトアシドーシス・糖尿病性昏睡、
低血糖、痙攣、無顆粒球症・白血球減少、
肺塞栓症・深部静脈血栓症、肝機能障害などが報告されています。
プロラクチンへの影響
アリピプラゾールはD2受容体部分アゴニストであり、
他の一部の抗精神病薬と比較すると、
高プロラクチン血症が問題になりにくいことがあります。
他剤による高プロラクチン血症から切り替えた場合には、
プロラクチン値が低下し、
無月経だった女性で月経が再開することがあります。
したがって、
「プロラクチンが下がった=何も考えなくてよい」ではなく、
妊娠可能性の変化なども含めて説明することがあります。
CYP2D6・CYP3A4との相互作用
アリピプラゾールは主として
CYP2D6とCYP3A4によって代謝されます。
例えばCYP2D6阻害作用を持つパロキセチンでは
アリピプラゾールの曝露量が増加し、
CYP3A4誘導作用を持つカルバマゼピンでは逆に大きく低下します。
経口薬であれば翌日から用量を変更できますが、
LAIではすでに投与した薬剤が長期間体内へ残るため、
相互作用を起こす薬を追加するときには特に注意が必要です。
「毎日の服薬から離れる」こと自体にも意味がある
LAIへ変更するメリットは、
単に飲み忘れがなくなることだけではありません。
「自分は精神疾患の患者である」という事実を
毎日確認する行為になっている患者さんもいます。
もちろん薬を飲むこと自体を否定的に捉える必要はありません。
しかし一部の患者さんでは、
4週に1回の通院時だけ薬物治療を行うことで、
日常生活の大部分を
「薬を飲む患者」としてではなく、
仕事、学校、趣味、家族生活といった
本来の生活者として過ごしやすくなることがあります。
この心理的効果を定量化したエビデンスは十分ではありません。
それでも臨床では、
「毎日薬を見なくてよくなったのが楽」
という患者さんは確実に存在します。
私はこの点も、
LAIを選択する正当な理由の一つだと考えています。
家族にとってのLAI
家族が毎日、
「薬を飲んだ?」
「本当に飲んだ?」
と確認する状況では、
服薬そのものが家族関係の対立軸になることがあります。
LAIへ変更すると、
少なくとも毎日の服薬確認は不要となり、
治療をめぐる関係が
「監視する家族/監視される患者」
になってしまうことを避けられる場合があります。
もちろん家族支援そのものが不要になるわけではありませんが、
薬の管理から家族を解放することにも一定の価値があります。
社会復帰とLAI
LAIを注射しただけで、
就労・復学・社会復帰が自動的に実現するわけではありません。
一方で、
再発や服薬中断による生活の中断を減らすことは、
仕事や学業を継続するための重要な土台になります。
症状を減らすことだけを治療目標にしてはいけないと思います。
患者さんが仕事へ戻り、
学校へ戻り、
人間関係を再構築し、
自分なりの生活を取り戻した後に、
再発によってそれを再び失わないことも同じくらい重要です。
LAIが直接社会復帰を生み出すわけではありません。
しかし、
社会復帰後の生活を再発によって壊さないための薬物療法上の基盤
にはなり得ます。
どのような人で検討しやすい?
| 状況 | LAIを検討する理由 |
|---|---|
| 経口アリピプラゾールで安定している | 成分に対する効果と忍容性をすでに確認できています。 |
| 服薬忘れが起こりやすい | 毎日の服薬を4週ごとの投与へ変更できます。 |
| 良くなると自己中断しやすい | 治療が途切れたことを医療者側でも把握しやすくなります。 |
| 毎日の服薬そのものが負担 | 日常生活で薬を意識する回数を減らせる可能性があります。 |
| 再発による生活上の損失をできる限り避けたい | 治療継続を安定させる方法の一つになります。 |
| 本人が注射治療を希望している | 患者さん自身の治療選択としてLAIを提示できます。 |
よくある質問
Q. 注射にすれば、飲み薬はすぐ中止できますか?
初回投与直後は十分な血中濃度に達しないため、
約2週間を目安として経口アリピプラゾールを併用します。
Q. 400mgということは、経口エビリファイ400mgと同じですか?
いいえ。
400mgは4週間かけて作用させるLAIとしての投与量です。
経口薬の1日量と数字を直接比較することはできません。
Q. 300mgは高齢者や体重の軽い人向けですか?
一律ではありません。
通常は400mgを使用し、
症状や忍容性に応じて300mgへ減量します。
Q. 注射を中止すれば、すぐ薬は抜けますか?
いいえ。
反復投与後の終末相半減期は約1か月以上と長く、
投与を中止しても薬剤の影響はしばらく持続します。
Q. 予定日に注射できなかったらどうすればよいですか?
自己判断で次回まで放置せず、
通院先へ連絡してください。
前回投与からの期間やこれまでの投与回数に応じて、
再導入方法や経口薬併用の必要性を判断します。
Q. 双極性障害のうつ状態も予防できますか?
双極Ⅰ型障害の気分エピソード再発・再燃抑制に承認されていますが、
承認根拠となった試験で明瞭だった効果は主として躁病再発の抑制です。
うつ病エピソードについては明確な群間差は示されませんでした。
Q. 怠薬したことがなくてもLAIにできますか?
はい。
LAIは服薬中断を繰り返した患者さんだけの治療ではありません。
毎日の服薬負担を減らしたい場合や、
本人が注射治療を希望する場合にも検討できます。
まとめ
エビリファイ持続性水懸筋注用は、
アリピプラゾールを4週に1回投与する持効性注射剤です。
統合失調症と、
双極Ⅰ型障害における気分エピソードの再発・再燃抑制に使用され、
通常400mgを4週に1回投与し、
症状・忍容性に応じて300mgへ減量します。
初回投与後は約2週間の経口アリピプラゾール併用が必要であり、
導入前には経口薬で効果と忍容性を確認することが重要です。
LAIの本質的な価値は、
薬効を強くすることではありません。
毎日の服薬に伴う不確実性を減らし、
治療を長く継続しやすい仕組みに変えること
にあります。
そのため、
「何度も怠薬・再発した後の最終手段」と限定せず、
毎日の服薬が負担である人、
再発による生活上の損失をできる限り避けたい人、
本人がLAIを希望する場合には、
比較的早い段階から治療選択肢として提示してよいと考えます。

ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長
清水聖童 (Seido Shimizu)
精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医
引用・参考文献
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