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【精神科専門医解説】フルデカシン(フルフェナジンデカン酸エステル)の効果・作用機序・副作用|4週間持続するLAI

  • 更新日:2026.09.23
  • 公開日:2026.09.23

フルデカシン(一般名:フルフェナジンデカン酸エステル)は、
統合失調症の治療に用いられる
第一世代抗精神病薬の持効性注射剤(LAI:Long-Acting Injectable)です。

高力価のフェノチアジン系抗精神病薬であるフルフェナジンを
デカン酸エステル化して脂溶性を高め、
筋肉内からゆっくり放出されるよう設計されています。
国内では通常4週間に1回筋肉内へ投与します。

第二世代抗精神病薬のLAIが充実した現在では使用機会が以前より限られていますが、
フルフェナジンへの反応が良好で、強いD2受容体遮断を安定して維持したい症例では、
現在も選択肢となり得る古典的なLAIです。

この記事のポイント

  • フルフェナジンをデカン酸エステル化した第一世代抗精神病薬のLAIです。
  • 国内承認用量は12.5~75mgを原則4週間隔で筋肉内投与します。
  • 初回は可能な限り少量から開始し、50mgを超えません。
  • 強いD2受容体遮断により抗精神病作用を示す一方、EPSや高プロラクチン血症に注意します。
  • 投与後すぐに薬剤を除去できないため、導入時ほど慎重な用量設定が重要です。
  • 製剤にはゴマ油が使用されています。

フルデカシンとは?

フルデカシンは、抗精神病薬フルフェナジンを
デカン酸エステル化した持続性製剤です。
活性本体そのものを新しい薬に変えたものではなく、
フルフェナジンを長時間供給できるよう製剤設計したプロドラッグ
と理解すると分かりやすいでしょう。

一般名

フルフェナジンデカン酸エステル
代表的商品名

フルデカシン筋注25mg
薬効分類

フェノチアジン系第一世代抗精神病薬/持効性注射剤(LAI)
国内承認適応

統合失調症
通常用量

12.5~75mgを原則4週間隔で筋肉内投与
初回投与

可能な限り少量から開始し、50mgを超えない
半減期

見かけの半減期は単回投与で約6.8~9.6日、反復投与で約14日との外国データあり
添加剤

ベンジルアルコール15mg/ゴマ油

フルデカシンの作用機序

フルデカシンは脂溶性が高く、
ゴマ油を基剤とする油性製剤として筋肉内に投与されます。
注射部位から徐々に血中へ移行し、
エステラーゼによって加水分解されることで
活性本体であるフルフェナジンになります。

フルデカシン(フルフェナジンデカン酸エステル)の作用機序
フルデカシンは筋肉内デポから徐々に放出され、
フルフェナジンへ変換された後、主としてドパミンD2受容体を遮断します。
筋肉内にデポ形成
→
徐々に放出
→
フルフェナジンへ変換
→
D2受容体遮断

中脳辺縁系のドパミンD2受容体を遮断することで、
幻覚・妄想・精神運動興奮などの陽性症状を抑える方向に作用します。

一方で、黒質線条体系のD2受容体遮断は
パーキンソニズムやアカシジアなどの
錐体外路症状(EPS)につながり、
漏斗下垂体系のD2遮断は高プロラクチン血症につながります。


「注射だから強い薬」なのではありません

LAI化によってフルフェナジンそのものの薬理作用が強くなるわけではありません。
フルデカシンの本質は、
フルフェナジンへの曝露を数週間にわたり安定して維持しやすくすること
にあります。

なぜ4週間に1回でよいのか

フルデカシンの長時間作用は、
活性体フルフェナジンの代謝が極端に遅いためだけではありません。
デカン酸エステル化した薬剤が油性基剤中からゆっくり放出される
デポ製剤特有の吸収律速が重要です。

通常投与間隔
4週間
国内承認用法
25mg単回投与
28日後も検出
血漿中フルフェナジン
反復投与
約5回
血中濃度が概ねプラトー

国内薬物動態試験では、25mg単回筋注後も28日目に
血漿中フルフェナジンが確認されています。
また25mgを4週間隔で反復投与した試験では、
個体差はあるものの約5回の投与で血中濃度が概ねプラトーに達しています。


半減期の数字だけではLAIの残存を表現しきれません

古典的な薬物動態研究では、
単回投与後の見かけの半減期は約6.8~9.6日、
反復投与後には平均約14.3日と報告されています。

一方、より長期間フルフェナジンが残存した研究もあり、
デポ部位からの放出や過去の注射部位からの残存放出などの影響を受けます。
「半減期が14日だから28日でほぼ消える」という理解は適切ではありません。

LAIを使う意味|飲み忘れだけの問題ではない

統合失調症では、
抗精神病薬による維持療法を継続することが再発予防の重要な要素です。
しかし処方されていることと、
実際に毎日服用できていることは同じではありません。

LAIは医療機関で投与するため、
毎日の服薬忘れや自己中断による薬物曝露の変動を減らし、
必要な治療が実際に継続しているかを把握しやすい
という特徴があります。


LAIは「怠薬を繰り返した人の最終手段」だけではありません

大規模メタ解析では、RCT・コホート研究・前後比較研究のいずれでも、
LAIは経口抗精神病薬より入院または再発が少ない方向の結果が示されています。

ただしLAIに変更すれば全員の再発を防げるわけではありません。
薬剤そのものへの反応、副作用、生活状況、患者さん本人の希望を含めて
選択する必要があります。

フルデカシンの現在の臨床的位置づけ

現在は
ゼプリオン(パリペリドンLAI)や
エビリファイLAIなど、
第二世代抗精神病薬のLAIも選択できます。

そのためフルデカシンを
「LAIだから」という理由だけで第一候補にする必要はありません。
とくにEPSや遅発性ジスキネジア、高プロラクチン血症が問題になる患者では、
他剤の方が適する場合があります。

項目 フルデカシン ハロマンス パリペリドンLAI アリピプラゾールLAI
薬理 強いD2遮断 強いD2遮断 D2・5-HT2A遮断 D2部分作動
分類 第一世代 第一世代 第二世代 第二世代
EPS 特に注意 特に注意 起こり得る アカシジアに注意
プロラクチン 上昇に注意 上昇に注意 上昇に注意 比較的上昇しにくい
臨床的な特徴 フルフェナジンへの良好な反応歴がある場合など ハロペリドールへの良好な反応歴がある場合など 現在広く用いられるD2遮断型LAI 部分作動薬という薬理特性を生かせる


ハロマンス(ハロペリドールデカン酸エステル)

も同じ第一世代の油性LAIです。
両剤を単純に「どちらが強い」と序列化するより、
過去にどの抗精神病薬へ良好に反応したか、
EPS・プロラクチン・鎮静などをどこまで許容できるかで判断します。


執筆者の臨床的見解|古いLAIにも明確な居場所があります

第二世代LAIが多数ある現在、
フルデカシンを積極的に全例へ選択する理由はありません。
一方で、過去にフルフェナジン系で非常に安定しており、
EPSを含む忍容性にも問題がない患者まで、
「古い薬だから」という理由だけで新しいLAIへ変更する必要もないと考えます。

長期維持療法では、
薬剤の新しさよりも
その患者で実際に安定しているか、副作用を許容できるか、治療を無理なく継続できるか
の方が重要です。

用法・用量


国内承認用法

通常成人には、フルフェナジンデカン酸エステルとして
1回12.5~75mgを4週間隔で筋肉内注射します。

症状や副作用に応じて投与量・投与間隔を調整します。
初回用量は可能な限り少量から開始し、
50mgを超えません。


「初回25mg固定」ではありません

25mgは製剤1瓶の含量であり、
国内電子添文が初回25mgを一律の標準量として指定しているわけではありません。

過去の治療歴、抗精神病薬への反応、病状、副作用リスクを評価し、
可能な限り少量から開始します。

導入前に何を確認するか

LAIは一度投与すると、
経口薬のように翌日から服用を中止して薬剤曝露を止めることができません。
そのため導入前には、
抗精神病薬への反応性と副作用歴を十分に確認する必要があります。


経口フルフェナジンによる事前確認は「添付文書上の必須条件」ではありません

元来、LAI導入前には同一成分の経口剤で効果・忍容性を確認する考え方があります。
しかしフルデカシンの国内電子添文は、
「経口フルフェナジンを必ず使用してから導入する」とは規定していません。

初回投与では、患者さんの既往歴、病状、
過去の抗精神病薬への反応性などを踏まえて慎重に用量を決めます。

複数の抗精神病薬を使用している患者では、
電子添文上も可能な限り薬剤を整理したうえで開始し、
必要に応じて既存薬を漸減することが示されています。

フルデカシンの主な副作用

錐体外路症状(EPS)

フルデカシンで最も意識したい副作用の一つがEPSです。
電子添文では、
パーキンソン症候群18.5%、アカシジア13.9%
と記載されています。

症状 患者さんが感じやすい変化 臨床上のポイント
パーキンソニズム 震え、体のこわばり、動きにくさ、流涎 用量過多も含めて評価する
アカシジア じっとしていられない、脚を動かしたくなる 不安・焦燥との鑑別が重要
急性ジストニア 眼球上転、斜頸、舌突出など 急性期には速やかな対応が必要
遅発性ジスキネジア 口・舌・顔面・四肢などの不随意運動 長期投与では定期的に観察する

執筆者の臨床的見解|抗コリン薬を足す前にLAIの用量を再評価する

EPSに対してビペリデンなどの抗パーキンソン薬を使用する場合はあります。
ただし長期的に抗コリン薬を追加し続けて副作用を抑えるより、
まずフルデカシン自体が多すぎないかを見直すことが重要です。

持続するEPSでは、
減量、投与間隔の調整、他の抗精神病薬への変更も検討します。

高プロラクチン血症

漏斗下垂体系のD2受容体遮断により、
月経異常、乳汁分泌、性機能障害などを生じることがあります。
症状が疑われる場合にはプロラクチン値の確認や治療薬の再検討を行います。

遅発性ジスキネジア

長期間のD2受容体遮断に伴い、
口・舌・顔面・四肢などの不随意運動が出現することがあります。
一度生じると遷延することもあり、
長期治療ではAIMSなどを用いた系統的評価も有用です。

悪性症候群


高熱・強い筋強剛・意識状態の変化などは緊急評価が必要です

高熱、強い筋強剛、発汗、頻脈、血圧変動、意識障害などが出現した場合には、
悪性症候群を疑い速やかな医学的評価が必要です。

その他の重大な副作用

電子添文では、突然死・QT延長などの心電図異常、
無顆粒球症などの血液障害、麻痺性イレウス、
SIADH、深部静脈血栓症・肺塞栓症なども重大な副作用として記載されています。

注射時の注意点

フルデカシンは筋肉内注射にのみ使用し、深部へ注射します。
また、局所の硬結、疼痛、発赤、腫脹などを避けるため、
同一部位への反復注射を避けます。


「三角筋と臀筋を必ず交互に」「Z-track法必須」は添付文書上の規定ではありません

国内電子添文が明示しているのは、
深部筋肉内へ投与すること、
同一部位への反復注射を避けること、
神経走行部位を避けることなどです。

Z-track法は油性筋注で薬液の逆流を減らす目的で用いられることがありますが、
フルデカシン固有の必須手技として電子添文に規定されているわけではありません。

ゴマ油を含む製剤であること

フルデカシン筋注25mgには、
1mL中にベンジルアルコール15mgとゴマ油が添加されています。


ゴマアレルギー歴は投与前に確認しておきたい

「食品としてのゴマアレルギーがある=直ちに添付文書上の禁忌」
と単純化するのは正確ではありません。

一方、実際にゴマ油を含む注射製剤であるため、
ゴマによるアナフィラキシーなど明確な即時型アレルギー歴がある場合には、
投与前に慎重に確認し、必要に応じて別のLAIも検討します。

患者さん・ご家族に知っておいてほしいこと

LAIを選ぶことは、
「薬をきちんと飲めないから注射にされる」という意味ではありません。
毎日の服薬を4週間ごとの治療に置き換えることで、
日常生活の中で薬を意識する回数そのものを減らせる人もいます。

ご家族が毎日服薬を確認する必要が減り、
服薬をめぐる本人と家族の摩擦が少なくなることもあります。
一方、注射そのものを負担に感じる患者さんもいるため、
LAIと経口薬のどちらが本人の生活に合うかを一緒に考えることが重要です。


次回の注射日まで待たず相談したい症状

強い体のこわばり、手足の震え、歩きにくさ、
じっとしていられない強いそわそわ感、
口や舌の不随意運動、高熱、強い倦怠感などが出現した場合には、
次回受診まで待たず医療機関へ相談してください。

よくある質問

フルデカシンは飲み薬より強い薬ですか?

LAIだから抗精神病作用そのものが強くなるわけではありません。
活性本体はフルフェナジンです。
最大の違いは、薬物曝露を長期間安定して維持しやすいことです。

なぜ4週間ごとなのですか?

デカン酸エステル化した薬剤が筋肉内の油性デポから徐々に放出されるためです。
国内では原則4週間隔で使用します。

注射を中止すればすぐ薬は抜けますか?

いいえ。
注射済みのデポ製剤を体外へ取り出すことはできず、
中止後もしばらくフルフェナジンへの曝露が続きます。
そのため初回投与や増量は慎重に行います。

フルデカシンとハロマンスはどちらがよいですか?

一律には決められません。
どちらも第一世代抗精神病薬のLAIですが、
フルデカシンはフルフェナジン、
ハロマンスはハロペリドールを持効化した製剤です。
過去の治療反応、副作用、本人の希望などから選択します。

ハロマンスについてはこちら

もご覧ください。

一度LAIを始めたら一生続ける必要がありますか?

一律ではありません。
再発歴、治療中断歴、症状が安定している期間、
副作用や生活状況、本人の希望を踏まえて、
継続・減量・他剤への変更などを検討します。

まとめ

フルデカシン(フルフェナジンデカン酸エステル)は、
統合失調症に使用される第一世代抗精神病薬の持効性注射剤です。
国内では12.5~75mgを原則4週間隔で筋肉内投与します。

強いD2受容体遮断作用を長期間安定して維持できる一方、
パーキンソニズム、アカシジア、遅発性ジスキネジア、
高プロラクチン血症などには十分な注意が必要です。

第二世代LAIが充実した現在でも、
フルフェナジンへの反応が良好で忍容性にも問題がない患者では、
フルデカシンは現在なお合理的な選択肢となり得ます。

LAIの目的は患者さんを「管理する」ことではありません。
毎日の服薬に伴う不確実性と負担を減らし、
病気や薬に生活を支配される時間を少なくするための
治療選択肢の一つです。

執筆者
清水聖童

医療法人社団燈心会 理事長
ライトメンタルクリニック 渋谷本院 院長

清水 聖童(Seido Shimizu)

精神保健指定医 /
日本精神神経学会認定精神科専門医 /
認知症サポート医 /
コンサータ処方登録医

引用・参考文献

・PMDA.フルデカシン筋注25mg 電子化された添付文書.2025年12月改訂.

・Kishimoto T, Hagi K, Kurokawa S, et al.
Long-acting injectable versus oral antipsychotics for the maintenance treatment of schizophrenia:
a systematic review and comparative meta-analysis of randomised, cohort, and pre-post studies.
Lancet Psychiatry. 2021;8:387-404.

・Ereshefsky L, Saklad SR, Jann MW, et al.
Clinical pharmacokinetics of the depot antipsychotics.
Clin Pharmacokinet. 1984-1985.

・Simpson GM, Yadalam KG, Levinson DF, et al.
Single-dose pharmacokinetics of fluphenazine after fluphenazine decanoate administration.
J Clin Psychopharmacol. 1990;10:417-421.

・こころの治療薬ハンドブック 第16版.星和書店,2026.

・今日の精神疾患治療指針 第2版.医学書院,2016.

・精神科の薬がわかる本 第5版.医学書院,2024.

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